『スカルアンドボーンズ』正体は古代の海賊?歴史の転換に消えた謎の集団「海の民」【ゲームで世界を観る#71】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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『スカルアンドボーンズ』正体は古代の海賊?歴史の転換に消えた謎の集団「海の民」【ゲームで世界を観る#71】

海の民はどこから来てどこに行ったのか。

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『スカルアンドボーンズ』正体は古代の海賊?歴史の転換に消えた謎の集団「海の民」【ゲームで世界を観る#71】
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『スカル アンド ボーンズ』の世界には「海の民」という勢力がいて、クエストの納品先として協力関係にあります。具体的な国家名や民族名はなく、英語でも「Sea People」という呼び名です。一見アフリカ系かと思いきや、ギリシャにまつわる12星座の地図を求めるなど謎の多い人々です。

彼らは一体何者なのか? その手がかりは、ズバリ世界史の中に見つけることができるでしょう。というのも、地中海の歴史において重要であるにも関わらず、「海の民」としか表現されていない正体不明の集団が存在したのです。

「海の民」と具体的に名付けられたのは近代になってからですが、紀元前12世紀頃の地中海沿岸には、船に乗った集団の襲撃を受けたという記録が数多く残っています。古代エジプトのレリーフにはそれらを撃退するファラオ、ラムセス3世の姿が描かれており、「海の民」との戦いが戦果として掲げられるくらいには、軍事的にかなりの脅威だったと考えられます。彼らは大きな拠点を持たず、海上を移動しながら次々に都市を襲い、大規模な略奪行為を行っていました。

エジプトの記録によると、捕虜にした海の民はトルコからギリシャ、イタリアにかけての複数民族からなる集団だったと判明しています。集団を率いていた人物がいたかもわからず、特定の領地を持っていた形跡もない。ただ、その時期の地中海で大集団の襲撃が多発し、トルコやギリシャで一気に都市が壊滅したという間接的なことでしか「海の民」の存在は見つけられません。少し前の教科書ではミケーネ文明やヒッタイトを滅ぼしたとも書かれていましたが、そこまでではなかったにせよ、国家の弱体化を招く要因のひとつになったのは間違いないでしょう。

指導者のいない複数民族が混ざった集団、それは災害から逃れた難民だったのではないか、近年ではこのような説が有力視されています。紀元前1,200年前後は“Late Bronze Age collapse”(前1,200年のカタストロフ)と称される天災が連続する時期で、液状化を伴う巨大な地震など海の民以前から国家を揺るがす事態が頻発していたようです。

特に大きな干ばつが断続的に続いたため、エジプトでは食糧配給が滞って市民がストライキを起こしています。世界最古のストライキ記録「ストライキ・パピルス」によると、在位29年目(前1157年頃)に労働者たちはトトメス3世の墓の前で座り込みを断行、約1週間の後にようやく配給が行われたようです。ラムセス3世の時代に計4回のストライキが行われ、内政の混乱からラムセス3世は暗殺されてしまいます。これによってエジプト新王国は衰退、分裂状態に陥りました。

ヒッタイトがあったトルコでは前1198年から前1196年の3年にわたる長期の干ばつが確認されており、ヒッタイトの滅亡はそれから間もない前1180年頃です。農業に影響を受けて深刻な食糧難が発生したと考えられます。前1,200年のカタストロフではヒッタイトやギリシャのミケーネ文明などいくつもの国が同時多発的に衰退しており、こうした災害の影響は地中海全域に及んでいたのかもしれません。当時は交易も活発だったため、食料の供給網が途絶した可能性もあり、東地中海の穀倉に頼っていた地域はひとたまりもなかったでしょう。

そこから逃れてきた人々が食料を求めて略奪を働く集団を形成した。作物を育てられる見込みがないため、定住をせず移動し続けるしかなかった。生き延びるために軍隊にもひるまず、天災で弱っていた各国を脅かす存在にまで膨れ上がった。古代の海賊とも呼ばれる「海の民」は、飢えに苦しむ流浪の難民だったのかもしれません。

「カタストロフ」によってヒッタイトの鉄器技術が流出し、時代は青銅器から鉄器時代へと移っていきます。海の民は混沌の中で忽然と姿を消し、結局どうなったのかその記録はありません。最新の研究ではパレスチナにいた「ペリシテ人」に西欧からの渡来人がいたことがDNA解析で判明し、海の民との関係が示唆されています。しかし彼らが主体の記録がない以上、確たることはまだ何もわからないに等しいです。

それでも「わからない」ことこそが歴史ロマンの始まりであり、飛躍した想像であってもそこに乗せることができるのです。生き残った分派がアフリカやインド洋に辿り着く、そんな可能性もあるかもしれませんね。


《Skollfang》

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