
2025年1月、浅田誠氏がMAGES.の代表取締役社長に就任しました。浅田氏がMAGES.に入社したのは2013年のことです。以降は、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』(以下『YU-NO』)や『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者・うしろに立つ少女』のリメイクを手掛けたこだわりのクリエイターです。これらのリメイク版を遊ぶと、ほとばしるゲーム愛がヒシヒシと伝わってきました。
名作ゲームのリメイクは、オリジナルの熱烈なファンとの戦いとも言えます。少しでも手を抜いたところが見えると比較され、初プレイの方には良リメイクであっても、オリジナル版を遊んだプレイヤーからは「オリジナル版のほうが良かった」と一刀両断にされることも珍しくありません。しかし、浅田氏の手掛けたリメイク作品を遊ぶと、オリジナル版を好きで仕方がない人が作った作品であることがわかるはずです。
もうひとつ、浅田氏にお話を聞いてみたいと思ったエピソードがあります。筆者は長らくの『メモリーズオフ』シリーズのファンで、27周年を迎えようとしているこの長寿タイトルを追いかけています。最近の『メモオフ』では超限定版という豪華特典がある商品が販売されており、その特典のひとつにリアルイベントの参加権がついてきます。
そのイベントに観客として参加したところ、浅田氏がステージイベントのMCを行い、そのうえ物販では観客の整理までやっていました。社長自ら発案したというイベントは、新しいMAGES.を感じさせる活気に満ちたものでした。会社というものは、時代によってそのあり方が変わるものです。浅田氏がその起爆剤になる予感がしたこのタイミングでインタビューの依頼を打診しました。
聞き手:浅葉たいが
■アドベンチャーゲームへのこだわり
――今日はインタビューを引き受けていただき、ありがとうございます。以前から、浅田さんのお仕事に興味があって今日はやってきました。『YU-NO』、『ファミコン探偵倶楽部』のリメイク、『ミステリート』のリマスター。アドベンチャーゲームの金字塔とも言える作品かつ再び発売するのが難しそうなタイトルを世に送り出している印象があります。
浅田:実は、インタビューのご依頼はこれまでも時々いただいていたんですが、最近は基本的にお断りしていたんですよ。ただ、今回については、うちの広報担当者から「インタビューをしてくださる方が、ものすごく『メモリーズオフ』のファンなんです。超限定版も購入されていて、イベント会場にもいらしていたんですよ」と言われてしまって(笑)。
それを聞いたら、さすがに断れないなと思いまして(笑)。まずリメイクに関しては、アドベンチャーゲームが大好きなんですよ。もともとケイブにいたのですが、そこでもシューティングの家庭用移植を一通りやりつつ、『インスタントブレイン』というアドベンチャーゲームを作りましたから。
ただ、アドベンチャーゲームは作ってみてその奥深さがわかりました。当時もインディーで面白いアドベンチャーゲームが出ていましたし、企業が作るのであれば「面白いかどうかは別として、作ることはできるだろう」と思っていたんです。要は、シナリオと絵があって、あとは手練れのプログラマーが組織力でやればなんとかなると思っていた部分がありました。
でも実際に作ってみると、とても奥深いことがわかりました。音声と台詞を合わせるだけでもコツがあるし、細かいところを考え始めると、そう簡単なジャンルではないぞと思いました。そういう経験から、入社後に様々なADVゲームの製作に携わることが出来たと思います。

▲原作の良さを引き継ぎつつ、現代風のグラフィックで作り直したMAGES.製の『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』です。
――まず、『YU-NO』について伺ってもよろしいでしょうか。限定版に浅田さんのコメントが書かれていたので、あの作品に並々ならぬ想いを感じました。
浅田:大好きな作品であり、思い入れの強い作品ですね。『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』で作曲家を務めた梅本竜さんと自分は、学生時代からの付き合いがありました。20~30年来の付き合いですかね。
梅本さんは生前ずっと、「『YU-NO』の音楽に納得いかないところがあって、どうしても作り直したい」と言っていたんです。僕も「いつかそういう機会があったらいいよね」と話していました。でも、自分がゲーム業界で駆け出しだった頃、現場にいた梅本さんに「本当に何かやりたいなら、この業界で偉くなるしかないよ」と言われていたんです。
そのときはピンとこなかったのですが、後に周りの力もあって、まあまあ偉くしていただいたときに、「『YU-NO』をやろうか」と思ったのですが……。でも、そのときには、もう梅本さんが亡くなられていたんです。ちょっと感慨深いところもあって、やると決めたらいいものを作りたいなと思いました。
――権利的なものや表現的な部分で、移植が難しいのではと思ったので、リメイクが発表されたときは驚きました。
浅田:当時の権利元さんとの交渉が2週間くらいで決まったのですが、少し遅れていたら恐らくリメイクできなかったんじゃないかと思います。話がスピーディーに進んだのは、当時の社長だった志倉(千代丸)さんももちろん『YU-NO』を知っていたからで、「今の人たちが遊べるように移植したいんだよね」と話したら「いいじゃん。許容できる範囲なら会社として動けばいいよ」と言ってくれました。
表現の部分は、当時の内容をこの時代にやるのは倫理的に結構厳しいかなとも思っていたので、だからこそ、今ここで最大限やらないといけないと腹をくくりました。この先5年10年で規制や自主規制はどんどん厳しくなってから作っても、それこそ「こんなの『YU-NO』じゃない」と言われかねません。だから今やれる範囲で実現できるところは最大限つぎ込んで、ダメだったらしょうがなく削ろう、というやり方をしました。
レーティング審査の段階で、「これはNG」と言われたことを自分が直接電話で一つずつ切り返して交渉していくということもやりました。結果として、思い描いていたものはほぼ変更せずに持っていけましたね。たぶん今だったらアウトになると思います(笑)。
初回生産分に同梱したPC-9800(『YU-NO』発売当時のNECパソコン)版の復刻も、さすがに無修正のままでは難しくて一部修正を入れましたが、かなり近い形までは持っていけたかなと。
――PC-9800版が特典でついてくるのには驚きました。リメイク版がすごくいい出来でも、名作って「オリジナル版が良かった」という声から逃げられない部分がありますよね。それを、豪華な特典で解決してしまうという(笑)。
浅田:僕自身がレトロゲームを好きだからその気持ちがわかるんですよね。全部のタイトルでできることではないですけど、『YU-NO』はきっとそうだろうなと。
――開発はかなり難航したとお聞きしました。
浅田:難航したのはリメイク版のほうですが、制作しているなかで、遊びやすさも現代でやるなら必要不可欠で、その辺りの作り直しを、途中からヘルプで参加してもらったディレクターを中心に見直したり、絵の修正をかなり入れることになったりと、9ヶ月くらい追加で制作する期間を延長させてもらいました。予算は追加になりましたが、志倉さんが許可をくれました。志倉さんは売れないものを作るのは最悪許してくれるけど、つまらないもの、クオリティの低いものを作るのは許せない人なんですよ。
「お金がかかってもユーザーに評価されるならいいよ」と。おかげさまで初回生産分で結果がよかったので、なんとかなりましたけど。
――ニンテンドースイッチ版には、『ファミコレACT ユーノの大冒険』という、まさかの横スクロールアクションゲームがおまけでついてきました。遊びましたが、おまけとは思えない出来栄えですよね。しっかり遊べてびっくりしました。
浅田:昔のギャルゲーって、ああいうおまけがいろいろ付いていたじゃないですか。一人で開発をされている知り合いのプログラマーさんに相談したら「できますよ」となって実現しました。本当はPCエンジン実機で動くように作っていたんですよ。
『YU-NO』がPCエンジンで、後の『STEINS;GATE』のおまけがファミコンで動けばいいなと(笑)。

▲『ファミコレACT ユーノの大冒険』です。こうしたおまけゲームも浅田氏の発案によるところが大きいそうです。
■「ご飯食べよう」からMAGES.へ
――少しお話を聞いただけで、浅田さんのゲーム愛が伝わってきて楽しいです。改めて、浅田さんのキャリアについて、簡単に説明していただいてよろしいでしょうか。
浅田:何だかんだで20年くらい前からいろいろやってきましたね。アルバイトでお手伝いしたり、会社に所属したり、フリーランスとして活動したりしていました。
版権の仲介役をやったり、ゲーム作りのお助け屋的なものをやったりしていました。ゲームのお助け屋というのは、完成にこぎつけるのに苦労しているタイトルを「なんとかする」役割です。昔のことですが、当時は「いまさら中止にはできない」タイトルを、とにかく作り切るために現場に入るという仕事です。
ハードでいうと、初代プレイステーションくらいの時代ですね。
――そこからケイブに入られるんですか?
浅田:前職のケイブに入ったのは、フリーランスでいろいろな方と接していった結果ですね。経験も人脈もある程度できたときに、ケイブがコンシューマーに参入したいという話を聞いて、立ち上げに関わることになりました。それまで、ケイブのゲームはアーケードで出して、コンシューマーは他のパブリッシャーさんが開発・発売するという体制のものがほとんどだったんです。
それを自分が入ってからは、すべて自社パブリッシングに切り替えました。そこで、営業や広報を自分でやって、シューティングをたくさん出して……。ケイブの作品はものがいいですから好評でしたね。
――アドベンチャーゲームが好きで、MAGES.に入ったというストーリーなのでしょうか。
浅田:それだけではないんです。自分にとって良い区切りのタイミングでした。当時、ケイブも含めて、いろいろな会社がスマートフォンで遊ぶソーシャルゲームに力を入れはじめました。
会社の方針として、うまくやれるなら大正解だと思います。ただ、自分はソーシャルゲームの世界については素人ですし、経験もありませんでした。そうした中で、未経験の分野に進むよりも、もう少しコンシューマーゲームに携わっていたいという思いが強く、ケイブを辞めることにしたんです。
次の会社については、何社かからお声がけをいただいていたので、自分としては、その中から決めようと考えていました。そんな中で、以前からお付き合いのあった志倉さんにも、ケイブを退職するご挨拶をしておこうと思ったんです。志倉さんとはその前からお付き合いがあって、当時5pb.(MAGES.の旧社名)がケイブ作品の移植を手がけていた縁もあり、「アドベンチャー好きなんですよ」という話で盛り上がったり、ファミ通Xbox 360の創刊100号記念イベントで対談もさせてもらったりしていました。
基本的にはゲームの話そっちのけでレトロゲームの話しかしていなかったんですけど、すごいなと思えるところがあった人なので、一応報告はしておこうと。そこで「転職することになり、ケイブを辞めます」と連絡したら、「じゃあご飯食べようよ」となりました。そこから思いがけず話が進んで、結果的にMAGES.に入ることになった、という感じですね。
――断れない雰囲気ですね(笑)。
浅田:すごいのは、条件も何も決まっていなかったこと。給与も未定。MAGES.の人事が自分の入社を知ったのも1週間前くらいなんですよ。
志倉さんと自分の2人しか知らない状態で、「とりあえず7月1日からよろしく」と。自分がケイブを退社したのは6月28日で、有給休暇がMAXまで残っていたので「有休でも取るか」と思ったら……。「いやいや、いらないでしょそんなの。7月1日からで」と言われて、「マジかよ」と(笑)。金曜日にケイブに出社して、月曜日にMAGES.に出社していましたね。
――志倉さんからのミッションはあったんですか。
浅田:全然ないです。何もない。唯一、自分から出した条件が「役職に就かせないでほしい」ということだけです。
自分の好きな動きをしたいから、役職には絶対就けないでくれと言いました。口約束で「わかってるよ」とはなったんですが、1年後に速攻で破られるという(笑)。ドワンゴさんと合流するタイミングで役員になりました。
それを知ったのも「これからドワンゴと一緒にやっていきます」という社員向け発表の場ですね。会社の組織図を見せられて、そこで初めて知りました。「なんで俺、役職に就いてるの?」って(笑)。
――入社してからはどの作品から手がけられたんですか。
浅田:『PSYCHO-PASS サイコパス 選択なき幸福』や『CHAOS;CHILD』あたりですね。『CHAOS;CHILD』については、Xbox One向けのビジネス面を自分が担当していました。Xbox Oneで何本のタイトルを発売するかを決めて、マイクロソフトさんと契約したのも自分なんです。
『PSYCHO-PASS』は、もともと『ROBOTICS;NOTES』などノイタミナさんとのつながりがあって、ノイタミナさん側から「このアニメ、すごくゲームに向いているのでどうですか」と。中身を見て「面白いですね、やりましょう」となりました。

▲浅田氏のMAGES.での初仕事となった『PSYCHO-PASS サイコパス 選択なき幸福』です。ユニークなシステムを搭載したゲームとしても話題になりました。
――そして2025年1月に社長就任。こちらの経緯についてお聞かせください。
浅田:自分の前に本荘(健吾)さんがいたのですが、事業をゲームに集中して他の事業を畳むという決断をしたうえで、本荘さんの契約が満期となって「いいタイミングなので辞めます」と。じゃあ後任どうする、となったとき、ゲーム事業部の役職に就いていたのが自分だったので、そのままエスカレーター式に……というのは外から見た姿で(笑)。実際のところ、自分としては社長業は他の人にお願いしたいと考えていました。 MAGES.は、自分がこれまで在籍した会社の中でも一番長く勤めている会社なんです。ですので、タイミング的には自分もここで退任して、別の会社で新しいことに挑戦するという選択肢も考えていました。
その中で、最終的に社長を引き受ける決め手になったのは、やっぱり志倉さんと話したことですね。志倉さんはご自身でも幅広く事業を展開されていますが、MAGES.に関しては、経営よりも作品のプロデュースに専念したいという意向があり、現在はエグゼクティブプロデューサーという立場で会社に所属しています。そんな志倉さんから「お前が社長をやらないと、一緒にはやっていけないかもしれない」と言われて、「脅しかよ」と思いました(笑)。
ただ、社長という立場になって会社全体の業績を見ることになったとはいえ、ゲーム事業自体はもう10年以上責任者を務めていたので、会社がゲーム事業に集中した今、実際にやっていることはそれほど変わらないんですよね。
■25周年記念で新作をリリースした『メモオフ』
リメイク企画も進行中
――社長になられてからも、いろいろなゲームで浅田さんをお見掛けします。『メモリーズオフ 双想 ~Not always true~』をやろうと言い出したのも浅田さんだとお聞きしました。
浅田:『メモリーズオフ -Innocent Fille-』とファンディスクで一度シリーズを区切って、『シンスメモリーズ 星天の下で』以降は新作の企画はなかったんです。それが『STEINS;GATE』15周年の会議の途中で「『メモオフ』も25周年です」という話が出まして。今のMAGES.はどうしても『STEINS;GATE』が代表作になりますが、5pb.やそれ以前から支えてくださっているファンの皆さんの中には『メモオフ』からついてきてくださっている方が多い。
『STEINS;GATE』をやるのに『メモオフ』は何もやらないというのは、会社として俺はどうかと思うよ、というような話をしました。そこから、「よし、25周年に合わせてゲームを作ろう」と始まったんです。

▲『メモオフ』25周年記念として制作された『メモリーズオフ 双想 ~Not always true~』です。恋愛アドベンチャーゲームではある『メモオフ』ですが、その物語は浅田氏の発案もあり尖ったものになっています。
――『双想』は『メモオフ』としては尖った内容ですが、浅田さんからは何か提案されたのでしょうか。
浅田:どうせ25周年でやるなら、どういうテーマを持って作るのか。このチャンスを逃したらもう作れないかもしれないから……と、いくつか自分がテーマを出しました。最終的には、今の時代背景に響きそうなテーマを選びました。
これは遊んでもらえるとわかると思うんですが、確かに尖っていますね。『メモオフ』って、今までの作品も、誰かがテーマを決めたら、あとはチームで自由に作っていくという形で進めているので、今回も『メモオフ』らしさは十分にあると思っています。ちなみに、ファンディスク『Break out of my shell』は思っていたよりも難航しました。
いつも通りのファンディスクらしいもの、つまりヒロインと結ばれたあとの甘いシナリオをメインにするという方向性もあったんですが、ギリギリのタイミングで「本編で未解決の問題を解決したい」と僕から言いました。現場からは「ファンディスクなんだから、キャラとイチャイチャする終わらせ方にしましょうよ」と言われて、「そうだよね」と一度は引っ込めたんですよ。最初に林(直孝)くんが書いてきたシナリオも悪くなかったんです。
それで最終方針を決める監修会議、これは週1でやっていたんですが、その5分前に「やはり違うな」と思ってしまって(笑)。

▲『双想』では、“ファミリー”という組織が物語の中で重要な役割を持ちます。科学アドベンチャーシリーズのサスペンス風味が好きな方にもおすすめです。
――自分の感想ですが、その方向性ですごくよかったと思います。
浅田:歴代のファンディスクの形を崩すのもなぁ……と思いながらも、「もしかしたら最後になるかもしれないし、変えちゃえ!」と最後は決めました。そのせいか、思っていたよりも制作期間が延びました。ただ別のインタビューで林くんが「最初はコメディでしか書けなかったので、ひっくり返されたのは渡りに船だった。おかげで全力が出せた」と言っていたと聞いて、それならよかったなと。
――『メモオフ』は豪華な超限定版も話題です。限定版としては高価ですが、中身は面白いアイテムが多いですし、売れ行きも好調と聞きました。あのアイディアはどういう発想から生まれたのでしょうか。
浅田:超限定版は自分のアイディアが活かされている部分もありますね。高価ですけど、買ってくれた方が満足するものにしようと思っています。購入すれば絶対にイベントを観られるチケットがついてきます。あとは特典も、超豪華なものにしています。値段だけ見ると高い限定版ですが、買ってくれた人が損をした気分にならないようなものを作ろうと言っていますね。
――今後、初代『メモリーズオフ』のリメイク企画が動いていることも明かされました。
浅田:『メモオフ』は現状、アジア圏では強いですが、英語圏ではまだ出したことがないんです。でも英語圏の方から「出してほしい」という声はまあまあ届きます。そのときに、ただ翻訳して文字を差し替えただけで持っていくのは、さすがに失礼じゃないかと思って。
だったら1回フルにリメイクして、これを1作目としてちゃんと海外の人たちに届けて、その反応を見て今後を決めようと思っています。
――『メモリーズオフ』のイベントで社長自ら現場に立たれていたのも驚きました。
浅田:ケイブ時代からイベントは自分でやっていて、裏方もゲストトークもやっていました。うちは予算が大量にあるわけじゃないので手作り感でやるんですが、そのときに現場の責任者がいないのは気持ち悪いんですよ。「イベントやります」「いいですよ」と決裁した本人が現場にいないのは、自分の感覚だと嫌なんです。8月に行われた『STEINS;GATE』のイベントもそうですが、11月には大阪でMAGES.主催の『STEINS;GATE』のイベントも開催します。そこでも、きっと自分は現場の仕事をしていると思いますよ(笑)。あと、そういう理由とは別に、MAGES.はもう14~15年、ほぼメンバーが変わりません。
自分が入社した頃からいる人たちもたくさんいます。ゲーム事業部の開発の離職率は5%以下で、そのくらい長く働いてくれているメンバーが多いんです。だから、仲間みたいな意識が強いんですよ。
一緒に働いてきた仲間の中で「社長だから」というのも気持ち悪いなと。だから、社内では自分のことを「社長」と呼ぶのはやめてもらっています。もちろん、社外の方がいらっしゃる場では仕方ないですけどね。長年一緒に働いてきた仲間なので、役職が変わったからといって、今までの関係性まで変えたくないんですよ。

▲都内某所で行われた『メモオフ』25周年完了祭です。超限定版の購入特典として、イベント参加権が配られました。
今後はリメイク・リマスター、そして「完全新作も」 今後のMAGES.にも期待大です!
――昨年はinfinityシリーズのリマスター、今年は『My Merry May with be』と過去作のリマスターも多く登場しています。こうした動きについて伺ってもよろしいでしょうか。
浅田:社長をやって少し目線を広げる余力が出たときに、KIDの作品は日の目を見せてあげないと、もう一生出ることがないかもしれないと思いました。仮にものすごく売れなかったとしても、こういう機会しかないからやってみよう、と始めました。『My Merry May with be』を出して、この後もあと2、3タイトルは控えています。
発表したらすぐ発売、みたいな流れになると思いますよ。中には意外なタイトルもあると思います。

▲2025年には名作『Never 7 - The End of Infinity』、『Ever 17 - The Out of Infinity』もリマスターされました。
――菅野ひろゆきさん関連では、去年『ミステリート~八十神かおるの挑戦!~』を出されました。
浅田:『ミステリート』は移植だけじゃなく、菅野さんが残した原稿から最後の結末まで作ろうとも考えていました。弊社が版権元になったので、作ろうと思えば作れるんです。ただ、残された原稿から物語のつじつまを合わせるのが非常に難しくて……。
もちろん、こちらでいろいろと書き足したり、内容を変えたりすれば、完成させること自体はできると思うんですよ。でも、すでに亡くなられた方が途中まで作られていた作品を、自分たちの判断で勝手に改変していいのかという葛藤がありました。実際、何度かシナリオをまったく別の形で仕上げては没にする、ということを繰り返していたんです。
サポートメールなどでも、「どんな形でもいいので作ってほしい」という声をいただいています。中には、「有志のメンバーを集めたので、クラウドファンディングで資金を集めて提供するから、ぜひ作ってほしい」というお話までありました。そこまで熱心に待ってくださっている方がいるのは、本当にありがたいことだと思っています。
ただ、これはあくまで自分個人の考えですが、クラウドファンディングという仕組みは、ゲーム制作にはあまり向いていないんじゃないかと思っているんです。ゲーム制作って、想定外のトラブルや問題が頻繁に起こるものなんですよね。それに、クラウドファンディングで資金を提供していただく以上、支援してくださった方々の意見も、ある程度は取り入れていく必要があると思うんです。
もちろん、それによって作品が良くなる部分もあると思います。ただ一方で、制作上の制約が増えてしまうなど、マイナスの部分も決して小さくないと感じています。結果として、本当に自分たちが作りたいと思ったものを、自由に作れる環境にはなりにくいんじゃないかなと。
とはいえ、自分自身、『ミステリート』の世界でやってみたい構想はあるんです。日本にわずか2人しかいない、最高峰の「クラスAディテクティブ」。悪行双麻と八十神かおる。
この2人が対面し、時には対決し、そして協力する。こうした構想は以前から考えていて、物語の起承転結についても、自分の中ではある程度ビジョンが固まっているんです。ですから、菅野さんが残された作品の続きを無理に作るのではなく、独立したひとつの作品として、いつか形にしてみたいという気持ちはあります。ただ、その一方で、この構想をシナリオとしてお任せできる方がいるのかな、ということも考えてしまうんですよね。もし、この記事を読んで「我こそは!」と思う方がいらっしゃったら、ぜひ私までご連絡ください(笑)。とはいえ、いつか実現させてみたいタスクのひとつではありますね。

▲2025年に発売された『ミステリート~八十神かおるの挑戦!~』です。続編制作への葛藤と、浅田氏が構想する新たな物語について語られました。
――浅田さんは名作を残すということにこだわられているのですね。
浅田:新しいことも好きですよ。ただ、過去の名作についても、今の時代に遊べる環境を整えて、身近に楽しめる選択肢を増やせるといいなとは思っています。完全新作についても進めていて、自分自身が手掛けているのは、アドベンチャーゲームではないジャンルの作品です。
構想自体は数年前から温めていたものなんですが、昔と違って、今は自分の時間をすべて制作に充てることが難しい状況でもあるので、頼もしい外部の方と一緒に制作を進めています。自分自身、このジャンルの作品を手掛けるのは久しぶりなんですよね。だからこそ、信頼できる開発の方とタッグを組めたことは心強いですし、現在も順調に制作が進んでいます。
来年の春くらいには発表できると思いますので、楽しみにしていただければ嬉しいですね。

▲浅田氏が手掛ける完全新作も制作進行中です。今後の発表が楽しみです。
――完全新作!それは楽しみです。『岩倉アリア』なども大変楽しく遊ばせてもらいました。
浅田:ありがとうございます。完全新作はひとつではなく、複数ありますので、楽しみにしていてください。そもそも、オリジナル作品を作るのは、すごく難しいことなんですよね。
新しいものに挑戦する以上、必ずしも売れるとは限りません。むしろ、感覚的には7割くらいがビジネスとして成功しないのではないかと思っています。ただ、だからといって「売れない=評価を下げる」という考え方には違和感があるんですよね。
こう言うと、何だかかっこいいことを言っているように聞こえるかもしれませんが、実は志倉さんの考え方を引き継いでいるだけなんです(笑)。志倉さんが社長や会長を務めていた頃から、こうした考え方は変わっていません。世の中にどれだけゲームが出て、そのうちどれだけのタイトルが日の目を浴びているのか、という話ですから。
もちろん、売れるものを作ろうと努力はしていますよ。MAGES.の歴史を振り返っても、原作が人気を得てアニメ化されたタイトルは多いですよね。科学アドベンチャーシリーズもそうです。
だからこそ、オリジナルに挑戦して、失敗したら仕方がない。また次に頑張ろう、という気持ちもあります。1本でもオリジナル作品が評価されたらいいね、という感覚で取り組んでいる部分はあるので、今後も完全新作には挑戦していきます。

▲2025年に発売された『岩倉アリア』です。絵画的なイラストが特徴のサスペンスアドベンチャーとなっています。女性同士の関係性を丁寧に描く作品です。
――アドベンチャーというジャンル自体、ユーザーや市場から求められるものが変わってきている印象はありますか。
浅田:昔は「テキスト2MBないとダメ」「CGは最低100枚」みたいな謎の基準があったんですが、今は「シナリオ長えよ」と文句を言われることもあります。じゃあ短くしようとすると「短いよ」と言われる(笑)。答えはどこにあるのか難しいですね。
――アドベンチャーゲームの海外展開についてはどうでしょう。ローカライズが大変なジャンルだと思いますが。
浅田:そうなんですよ。アドベンチャーゲームは、特に翻訳のコストが膨大ですし、ローカライズしたとしても、繊細な表現がきちんと伝わるようになっているか、しっかり確認する必要があります。AI翻訳はまだまだ実用には遠そうです。
たとえば、キャラクター独特の言い回し、『STEINS;GATE』のキャラクターの口調がAIで出るかというと、出ないです。それっぽいものは出るんですけど、完全にそのキャラクターを再現はできないんです。いまのところは、結局「人の手」でやるしかない分野です。
たとえば、『メモオフ』でもローカライズ費用は一言語だけでも莫大な費用がかかっています。それでも、長く続いてきたシリーズだから「ちゃんとやろうよ」ということは言っています。繊細にリメイクして英語圏に持っていきたいです。
科学アドベンチャー系は同時発売での多言語展開を基本にしていますが、他のオリジナル作品も「海外でも受け入れてもらえそうだ」というタイトルは翻訳していこうと思っています。
――少し時間が余ったので、ちょっと雑談を。浅田さん、だいぶレトロゲームがお好きだとか。
浅田:はい。いくらでも話せますね。老後に遊ぼうといろいろためこんでいます(笑)。
アドベンチャーゲームだと、『定吉七番』や『消えたプリンセス』、リバーヒルソフトさんから発売されていた『J.B.ハロルド』シリーズなんかも大好きですね。『道化師殺人事件』なんかも好きでしたけど、今あらためてプレイしたら、正直クリアできる自信がないです(笑)。あとは『シャーロック・ホームズ 探偵講座』も大好きで、今でも大事に保管しているくらい思い入れがあります。
昔のアドベンチャーゲームって、攻略情報がない中で、いろいろなコマンドを試しながら進めていく楽しさがあったんですよね。自分も小学生の頃、そうやって遊んでいました。「どうやったらわかるんだよ、こんなの!」という理不尽さも含めて、今ではいい思い出です(笑)。
でも、そういう楽しさって、今の世代にも伝わるものがあるんじゃないかと思うんです。先ほど『YU-NO』の話でも触れましたけど、自分がリメイクやリマスターが難しそうなタイトルを好きなのは、そうした名作をいろいろな世代に遊んでもらえる形で残したいからなんですよね。僕ら昔を知っている人間が「面白いんだよ」と言っても、今から遊ぶ環境を用意するのは大変じゃないですか。
それに、レトロゲームとして手に入れたとしても、当時のハードやソフトがいつまで動くのかという問題もあります。だからこそ、節目節目でリメイクやリマスターをする意義はあると思っています。ただ、自分自身がリメイクに携わる場合は、何よりも自分がその作品を大好きであること。それが一番大事なんですよね。
――最後に、今後のMAGES.では、どのようなことに注力していくのでしょう。
浅田:『STEINS;GATE RE:BOOT』も無事に発売を迎えましたし、今後については、やはり志倉さんが手掛けている完全新作もそうですし、MAGES.としてのオリジナル作品もいくつか動いています。今後もコンシューマーとSteamを中心に、さまざまなタイトルをお届けしていきたいと思っています。完全新作についても、情報が発表された際には、ぜひまたインタビューに来ていただけると嬉しいですね。
――ありがとうございました。
ひとつ、筆者にとって印象的だったこぼれ話があります。本記事の企画をMAGES.に相談した際、浅田氏から「発売を控える『STEINS;GATE RE:BOOT』は、他のスタッフにインタビューしたほうが良いのでは」と逆提案をいただきました。社長を務め、自ら少なからず監修しているタイトルであるにも関わらず、「自らが語るべき内容ではない」と判断されたそうです。この返答をいただいたとき、緊張感と同時に、浅田氏のインタビューをより一層収録したくなりました。
浅田氏はきっとアドベンチャーゲームが好きなのだろうと思いつつお話を伺った今回のインタビューでは、想像以上の熱量に驚かされました。2時間の予定はあっという間に過ぎ、まだまだ語ってもらいたいことがたくさんあったと余韻を残すほんとうに楽しいインタビューでした。
クリエイターとしての浅田氏のスタンスを聞くことができ、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』、『ファミコン探偵倶楽部』の完成度の高さにも納得することができました。この2作品は、表現力やこだわりにおいて現代最高峰のテキストアドベンチャーと言えるでしょう。浅田氏自身が語ってくれた「普通にプレイしていては見落としてしまいそうな作りこみ」は必見です。
そして、サービスとして、2026年後半以降に用意されているという新作やリマスター作品の計画も明かされました。それぞれ複数のプロジェクトが動いているということなので、この記事を読んだ方はいろいろと予想してみるのもいいでしょう。











