世界的な人気を獲得しているビジュアルノベルゲーム『コーヒートーク』の最新作『コーヒートークトーキョー』のデモ版が、2025年5月29日にSteamにてPC(Windows/ Mac)向けに配信されました。
これまでの『コーヒートーク』は、アメリカはシアトルにある喫茶店を舞台にしていましたが、今回は日本の首都である東京にスポットライトが当たります。社会生活を営む様々な種族が抱える人生の一端に触れるゲーム性は大きく変わらないものの、今作に登場する種族には、「日本に馴染みのある妖怪」が登場します。
さらに、日本人が長年抱いてきたであろう死生観や宗教観といった文化的な要素が反映されている点も『コーヒートークトーキョー』の大きな特徴。本稿ではデモ版をプレイしながら、「日本人の精神性」についても触れていきたいと思います。
この世に未練がある幽霊

ここは東京某所の片隅。小さな喫茶店で働くのは、主人公のバリスタとアシスタントのヴィン。

ある日、この店に一人のネコミミ族の初老男性がやって来ました。彼はシリーズ第1作目から登場しているヘンドリーです。今回は仕事でシアトルから来日したらしく、何と彼は日本語を話すことができます。

ヘンドリーは、この店でジュンというミュージシャンと待ち合わせています。少し遅れて来店したジュンは、何だか浮かない表情です。彼は音楽業界で既に成功を収めていますが、最近はスランプに悩まされているとのこと。新しい歌詞が浮かんでこない、とつぶやいています。

そこへ、新たなお客さんが。「死の門」の受付をやっているというフクと、彼女と行動を共にする幽霊のアヤメです。
アヤメは本来であれば死の門をくぐってあの世へ行く予定でしたが、未練があるのか成仏せずに今もこの世にいます。そして、彼女は自分が何者なのかを一切覚えていません。「アヤメ」という名前も、生前の記憶を失っている彼女が思いつきで考えたもの。
詳しくは後述しますが、今回の『コーヒートークトーキョー』……実はこのあたりが「ストーリーの肝」になりそうだと感じるのは筆者だけでしょうか。
ドリンクを提供するシステムはシリーズ共通

カウンターを挟んでお客と会話をしつつ、時にドリンクを提供して話を進めるのは『コーヒートーク』シリーズの基本進行。どんなキャラクターが出てきてどんな話をするのか、そしてどんな結末を迎えるのか……それを見届けることにゲームの楽しみがあります。それは本作においても同じなので、シリーズ経験者は特に戸惑うことなくプレイできることでしょう。

おなじみのラテアート機能も、もちろん健在。その新機能として「ステンシル」が追加され、誰でも簡単に素敵なラテアートを作れるようになりました。ヘビがのたくったような謎の模様を描いては飲めオラッしてきた身としては、この新機能は地味にありがたいアップグレードだと思います。

ただし……「客の希望に従ったはずなのに、材料の順序が台詞の通りでないとオーダーのドリンクが作れないぞえ?」とか「単純なコーヒーを作りたいのにエスプレッソができたぞよ?」といった部分も、これまで通り。

たとえば、ジュンが「はちみつとミルクをちょいと加えた、ホットココアをもらえるか?」と注文。その言葉通りベースをココア、メイン材料をソイミルク、サブ材料をはちみつにして作ってみると……できるのは「ソイミルクはちみつココア」でした。あれ?

ちなみに正解のドリンクは「チョコビーソイ」。ベースにココア、メインにはちみつ、サブにソイミルクというレシピですね。まあ台詞をよく読めばわかりますし、材料の投入順が違えば異なるものが出来上がるのは当然と言われたらそうなのですが……!
東洋と西洋は「別世界」

ゲーム冒頭、ヘンドリーがアヤメたちとのコミュニケーションで戸惑いを見せる描写は、東洋と西洋が「別世界」であることを表し、本作においても「違い」を軸にした挑戦的なストーリーを予感させるものでした。

「未練」というのはどう言い換えても「個人の思惑」であり、それが死後の在り方を左右する……という発想は少なくとも一神教の世界観ではありません。たとえば、ダンテ・アリギエーリの文学作品『神曲』には、当時のキリスト教の価値観(と、ダンテが判断した考え方)に照らし合わせて天国、地獄、煉獄が細かく描写されています。悪徳を積んだ者、異端者、異教のリーダーは、容赦なく地獄に落とされます。
この世に未練のある死者は、成仏せずいつまでもこの世を彷徨い続ける。これは日本独特の宗教観でもあります。一方で、キリスト教世界には「個人の意思で現世に居続ける幽霊」という概念はなく、そのためかシアトル出身の西洋人(西洋猫?)であるヘンドリーにはアヤメの姿は見えないようです。そういう意味では、東洋と西洋はやはり「別世界」と言えます。
本作におけるストーリーの軸とは?

そんな別世界である日本、というより東洋の沿岸諸国は「妖怪出没地帯」でもあります。そして東洋の妖怪は西洋の悪魔とは違い「討伐対象」ではなく、人間と共生しています。水木しげる先生が『ゲゲゲの鬼太郎』で書いた通り、東洋の妖怪は人間界の片隅でひっそりと暮らしています。そこに対立は存在しません。
米シアトルが舞台だった『コーヒートーク』の第1作、第2作はそれ故に、「亜人たちの公民権」がストーリーの中核にありました。史実のアメリカで有色人種が白人と平等の権利を勝ち取ったように、『コーヒートーク』の多種多様な種族たちは人間と同等の市民権を勝ち取っている様子が描かれ、その過程も作中で説明されています。
では、今作『コーヒートークトーキョー』におけるお話の核はどうでしょうか。あくまでも想像ですが、上に述べたような「東洋的な死生観」がストーリーのキーになるのでは……と筆者は妄想しています。いずれにせよストーリーの立ち上がりから、こういった部分にまで踏み込んでいく本作の今後の展開に今から期待値が高まります。
『コーヒートークトーキョー』は、PC(Windows/ Mac)/PS5/ Xbox Series X|S/ ニンテンドースイッチ向けに2025年のリリースを予定しています。