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必要なのはタイマー、録画、そして“ゲームへの愛”…「RTA」どう始めれば?実際の走者に訊いてみた

RTAを始めるために必要なノウハウを実際の走者に聞いてみました。多分これが一番早いと思います。

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必要なのはタイマー、録画、そして“ゲームへの愛”…「RTA」どう始めれば?実際の走者に訊いてみた
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2023年は8月10日から15日と、実に6日間にも渡る日程で開催されたゲームのスピード攻略の祭典「RTA in Japan Summer 2023」。

よく知っているはずのゲームが熟練のテクニックによって高速クリアされていく様は新鮮で、RTAを見て懐かしい作品をもう一度プレイしたくなったり、知らなかった名作に出会えたりというのも配信を見る面白さのひとつ。すっかりお盆休みや年末年始の定番にもなりつつある「RTA in JAPAN(以下、RiJ)」ですが、見ていて「自分も出来そうじゃないか?」「俺もやってみたい!」と感じることもあるのでは。

しかし、いざチャレンジしようと思っても何から手を付けて良いのかは意外と知らないもの。もしかして知られざるルールやマナーが存在するのかも……。

そこで今回はRiJへの参加経験もある配信者のセレナーデ☆ゆうき(@Serenade_Yuuki)さんにインタビュー。「RTAを始めるためには何をすれば良いのか?」について聞いてみましょう。


──本日はよろしくお願いいたします。

セレナーデ☆ゆうきセレナーデ☆ゆうきと申します。普段はTwitchで配信をしており、『クラッシュバンディクー』シリーズを中心にRTA走者や解説者として活動しています。よろしくお願いいたします。

配信上で『クラッシュバンディクー』をプレイするセレナーデ☆ゆうきさん

──早速なんですが、有識者のセレナーデ☆ゆうきさんから「RTAとはなんぞや」を簡単にご説明いただけますか?

セレナーデ☆ゆうき端的に説明すると「ゲームを早くクリアする」チャレンジで、よく「やりこみプレイの一種」だと説明しています。リアルタイムアタック(Real Time Attack)の略で、ロード時間なども含めた現実での経過時間を計測するのが特徴です。リアルタイムではなくゲーム内の時間のみを計測する場合もあって、海外ではスピードラン(Speedrun)と呼ばれて親しまれています。

そんな高尚なものではなく、ゲームでも「早くクリアすると評価が高くなる」仕組みがあったりするじゃないですか。そういうところから「じゃあゲームの最初から最後までやってみよう」と自然発生的に生まれた文化なんですよね。

──そんなRTAをやってみるには、何から始めれば良いのでしょうか。

セレナーデ☆ゆうきよく言われるのは「ゲームを最初から最後までプレイして、タイマーを付ければそれはRTAだ」ということです。なので、まず必要なのは時間を測るツールですね。皆さんも配信等でご覧になったことがあるRTA用のタイマーは配布されているツールなので誰でも使用できますし、PC内蔵のストップウォッチアプリでも問題ありません。

──とにかくタイムさえ測れば誰でもスタートラインに立てると。

セレナーデ☆ゆうきその通りですね。更に走者として他のプレイヤーと記録を競い合うには、ランキングサイトへと記録を申請する必要があります。ランキングサイトへ自分のプレイ動画を記録として投稿・申請して、精査するモデレーターに認可されれば晴れて掲載となります!ランキングサイトもいくつかあるのですが、最大手であるSpeedrun.comが一番おすすめです。

(画像はSpeedrun.comより)

──では、記録を申請するには録画環境も必要になりますね。

セレナーデ☆ゆうきビデオカメラでゲームの画面とストップウォッチを直接撮影した動画では申請が認められないこともありますので、やはり綺麗な映像が求められますね。PCゲームなら無料のソフトウェアで画面録画ができますが、家庭用ゲーム機ならプラスして映像キャプチャー用の機器が必要になりますね。

最新のゲーム機だとHDMIケーブルでの接続になりますが、レトロゲームのRTAに実機でチャレンジする場合は懐かしの三色端子に対応したものが必要になります。ここは普段ゲームを遊ぶ環境から唯一追加投資していただきたい部分ですね。

──レトロゲームは確かにRTAが盛んなイメージがあります。原作とリマスター版では少し違いがあるのですよね?

セレナーデ☆ゆうきそうですね。バージョンによって仕様が変わったりバグ技が活用できなかったりすることもあるので、複数の機種で発売されたタイトルは原作の実機でも機種ごとに別のカテゴリとして扱うこともあります。

モニターへの出力はどうしても僅かな遅延が発生するので、中には映像信号を分波させる機器を使ってPCに送る録画用映像とは別でブラウン管テレビへ映像を送り、そちらを見ながらプレイされている方もいますね。その辺りはインターネット上にもたくさんノウハウがありますし、分からないことは実際にプレイしている人や詳しい人にその都度質問して頂ければと思います。

──なるほど。タイマーと録画環境が必要で、自分のプレイする機種や環境に合わせたカテゴリに参加することになる訳ですね。

セレナーデ☆ゆうきあと必要なのは「そのゲームのコミュニティに参加すること」ですね。皆さんも“RTAと言えばバグ技”のようなイメージがあるかも知れませんが、そうした技やショートカットのテクニックを知るための情報共有の場として、SNSやランキングサイトのスレッド、Discordサーバーなどが活用されています。

──テクニックを知る場としては配信や動画もあると思いますが、RTA走者の方は普段から配信されている方が多い印象もあります。録画環境があれば配信しやすいからでしょうか?

セレナーデ☆ゆうき僕も普段の配信の中でRTAの練習をすることがありますが、人に見られることでモチベーションに繋がるのはメリットですね。あとはコミュニティに入りやすくなる効果もあります。RTA走者はそのゲームを愛している人が多いので、タイトルに入れて配信していると見に来て「そこはこうした方が早いよ」と教えてくれることもありますよ。

あと、これは配信上で練習する姿を見せることで記録が自力で成功したものだと裏付ける効果もありますね。

配信アーカイブがそのまま記録として残ることも配信のメリット

──ということは、過去には不正な記録が申請されたこともあったのでしょうか。

セレナーデ☆ゆうきコンピューター制御のプレイを録画して記録としてしまう人や、他の走者の記録映像にさも自分がプレイしているかのようにアテレコした映像が提出されたケースもありました。もちろん往々にしてそういう不正はバレるもので非常に珍しいケースですが(笑)。ただ、新規プレイヤーが急に高難易度のテクニックを毎回成功させる動画だけを提出すると、ちょっと疑われてしまうかも知れません。

──新規プレイヤー繋がりでちょっと不安なことをお聞きしたいんですが、初めてRTAを走るにあたって「誰かのプレイをそっくりそのまま真似る」のはオリジナリティがないと言われてしまわないか不安なのですが、大丈夫なのでしょうか。

セレナーデ☆ゆうき個人的な意見ですが、まっっったく問題ないです。プレイしたことがあるゲームでもRTAとなれば操作もかなり変わりますし、バグ技なんて自分で発見できることの方が珍しいですからね。まずは誰かの操作を真似してテクニックに慣れていく間に「こっちの方が早いのでは?」なんてアイデアが浮かぶこともありますし、それが大幅なタイム短縮になることもあります。

例えば『スプラトゥーン』ヒーローモードのRTAは世界記録が49分35秒で、50分を切った走者も世界で2人だけ、という状況が一年くらい続いていました。それがちょうど(取材の)7時間ほど前に新しいテクニックが発見されて、一気に20分短縮されたんです。

(画像はSpeedrun.comより)

──20分も⁉ そうなると、全ての走者がそのテクニックとルートを真似るしかありませんね。ここまでお話を聞いていると、スピードを競い合う一面はありつつも技術を隠さずに教え合う文化もあるのかなと感じます。

セレナーデ☆ゆうきありますね。ランキング上位になるともちろん「1位になりたい」モチベーションもあると思いますが、その時は世界記録保持者に「これどうやるの?」って質問に行くし、トッププレイヤーもそれを教えてくれますからね(笑)。

解説動画をあげている人もいますし、配信しているところに質問すると教えてくれることも多いと思います。新しい技だけでなく何かきっかけになりそうなものが見つかったらすぐにDiscordサーバーで「こういうバグがあったんだけど」と共有して、皆で「これ、上手く使ったらショートカットになるんじゃない?」って研究する文化もありますし、革命的な短縮に繋がったテクニックやバグには「〇〇サイクル」「〇〇グリッチ」とか発見者の名前が付くこともあります。

──それはちょっとした名誉ですね。

セレナーデ☆ゆうきそういう所でオリジナリティを見出しても良いですよね。もちろん「テクニックは教えるけど、自分が一番上手く使えるぞ」というプライドも同時にちょっとはあると思います。

──ちなみに、そうしたバグ技やテクニックってどんなきっかけで気付くのでしょうか?

セレナーデ☆ゆうきこれも個人的な意見ですが、完全に「偶然の産物」ですね。例えば単純にミスしてやられてしまった後に「あれ?生き返る場所がなんでここなんだ?」という疑問が起き、その時点でコミュニティに投げかけてみたり自分で検証してみたり、という流れになります。

僕がメインでプレイしている『クラッシュバンディクー』では、特定の機種で「ジャンプの回数を1回増やせる」バグを見つけた人がいて、それを応用した無限ジャンプのテクニックが開発されたんです。さらに他の方の解析で、本来なら戦わなければいけないボスステージの見えない所にゴールが存在していることが発見されました。それらを組み合わせて「無限ジャンプでボスをスキップする」というショートカットが生まれたんですよね。ちなみに無限ジャンプを見つけたのが僕なんですが(笑)。

──それは凄い経験ですね(笑)。もはや共同作業というのも驚きです。ちなみに、やり取りは英語で行われているんですか?

セレナーデ☆ゆうき『クラッシュバンディクー』は海外のプレイヤーが多いので英語コミュニティが盛んですね。交流も基本的には翻訳を使って頑張っています。ただ、国内プレイヤー向けに日本語サーバーを作ってみたら、そこに新しい情報を要約して教えに来てくれる海外プレイヤーもいるんです。そんなグローバルな交流もありますし、単純に記録が出たら「おめでとう」と言ってもらうために海外コミュニティへ報告しに行くこともあります。

──そんな親切なプレイヤーもいらっしゃるんですね!

セレナーデ☆ゆうき国を問わず、みんな親切ですね。同じゲームが好きな仲間なので、そういう交流は嬉しいです。

──バグ技の話題が出たので「カテゴリ」についてもお聞きしたいのですが、バグを使うカテゴリとそうでないカテゴリがあるんですよね?

セレナーデ☆ゆうき完全クリアをする「100%」と、どんな攻略度でも構わないのでエンディングを迎えれば良い「any%」は聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

その中で更にバグ技の使用可否で区別されていて、強引にクレジットを呼び出すバグでも何でもありのカテゴリもあれば、そこまでゲームに多大な影響を与えるものはダメだけどショートカットはOKのカテゴリもあります。画面外に出て移動やスキップをする「アウトオブバウンズ(Out of Bounds)」、略してOoBが禁止の「No OoB」というカテゴリもありますね。バグ技禁止カテゴリは「Glitchless」と呼ばれます。

──どのカテゴリが主流とか、あるいは流行りみたいなものってあるのでしょうか。

セレナーデ☆ゆうきゲームに多大な影響を与えるバグが見つかっているかどうかにもよりますね。僕がプレイしている『Salt and Sanctuary』という2Dアクションゲームでは大きなバグ技が禁止の「any% No Major Glitches」が主流ですね。ゲームによって異なりますが、結局は「そのカテゴリが楽しいかどうか」で人口は変わってくると思います。やはりタイムを縮める楽しさがあるカテゴリが人気ですね。

『Only Up!』ではショートカットとなるベッドを使用しない「Bedless」の他に「Unrestricted(無制限)」や「All Collectibles(収集品コンプリート)」も(画像はSpeedrun.comより)

──なるほど!そのゲームが好きな人が集まっているからこその理由ですね。

セレナーデ☆ゆうきRPGだと何十分とイベントをショートカットできる技があっても、変に道中を短縮しすぎると最後のボス戦でレベルが足りない、なんてこともあります。結局、手応えは欲しいけど面倒くさい過程はやりたくないのかも知れません(笑)。

──ちなみに、RiJのようなイベントに参加するにはやはり人気ゲームでランキング上位に載るような記録が必要になるのでしょうか。

セレナーデ☆ゆうきイベントによって異なりますね。RiJはチャリティーイベントなので、やはり見どころがある、魅せるプレイができる走者は沢山の人を集められるという点で選ばれやすいとは思います。中にはRTAを始めた人向けのイベントもあって、最近だと月に2回ほど初心者や新タイトルに転向した人がプレイを披露する会も行われています。他にも各地で地域おこしにRTAを活用したイベントも開催されていますので、始めたてでも一度応募してみるのもありですね。その辺りはSNSでRTA走者をフォローしておくと情報が入りやすいかなと思います。

──そこもコミュニティの力を借りるのが一番ということですね。ちなみにセレナーデ☆ゆうきさんは記録を縮めるためにどのような練習をしていますか?

セレナーデ☆ゆうき最初から最後まで一気にやる「通し練習」と、1ステージごとやワールドごとなど区切って集中的に行う「区間練習」の2種類ですね。難所や苦手な区間を集中的に練習して、そこから通し練習で体力的な慣れもつけ、最後はスピード“ラン”なので「本走」と僕らが呼んでいる、記録として申請するためのプレイになりますね。

最近は途中でクイックセーブ&ロードができる機能も増えているので練習しやすいと思いますし、そうでないタイトルでも『Only Up!』なんかは、有志が「特定の場所から再開できる外部ツール」を作成していて、練習しやすい環境が作られています。活動的なプレイヤーが日本にはあまりいない場合などには、そうしたツールの導入に英語で取り組まなければいけないのが唯一RTAをやっていて大変な点かも知れません。

RTA in Japan Winter 2022で『ALTF4』の走者を務めたセレナーデ☆ゆうきさん

──逆に、それ以外では特にセレナーデ☆ゆうきさんは困った経験はないということですか?

セレナーデ☆ゆうき本当にそうですね。始めたばかりでも「これを知らないの?」って見下されることは絶対にないですし、マナーを守ってさえいれば殆どのことは教えてもらえると思います。

──近年はRiJの視聴者も増え、RTA全体に注目が集まっていて始めやすい機運もあるのかなと思います。

セレナーデ☆ゆうきありがたいことにニュースや記事にしていただくことも増えていますよね。ただ、時折「バグ技を使ってクリアして楽しいの?」なんてコメントを見かけることもあるんです。これは言っておきたいんですが、殆どのプレイヤーは通常のプレイで何度もクリアするぐらいにそのゲームが好きで、その延長線上にRTAがあるんです。僕にとっての『クラッシュバンディクー』も、物心つくかどうかの年齢から遊んでいた思い出のある作品なんですよね。

──そのゲームが好きで、ちょっと変わった遊び方まで突き詰めたい人の集まりがRTAコミュニティなんですね。

セレナーデ☆ゆうきもちろんワープやショートカットが目を惹く「RTAらしいプレイ」と言われるのも分かります。僕自身『スーパーマリオ64』のRTAを見て、あの有名なワープが楽しそうで真似したのがRTAの始まりでした。

タイムは人と競っているように見えますが、基本的にはずっと自己ベストを更新するのがRTAの楽しみですし、その結果としてランキング上位に行く喜びもあります。タイムアタックステージのあるゲームが好きな方は何の違和感もなくRTAを楽しめると思いますし、あとは調べ物が好きな方も向いているかなと思いますね。

──RTAを見て、通常のプレイをしたくなることもありますよね。

セレナーデ☆ゆうきRTAを見て「普通にもう一度プレイしたくなった」とか「懐かしくなってゲーム買いました」と反響を貰えるのも嬉しいんですよね。そうして通常プレイをやってみて「あれ、俺上手いんじゃね?」と思ったら、是非RTAもやってみてください。

──その際はセレナーデ☆ゆうきさんの配信に質問しに行っても大丈夫ですか?

セレナーデ☆ゆうきもちろんです! よろしくお願いします!

《ハル飯田》

よく遊び、よく喋る関西人 ハル飯田

1993年、大阪府生まれ。一旦は地元で公務員になったものの、ゲームが好きすぎて気付いたらフリーライターに。他メディアではeスポーツ選手や競技シーンの魅力を発信することに注力したり大会でキャスターを務めたりもするのだが、インサイド&ゲムスパではもっぱら好きなゲームについて語ることで安らかな気持ちになっている。

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