漫画家・川尻(かわしり)こだまさんが描くキュートでユルいキャラクターのソウルライク『ゴブリン・ノーム・ホーン』。Game*Sparkではプレイレポートを書かせていただいています。
バイトに明け暮れるゴブリンの謀反劇はいかにして作られたのか? この度、開発者である川尻こだまさんとKazuhoさんにお話を聞かせていただきました。
――簡単に自己紹介をお願いします。
川尻川尻こだまです。一応漫画家です。
KazuhoKazuhoと申します。大学生です。
――本作はどのようなプレイヤーに遊んで欲しいと思って開発しましたか?
川尻本作は歯応えのある戦闘が好きな人でも、アクションが苦手な人でも、遊んで楽しいと思えるゲームです。ボスを倒さなくてもミニゲームでSをとればクリアできるルートもありますし、どんぐりをとてつもない数集めればボスを簡単に倒せる武器も買えます。ミニゲームが苦手だという人でも時間をかければクリアできます。
Kazuhoソウルライクやアクションゲームが好きな方にはもちろん遊んで欲しいですが、本作には「労働」をテーマにしたミニゲーム要素もあり、アクションが得意でない方やカジュアルゲーマーにも「達成感」と「労働感」を楽しんでいただきたいです。

――開発スタッフはKazuhoさんと川尻こだまさんの2名なのでしょうか。
川尻はい。2人です。
Kazuho川尻先生には世界観やキャラクターデザイン、BGM、システムコンセプトの立案、アートワーク全般を担当していただき、私はそこから詳細仕様とシステム設計、Unityでの実装、エフェクト等、主に技術面を担当させていただきました。
――Kazuhoさんは大学生なんですね。
Kazuhoはい、私は大学で情報系を専攻している学生で、これまでゲーム会社でしっかりと働いた経験はありません。いわゆる“プロのゲーム開発者”ではありませんが、川尻先生のデザインやアイデアをプレイヤーの皆様と先生の期待に応えられる形で実現すべく、プロ意識をもって制作しました。Kazuhoとして初めて世に出した作品がこの『ゴブリン・ノーム・ホーン』です。

――川尻さんは漫画家として活躍されてきたキャリアがございますが、どうしてゲームを作ろうと思ったのでしょうか?
川尻前々から「ゲームを作ってみてぇ~」と思っていたのですが、Unityの使い方がまっっったくわからなかったので諦めていました。全部英語という時点で詰みました。
川尻そんな折、Kazuhoさんに「川尻さんの作りたいゲームを作りませんか?」というお誘いをいただきまして。
Kazuho2年ほど前に、Xで川尻先生が「ダークソウル風のRPGを作りたい」と投稿されていたことを思い出し、過去の作品やイラストを改めて拝見しました。私は川尻先生のキャラクターや世界観が大好きで「ぜひゲームで動く姿を見てみたい」と感じたため「技術面は私が担当しますので、先生のアイデアを形にするお手伝いをさせていただけませんか」とダイレクトメッセージでご提案しました。
川尻Kazuhoさんは就活に向けて実績作りがしたいとのことだったので、ゲームも作れるし人助けにもなるし、良いことしかないな!と思い、採算度外視で取り組むことに決めました。

――非常に楽しく遊ばせていただきました。開発期間は半年とのことですが、思ったよりもかかったといった感じでしょうか。
川尻私もKazuhoさんも、「イチからゲームを作る」という初めての試みだったので、お互いどんなことができるのかわかりませんでした。なので目標を「半年以内に世に出すこと」にしました。完成しないと意味がないので。
「仮でゲームを作り、それが問題なく完成したらブラッシュアップして製品にする」という大雑把な計画を立て、簡単な横スクロールアクションゲームの『PEYOND(仮)』を開発しました。
私が世界観やキャラデザ・アニメーションを担当、プログラミングをKazuhoさんにお任せする形で、紆余曲折ありながら『PEYOND』を4ヶ月ほど開発しました。
Kazuho「PEYOND」は12月上旬に完成しました。1マップ+1体のボス部屋のみのシンプルなメトロヴァニア系ソウルライクなゲームでした。
川尻一応完成はしたけど、商品としてみた時に拙い部分が多く「これは…世に出せないなぁ…」という感じでした。(「完成しないと意味がない」とか言ってたけど…)。ボスを増やしたり、ブラッシュアップしボリュームアップしたりすれば成立するような気もしたけど、そうすると開発期間が1年くらいかかる!となり……。
あと、なんか「真面目」にゲーム作っちゃったんですよね。「ゲームっぽさ」みたいなのを意識してしまったというか。もっとふざけたいなと思って。
「PEYOND」でお互いのできることとできないことが明確に見えたので、改めて仕切り直しました。ボス戦闘部分が面白く出来たので、そこに特化したゲームなら商品になるだろ!と考え、制作期間も考えて「1ボスで成立する」コンセプトのゲームに変更しました。それで生まれたのが『ゴブリン・ノーム・ホーン』です。
Kazuhoそこから本作をゼロから作り直し、1月中にアイデアを固めて実装し、3月までにSteam審査を通過してリリースする予定でした。しかし仕様調整や品質向上のためのテストプレイを優先した結果、4月中旬に完成、Steam審査にも約1ヶ月かかり、5月下旬にリリースとなりました。
川尻当初はボス戦だけの予定だったので着手から2~3ヶ月くらいでリリースできると踏んでいたのですが、労働要素などが増え、結果6ヶ月かかりました。なので仮で作った前作から数えると10ヶ月かかっています。

――「ゴブリンの謀反」とも読めるダジャレっぽいタイトルが素敵だと思いました。今作のアイデアはどこから出てきたものですか?
川尻「PEYOND」から「1ボス倒すだけ」のゲームに変更するにあたり、コンセプトもできるだけ明確にしたいと思いまして。
「1ボスしかいない=そいつを倒せばゲームクリア」なので、ラスボスって感じのベタなビジュアルの大魔王に。
大魔王と戦う相手で一番ギャップがあるのが「ザコ」だったので、プレイヤーはザコ兵にして。
「ラスボスだけ必要→ラスボスといえば大魔王→大魔王の反対はザコ→ベタなザコ敵といえばゴブリン→ゴブリンが大魔王を倒す理由→謀反」という連想ゲームでコンセプトが固まりました。タイトルだけはカッコよくしたかったので英語っぽくしました。「ノーム(妖精)が出てこねえじゃん!」とガッカリした人がいたらごめんなさい。

川尻結果的にプレイキャラがゆるいゴブリンになり、「ゆるいキャラのソウルライクバトル」になって面白かったんではないでしょうか。面白かったと思います。

――すべて手描きでイラストを描いているのでしょうか? 開発中に苦労した点や、印象に残ったエピソードを教えてください。
川尻中途半端にアセットを使うより、テキスト含め全部手書きの方が面白いと思い全部手書きにしました。大変でした。背景のちょっとした変更とか、ちょっとしたデータでも描いてデータ送ってたので。ここまで全部(C)川尻こだまなら音楽も担当したろ、となり音楽も作りました。大変でした。


Kazuho実際に川尻先生に描いていただいたデザインを実装していると、川尻先生の絵柄や世界観がとても面白くて製作中も本当に楽しかったです。特にブリーフ一丁で虚無顔の主人公「ネックビ」が可愛くて好きです。
川尻カメラワークから、アイコンの点滅の仕方なども逐一細かく指示させてもらいました。実装するKazuhoさんにはだいぶ苦労かけました。結構思いつきで作っていたので、私が途中で要素を追加するのに応えるのは大変だったと思います。
「ボス戦のみのゲーム」として作っていく打ち合わせの中で、ボス部屋は煌びやかにしようと話していて。お宝とかいっぱい描こうって。その時Kazuhoさんの「ゴブリンが意味もなく壺とか磨けると面白いですよね」という一言から「どんぐり通貨」や「装備」のアイデアになり、労働「ミニゲーム」を作ることを決定したんですが、結局6つも作ってしまいました。
でも結果としてゴブリンに大魔王を倒す動機付けができたのでよかったです。ボリュームもアップしたし。ミニゲームの内容や、ミニゲームで全S取った後のボスの変化も後から思いつき……行き当たりばったりです。本当にすみません。


――缶ビールを飲むときにゴブリンが目を輝かせるのが最高です。缶ビールには何らかの効果があるんでしょうか? また、このアイテムを入れた理由や意図を教えてください。
川尻これも「思いつき」の一つで、閉じ込められて労働する様が「カイジ」っぽかったので135mlビール飲めたら面白いな~と思って実装しました。
ちなみにビールを飲んでも効果はありません。すみません。ただ、たくさん飲むと何か起きます。飲んでみてください。
――ビールが美味しい季節になってきますが、お二人の好きなお酒をお聞かせください(好きなビールの銘柄でもかまいません)。
川尻やっぱりキンキンに冷えてやがるビールが好きです。ビール以外もなんでも飲みます。
Kazuho私はビールはあまり得意ではないのですが、レモンサワーが好きです。

――本作のプレイのお供におすすめのお酒はやはり缶ビールでしょうか?
川尻135mlの缶ビールはショット感覚で飲めるのでおすすめですよ。ゴブリンの気持ちになろう。
――とてもユルいビジュアルだったので、ソウルライクというタグが付いているときは目を疑いました。ビジュアル面やゲーム性についてこだわったポイントを教えてください。
川尻戦闘部分でやりたかったのは強敵撃破とパリィの快感、いわゆる「脳汁が出る」ってやつです。喰らえば即死の攻撃だけど、パリィが成功すれば大ダメージが与えられる……死の淵でこそ生の実感をする、そんな戦闘です。
Kazuho川尻先生にいただいたアニメーションを、フレーム単位でモーション調整をして、ソウルライクボスアクションとして、全く違和感のないアクションシステムになる様に遊びごたえのある演出を追求しました。中でも「パリィ」を気持ちよく感じられるモーションやエフェクトなどは何度も試行錯誤しました。
川尻「パリィ成功の瞬間スローになるんです!」とか「この時カメラが寄るんですよ!」とかパリィについて熱弁した記憶があります。
ソウルライクな戦闘を二次元に落とし込むために、キャラクターの動きやカメラワークを桜井政博さんの「桜井政博のゲーム作るには」を観て勉強しました。ゲームを作る人に超オススメです。

川尻ただのファンメイドにならないよう、別のテーマを乗せたいなぁ~と思っていたところ「労働」というのを思いついてギャップが生まれました。行き当たりばったりでしたけど、うまくいってよかったです。
「便所掃除」は10分くらいでゲーム内容とイラストが完成しましたが、一番面白いと思ってます。時間かけない方が面白いのでは…?
あと、果たして本当に「ソウルライク」なのか?は議論の余地があると思います…経験値落とさないならソウルライクじゃないのでは?とか……。
――お二人の好きなソウルライク作品、あるいはフロム・ソフトウェア作品があればお聞かせください。
川尻初めてプレイしたフロム作品が『ダークソウル3』で、一番思い入れがあります。ファランの監視者や無名の王がめっちゃかっこいい。その後『ダークソウル』をやって『ダークソウル3』とふたつセットでハマリました。
『ダークソウル』はファンタジー全部盛りってくらいファンタジーの全てが入っててすごい。マップの横の広がりがすごいですが、それ以上にマップの高低差に感動した覚えがあります。最下層が全然最下層じゃない……!と。地中の底の底みたいな場所のさらに下に神殿や湖があるのがすげぇなと思いました。
『ブラッドボーン』もすごく好きです。おしっこちびるくらい怖い。他のフロム作品と違い神話のようなファンタジーじゃなくて現実世界がベースになっているからこんなに生々しく怖いんではないでしょうか。
『エルデンリング』は本編もDLCもすごく好き。対抗勢力同志の争いが世界観のピースになっているのがめっちゃ面白いです。過去の神話を読み解くだけでなく、現在もその神話の渦中にいるような感じが最高。
『アーマード・コア6』はソウル系ではないですがハマりました。最初は「ロボばっかりだな…」となり、徐々に「いや、ロボに見えるがこれは人間讃歌では…!」となり、最後までやると「やっぱりロボ讃歌では…!?」となる。なんかすごいゲームです。
Kazuhoフロム・ソフトウェア作品はどれも好きな作品ですが特に『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』が好きです。『SEKIRO』は世界観が和風で私好みですが、クリア後にどれだけ時間を置いてもボス達と斬り合いをしたくなる様な、芸術的な気持ちよさのあるアクションがとても好きです。
また、ソウルライク作品として『ENDER LILIES: Quietus of the Knights』が本当におすすめです。ストーリーとサウンドで号泣しました。キャラクターそれぞれにちゃんとストーリーが設定されており、同じBGMでもさまざまなアレンジがされているとても素晴らしいゲームです。もちろん戦闘システムはしっかりソウルライクなアクションゲームで苦戦しましたが、達成感を味わえるゲームでした。
――実装できなかったアイデアや、削除した仕様などはありますか?
川尻途中までタイトルを「インプ・ノーム・ホーン」にするつもりでした。小鬼はゴブリンっていうよりインプだよな!と思い。知り合い3人に聞いてみたら全員から「インプって何?」と言われたのですごすごと『ゴブリン・ノーム・ホーン』に戻しました。世間一般のインプの知名度が思ったより低かった…
他には「どんぐりパリィ」という『ブラッドボーン』の「銃パリィ」のようなパリィ方法を考えていました。この要素を入れることで水銀弾・輸血液マラソンのように労働でどんぐりマラソンをすることになって面白いぞ……!と思ったのですが、どんぐりを投げるアニメーションを描いてみたものの、どんぐりの軌道や投げて当たるまでのラグがなんかうまく画にならず、そもそもどんぐりが当たるとスタンするってどういう理屈…?となりボツにしました。
あと、ボスのさらなる形態変化や、全ミニゲームでSを取った後の新規バトルモーションなどの構想もあったのですが、イチからアニメーションを作る時間的余裕がなく見送りに……。
アニメーションを描くのにも、実装するのにも時間がかかるため「どんぐりパリィ」やこういったアイデアは結構削りました。「ビールを飲む」は終盤での思いつきでしたが、私がアニメーションを描けば良いだけなので入れてしまいました。
Kazuho労働で稼いだどんぐりを使ったギャンブルができるアイデアがありましたね。これも開発工数や難易度調整などの問題を考えて、実装しませんでした。
川尻そこまで入れると「カイジ」すぎるというのもあって……。

――ユーザーからの反響はいかがでしょうか?
川尻面白いといってもらえて嬉しいっす。作った甲斐がありました。
Kazuhoたくさんの好評をいただき、とても励みになりました。
――今後このゲームをアップデートする予定はありますか? もしくは、別のゲーム制作に取り組むといった展望はありますか?
川尻「ゴブリン・ノーム・ホーン」の英語版を作る予定です。海外の方にもプレイしてもらいたいので。狙うぜ海外資本。
次作などを始め、今後の予定は未定です。
Kazuho次回作は未定ですが、今回のゲーム開発は本当に楽しく学びが多いプロジェクトでした。機会があれば次も作りたいと思っています。

――最後に、まだプレイしていないゲーマーに向けてアピールコメントをお願いします。
川尻470円とお手頃価格で、2時間くらいでサクッとクリアできるので軽い気持ちでやってみてください。
Kazuho本作品はソウルライクをプレイしたことのない人も楽しめると思います。ぜひ遊んでみて欲しいです。
――ありがとうございました!
本家『ダークソウル』シリーズへのリスペクトと、ゲームっぽさを良い感じに脱色した制作スタイルは、まさしく川尻こだまさんたちならではと言えるかもしれません。筆者もブリーフ一丁で魔王に抗うネックビの物語をもっと見たくなってきました。
『ゴブリン・ノーム・ホーン』はPC(Steam)で販売中です。














