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プレステ世代のクリエイターと共にソニーIPをモバイルへ―ForwardWorks 川口智基氏に訊く

フォワードワークスのエグゼクティブディレクターの川口智基氏に話を訊きました。

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2016年4月1日に電撃的に会社設立が発表されたフォワードワークス(ForwardWorks)。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)のグループ企業で、同社の豊富なIPを活用してモバイルゲームを開発・運営することを掲げています。その狙いはどこにあるのか。2016年10月から恵比寿の新オフィスに移転して、本格稼働となった同社に足を運び、エグゼクティブディレクターの川口智基氏に話を訊きました。

◆2018年3月末までに5-6タイトルをリリースする

――はじめに川口さんの経歴から教えてください。

川口: 1997年に当時のソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)に入社しまして、2年間営業部でプレイステーションのハードやソフトの販売を担当していました。

――1997年のSCE営業というと、いろんな意味で激動の時期でしたね。

川口: いろいろと懐かしいですね(笑)

――ずっと営業畑だったんですか?

川口: いえ、1999年に、PS2の立ち上げからソフトウェアビジネスを担当する部署に異動しました。そこでソフトウェアメーカーとのリレーションや、PS2からはじまってPS3、PS4、PSP、PS Vitaのライセンススキームの策定や、ソフトウェアラインアップの編成などを13年間担当しました。その後2012年に国内の戦略企画を担当する部署に異動し、PS4の国内展開の責任者として、いろいろなプロジェクトを行ってきました。そして2016年4月からフォワードワークスに移籍し、事業戦略責任者を務めています。

――フォワードワークス設立の狙いはどのようなものでしょうか?

川口: ご存じの通りモバイルのコンテンツ市場は世界中で広がっていて、特に国内の市場は大きくなっています。私たちもプレイステーションビジネスを続ける中で、どのようにモバイルユーザーの方々に対して我々のエンタテインメントを楽しんでいただくか、さまざまな挑戦を続けてきました。もっとも、これまでのチャレンジはプレイステーションビジネスの一環でモバイルのユーザーにいろいろなご提案をさせていただくというものでした。ただ、モバイルのコンテンツ市場は非常に大きく、プレイステーションのことを良くご存じの方から、あまり知らないという方々までいらっしゃって、そういう方もスマホでゲームを楽しまれています。そこで、プレイステーションについてよく知らないというようなユーザーの方々にも、我々のコンテンツを楽しんでいただきたいと考えていました。。

――たしかに、「プレイステーション」と冠がつくだけで、自分には関係がないと感じてしまう人がいるかもしれません。

川口: そこで、いったんプレイステーションのビジネス戦略とは切り離し、モバイル市場に特化したゲームビジネスを行うことにしました。あえてプレイステーションのブランドは冠せずに、いちコンテンツパブリッシャーとしてモバイルユーザーとさまざまな接点を持ちつつ、コンテンツを提供していこうと考えたのです。そうすることで、プレイステーションについては良く知らないけど、スマホゲームは遊んでいるユーザーにも、我々のコンテンツを楽しんでいただきやすくなると考えました。こうした経緯があり、わりと早い段階で、モバイル市場に独立して入っていくことに決め、準備を行っていました。

――そうだったんですね。

川口: その後タイミングを検討する一方で、モバイルでやるのであれば、こういうゲームを作りたいという我々なりの思いがありました。そして、今、それが実現できる環境にようやくなってきたと思っています。デバイスが進化してきて、たくさんのユーザーがそうした端末を持つようになってきましたからね。我々が思い描く高品質なゲームを、多くの方々に遊んでいただけるような環境が整ってきました。

――たしかに端末のスペックからみれば、PS3レベルのものが普通に出てきていますよね。

川口: また、モバイル市場が急速に拡大して、コンテンツが供給過多になってきました。その結果、ユーザーもコンテンツの質を今まで以上に吟味されるようになってきたと感じています。少し前まではとりあえずダウンロードしてみて、ちょっと遊んでみて、おもしろくなかったら削除するという感じでした。しかし、今ではメディアや口コミなどでいろいろな情報を得て、そのうえでダウンロードされるようになってきたと思います。

――なるほど。

川口: そして第三にIPの重要性が非常に高くなってきました。ユーザーが遊びたいタイトルを吟味する中で、IPが大きなフックになっています。我々はこれまでプレイステーションのビジネスを通して、さまざまなIPを創り出してきました。これらの我々が持っているIPを活かしたモバイルゲームは、現在の幅広いモバイルユーザーの方々にも面白いと感じていただけると思います。このように、もともと我々がやりたいと思っていたことと、ユーザーが求めているもの、そしてそれらが実現できる環境が整い、、タイミング的に合致する時期にきたので、「よしやろう」ということになったのです。会社設立は今年の4月でしたが、去年のうちからソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)内で本プロジェクトは走っていました。

――事業の進み具合はいかがですか?

川口: 去年からさまざまな企業とお会いしてきました。我々もコンシューマのビジネスを展開する企業とは長くおつきあいさせていただいていましたが、ことモバイルとなると経験も浅く、おつきあいのなかった会社がたくさんありました。その結果、我々のネットワークが一気に拡大して、それぞれの企業の特徴や強みがよりはっきりと見えてきました。こうした中で、我々がモバイルゲームを開発していく中で、コンテンツごとに適した企業とパートナーシップを結び、ゲームを作っていく形がいいだろうという結論に至りました。準備は非常に順調に進んでいて、来年度中(2018年3月末まで)には5~6タイトルがリリースできるように進めています。このタイトルの詳細も年内には発表できる予定です。

――それは楽しみですね。

川口: もちろん、来年度内にリリース予定のタイトル数が5~6タイトルであって、実際にはよりたくさんのプロジェクトが企画されたり、構想されたりしていると考えてもらってOKです。

――会社の規模はどの程度ですか? 内製の開発チームはありますか?

川口: 現時点では内製の開発チームは存在せず、パートナー企業と協業するか、SIE JAPAN Studioで開発を行い、我々はパブリッシャーに徹する予定です。

◆さまざまな意味で過去のノウハウが活かせる分野


――既存のプレイステーションのIPをベースとしたゲームを開発されるということでしたが、どのようなものになるのでしょうか?

川口: 一番最初に「プレイステーションのビジネス戦略とは切り離したところでモバイルビジネスを展開する」と説明しました。しかし、我々が培ってきたものは存分に活かしていく予定です。そのひとつがIPということになります。また、プレイステーションのビジネスはSIEだけではなくて、ゲームメーカーさんやクリエイターなど、いろいろな方々のご協力があって、一緒になって盛り上げてきたプラットフォームです。フォワードワークスでもそういった方々と一緒になって、おもしろいコンテンツ制作に挑戦していきたいと考えています。

――わかります。

川口: もっというと、まずはSIEのIPを用いてモバイルゲームを展開していきますが、今のスマホゲームの枠にとらわれることなく、スマホアプリと他の技術を組み合わせることで、何か新しい遊びが生まれるといったようなことにも、チャレンジしていきたと思っています。

――会社設立のリリースにも「これまでのプレイステーションで培ったゲーム制作のノウハウを活かした、本格的なスマホゲーム」的な表現がありました。ここでいう「本格的」とはどういった意味合いなのでしょうか?

川口:スマホでも本格的なゲーム性をとりいれたタイトルという意味合いになります。ただ、ゲーム性とひとことでいっても、コンテンツごとに重視すべきポイントは異なりますよね。私たちは今、スマホでゲームを楽しまれている、本当に多くのユーザーに対して、我々のゲームを楽しんでいただきたいと思っています。そのため広く多くの方々に受け入れられるカジュアルなゲームから、本当にゲームが好きな方にも満足していただけるような重厚なゲームまで、バラエティ豊かに展開していく予定です。実際、SIEには、それらをカバーできるだけの、豊富なIP資産があります。

――それが5~6タイトルという意味になってくるのですね。

川口: そうですね。ただ、カジュアルゲームというと、薄味のゲームを想像されるかもしれませんが、そこは我々が手がけるものですから、カジュアルゲームなりの、しっかりとしたゲーム性を入れていく予定です。カジュアルゲームでゲーム性重視というと、矛盾して聞こえるかもしれませんが、誰でも遊べて、気がつくと長く遊び続けていて、気軽に楽しみやすい中にも奥深さがあるという内容をめざしたいですね。

――ゲーム作りの基本ですね。

川口: はい、とにかく「フォワードワークスのゲームはおもしろい」と思っていただけること。そして、スマホゲームを楽しんでいるけれど、プレイステーションについてはあまり知らないというユーザーの方々や、スマホは持っているけどゲームは遊んでいない方々にも、我々のゲームを楽しんでもらえることが、我々としての成功だと思っています。

――ターゲットは日本ユーザーですか?

川口: はい、日本市場です。その次にアジア地域です。それ以外の市場については、コンテンツごとに可能性があれば、順次検討していきますが、まずは日本市場ですね。

――SIEではゲーム以外のアプリも出されてきましたが、そういった開発は行われますか?

川口: 将来的にその可能性は否定しませんが、現時点ではゲームに集中します。

――会社としての理念は良くわかりましたが、川口さんが旗振り役になられた経緯はどのようなものですか?

川口: もともとSIEで戦略企画を担当していて、その時に走らせていたプロジェクトの一つがモバイルへのチャレンジでした。プロジェクトの立ち上げから旗振りまでをやってきた形になります。今はフォワードワークスで、事業全体の戦略立案を行っています。

――つまり、川口さんはモバイルゲームをやりたかったんですね。

川口:そうですね。

――川口さんにとっての、モバイルゲームの魅力は何ですか?

川口: 本当に多くのユーザーがいらっしゃることですね。カジュアルな方からゲームが本当に好きな方までバラエティが豊かで、市場としてもまだまだ可能性があります。また私たちがこれまでプレイステーションのビジネスで得たノウハウが、すごく活きると思っています。IPの活用もそうです。また、今は良いゲームを作っても、ユーザーの手元に届けるのが、けっこう難しくなってきています。しかしプレイステーションでは、ゲーム作りだけでなく、プロモーションをはじめとして、「ユーザーの手元に届ける」ノウハウをいろいろと蓄積してきました。そういったこともモバイルゲームの市場で活かしていけると思います。さらに、ゲームをただ販売するだけではなく、1本のゲームを長く遊んでいただき、周りに広めていただくようなことも、すごく一生懸命やってきました。そういったノウハウも活かせると思います。

――話を伺っていて、SIEの外でビジネスをされるという点が一番印象的でした。プレイステーションの立ち上げ時に、あえて「ソニー」ではなく「SCE」でビジネスをはじめられことを思い出しました。SIEではなく、フォワードワークスでビジネスをするほうが、身軽ですか?

川口: あくまでも子会社ですので、そのメリットは活かしたいと思っています。ただ、前述の通り、コンテンツパブリッシャーとしてモバイル市場に向き合うというのが私たちのミッションですので、SIEとフォワードワークスでは戦略が異なります。フォワードワークスとして動くほうが、戦略的に理に適っていると思います。

――いろいろ言われますよね。PS4の売上に貢献するとか。

川口: 弊社はSIEのグループ会社ですから、最終的にはそこに行き着きますけどね。まずはモバイルゲームを楽しまれている方を増やして、ゲームっておもしろいなと思っていただいて、最終的にはモバイル以外のゲーム、たとえばPS4やPS Vitaにも目を向けていただくことをめざしています。ただ、ここを無理に繋げることはしません。ここをつなげるのはIPだと思っています。そのためIPを活かしたモバイルゲームを投入して、そのIPを好きになっていただいたら、自然と同じIPで別の体験を求めて、PS4やPS Viaにも目を向けていただく……そうした流れができればベストだと思っています。

――なるほど。

川口: 繰り返しになりますが、我々の目的はシンプルで、モバイルユーザーにプレイステーションのIPを活かしたゲームをどんどん提供して、ファンになってもらうことです。そのために一番良いやり方を考えたとき、自然と会社の形や戦略なども決まっていきました。

◆IPの本質を見失わずにモバイルゲームに展開する


――プロデュースワークが肝だと感じました。全タイトルを川口さんが担当されるわけではないと思います。どんなプロデューサーの方がいらっしゃいますか?

川口: 会社の規模感はお伝えしていませんので、具体的な人員などは差し控えさせていただきますが、もともとSIEでプレイステーションビジネスに携わっていたスタッフだけではなく、プレイステーションの外でモバイルビジネスをしていた方々、そして両方を経験してきた方々、そんなふうに、いろんな経験を持つ人員で構成しています。今月からここ(恵比寿)にオフィスを移して、来年度のタイトルリリースに向けて事業をこれから本格化させていくタイミングです。これから人員も含めて、もっと大きくしていきたいですね。

――SIEのIPはフリーハンドで使えるのですか?

川口: 我々がモバイルで展開していくのは、SIE JAPAN StudioのIPです。新旧含め、様々なタイトルがあります。

――たしかに、たくさんIPがありますが、休眠状態のものも少なくありません。その大きな理由としては、コンソールゲームの特徴でもある「売り切り」スタイルです。どんなIPでも続編が出ないと、輝きを失っていきますからね。一方でモバイルゲームの「運営」スタイルは、IPと相性が良いのも事実です。

川口: そのとおりですね。

――IPを育てていく重要性については、川口さんが仰るとおりで、非常に良くわかります。そして、それを行うのがプロデューサーの仕事でもあります。その意味で、どんなIPがあって、どんなふうに育てられていくのか、お考えを教えてください。

川口: SIE JAPAN StudioのIPをモバイルゲームに展開していく上で、いわゆる「単純移植」のようなことはしません。今のモバイルゲームに最適化した形で、IPは同じでも新作としてリリースしていくつもりです。もっとも、有力IPであるほどファンがたくさんいる反面、IPに対して愛情の深い方もたくさんいますので、慎重になるべき部分もあります。モバイルゲームに最適化といっても、変える必要がある部分と、変えてはいけない部分があります。そのためJAPAN StudioでもともとオリジナルのIP制作にかかわっていたメンバーが監修で入ることも考えています。

――そうなんですね。

川口: また、今回すごくありがたく、我々の強みだと思うことのひとつは、コンテンツごとにパートナーシップを組む企業の方々の中に、プレイステーション世代のクリエイターが多いことです。この方々は「1ユーザーとして遊んでいて、すごく思い入れのあるタイトルに、作る側になって携われるなんて、こんな幸せなことはない」と皆さんおっしゃってくださるんですね。SIEで当時IPを創り出したクリエイター、当時ユーザーとしてIPを愛してくれていたクリエイター、そんなふうにIPのことが良くわかっている方々と一緒にゲームを創れるということが、ポイントの一つだと感じています。

――コンシューマからモバイル、さらにはモバイルからコンシューマへの移植も、最近では増えていますね。

川口: いろいろなレベルの「移植」がありますね。「移植」の定義は非常に難しくて、どこまでが新作で、どこまでが移植なのか、線引きは困難です。ただ一ついえるのは、我々はいわゆる「アーカイブス」的な形でIPを移植することはしません。IPのもつ本質の部分は活かしつつ、今のスマホや今のユーザーに最適化していくということです。

――『パラッパラッパー』『サルゲッチュ』など、ディスクの裏が黒かった時代のゲームがスマホで遊べるようになると嬉しいですね。その一方で繰り返しになりますが、スマホゲームのサービスモデルにうまく適合するのか気になります。

川口: 懸念されている点はわかります。ただ、この話をすると、みなさん「あのゲームをやってほしい」「このゲームにハマっていた」という話で盛り上がるんですよ。そういった熱量みたいなものは、新しいビジネスを立ち上げていく上で重要だと思っています。実際、プレイステーションは、「ものすごく斬新なゲーム」をたくさん創り出してきました。そうしたゲームの中には、未体験のユーザーさんに遊んでもらったら、新鮮でおもしろいと感じてもらえるようなものも、かなりあると思います。SIEのIPということで、既存のユーザーが対象だと思われがちですが、そうでない方々にも遊んでいただけるようなコンテンツを出していきたいと思います。

――最後になりましたが、フォワードワークスの会社名の由来や、ロゴの意味などがあれば教えてください。

川口: フォワードはサッカーでいうと、前線で活躍してゴールを決めるポジションじゃないですか。僕らも新しいフィールドで、最前線で新しい遊びを、ユーザーの皆様に提供していきたいという思いを込めて、この社名にしました。ロゴについては、フォワードワークスの頭文字「F」「W」をあしらったデザインになっています。また、フォワードはFWと略されますしね。それにスマホの操作で特徴的な「指でなぞる」という行為をデザインにしました。そのうえでもう一つの意味があるんです。

――それはなんでしょうか?

川口: ロゴの「F」と「W」を一続きのデザインにしたことで、実は「F」「U」「N」にも読めるんです。隠し文字的に「FUN」をあしらうことで、スマホで本当におもしろいゲームを作っていく、という意味を込めました。

――なるほど、それは気がつきませんでした。実際のゲームのリリースが楽しみです。本日はありがとうございました。

川口: ありがとうございました。この記事を読まれた方には、モバイルで復活してほしいJAPAN StudioのIPやプレイステーションの名作があれば、ぜひ教えていただきたいです。ご意見お待ちしています。
《小野憲史》
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