筆者は最近、「これは傑作だ!」と言えるようなゲームたちに巡り会えています。それらの作品に共通するのは、面白いストーリーや仕掛けが絶え間なく飛び出してきて、プレイヤーが退屈に感じる隙を与えないようなゲームです。
本稿で取り扱うインディー開発スタジオDESKWORKSが制作する手作りノートアドベンチャーゲーム『RPGタイム!~ライトの伝説~』も、「プレイヤーを常に楽しませる」ということに重きをおいた作品です。
本稿では、2022年3月10日にPC(Windows 10)/Xbox One/Xbox Series X|S向けに発売された『RPGタイム!~ライトの伝説~』のGame*Sparkレビューをお届けします。本レビューを執筆するにあたり、PC版をXbox Series S付属のXbox ワイヤレスコントローラーを使用してプレイしています。
なお記事の性質上、ゲーム内に登場するシーンのスクリーンショットや言及など軽度なネタバレが含まれますので、プレイ予定の方は記事を読まずにブラウザバックすることをおすすめいたします。
『RPGタイム!~ライトの伝説~』について
『RPGタイム!~ライトの伝説~』は、2人の開発者を中心として活動するインディー開発スタジオ、DESKWORKSが開発し、アニプレックスが販売するアドベンチャーゲームです。
開発期間は9年、構想を含めると15年とインディーゲームのみならずひとつのビデオゲームとしてもかなり長期開発の作品であり、「ゲーム大好き少年・ケンタくんが作った手作りRPGを遊ぶ」というユニークなコンセプトが注目され、発売前から各国で様々な賞を受賞するなど話題の作品でした。
授業が終わった放課後、何して遊ぼう?
すべての授業が終わった放課後。クラスメイトのケンタくんがプレイヤーに一緒に遊ぼうと声をかけてきます。ケンタくんはゲームクリエイターになりたいゲーム大好きの少年。なんと、自作ゲームをプレイヤーに遊ばせてくれます。
「ゲーム」といっても遊ぶのはビデオゲームではなく、ケンタくん自作の手作りRPG『ライトの伝説』。「勇者が魔王にさらわれたお姫様を救う」という、王道JRPGを思わせる設定のゲームです。プレイヤーであるあなたは、ゲームマスターであるケンタくんの進行に従いながらゲームをプレイしていきます。
作中では様々なジャンルの遊びが用意されているため「本作のジャンルを言い表すにはこれ!」といったものは決めづらいですが、ベースとなるパートは方向キーで勇者を動かしながらマップを探索するという内容です。マップ上はさまざまなキャラクターやオブジェクトが配置されているため、近づいてインタラクトすると何かしらのイベントが発生します。
マップ探索パートで勇者を操作する際に気になる点は、勇者の歩く速度が遅いこと。この速度である必要もあまり感じないため、ちょくちょく訪れるマップ探索パートでは少しストレスがたまります。特に第2章で訪れる「旅立ちの町」では町の中を何度か行き来することになるため、特にもどかしさを感じるパートになってしまっています。せめて、ダッシュボタンくらいは用意してほしかったというのが率直な感想です。
また、勇者の移動は十字キーですが、その他のカーソル移動などの操作は左スティックで行うため、その点も少しちぐはぐな印象を受けます。
一見すると手作り・手描き感のある「ライトの伝説」ですが、ケンタくんが小学生だとは思えないほど驚異的な描き込みが細部まで施されています。例えばゲーム内で訪れる「冒険者の学校」の校門前のシーンでは、校舎や校門はもちろんですが、校舎の上にある物干し竿やアドバルーン、周りの壁に貼られているポスターなど遊び心に溢れた密度の高い描き込みが多数。このような描き込みは一切ゲームの進行には関わってきませんが、ほぼすべてのパートで見ることができます。
また、いつでもアクセスできる解説モードを利用すれば、それぞれの絵に対するケンタくんの解説を聴くことも可能。圧倒的な描きこみを深く堪能できます。
作り込みはノートの外にまで及んでおり、ステータスなどのUIやメニュー画面はアイロンビーズや折り紙などで作られているほか、BGMもケンタくんの好きなゲームの曲で、「ケンタくんが作った世界」という設定はゲーム中で一貫しています。
しかし、そのこだわり故にメニューを開くのに少し時間がかかったり、場面によってはメニューを開けなかったりとやや快適さが損ねられている感じる場面もありました。さらに、1つ大きな欠点として、ゲームを終了させる方法がゲーム内に存在しないという点があげられます。これはおそらくコンソール版を念頭において開発されたためだと考えられます。
こまめにオートセーブされるため、せっかく進めた進行状況がロスト……ということはあまり起きなさそうですが、PC版の多くのプレイヤーが最初に混乱する部分であるのは間違いないでしょう。
先述した通り、本作には様々なジャンルの遊びが用意されています。ターン制RPGのようにお互い1ターンずつ斬りあうイベント戦闘だけでなく、ドット絵の戦車を操って大きなボスと撃ち合う場面や一定のルールを基に理論的に解法を考えるパズル、マスそれぞれにたくさんのイベントが用意されたすごろくなどが次々に登場し、プレイヤーを退屈させません。正直それぞれのゲームはシンプルであまり深みはありませんが、マップ探索パートとゲームパートがバランスよく配置されていますし、ほとんどが短く終わるため飽きずに楽しめます。
あなたを全力で楽しませてくれるゲームマスター・ケンタくんが表情豊かで魅力的
10歳のケンタくん(なかむらけんた)は、常にプレイヤーに語りかけてくれます(ボイスは無し)。将来の夢がゲームクリエイターである彼は、好きな教科である「図工」の才能を活かし「ライトの伝説」を立体的に彩るクリエイタータイプな性格です。
本作の魅力の半分は、表情豊かなゲームマスターのケンタくんにあると言っても過言ではありません。ケンタくんは、現在起きていることの説明やノート上に描いてあるものの解説に止まらず、各キャラクターのセリフを担当しており、状況に合わせてナレーションしてくれます。
キャラクターごとに異なる口調で話したり、シュールな状況を解説したりとくすっと笑わせてくれますし、「RPGのこういう演出が好きなんだ~」といったナレーションから外れた雑談なども入ってくるため、放課後の教室で会話をしながらケンタくんお手製のゲームを遊んでいるような感覚がしっかりと表現されているのも良い点です。
また、ウィンドウにはケンタくんの顔が映り、コロコロと表情を変えます。お姫様を演じているときはお姫様のお面を被って喋り、魔王を演じているときは悪役のような顔で喋るなど、ケンタくんがどんな表情をしているのか、どんなお面を被っているのかなど、テキストを読み進めるのも本作における楽しみのひとつとして成り立っています。
配信プラットフォームに対する疑問
最後にゲーム外の問題にはなってしまいますが、配信されているプラットフォームについてはどうしても指摘したい点です。本記事執筆時点での本作の配信プラットフォームはPC/Xbox One/Xbox Series X|Sですが、PC版はGame Passに対応していないにもかかわらずMicrosoft Store専売となっているのです(PC向けXboxアプリからもアクセス可能)。Microsoft StoreはPCゲーム配信プラットフォームとしてはニッチな場所であり、使い勝手も良いとは言えません。
ID@Xboxプログラムでマイクロソフトより支援を受けているインディーゲームのPC版はSteamなどのプラットフォームにも配信されていることがほとんどですし、マイクロソフトのファーストタイトルすらもSteamで配信されていることは既知の通りですが、何故か『RPGタイム!』はパブリッシャーの意図がよくわからない配信形態となっているのです。筆者はこれによって、素晴らしい本作がゲーマーの目に触れづらくなってしまうのではないかという大きな懸念を抱かざるを得ません。いずれもっと多様なプラットフォームで配信されることを願うばかりです。
『RPGタイム!~ライトの伝説~』は、圧倒的な描き込みが施されたグラフィックや次々と登場する多様な仕掛けに驚かされる作品です。UIやメニュー画面もケンタくんが作ったという設定を崩さず、元気で可愛いケンタくんとのやり取りと合わせて、まるで放課後その場で遊んでいるようなシチュエーションもうまく表現されています。一部、良い点の副作用的に分かりづらい・使いづらい部分も存在しますが、手描きグラフィックや手作り感、小学校の懐かしさやケンタくんの可愛さなどに惹かれた方にはぜひ手に取ってもらいたい1本です。
余談ですが、ケンタくんの作った「ライトの伝説」は小学生離れしたクオリティということもあり、正直なところ“小学生が作った”という現実感はあまりありません。しかし筆者は、以下の素敵なツイートと同じ解釈をしています。最後にこれをご紹介して本レビューを締めたいと思います。
・次々に登場する多彩な仕掛け
・ノートの圧倒的な描き込み
・ゲームマスター・ケンタくんが可愛く魅力的
悪い点
・操作やメニューが少し不親切
・勇者の歩く速度が特に意味もなく遅くストレス
・PC版がMicrosoft Storeにしかない(本記事執筆時点)
《みお》
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