
1996年、セガのアーケード向け3D対戦格闘ゲーム『ラストブロンクス -東京番外地-』が稼働を開始しました。
本作は、業務用基板「MODEL2」を使用し、三節棍、ヌンチャク、木刀、トンファー、ハンマーを手にした若者たちが、90年代の東京を舞台に戦う武器対戦格闘ゲームです。

当時のセガには、すでに3D格闘ゲームを代表する『バーチャファイター』シリーズが地位を築いていました。
しかし、『ラストブロンクス』が目指したのは、その延長線にある「普通」の格闘技ゲームではなく、「王道」へのアンチテーゼとしての格ゲーです。

プロの格闘家ではない、「ストリートに生きる若者たち」を主人公に据えながら、現実の東京を思わせる街並み、ストリートファッション、そして武器を使った喧嘩を組み合わせるという、かつてない世界観と設定が斬新でした。

本稿では、30年経った今遊んでもアツい駆け引きが楽しめる、本作の色褪せない魅力について振り返ってみたいと思います。
◆アーケードからサターンへ

オリジナルとなるアーケード版は1996年に登場。MODEL2による3Dグラフィックで東京の街を描き、P・K・Gの3ボタン操作を基本に、武器を使った対戦格闘を成立させました。
基本となる8人のキャラクターで勝ち進み、物語上の重要人物「レッドアイ(Red Eye)」と戦う構成が軸となっています。また、条件を満たすことで通常とは異なる“もうひとりの自分”と戦うエクストラステージも用意されていました。
その翌年、1997年8月にはセガサターン版が発売されます。家庭用版ではアーケード版を再現した「Arcade Mode」に加えて、新たに「Saturn Mode」を収録。こちらでは対戦相手の構成が変わり、レッドアイが必ずしも最終戦ではなく、使用キャラクターごとに因縁のある相手が最後に待ち受けます。

さらに各キャラクター専用のアニメーションによるエンディングも追加され、戦う理由や人物関係をアーケード版以上に掘り下げました。クリアした映像は「Movie Mode」で鑑賞できます。またSurvival、Time Attack、CPU同士の対戦を見るWatch Modeなど、家庭用らしいモードも追加されました。
日本版ではさらに、ゲーム本編とは別に「Special Disc」を同梱。練習用モードに加え、キャラクターの音声を使ったチュートリアルやプロフィールなどを収録していました。単にアーケード版を家庭へ移したのではなく、遊び方からキャラクターの魅力まで補完する非常に意欲的なパッケージだったわけです。
◆90年代の東京そのものが「決闘リング」になった

本作の舞台は「90年代の東京」であることが最大の特徴の一つで、他の格ゲーとは一線を画す設定でしょう。
繁華街、高層ビルに囲まれた街角、地下鉄、東京湾周辺といった、日常に近い都市空間の中で戦いが始まります。実際の風景をモデルとしたステージも登場し、「東京」という土地そのものが作品の個性になっていました。

簡単にあらすじを紹介すると、昭和の終わりに若者たちによる「第1次東京抗争」が発生。争いを終結させた伝説的チーム「SOUL CREW」も、リーダーの謎の死をきっかけに分裂・解散します。力の均衡が崩れた東京では再び「第2次東京抗争」が始まり、各グループのリーダーへ「RED RUM」から闇試合への招待状が届く─、というのが物語の設定です。

荒唐無稽なフィクションの設定ではありますが、興味深いのは、この架空の東京が当時の現実とまったく無関係には見えないことです。
80年代までの日本における“不良集団”を象徴する存在のひとつが「暴走族」なのは、皆さんご存じの通りだと思います。彼らは、古くからグループ同士の対立抗争を起こし、いわゆる「ジモト」の地域や学校の人間関係とも結びついています。

『ラストブロンクス』の主人公・工藤優作が所属していた「SOUL CREW」も、「伝説のライダーチーム」と設定されています。
そこから生まれた「NEO SOUL」や「新宿MAD」といった集団には、こうした暴走族文化を思わせるネーミングや組織性が色濃く残っています。

一方で、ゲームが発売された1996年ごろになると、東京の若者文化は少し違った様相を見せていました。
90年代初頭、特に渋谷などの繁華街では、いわゆる「チーマー」と呼ばれる若者のグループが目立つようになります。一般にチーマーとは、繁華街やゲームセンターなどに「チーム」で集まった若者たちを指し、渋谷センター街はその代表的な場所として知られました。

新興勢力であるチーマーは、従来の暴走族とは異なる都市型の不良文化でした。
例えば、ファッションや音楽(特にHIPHOPやレゲエなどのクラブミュージック)繁華街での遊びと結びつき、「どこの街にいて、どのチームに属しているのか」が最大のアイデンティティとなる、全く新しい不良文化でした。
つまり90年代前半~中盤にかけて、かつての暴走族文化が残る一方、渋谷を中心にチーマーや新しいストリートファッションが現れ、「不良」の姿そのものが変わりつつあった時期でもあったのです。

そして本作の登場キャラたちは、まさにその境界にいます。例えば、工藤優作にはライダーチームの文化が残り、稲垣丈は新宿、黒澤透は六本木、財目三郎は葛飾と、それぞれが異なる街とチームを背負っています。

また、キャラのファッションもライダーだけでなく、スケーター、パンクス、アメカジといった多様なストリートファッションが混在しており、自分たちのスタイルを主張するという構図には、暴走族からチーマーへと不良文化の姿が変化していった当時の東京との重なりが非常にリアルでした。
このように『ラストブロンクス』が描いたのは、80年代型の暴走族文化と、90年代型のチーマー文化が入り交じっていた時代の空気をパッケージし、格闘ゲームらしく大胆に誇張しながらも、「決闘のリング」として描いた東京そのものだったのです。
◆三節棍、ヌンチャク、木刀─“武器格闘”が生んだ独自の駆け引き

ゲームシステムの基本は、『バーチャファイター』シリーズと同じくP(パンチ/武器攻撃)、K(キック)、G(ガード)を使用した3ボタン制で、かなりシンプルなシステム。
『ストリートファイター』など王道の格ゲーのように、ゲージを溜めて必殺技を打ったり、一発逆転を狙えるスペシャル・アーツがあったりするわけではありません。

本作最大の特徴が、全キャラクターが木刀やヌンチャク、トンファー、ハンマーなど武器を駆使して戦うことです。奇しくも同年にナムコ(現バンダイナムコエンタテインメント)から、武器格闘アクション『ソウルエッジ』が発売されています。
また、ゲームシステムの大きな特徴が、打撃動作を途中で止められる「アタックキャンセル」と、姿勢を低くして相手へ接近する「潜り込み」です。
大きな武器を振ってくる相手に潜り込みで懐へ入る。そして、連続攻撃を最後まで出すと見せかけてキャンセルし、相手が固まったところを投げる。派手な武器格闘でありながら、相手の反応を読む駆け引きが中心にあります。

そして何より目を引くのが、基本となる8人全員が異なる武器を持っていること。
主人公の工藤優作は三節棍、稲垣丈はヌンチャク、財目三郎はハンマー、黒澤透は木刀など、それぞれの武器は見た目だけでなく、実際の戦い方にも違いが生まれてくるのが面白い。

優作の三節棍はリーチを生かした複数の距離から攻撃でき、相手を動かしながら中段や下段を狙うタイプ。主人公らしい豪快なモーションを持ちながら、実際には間合いを意識した立ち回りが重要です。

対して丈のヌンチャクは、近距離から手数で畳みかけるのが得意。連携技を続けるのか、途中でアタックキャンセルするのかを使い分け、相手へ攻撃のタイミングを読ませない戦い方が強みです。

一方、木刀を使う黒澤は典型的なパワータイプ。攻撃は大振りですが、一度浮かせれば大きなダメージを狙えます。剣道のように整った構えではなく、木刀ごと身体を叩きつけるような荒っぽいモーションも、「六本木野獣会」を率いる危険人物という設定によく合っています。
三節棍なら間合い、ヌンチャクなら連携、トンファーなら速度、木刀やハンマーなら一撃の重さ。武器の違いが、そのままキャラクターの性格と操作感の違いになっている。この分かりやすさが『ラストブロンクス』の大きな魅力だと思います。
◆30年経った今も熱い『ラストブロンクス』

1996年の登場から、およそ30年。いま『ラストブロンクス』を遊べば、90年代そのもののファッションや感覚に、否応なく時代の隔たりを感じます。しかし、作品そのものの面白さまで古びたわけではありません。
三節棍、ヌンチャク、木刀、ハンマーといった武器を振るう豪快さ。その一方で、アタックキャンセルや「潜り込み」によって相手の動きを読み合う駆け引きなど、シンプルな3ボタン操作から生まれる対戦の熱さは、本作ならではのものです。

そして何より魅力的なのは、画面の中に残された“あの時代の東京”かもしれません。渋谷や原宿を思わせる街角を背景に、スケーターやライダー、パンクスなどのスタイルをまとった若者たちが、自分のチームと意地を背負って武器を構え命を賭して戦っていく姿に胸が熱くなります。


古いから面白いのではなく、いま遊んでも格好よく、荒っぽく、そして熱い。『ラストブロンクス -東京番外地-』は、そんな90年代セガの勢いを今に伝える3D格闘ゲームなのです。












