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Game*Sparkレビュー:『バランワンダーワールド』

大量の欠点はゲーム体験に深刻な影を落としていますが、デザインや音楽、ボス戦など輝く点もあります。

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冒頭から筆者の話で恐縮なのですが、私がゲームを本格的にプレイし始めたのはPS4から。そのため、筆者の感覚で言えばPS3は古いゲーム、PS2やPS1は実際に見て触ったことも無く、スーパーファミコンやメガドライブに至っては全く接点が無いという意味で神話上の存在に近くなっています。

ゲームライターとして、こうした古い知識が無いというのは欠点ではありますが、一方で当時のゲームへの思い入れが強い人に比べていくらか冷静になれるという利点もあると言えるでしょう。

本レビューでは新作3Dアクションゲーム『バランワンダーワールド』の主要開発陣が、名作と伝え聞くあの『ソニック』シリーズの中裕司氏や大島直人氏であるといったことを無視し、純粋に2021年のアクションゲームとして主に3つの項目から評価していきたいと思います。

その3つとは、「アクションゲームとしての面白さ、完成度」「デザインやグラフィック、音楽」そして「ストーリーについて」です。

1つ目の「アクションゲームとしての面白さ、完成度」では、アクションの操作性や快適性、戦闘や探索など、アクションゲームの根幹に関わる要素について評価します。

2つ目の「デザインやグラフィック、音楽」については文言通りグラフィックや音楽について評価しますが、UIやボタン配置といったゲームプレイに関わることについても触れていきます。

3つ目の「ストーリーについて」では、全12章から構成される本作のストーリーとゲーム上の進行が相互に適切だったかについて、上記2項目を振り返りつつ論じていきます。

なお、本作『バランワンダーワールド』は以前にもプレイレポートで序盤の様子をご紹介しています。こちらも併せてご覧ください。なお、本レビューにはPS5版を使用しています。

「アクションゲームとしての面白さ、完成度」

1.極端に簡略化されるも、快適とは言えない操作性

『バランワンダーワールド』は3人称視点でキャラクターを動かすアクションゲームです。そのため、移動やカメラ操作は3人称視点のゲームの操作として一般的な左右スティックを使ったものになりますが、左右スティック以外には3ボタンのみしか使わず、そのうち2ボタンは衣装変更となります。つまり、実質的には1ボタンにジャンプや攻撃、掴む、といった全てのアクションが割り振られています。

着ている衣装によってアクションは様々に変化しますが、操作が極端に簡略化され、アクションを発動するボタンが1つに集約された結果、特定の衣装では最も基本的で重要なジャンプすらできない弊害が発生します。

これに対処するため、プレイヤーはゲームプレイ中にたくさん衣装変更を行うことになりますが、衣装変更時にはキャラクターが1秒弱動けなくなるアニメーションが挟まるため、テンポが悪くなっています。最も多く使うアクションである衣装変更が気持ちよくないのです。

快適ではない要因はボタン以外にも存在します。その1つが直感的に動かないキャラクターです。移動速度が遅い割には走り出しや止まる際に滑り、細かい操作が求められる場合に不満を感じました。操作が簡略化されているため、ダッシュと歩きの使い分けもありません。

また、不便な視点操作も気になります。ゲームを進めるにあたってバランスタチューという隠しアイテムを見つける必要があるのですが、これを見つけようと辺りを見渡すと様々なオブジェクトにカメラが引っ掛かり、思うようにいきません。

2.味気ない戦闘・毎回同じような敵キャラクター

戦闘は非常に簡単で、敵を攻撃できる衣装を着ていればアクションのボタンを押すだけ。特別なテクニックが必要ないため、ゲーム初心者の方や幼いお子さんなどボタン操作に慣れていない方でも安心です。衣装に攻撃手段が無い場合もジャンプして踏みつければ倒せ、もちろん無視して進むことも可能です。

ステージ上で遭遇する敵キャラクターは両手で数えられるほど。攻撃方法に多少の差はありますが、基本的には紫色のスライムのような形状で、外見上の大きな個性はありません。

様々なインタビューを読んでいると、本作にはプレイヤーの行動によって敵が変化する「メタAI」なるものが搭載されているようですが、実感はできませんでした。そもそも、敵のリスポーン速度が速すぎるというメタAI以前の問題もあります。


一方でステージごとに存在するボスには様々な個性があり、攻略方法も多様なため面白く感じました。攻略方法に応じてバランスタチューを獲得できるというのも、様々なアプローチを試してみたくなる良い要素であると感じます。

3.ストレスの溜まる探索要素

物語を進めてステージ(章)を解放するには、バランスタチューという不思議な像を探す必要があります。バランスタチューは様々な場所に隠されており、プレイヤーはこれを探すためステージを探索するのですが、多くの場合獲得するにはステージを横断して能力を使用する必要があり、少々複雑なシステムになっています。


例えば、ステージ3(第3章)のクモの衣装をステージ1(第1章)で使用すればバランスタチューを獲得できます。これだけ聞くと全く複雑ではない気がしてきますが、衣装は80以上あり、ステージは12個もあります。それらを把握し、適切に使用していく作業は地道で、率直に言って面倒くさいのです。

さらに、衣装には在庫数が存在します。衣装は敵に攻撃されたり落下したりすると減ってしまうため、例えばステージ1から落下して衣装が0になってしまった場合、再びステージ3へ戻り、目当ての衣装を手に入れてからステージ1をやり直すのです。その上、こうした地道な困難を乗り越えた先にバランスタチューがあるかは不明です。というのも、いかにもバランスタチューが隠されていそうな場所に、実際には取るに足らない宝石が隠されている場合も多いからです。

とはいえ、バランスタチューを見つけるにはこうした、隠されていそうな場所を潰していく作業をこなしていかざるを得ません。落胆させられることが多くとも、こうした地道な作業を行わないとゲームが進行しないからです。

4.唐突で質の低いミニゲーム

ゲームの途中に唐突に挟まるミニゲームやQTEはクオリティが低く、ゲームのテンポを阻害しています。多くのミニゲームは昔のブラウザゲームにあったようなものばかりです。


QTEの「バランチャレンジ」は本作をプレイするうえで最もストレスを感じた要素です。バランチャレンジはステージ上の黄金に輝く帽子に触れると挑戦でき、戦うバランを眺めつつ、半透明で移動するバランと透明ではないバランが重なったタイミングでボタン(〇×□△+トリガーの6ボタンのいずれか1つでも可)を押すというもの。タイミング良くボタンを押し、数回あるタイミング全てで「エクセレント」になればバランスタチューを獲得できます。

このバランチャレンジのストレスフルな点は、タイミングが分かり辛いこととやり直しができないこと。やり直すには一度ステージから出る必要があります。かといって、バランスタチューはゲームを進行するうえで重要なため、避けるわけにもいきません。肝心のムービーも同じ内容の繰り返しで、1999年の『シェンムー』のQTEにすら及んでいません。

「デザインやグラフィック、音楽」

1.デザインとグラフィック

本作の世界観やデザインは魅力的で、好みが分かれるとしても、少なくとも欠点になるものではありません。世界観を基に描かれるムービーの品質も非常に高いものとなっています。

一方で、肝心のゲーム内グラフィックは様々な機種に幅広く展開していることもあってか、良いとは言えません。少なくとも、筆者がPS4とPS5でプレイしたゲームの中では最低レベルのグラフィックです。とはいえ、グラフィックが評価に直結するゲームではないため、特別に酷評するほどではありません。


デザインやグラフィックの中で最も違和感を覚えたのはステージのデザインです。ゲーム内で描かれるステージは違和感に満ち溢れています。何を伝えたいのか分からない踊りや小さな帽子、特に奇妙な大きい人間。これら以外にも様々な違和感が無数に存在します。

良い点として、約80種ある衣装のデザインは個性に富んでおり、楽しいデザインに仕上がっています。ただ、衣装の能力は重複していることが多く、使わない衣装も多くあります。

2.UI関係

UI(ユーザーインターフェイス)とはメインメニューやアイテム選択、体力といった画面上の情報デザインのことですが、本作のUIはそれほど悪いものではありません。確かに少々「ダサい」感じは否めませんが、少なくとも分かりにくくはありません。しかし、先述した通り本作は1つのボタンに全ての役割が集中しています。UIに関しても同様で、本作にはキャンセルボタンがありません。あるのは決定ボタンのみ。言うまでもないですが非常に不便です。

3.音楽

音楽について私は全くの素人であるものの、特徴的で良い楽曲が揃っていると感じます。日常的に聴きたいなと思う曲も多く、仮にとても面白いゲームだった場合、サウンドトラックを購入することがあったかもしれません。

ただ、ミュージカルをモチーフにしているにも関わらず、ミュージカル要素はステージ上で同じ踊りを繰り返し続けるキャラクターとボス戦後の踊りのみで、曲に合わせた台詞や歌詞もありません。

「ストーリーについて」

前述した通りアクションには欠点が多いですが、ストーリーも輪をかけて欠点の多いものになっています。というより、ゲーム上ではほとんど何も語られないため、評価しようにも評価できません。具体的には主人公の名前や敵の名前が明かされないレベル。そもそも、ワンダーワールドとはどのような世界なのか、なぜ救わなければならないのか、相対する敵はどのような存在なのか、なぜ戦っているのか。これらが一切語られません。そのため、プレイヤーは物語における目的や動機を持てないままプレイせざるを得なくなっています。

12の章で語られるストーリーはボス戦前に流れる、1分ほどの良質なムービーによって何となく察せられます。昆虫が好きで除け者扱いされている少女、森林伐採に心を痛める女性、航空機開発に悩む少年。おそらく主人公はこうした人々の「心の闇」のようなものを解決しているわけです。しかし、こうしたストーリーはボス戦前の1分ほどのムービーではなく、ステージの様子やビジュアルといったゲーム内で表現すべきことではないでしょうか。

例えば、除け者扱いしてくる者達への恐怖がステージ上のギミックとして配置されていれば、ストーリーとゲーム性が相互に嚙み合うはずです。あるいは、ボス戦前のムービーの一部をステージ冒頭に流してくれるだけでも印象は大分変わるでしょう。現状、1回目のプレイ時には、どんな人物の心象世界を舞台にしたステージなのかすら分からないのです。

こうした説明不足さはゲーム内のシステム解説にも通じます。プレイヤーの後ろについてくる謎の生き物“ティム”とは何なのか、彼らはステージクリア時に何をしているのか、ティムの遊具には意味があるのか、虹色の卵を集めると何が起きるのか、なぜティム同士をぶつけると増えるのか。これらはいずれも説明されることがありませんでした。

おわりに

酷評ばかりで心苦しいのですが、本作はアクションゲームで欠点とされる要素を多く抱えています。こうした欠点があったとしても、ストーリーやキャラクターが魅力的であれば十分に遊べるのですが、そもそもストーリーはゲーム中ほとんど語られませんし、グラフィックも良いとは言えないため、プレイヤーが本作を遊ぶモチベーションを維持するのは難しいと言えます。

もちろん、本作の全てが悪いというわけではありません。優れたデザインや音楽に加え、欠点の多いアクションの中でもボス戦は凝っており、輝く瞬間は短いながらも存在します。しかし、これらのポジティブな要素を考慮してもなお、2021年に発売されたゲームとは思えないほど不親切で不便な欠点が多く、到底おすすめできないゲームとなってしまっています。

『バランワンダーワールド』は間違いなく「遊べるゲーム」です。バグが多いわけではないし、エラーが起きるわけでもありません。ですが、肝心のゲーム内容には多くの問題を抱えており、退屈でつまらなく、イライラさせられ、その上ストーリーは意味不明。多くの人にとって、そのプレイの時間が有意義なものにはならないでしょう。

総評:★

良い点
・魅力的なデザイン
・印象的な音楽

悪い点
・不便でぎこちないアクション
・簡略化された結果、不便になった操作性
・奇妙なステージ
・唐突で出来の悪いミニゲーム
・説明不足なストーリー

※ UPDATE(2021/04/05 23:11):大島直人氏の表記に誤りがありました。お詫びし修正いたします。コメント欄でのご指摘ありがとうございました。


《大塩》
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