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『トライアングルストラテジー』で辿る「鉄」の歴史―技術的優位がもたらす鉄資源と権力の結びつき【ゲームで世界を観る#25】

資源を持つ者と持たない者の差が見えてきます。

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『トライアングルストラテジー』で辿る「鉄」の歴史―技術的優位がもたらす鉄資源と権力の結びつき【ゲームで世界を観る#25】
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前回の塩と同様に、本作の舞台ノゼリアで重要なもう一つの資源が「鉄」です。高水準の工業には欠かせず、現実でも有史以来文明の興亡を握る鍵となってきました。プロイセンの鉄血宰相ビスマルクの「鉄は国家なり」の言葉に代表されるように、近現代では鉄鋼業の進歩こそが国民の生活と武力の優位を担います。鉄資源は国とどのように結びついてきたのか、その歴史を辿ってみましょう。

鉄は恒星の内部で起こる核融合で精製される物質で最も番号が大きく、それ以降の銅などはより強力なエネルギーを生む超新星爆発が必要です。超新星爆発ですぐに出来る銅と同じく、宇宙全体でも鉄は他の金属類に比べても多く存在する「コモンメタル」です。仮に地球外知的生命体が冶金技術を開発したとしても、鉄の製錬技術にたどり着く可能性は非常に高いでしょう。磁場を生み出す地球のコアも主に鉄でできており、現在の地球生命にとっても赤血球を作るなどに必須で、私達はまさに「星の恩恵」を受けて生きていると言い切れます。

製鉄技術が出来る前の古代、「金属」として使える鉄は空から降ってくるものでした。つまり、隕石に含まれる「隕鉄」を拾って加工したものを使っていたのです。メソポタミアやエジプトでは文字通り「天の金属」と呼び、神聖な貴重品として扱われていました。そのため、鉄の保持は強い権力と結びつきを持ちます。ツタンカーメンの副葬品である鉄の短剣は隕鉄から作られ、しかもこれはヒッタイト王国の隣国、ミタンニ王国から贈答されたものと判明しています。当時はヒッタイト王国とその周辺のみが製鉄加工技術を持っており、エジプトにしてみれば神聖かつ最先端技術の結晶として大変ありがたいものだったに違いありません。

近年、最初に製鉄技術を持っていたとされるヒッタイト王国の時代よりも更に1000年遡る製鉄の痕跡が見つかっていて、より調査が進めば古代技術史が大きく書き換えられます。今後の研究に期待しましょう。

鉄は融点が高いため、ヒッタイトが開発したのは炉で溶かす鋳鉄ではなく、固体のまま木炭で熱し、炭素を加えて「鍛造」する技術でした。合金化した「鋼」は通常の鉄よりも強く、当時の主流だった銅よりも遥かに耐久性に優れています。当然、武器としてまともにかち合えば銅の方が激しく損傷します。上記の動画では19分頃から耐久実験をしていますが、銅剣は刃にあっさり斬り傷が入り、刀身そのものも大きく歪んでいます。

ヒッタイト王国はこの製鉄技術と馬曳き戦車「チャリオット」を用いた強力な軍事力によって、トルコ周辺を一挙に征服、エジプトと並び立つ強大な国へ成長を遂げました。そして紀元前1286年、王権の記録が存在する最古の戦争「カデシュの戦い」がヒッタイト・エジプト間で起こります。勝敗はほぼ引き分けに終わり、このときの和平条約(これも記録上最古の「和平条約」)にて、ヒッタイトの製鉄技術をエジプトに供与しました。ヒッタイトは製鉄技術を交渉の切り札としても使っていたのです。技術者と鉱石を手に入れたエジプトにもこれ以降鉄器が広がっていきます。

その後ヒッタイト王国は「海の民」によって滅ぼされ、独占していた製鉄法は流出していきました。鍛造は大量の木炭を要するため、森林資源を使い果たしたことが敗北の要因とも言われています。技術はヨーロッパに拡散し、銅から鉄への移行が一気に進みます。本格的な鉄器時代の到来です。

欧州から東方に製鉄を伝えたのはスキタイ、匈奴などの遊牧騎馬民族でした。トルコ周辺で技術を獲得すると、燃料になる森林地帯と草原地帯の境界を沿うようにして、東に向かって点々と炉の跡を残していきます。

一方、中国では金属を溶かす鋳造技術が発展し、春秋戦国時代には「鋳鉄」の使用が始まっていました。しかし鍛造と違って鋳鉄は強度が弱く、当時はまだ技術が安定しなかったようで、武器用途では無く農具や日用品に使われていました。同時代に中華統一を果たした秦の武器は主に青銅製です。中国は青銅の製錬が高水準だったので、技術的優位のある青銅と発展途上の鉄が長い間併存します。それでも秦・漢の時代には製鉄所を全て国営とし、生産流通を管理する「鉄官」が農具の貸与の審査まで行っていました。

鍛造技術を持つ匈奴と、鋳鉄技術を持つ中国王朝は幾度となく戦争を繰り広げ、匈奴の持つ騎馬技術などを中国側は吸収していきます。この時に、武器として弱い鋳鉄の武器と、中国の強みである青銅の武器と、強靱な鍛造鋼の武器が衝突したことは想像に難くありません。鍛造技術を取り入れた中国は、鋳鉄と組み合わせて鋼の大量生産に到達、軍事や農業など中国文明全体の水準を大きく引き上げることになります。

日本に於いては、ヤマト王権が朝鮮との貿易を通して多く鉄を入手しました。製鉄技術の無い日本では古代エジプトと同様に、鉄を貴重な財宝、そして権力の象徴として扱っていました。埼玉の稲荷山古墳からは「金錯銘鉄剣」と共に鉄製の副葬品、朝鮮から輸入したままの鉄の延べ板も出土しました。ヤマト王権は青銅器を使っている各地の豪族に対し、朝鮮の鉄を供与することで権力を掌握していったと考えられます。

ヒッタイトから騎馬民族を通じて東アジア、朝鮮、日本にまで鍛造技術が伝播するルートを、鉄の道「アイアンロード」とする説が提唱されました。製鉄は武力と生活を進歩させ、手中に収めた者が権力を手にする。それは鉄鋼業が発達した現在でも変わらず、鉄資源の奪い合いであったり、供給の停止であったり、それらが戦争にどのような影響を与えたか今更語るまでも無いでしょう。

『トライアングルストラテジー』のノゼリアでは、鉄鉱山と溶岩を利用した冶金技術を持つエスフロスト公国が武力、工業に於いて優位性を持っています。鋼鉄で武装した黒鉄兵団を率いる総帥が治めることから、いかに鉄資源をコントロールするかがこの国を動かす原動力だと推察できます。

ノゼリア3国は互いに資源を依存し合い、国の断交はすなわち資源の枯渇を意味します。そのにらみ合いが危うい均衡を保っていましたが、新鉱山の開発がきっかけとなって崩れ去りました。資源を巡る仁義なき戦いにウォルホート家はどのように立ち向かうのでしょうか?

そして今、資源を巡る問題は既に私達の目の前に来ています。日本は資源を輸入に依存していますから、事実として、経済制裁でそれをストップすれば困窮するのは日本側です。4月からの物価上昇には間違いなく戦争が影響し、「欲しがりません勝つまでは」にどこまで耐えられるか、その覚悟が問われているのです。



《Skollfang》
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