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ホップにも柑橘の香りがある!『Brewmaster』で学ぶビール造りとテイスティング【ゲームで世界を観る#55】

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夏から秋の変わり目は、ビール業界が最も盛り上がる季節です。蒸し暑いビアガーデンで乾杯するビールは気持ちいいですし、収穫した麦をふんだんに使った秋ビールの発売、さらにはドイツビールの祭典“オクトーバーフェスト”が各地で開催と、普段とは違うバラエティ豊かな味を堪能できる時期なのです。

そんなおいしいビールはどのように造られているのか?それを体験できるゲームが今回ご紹介する『Brewmaster: Beer Brewing Simulator』です。海外で可能な自家醸造の工程を再現し、モルトやホップ、副原料など多様な材料を使って好みの風味のビールを造ることができます。残念ながら日本語の翻訳は未定で、作業で何をやっているのか素人目にはなかなか分かりづらいのが困ったところ。ただし、弊誌の取材に対し同作パブリッシャーのFireshine Gamesから「今後同作へ言語の追加を行う際には必ず日本語を検討する」と返答を頂いているので、日本語実装を含め今後の同作の更新に期待したいところです。

いずれにしてもシミュレーターとしてはしっかりしているだけにもったいない、というわけで、以前のプレイレポよりもさらに踏み込み、各作業が何を目的にしているのかを具体的に見ていきます。

酒造りの基本は、糖分を酵母によってアルコールと炭酸ガスに分解する「アルコール発酵」です。究極的には糖分さえあればどんなものでも酒にできると言えるでしょう。自然状態では果実や樹液からできる「猿酒」を動物が好んで飲むことが分かっていて、有史以前から人間と酒との関わりは続いてきました。

ビールの起源は約13,000年前まで遡り、麦を粥状にして天然発酵させるところから始まりました。しかし、ビールや日本酒を含む穀物から造る酒は、ワインなどの果実酒と違って最初から使える糖分がありません。そこで重要なのが、麦を一度発芽させて「麦芽」の状態にし、麦の持つ酵素ででんぷんを糖分に変える「糖化(Mashing)」という作業です。

つまりビール造りは大まかに、麦から糖分を作る「糖化」と、その糖分を発酵させる「アルコール発酵(Fermentation)」という2つの作業から成り立っていて、そこにホップや麦芽の選択、熟成など「風味付け」の要素が加わります。各工程の目的がこの3つのどれに当たるかさえ把握すれば、ビール造りは難しく考えることはないと分かるはずです。


実践!コンロで作る自家醸造ビール

用意された課題に沿って進行する「BREWMASTER」モードでは、最初のチュートリアルに「MALT EXTRACT」を使ったレシピを使います。いきなり麦芽ではなく謎のシロップを使うので、思っていたのと違うかもしれませんが、これは日本では「麦芽エキス」の名称で発泡酒やいわゆる第3のビールに加えられているもの。パンの風味付けにも利用されます。糖分変換を済ませた麦汁を濃縮していて、これを使えばビール造りの前半「糖化」の工程をスキップできるのです。糖化は温度管理が難しいので、自家醸造では麦芽エキスはよく利用されます。

そのため、チュートリアルでは「風味付け」と「アルコール発酵」の作業を行います。まずは麦芽エキスを水で戻して「麦汁(Wort)」にし、火にかけて沸騰させる「麦芽煮沸」をします。発酵に向けて熱殺菌をするほか、雑味になる蛋白質の除去にもなります。

沸騰させている間に、ホップやモルトを足して「風味付け」を行います。古代や中世の時代には様々なハーブやスパイスを加えていましたが、防腐効果があるホップが主流となり現在に受け継がれています。ビールの爽やかな香りと苦みはここで煮出したホップから出てくるもので、最近のクラフトビールで人気である柑橘の香り、強烈な苦みといった特徴がホップの品種で決まります。

モルトエキスを使ったレシピの場合、麦芽の風味が足りなくなるので、「Steepable(抽出用)」の表記がある煮出し袋に入ったモルトを使います。

レシピでは原材料のカテゴリーが指定されているものの、2種類ずつある品種をどう配合するかはプレイヤーが決められます。右側の説明の中に「Standard Flavors」と「Flavor notes」の項目があり、見比べてどの風味が欲しいかを考えて選びましょう。苦みが強い「BITTERING HOP」にはMagnusとMarauderの2品種があり、Magnusにはハーブやスパイスの香り、Marauderにはパインとレーズンの甘酸っぱい香りと書かれています。チュートリアルのレシピは黒ビールにある香ばしい「Caramel」の風味が中心になっているので、相性を考えながら1品種や半々、7:3など様々な組み合わせを試してみてください。

風味付けのモルトとホップを一定時間煮出した後は、酵母を入れるために常温まで一旦冷まします。冷ますだけなら……と思いきや、寸胴一杯の麦汁を冷ますには丸一日かかるというので、実際の仕込み作業はゲームで軽々やるよりもずっと大変そうです。

このとき蓋をちゃんと閉めておかないと、雑菌が入って劣化が起こりやすくなります。逐一開け閉めするのは面倒ですが、空気にさらさないのは品質管理の大事な部分なので抜かりなく。

常温の20度まで下がった後は、発酵容器に移して酵母を加え約2週間待ちます。アルコールを生み出すこの段階の発酵を「一次発酵」と言います。実際には毎日上下する気温によって発酵の状態が変わるので、様子を見ながらの温度管理が必要になりますが、ゲーム内では20度で一定しているので一気にカレンダーを進めても大丈夫です。

一次発酵の間は、糖化で造った糖分を消費して酵母がアルコールと炭酸を造り出すのですが、「使える糖分が無くなればそれ以上発酵は進まない」ので、レシピによっては糖分を追加して酵母の風味や度数を強めたり、あえて少なくすることですっきりした味にするなどのコントロールを行います。酒造りに関わる言葉に「人間は酒を造れない。酵母に造ってもらっているだけだ」というものがあります。酵母に心地よく働いてもらえる環境を整えることが肝心だと表してます。

なお、この発酵過程の温度によってビールの中の区分けである「ラガー」と「エール」の違いが現れます。私たちが普段飲んでいるのは、冷蔵発酵(約5度)で造る「ラガー」で、すっきり爽やかな味になります。ゲームで作れるのは常温発酵(約20度)の「エール」で、酵母によるフルーティな香りが楽しめます。

時間が経過すると発酵期間で活発だった酵母の働きが落ち着いているので、追加でゆっくりと発酵を進める二次発酵の段階に移ります。風味を整える最後の工程で、ビールの泡を強化するのも二次発酵です。やらなくてもビールにはなっていますが、一次では炭酸を抜きながら発酵しているので、まだこの段階ではあの沸き立つような泡は出てきません。

容器を移す前に追熟用のコーンシュガーを投入して、酵母の再活性化で炭酸ガスの発生を促進します。機材が増えてくるとオーク樽を使った熟成も可能。さらに約3週間寝かせた後はいよいよ完成、お待ちかねのテイスティングタイムです。

麦芽エキスを使わない場合は、モルトをふやかして糖化するところから始めます。専用の道具「マッシュタン(Mash tan)」にモルトと湯を入れて、分解酵素「アミラーゼ」が活性化する温度、約60~70度の間に一定時間キープしなければなりません。これより高くても低くても失敗してしまうので、冷めすぎたらお湯を足すなど、温度を確かめながら調整する難しい作業です。

マッシュタンの底にはフィルターやざるが敷いてあり、下にある注ぎ口から移し替えるときに濾過される仕組み。以降は麦芽エキスの時と同様に発酵と風味付けの作業を行います。

味の仕上がりは?特徴を知る様々な指標

テイスティング画面では一度に多くの情報が示されます。造ったビールがどんな味か、狙い通りにできたか確かめる緊張の瞬間です。各項目が表す意味を一つずつ読んでいきましょう。

Crisp&Clean:爽やかさ、軽さ

ジョッキでゴクゴクと飲めるすっきりとした味で、現在主流の「ピルスナー」タイプの特徴。暑い地方の日本やアジアのビールはこの風味を強調しています。

Sour&Tart:酸味

小麦や乳酸発酵による酸っぱさ。小麦を使った「白ビール」の穏やかな酸味から、天然酵母による「ランビック」の強烈な酸味まで、一般的なイメージのビールとは違う個性的な味になります。

Dark&Roasted:焙煎

焙煎したモルトの焦げた香りで、黒ビールのメインになる風味。同じ焙煎でできるチョコレートやコーヒーを副原料に使うこともあります。

Malty&Sweet:麦芽のコク、甘み

麦由来の香ばしい風味と、糖分による甘み。副原料を使っていないものや、秋口に各メーカーが出す麦芽増量タイプのビールでよく分かります。

Hoppy&Bitter:ホップの香りと苦み

最近の大手ビールでも注目されているカテゴリ。品種の違いによって香りが大きく異なり、ホップを増量して強烈な苦みを付けた「IPA」が人気になっています。

Fruit&Spice:果物やスパイス、ハーブの香り

特定のホップにある柑橘系や草の香り、または副原料でフルーツなどを入れたときの風味。小麦を使った白ビールの発酵でも、バナナのような甘い香りを出します。

Smokey:薫香

燻製した特別なモルトで出る風味。スコッチウィスキーのような煙の香りがします。ドイツの「ラオホ」という珍しいスタイルの特徴。

Off:異臭、腐敗

雑菌が入るなどで品質劣化すると出てきます。基本的には味を悪くするものなので、なるべく出ないのが理想的です。

「Aroma&Flavor」の項目では、具体的にどんな香りがするかが表示されています。ワインのソムリエが識別するように、グレープフルーツ、青草、花など、ビールにも多種多様な印象が現れます。

最後の画面で出てくるのは海外ビールのラベルにも描いてあるもので、ABV、IBUの数値は特に重要な単位です。オクトーバーフェストの商品説明にもあるので押さえておきましょう。

  • ABV:アルコール度数

  • Color/SRM:ビールの色合い

  • Bitterness/IBU:苦みの強さ

  • Carbonation/Vol:炭酸ガスの量

  • OG/FG:麦芽の発酵前、発酵後の比重

  • Body:口当たりの強さ

飲み比べで好みを把握しよう!風味別お勧め銘柄

ビールをより美味しく楽しむコツは「グラス」にあります。缶に直接口を付けるのでは目立たない香りが分かるようになるので、製造会社も一旦注ぐことを推奨しています。グラス選びには、CMで使われているグラスに注目です。

各メーカーは香りと味を引き出す相性の良いグラスを想定していて、ジョッキやタンブラー、口の大きいチューリップタイプなど、専用のグラスを作ることもよくあります。景品でもらえることもあるので、好きな銘柄のものは是非手に入れましょう。

Crisp&Clean:アサヒ スーパードライ

一汗かいた後の乾杯には最高!のどごし爽やかの代表格と言えばまさにこれ。副原料に米やコーンを使って、麦の風味をあえて抑えることで軽い口当たりを作っています。副原料を嫌う意見もありますが、これも立派な「個性」として楽しみましょう。

Malty&Sweet:サントリー プレミアムモルツ アンバーエール

秋の到来を告げる季節限定商品。この時期ならではの濃い麦芽で仕込んだビールは香ばしさ抜群です。甘い後味が長く続きつつ、花のような香りと天然水の爽やかさで口当たりは軽やか。

Dark&Roasted:アサヒ アサヒ生ビール(マルエフ)黒生

焙煎の芳ばしい香りを出しつつ、すっきりとした味わいであまり重くない口当たり。仄かな甘みもあり、ケーキやバニラアイスとも合わせられます。

Hoppy&Bitter:サッポロ ヱビス New Origin

ホップの特徴を引き立たせた商品を多く出しているサッポロの新ブランド第1弾。ホップがハーブの一種だと分かる、草の「青い」香りが印象的。

Hoppy&Bitter:キリン SPRING VALLEY 豊潤〈496〉

麦芽の量を増やしてバランスを取りつつも、ホップの香りと苦みを前面に出した濃さのある味。クラフトビール入門に最適です。

Sour&Tart:キリン SPRING VALLEY シルクエール

苦みが控えめの白ビールタイプで、ワインを思わせる華やかな香りが特徴。グラスも口の大きいものを使って、ふわっとしたリンゴの印象を感じてみてください。

近年では大手ビールの隣にクラフトビールの缶が並ぶことも当たり前になりました。飲み比べでビールの個性が気になったら、是非クラフトビールにも挑戦してみましょう。


いつか日本にホームブルーイングを!認可に向けた取り組み

日本ではビールの自家醸造はできませんが、ある抜け穴を使えば堂々とやることが可能です。確かに酒税法のためアルコール度数1%以上の醸造は禁止であるものの、逆に言えば微アルコールの1%未満であれば醸造しても合法の範囲内なのです。よく引用される国税庁のページには、

購入された商品については、アルコール分1度以上にならないよう製造方法が取扱説明書に具体的に記載されていると思われますので、その注意書に沿って、アルコール分が1度未満となるようにしてください。

とあるので、アルコールでなく麦やホップの香りを楽しむ分には十分な、微アルコールビールまでなら大丈夫です。国内で買える麦芽エキスのキットはアルコール量が基準以下になるように糖分を調整してある、あるいは輸入したものに国内向けのレシピが添えてあります。

これに従っている限りはセーフですが、海外向けのレシピを使う、糖分を増やして度数を高めるなどした場合は、例え個人で家庭内の消費であっても違法行為になり、酒、材料、器具の没収、さらに100万円以下の重い罰金が科せられる可能性があります。自己責任の下でレシピを厳密に守った上でお楽しみください。

そんな中、日本でも自家醸造を実現できないかと、2019年にクラフトビールメーカーが中心となって「日本ホームブルワーズ協会」が発足しました。どぶろく特区のようなホームブルーイング特区の認定を目指して様々な取り組みを行っています。クラフトビールが盛り上がりを維持していけば、近い将来日本でも解禁できるかもしれませんね。興味がある方は是非会員登録をお願いします。

(なお、現在コンソール版ではBrewpediaの表示に不具合があり全体を読めません。購入の際はご注意ください)


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《Skollfang》

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