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『トライアングルストラテジー』鉄よりも強し?塩を制する者は敵の命運さえも掌握する【ゲームで世界を観る#24】

長い歴史の中では、塩の有無が何度も戦争の勝敗を分けました。

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『トライアングルストラテジー』鉄よりも強し?塩を制する者は敵の命運さえも掌握する【ゲームで世界を観る#24】
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『トライアングルストラテジー』の世界ノゼリアでは、かつて「塩鉄大戦」という資源の利権を巡る戦争が繰り広げられました。鉄資源を有するエスフロスト公国と、塩を独占する聖ハイサンド大教国、穀倉地帯に恵まれたグリンブルク王国。互いに戦争も辞さないものの、資源の輸出入を止められれば双方共倒れになりかねない危うい関係です。

今でこそ普通に食卓に並び、むしろ“減塩したほうが良い”と広く言われるようになりましたが、かつては「塩」を独占するものこそ権力の頂点でした。「塩」は「白い黄金」と呼ばれ、長い歴史の上では他国の生殺与奪を握る強力な資源だったのです。

「塩分」は、人間だけで無く全ての生物にとって生命維持に欠かせないものです。生物は体液の「浸透圧」で栄養の循環を行ったり、神経伝達の信号を伝えたり、海水の中の塩分を様々に利用することで進化してきました。ところが陸上に進出した生物は海水の代わりに塩分を補給する必要が生じました。塩分が失われると脱水やだるさ、むくみなどの症状が現れ、十分な運動能力を発揮できなくなってしまいます。

肉食動物であれば獲物の血肉から摂取できますが、草食動物は食べる植物とは別に「ミネラル」を摂らなければなりません。塩分を含んだ水場には多くの動物が集まり、象は特定の場所にある土を食べ、それを代々継承しています。最近有名になったダムの壁面を上るアイベックスの動画も、壁面から染み出す塩分を舐めているとみられています。

人類が狩猟採集から農耕に移行するときにも、同様の問題が起こっていたと考えられます。塩分は穀物や野菜から摂取できず、しかも労働によってより多く排出されます。その時代の人類が科学的なことを知っていたかは分かりませんが、農耕とほぼ同時期に製塩が始まっていたことは確実です。塩分不足になると味覚が塩っぱさをおいしいと感じるようになるため、塩を摂ると活力が戻ることを経験的に知っていたとも考えられます。

人類が農業を発展させていくに従って、同時に製塩の重要性も高まっていきました。製塩が出来る場所は限られているため、権力者が生産を独占して利用するのが常でした。特に、純度の高い塩が作れる塩鉱山は貴重で、欧州では教会や王侯貴族が抑えて特権的地位の保持に利用しました。

古代エジプトでは労働者の使役のために大量の塩を必要とし、地中間沿岸の各地から様々な種類の塩を輸入していました。馬や牛などの労働家畜にも塩を与え、その量は人間の10倍に及んだとか。今でもキャラバン隊のラクダには岩塩を舐めさせる習慣があります。

塩は脱水や殺菌の効果があり、ミイラの作成にも塩が使われてました。内臓などの処理を済ませた後、しばらく塩漬けにして完全に乾燥させます。その後に防腐剤などを染みこませて封をします。塩で遺体の腐敗を防止する手法は世界各地で見られ、日本でも討ち取った首を塩漬けにしておくことはよくありました。近代の大戦でも、応急処置として塩で防腐することも珍しくなかったようです。

塩漬けの保存食は安定した食糧確保には欠かせませんでした。完全に脱水した干物は人類の行動範囲を大きく広げ、長距離の砂漠移動や航海には必須です。最長5年程まで保存できるタラの塩漬けが発明されると、西洋諸国の海洋進出が可能になって大航海時代が到来します。タラの塩漬けは航海士の定番となっただけでなく、植民地で使役される労働者や奴隷の手にも渡り、ヨーロッパから世界中へ輸出される時代を支えた一品になりました。

この時、うなぎ登りの塩需要を一手に引き受けたのが、かの有名なオーストリア・ハプスブルク家。アルプス山脈の主要な岩塩鉱山を抑え、製造から流通に至るまで独占を続けました。絶対的な「白い黄金」の富と権力を使って、ウィーンを華やかな芸術の街へと発展させたのです。塩の重要性は「ザルツブルク」や「ハルシュタット(ハルはケルト語で塩の意)」などの地名からも分かります。

塩は絶対に失敗しない投資対象で、どれだけ税金を取っても供給停止をちらつかせれば無理を通すのさえ容易です。塩の供給が絶たれれば労働者はもちろん兵士も弱体化し、ダイレクトに国力を削られます。それを敵対する他国が掌握していたらどうでしょう?特に岩塩が採れない内陸部だったら?戦国時代、武田信玄は周辺国から塩の供給を遮断され、領民達は非常に困窮しました。しかし宿敵である上杉家はそれに加わらず、塩の供給を安定して続けました。これが後に言う「敵に塩を送る」の由来です。塩資源の確保は、それだけで戦争の強力なアドバンテージになり得るのです。

この「塩封鎖」に遭ったのがアメリカです。1775年からの独立戦争では頼っていたイギリスからの塩がなくなり、長い間塩不足に苦しめられました。その後の南北戦争では製塩を握っていた北部側が塩の救急を遮断、南部側は保存食を作れず、物資が少ない中腐敗した食料の大量破棄を余儀なくされました。火薬の生産量も落ち、これが戦争の勝敗を大きく左右したという見方もあります。

現在、日本の塩自給率は約11%で、その大半をオーストラリアとメキシコからの輸入に頼っています。日本は海に囲まれているにもかかわらず、使える塩はごく僅かというのが意外ですね。国内消費の約8割は工業用で、もしも塩封鎖に遭えば大きな混乱が起きるでしょう。戦争でなくても、タンカーの燃料高騰で便数が減ることも十分あり得ます。

金属や石油と比べると、当たり前すぎて今ひとつ影が薄い「塩」。しかし、武器や燃料が無くても生きられますが、塩を絶たれた人間は絶対に生きていけません。そのありがたさを噛み締めつつも、塩分の摂り過ぎにならないよう健康的な食習慣を心がけましょう。


《Skollfang》
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