
コンピューターゲームは、今や「世界言語」と表現すべき巨大コンテンツです。
先日開催の東京ゲームショウ2026には、世界各国のブースやパビリオンが登場しました。その中には、近年存在感を示すようになったインドネシアのパビリオンも。「Games From Jakarta」と銘打たれたパビリオンには、様々な独創的なゲームが展示されていました。
今回は日常会話レベルのインドネシア語なら辛うじてできる筆者が、ここを訪れて話を聞いてみました!
スローライフ農業シム『Moonlit Orchard』とは?
本題の前に、なぜ筆者がインドネシア語を話せるかについて少し説明を。
筆者はCOVID-19によるパンデミックの直前まで、インドネシアに度々渡航して「沈没」していました。この「沈没」という表現は、インドネシアに在住していたわけでないという意味(不法滞在ではないので念のため!)。ジョグジャカルタの商人宿でビザを更新しながら何ヶ月も過ごしつつ、2010年代のインドネシアを観察していました。
この時代のインドネシアは、Android OSのスマホの急速普及とネット環境の整備により、様々な新産業が雨後の筍のように登場しました。
インドネシアの人口は現在の時点で約2億8,000万人。国民平均年齢は約30歳です。若者が多く、そのためインディーメーカーを中心としたゲーム産業が恐るべき勢いで成長していきました。その筆頭格と言える作品が『コーヒートーク』です。
この国では、ジョコ・ウィドド氏が大統領に就任したあたりから「若者の力」を生かした産業振興に注力するようになりました。オンライン接続を前提にした様々な新興サービスは、一部では問題を生み出したものの、インドネシアの潜在力を世界に示すのに十分な成果を挙げ続けています。筆者はその過程を、まさに間近で目撃することができました。
そうしたことを振り返りながら、幕張メッセに設けられた「Games From Jakarta」に行ってみましょう。

「Selamat siang! こちらは日本の『牧場物語シリーズ』からの影響を受けた『Moonlit Orchard』という作品です」
パビリオンのスタッフに導かれ、筆者がまず触れたのはSteamでページが公開されている『Moonlit Orchard』(Skyfy Studio)。幻想世界ヌサンテラを舞台にしたスローライフ農業シミュレーションゲームで、昼と夜とで出現する植物が異なるのが大きな特徴です。

木材や石材を集めて様々な道具を作り、家を建てていく……という点はオーソドックスなサンドボックスゲームとも言えますが、一方で『原神』を思わせるアニメ寄りのキャラ造形になっています。

「様々な種族と交流しながら、時刻毎の異なる農作物を生産することができます。現在は、Steamでの作品公開に向けて開発中の段階です」
植民地時代を描写した『The Blind Warrior』
さて、インドネシアは日本と同じ「複雑な地形の島国」です。
山を越えた地域に独自の民間信仰や伝承が存在するという国でもあり、それでいながら各地域が「オランダに支配されていた」という歴史を共有しています。そうした歴史を反映したのが、『The Blind Warrior』(Rizero Studio)という作品です。

時は1860年代。日本では江戸時代から明治時代に至る激動の時期ですが、インドネシアでは17世紀以来のオランダ支配が続いていました。オランダ軍に村を破壊された盲目の戦士が、伝統武術シラットを巧みに操って銃装のオランダ兵に立ち向かうという物語です。
特徴的なのは、主人公のシラットのモーション。伝統的な型や格闘理論に基づいた動きが実装されているということで、今後どのような形になるのかが楽しみな一作でもあります。『Ghost of Tsushima』によく似たゲーム性ながら、より複雑なコントロール操作でシラットの動きを再現できるようになっている模様。その分だけ難易度は高めで、筆者はチュートリアル段階で死んでしまいました。くうぅぅーーっ!

こうしたインドネシアの文化や伝統、歴史をふんだんに盛り込んだゲーム作品は、中央政府の方向性と合致しています。
インドネシアはスシロ・バンバン・ユドヨノ氏が大統領だった頃から、経済的には相当な保守主義の国であり続けています。これは「輸入よりも輸出」「外資よりも内資」を優先するという意味です。それが過ぎてあまりにも強硬的な手段に突然出ることもありますが(2022年のSteamブロック騒動が代表例です)、インドネシアの地場系メーカーが世界へ打って出ることについては大きな期待をかけていて、その上で「インドネシアの価値観」を輸出することも念頭に置いています。
知られざる潜在力
インドネシアのゲームは、日本やアメリカからの影響を取り込みつつも自国の文化的リソースを生かして独自の作品を送り出しています。
また、数年前までのTGSでは「インドネシアパビリオン」というものは存在せず、それぞれのメーカーやパブリッシャーがインディーコーナーに別々のブースを出していました。それが去年からインドネシアパビリオンと呼べるような国単位の大きなブースを展開するようになり、今年はジャカルタ首都特別州の後援を取りつけた各社合同の展示スペースを実現させました。
気になるのは、「来年はどのようなブースを展開するのか」ということ。
インドネシアのメーカーにはまだまだ知られざる潜在力があるようで、今後インドネシア勢が世界のゲーム業界の一画を占める重鎮となる可能性は大いに考えられます。このように、TGSは最新のゲーム作品と同時に、ゲーム業界で飛躍を遂げる国・地域の様子を観察することもできるのも醍醐味ですね。










