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まるでゲームAIの大統一理論/次世代ゲームAIのアーキテクチャとは?

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スクウェア・エニックス オープンカンファレンスで11月24日、リードAIリサーチャーの三宅陽一郎氏は「次世代ゲームAIアーキテクチャ2012」と題して講演しました。三宅氏は開発中のゲームエンジン「ルミナススタジオ」で、ゲームAI分野の設計を主導しており、講演ではその中でもキャラクターAI部分を構築するアーキテクチャについて、解説が行われました。


ゲームAIは「PONG」の頃から、「もし〜だったら」という条件式の集合体(ルールベース表現)として表現されてきました。今でもこの手法はカジュアルゲームなどで用いられており、大ヒットタイトルの土台となっています。しかしゲームが複雑になるにつれ、ゲームAIも進化。2000年代以降になると、主に海外のFPSを中心に、キャラクターAI研究が花開きました。しかし、FPSで求められる兵士などの動きは、現実と比べて限定されており、汎用性に欠けるきらいもありました。

キャラクターAIの汎用性を求められるジャンルに、RPGがあります。しかし国産RPGではフィールド・街中・バトルなど、状況に応じて世界表現が異なる例が多く、ゲームAIもルールベース表現が主流でした。しかし近年ゲームエンジンを用いた、統合的な世界表現が可能になり、状況が変わってきました。ゲームのさまざまなシチュエーションで、汎用的に使えるキャラクターAIの需要が拡大。その最右翼が「ルミナススタジオ」におけるゲームAI技術というわけです。


■300時間以上のミーティングを実施

三宅氏を中心とするAIチームが考える「次世代ゲームAI」・・・それは、たとえばキャラクターが下記のようにふるまうAIのことです。

・風の向きを認識して、風上から草原に火を付けて、敵を攻撃する
・枝を集めて仲間と一緒に自分自身で巣を作る
・隠れられる物を転がして、後ろに隠れながら移動する。


こうしたキャラクターの行動は、これまでのゲームでは見られなかったものです。一言でまとめれば、「広大で自由度の高いゲーム世界で、まるで人間のようにふるまうAI」だと言えるでしょう。MMORPGで風呂や食事で離席していても、他のプレイヤーに気づかれないようなCOMキャラクターが、近い将来に登場するかもしれません。「CGに負けないように、AIもリアルにしたい。AIに命を吹き込みたい」と三宅氏は語ります。

そのためには先人の知見を集約し、そこに独自のアイディアを加えて、一つずつゲームAIの階段を積み上げていくしかありません。問題は何かを認識し、それを乗り越えるための設計図が描けなければ、プログラミングはできないのです。

そこでゲームAIチームは、これまで300時間を超えるミーティングを重ね、概念モデルの作成を進めてきました。ポイントは「知能とは何か」という古くて新しい問題です。自然界で観察される知能モデルをベースに、キャラクターAIに落とし込み、ゲームエンジン内で実装できれば、なるほど「AIに命を吹き込む」ことができるでしょう。

これは従来の「理論は適当でも、おもしろければいい」という考え方とは正反対です。一見すると壮大な遠回りのようにも聞こえますが、もはやそこまでしなければ、求められる成果は得られないところまで、ゲームAIは来てしまったのです。


■自然界の知能をベースにモデル化

さて、知能とは何でしょうか。生物はシンプルなものから、人間のように複雑なものまで、固有の知能を有しています。そこでの共通項は、外界から五感(身体)を通して情報を受け取り、脳の中で何からの意志決定を行って、再び身体を通して外界に働きかける(行動する)過程であり、そのための仕組みだとまとめられます。このとき前者を「認識統合」、後者を「行動生成」、そして一連の情報の流れを「インフォメーションフロー」と呼びます。「インフォメーションフローによって、世界と知能は結ばれる(バインドされる)のです」(三宅氏)

人間が五感を通して外界から情報を収集するように、キャラクターAIはゲーム内世界に埋め込まれた手がかり(知識表現)を通して、さまざまな情報を収集します。これらの情報は過去の記憶や経験などと組み合わされて認識統合され、新たな意志決定の材料となります。中には反射のように、外界情報がすぐに行動に結びつく例もあるでしょうし、じっくり考えて行動が決定されることもあるでしょう。このように認識世界が階層的に表現されるのは明らか。そして、より高次の認識世界、すなわち意識に向かって情報が統合され、自分を中心とした世界の関係が再構築されます。これが認識統合の仕組みです。

認識が統合されると、次は意志決定、すなわち意識モデルの出番です。ここで三宅氏はブラックボード・アーキテクチャ(黒板モデル)という概念を紹介しました。これは認識統合の過程で生まれた行動要請(索敵する、場所を移動する、射撃体勢を取る、引き金を引くなど)を、黒板に箇条書きに書くように羅列し、アービター(調停者)と呼ばれる存在が、実際のふるまいを決定するというもの。多くのFPSなどで採用されている、ゲームAIの主流をなす考え方です。

三宅氏は、このモデルは次世代ゲームAIでも応用可能だとします。異なるのは認識世界が一つではなく、階層化されているぶん、ブラックボード・アーキテクチャも複数存在すること。そして各階層のブラックボードが連結し、すべてを制御するスーパー・アービターが、最上層に存在することです。いわば「意識」に相当するものが、スーパー・アービターだといえるかもしれません。


■行為の前に意味を問えるAIとは?

さて、意識すなわちスーパー・アービターによって決定された行動要請は、どのような過程で実際のアクションを導くのでしょうか。外界情報を収集し、まとめるのが認識統合なら、認識統合を反対になぞれば行動生成となる・・・と想像できるかもしれません。答えはほぼその通りで、認識世界の各階層から、ブラックボードアーキテクチャを通して行動生成子が生成され、アービターによってアクション・プールに装填されます。そして、その中から一つが選択され、時間軸に沿って実行されるというわけです。

なお、アクション・プールに想定された行動生成子は、一つひとつはシンプルですが、統制がとれておらず、混沌としています(いわば欲望の渦です)。そこで重複する内容を一つにまとめたり、新しいルールを加えたりして(魔法攻撃禁止など)、実際のアクションを調整する必要が生まれます。これによって、個々のキャラクターの性格付けを行ったり、ゲームの進行状況に応じて、キャラクターの行動を調整したりできるわけです。

さて、これまで認識統合から意志決定を経て、行動生成に至るまでのフローを見てきました。実際のインフォメーションフローでは、一つひとつの単純な要素が組み合わさることで、高度なAIのふるまいが、さまざまなレベルで動的・静的に形成されていきます。

しかし、人間のように高度な知能を表現するには、これだけでは不十分だと三宅氏は指摘します。というのも、認識と行動は常に一方通行とは限らないからです。たとえば、敵が見えるまで前進する(認識統合→行動生成)ことと、前進した結果、敵を見つける(行動生成→認識統合)ことでは、結果的には同じでも、それぞれの向きが異なります。時にお互いが連鎖しながら、影響を与え合うこともあるでしょう。

このように、人間の知能は外界とインタラクションを行いながら、内側でも認識統合と行動生成のインタラクションが行なわれている、と考えられます。そして、この仕組みを内包することで、行動の前に意味を自問できるような、高度なAIが作れるというわけです。三宅氏は「知能とは、外部に開いていると共に、内部で閉じている平衡系」だと説明します。


■国産RPGを支えるゲームAIとして・・・

もっとも、今はまだ大まかなモデルが描かれただけで、各論についてはこれからだと三宅氏は補足します。具体的な認知統合や、行動表現のプロセス。そして認知統合と行動形式の間のダイナミクスのモデル化は、まさに現在進行形というわけです。

しかも、これらはゲームAIの中でもキャラクターAIという、一領域にすぎません。そして、その後にルミナススタジオ上での実装と組み込みが待っているのです。そのためには過去の学術AIで培われた知見を糧に、さらなるゲームAI研究を推し進め、既存のゲームAI研究で得られたアルゴリズムを統合していく必要があります。

いわばゲームAIの大統一理論といった趣もある一大プロジェクトですが、これもRPGというジャンルゆえでしょう。高い汎用性を求められ、しかも日本独自の要素まで考慮する必要があります。それだけに高い目標となりますが、他に誰も挑戦しそうにないのも事実。さらなる続報を期待しましょう。




















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