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『グランツーリスモ』は実験的タイトル―25年続いた理由を山内一典代表が明かす

全世界累計実売本数9000万本突破(2022年11月16日時点)を突破し、2022年12月23日に25周年を迎えた『グランツーリスモ』(以下、「GT」)シリーズ。

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山内一典代表
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  • グランツーリスモ7
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  • 2001年、同年のインディ500ウィナーであるエリオ・カストロネベス(向かって右)とGT3で対決する山内氏
  • GT4(東京ゲームショウ2004)

全世界累計実売本数9000万本突破(2022年11月16日時点)を突破し、2022年12月23日に25周年を迎えた『グランツーリスモ』(以下、「GT」)シリーズ。

その25周年を機に、制作会社ポリフォニー・デジタルのスタジオツアーがメディア向けに開催され、その中で山内一典代表へのメディア合同インタビューが実施された。


スタジオツアーの様子はこちら


シリーズ25周年の振り返りから、最新作「グランツーリスモ7」(以下「GT7」。PlayStation 5/PlayStation 4用ソフト)の事、シリーズ制作秘話など多様な話が聞けた本インタビューの模様をお届けする。

◆感謝しかない

---:「GT」シリーズ25周年を迎えますが、今のお気持ちはいかがでしょうか。

山内一典代表(以下、山内):一言で言うと本当に感謝しかないです。『グランツーリスモ』ってすごく実験的なタイトルで、それは今の「GT7」に至るまで実はあまり変わっていないんですよね。常に何かのチャレンジをしています。

そういう実験的なタイトルが25年間も続いたというのは、それを支えてくださるユーザーの皆さんがいたからです。そういった皆さんには本当に感謝したいと思っています。

また、「GT」のコミュニティを支えてくださる皆さん。もちろんメディアの皆さんにも、この25年間のサポートは感謝しております。ほとんど感謝しかないって感じですね(笑)。

あとはポリフォニー・デジタルのスタッフ。元々5人ぐらいから「GT」の制作がスタートしているんですけれども、今250名いて。25年間に渡って「GT」シリーズを作り続けてくれたスタッフのみんなにもすごく感謝の気持ちでいっぱいですね。

---:25周年を振り返って、特に印象深いことやターニングポイントになったことを教えてください。

山内:特にコレというのはないんですよね。常に「GT」の制作ってめちゃくちゃ大変なんです。1タイトル1タイトルが命をかけて作ってるところがあるので、それぞれに思い出はあります。

僕らの会社というか僕もそうなんですけど、常に未来に生きているところがあって、過去のことをどんどん忘れていくので(笑)。

ですので今回の25周年プレゼンテーション資料を作るにあたって改めて振り返ってみるというのは、こういった25周年の企画みたいなものがなければ多分しなかったと思いますね。

◆トラディショナルなGTファンとオンラインネイティブ

---:25年たってユーザーの遊び方は変わったのでしょうか? それとも逆に変わっていないのでしょうか?

山内:現在の「GT」は主にユーザーのピークが2つの世代にあります。比較的壮年層の山と、若い人たちの山が2つある感じです。

壮年層の方々は世代的に恐らく初代の『GT』から遊んで下さっている主にオフラインモードで「グランツーリスモ」を走り続けた人たちで、言ってみればトラディショナルな「GT」ファンの方たち。もうひとつがオンラインネイティブな世代。彼らは起動してログインしてロビーで遊んで、比較的短い時間でプレイを終わらせるプレイスタイルが多い形です。

そういった2つの遊び方が今の「GT」にあるようです。

---:フォトモードで遊んでいる方の割合はいかがでしょうか。

山内:フォトモードやリバリーエディターは、ひたすらそれだけをやってらっしゃる方が多いですね。「GT」で写真を覚えたという方が、実はすごくいらっしゃいます。「GT」のフォトモードって相当高度なことができるので、それで写真に興味が出てカメラを買って、本物の写真を取り始めたという方も結構いますね。

---:「GT」ユーザーは幅広いですが、初心者向けに気をつけていることはありますか?

山内:「GT7」はそれほど難易度の高いゲームにはなっていなくて、最初のエンディングを見るまでの部分は難易度低めに設定されていると思います。

後は、例えばミュージックラリーの様な、音楽を1曲聞き終えるまでに指定されたゴールまでただ走ればいいっていうようなものは、「GT」のコアファンではない、初心者の方も楽しんで頂ける様に新しく追加しました。

実際にどれぐらいゲームをコンプリートしているのかという事が私達の方でもわかる形になっているんですけれども、「ミュージックラリー」は非常にユーザーさんのコンプリート率が高いです。案外1レース長いんですけどね。1曲が長いですから。でも飽きずに遊んでもらえているので、作ってよかったなって思いました。

◆選曲はある意味文化事業?

---:「GT」シリーズはBGMなど音楽面も重要かと思います。「GT」は“美しさ”がテーマとなっているとプレゼンでお聞きしましたが、音楽面でそれを達成するために注視したところなどあればお聞かせください。

山内:美しいか美しくないかっていうのは、主観的だったりもするじゃないですか。僕らは世の中には「こういういい音楽があるよ」っていうものを、僕たちの基準で選んで、それを「GT」に収録してるところがあります。

ですからクラシックやジャズなどいろんなジャンルの音楽が入っていますが、割とスタンダードなナンバーがたくさん入ってるんですよね。ゲームユーザーはどんどん世代交代していきますから、例えば僕の世代で知っている“100年後も残るいい音楽”みたいなものっていうのはちゃんと紹介してあげないと“次の世代”に繋がっていかないところがあるので、そういうところは気をつけていますね。

---:ちなみに推しの1曲とかあったら教えてほしいのですが。

山内:推しですか(笑)。そうですね、「GT7」のOPに使われている『蒼いノクターン』は僕の大好きな曲で、ピアノで弾いたりもしますね。

ああいう曲も放っておくと世代が進んでいくと多分忘れられてしまうみたいなことが起きるんですよ、名曲であったとしても。だからいろんな機会にそういうものを改めて紹介し直す事は大事だなと思っています。あの曲は1970年代の曲ですけど、全部レコーディングし直したんですよ。全部オーケストラで録音し直して、新しい音源を作ったりもして。そういうところはちょっと文化事業的な側面もありますよね。

あと先ほどミュージックラリーの話がありましたが、ミュージックラリーの最初の曲は『Hooked on Classics』っていう曲ですけれど、あれも1980年代に大ヒットした現在ではクラシックな曲といえると思うのですが、ああいった曲も改めて紹介しないと多分忘れられてしまう可能性のある曲なんですよね。だからそういうものを「世の中にはこういういい曲あるよ」というのを伝えたいなって想いはいつもありますね。

---:楽曲繋がりで、「GT」の象徴ともいえる『Moon Over The Castle』という曲はどういう意味を持っているのでしょうか。

山内:「GT」のソウルだと思います。

ですがどうしても僕ら作り手からすると、何しろこの25年間、毎日「GT」を作ってるわけですから、そうするとこれが定番だってわかりながらも、「こういう提案もしてみたい」みたいなことってどうしても生まれてしまうときがあって。それがたまに『Moon Over The Castle』ではないオープニングが使われる理由なんですよね。

ただやっぱりユーザーの皆さんにとって、“あの曲が流れないと「GT」じゃない”っていう気持ちはすごくよくわかるので。だからなるべくちゃんと『Moon Over The Castle』を使うようにしていますね。

安藤正容さんの本当に一番いい時代に一緒にお仕事できたなっていう感じがしています。初代の『GT』の時に、出だしのイントロはわりとオーケストレーションで始まって、その後ロックに繋がるっていう構想はあったわけですよ。それをどなたにお願いするのかという中で、当時ソニーミュージックに所属されていた安藤さんに僕は出会うわけなんです。それは何て言うんでしょうね、本当に偶然といえば偶然の出会いなんですよね。でも結果としてああいった名曲が生まれたっていうのはやっぱり幸運だったと思います。

◆巨大なファミリーを形成したから続いた

---:プレゼンで「GT」制作のコアスタッフはずっと変わってないと言っていましたが、同じメンバーで続けられている理由はあるのでしょうか?

山内:コアメンバーは今でも第一線でやっています。同時にそのメンバー自体もどんどん増えてるんですよね、新しい世代のメンバーがどんどん加わってきていますから。

なぜそういうことが可能だったのか。多分この会社のカルチャーというのが一つの“ファミリー”みたいな感じなんですね。「GT」の歴史25年間っていうものを振り返ってみると、別の言い方をすれば、どんどんファミリーを大きくしていったっていう、そういう時間でもあります。

ポリフォニー・デジタル自体もファミリーとして大きくなってきましたし、同時に各自動車メーカーであったり、それ以外の様々な会社の方々であったり、あるいは「GT ワールドシリーズ」の選手たちも含め巨大なファミリーを形成しているところがありますね。

それは、そういう文化だったからなんだと思います。

◆いろいろな取り組みや要望に応えることは可能だが

---:「GT」はeスポーツといった取り組みにも関わっている作品ですが、例えば年配の方々でも楽しめる大会など幅広い取り組みは予定されていたりするのでしょうか。

山内:おそらくいろんな形で大会の開催は可能だと思うんですね。例えば公式大会の一つに「GT College League」という大学対抗選手権があります。そこでは大学の自動車部の若者が戦うわけですけれども、これって例えば「GT ワールドシリーズ」と比べると全然違うレースになるんですよ。

「GT ワールドシリーズ」って世界中の人々が参加するオンラインのコンペティターのトップ12人が争うレースなので、異様にレベルが高いんですけれども、でも一方で、例えば大学の自動車部っていう枠組みで見た場合っていうのは、もっともっとほのぼのとしたレースになるんですよ。

ですからそういったことを企画してくださる方がいらっしゃるなら、多分いろんなことが可能なんですよね。ただ、僕らは「GT ワールドシリーズ」を年間を通じて開催するだけでもう作業量的にいっぱいいっぱいなんで、ある意味新しい選手権をするのであれば、例えば、そういうことをやりたいって言っていただける方が現れれば、おそらく可能だと思っています。

---:プレイヤーから届く要望で拾えたもの、拾いたいけど拾えなかったものなどあれば教えてください。

山内:要望は常にたくさんあります。僕らは最近では毎月の頻度でアップデートをしていますけれども、アップデートの告知を例えば僕がTwitterでします。そうするとそれに対しての返信で、「あそこをこうしてほしい」、「この車を入れて欲しい」、「このコースを入れてほしい」みたいなものがたくさんやってきます。なので、日々僕らはそれをウォッチしていて、その中で実現できるものから実現しているっていう感じですね。

ですが「コレがすごく重大なユーザーからのフィードバック」とか、「それは残念ながら入らなかった」などそういうことは特にないですね。やっぱりユーザーの皆さんが考え、感じていらっしゃることっていうのは僕らも同じ様に感じています。

---:個人的な要望でもありますが、ソロモードで走り込んでいると寂しくて、例えばストラテジストがいたり、無線などチームの支援的なものをゲーム内で受けてみたいと思うのですが、そういったものを実装する予定はあったりするのでしょうか。

山内:予定はないんですけれども、おっしゃっていることは僕もすごくよくわかります。「GT」って最終的にどういう遊び方に落ち着くかというとドライビングの身体性なんですよ。

ゲームシステムの中のここでクレジットが稼げるとか、ここでチューニングパーツを買うとかっていうところを通り過ぎた後って、とにかく運転している。ドライビングっていうある種のフローステイトにあること自体が快感になってくるんですよね。「GT」ってそういう最終的には身体で楽しむゲームですけれども。おっしゃる通り例えば気がついたら1時間とか2時間とか同じコースでタイムトライアルしてるじゃないですか。そういうときに確かに「何か言ってほしいな」っていう気持ちはわかります。


> 後編に続く

「グランツーリスモ」は実験的タイトル、25年続いた理由を山内一典代表が明かす[インタビュー]

《二城利月@レスポンス》
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