気になる新作インディーゲームの開発者にインタビューする本企画。今回は、Charlotte Madelon氏開発、PC向けに5月16日にリリースされた解剖アートゲーム『Biophobia』開発者へのミニインタビューをお届けします。
本作は、解剖とガーデニングのメカニクスを融合し、トラウマや死、主体性といったテーマを探求する実験的アートゲーム。プレイヤーは女性の遺体を解剖するとともに、遺体の周りに草花を植えていきます。テキストや会話はなく、象徴的なインタラクションや記憶に残るビジュアル、そして雰囲気あるサウンドを通じて語りかけてくるのが特徴。記事執筆時点では日本語未対応です。
『Biophobia』は、無料で配信中。


――まずは自己紹介をお願いします。一番好きなゲームは何ですか?
Charlotte Game*Sparkの皆さん、インタビューにお招きいただきありがとうございます。私の名前はCharlotte Madelonです。オランダ出身ですが、現在はデンマークのコペンハーゲンを拠点にしています。インディーゲーム開発者とUI/UXフリーランサーという仕事を掛け持ちしています。
一番好きなゲーム、というものはありませんが、『エルデンリング』や『ファイナルファンタジーVII』のようなタイトルが大好きです。気晴らしには、『Farthest Frontier』『The Sims』『Don't Starve』などのゲームを楽しんでいます。『Tomb Raider VI: The Angel of Darkness』は私にとって懐かしいゲームですね。『Antichamber』『The Path』『Birth』『Cart Life』のようなインディーゲームは、最高のインディーゲームを作ろうとする私にインスピレーションを与えてくれます。
――本作の特徴を教えてください。また、そのアイデアはどのように思いついたのでしょうか?
Charlotte 本作の解剖の仕組みは非常にユニークだと思います。手術シミュレーターは他にもありますが、私の知る限り、これほど雰囲気があり、直感的で繊細なデザインのものはありません。
私が人体解剖学に魅了されたのは、卒業制作のときからです。サルバドール・ダリの「引き出しのあるミロのヴィーナス(Venus de Milo with Drawers)」になりきって、自分の引き出しを開け、中に何が入っているかを見るというものです。私はあまりに野心的で経験も浅かったので、そのプロジェクトは完全に失敗してしまいましたが、そこから「身体の中に入る」ことへの魅力を感じ始めたのです。
何年もの間、私はUnity3Dで実験を続けましたが、プレイヤーが身体を解剖する3Dゲームを上手く作るのは、なかなか難しいものでした。網目状のものを開く必要がある場合、どのようにモデリングすべきか?プレイヤーはその網目状のものとどのようにインタラクションするのか?怖いと感じるべきか、有機的と感じるべきか、それとも臨床的と感じるべきか?カメラの位置はどうすればいいのか?3Dの世界を2Dのスクリーン空間に変換するのは、驚くほど厄介なことでした。それから、入力方法も考慮しなければなりません。UIにはどんなツールが登場するのか?レイヤーやレベルはいくつあるのか?などなどです。
それから数年後、私はついにそれをプレイ可能な体験としてデザインし、作ったものの一部が本作なのです。
――本作の開発にあたって影響を受けた作品はありますか?
Charlotte 「浄相の持続(松井冬子)」は、私にとって、とても攻撃的でありながら繊細な雰囲気を与えてくれました。西洋人である私には、その文化的背景は自分の考えや感情に新たな視点を与えてくれたのです。
「解体されたヴィーナス(クレメンテ・スシーニ)」は、分解可能な蝋人形です。まるで両者の間に隔たりがないかのように、芸術と科学が融合しています。18世紀から19世紀にかけてヨーロッパでは、解剖学、特に生殖器官を教えるために、多くの小さな解体されたヴィーナスが使われました。しかし今日では、このような蝋人形はショッキングなものとして扱われることが多いです。現代の医学イラスト、彫像、3Dモデルからは、「人間らしさ」がほとんど取り除かれています。
最後に、私はシェイクスピアの「ハムレット」に登場するオフィーリアという人物を、これらすべてのアイデアの舞台、あるいは「傘」のようなものとして使いました。彼女は狂気に追い込まれたデンマークの貴族で、言葉にできないことを表現するために花を摘みました。彼女の物語は、主体性について重要な問題を提起していると思います。

――本作の開発中に一番印象深かったエピソードを一つ教えてください。
Charlotte 本作の開発中ではないのですが、Unityで脳を解剖するプロトタイプを作ったことがあります。流れるような、布のような糸を使って、頭から脳を引っ張り出すことができるようにしたんです。とてもエキサイティングで心の底からの興奮があり、ビデオゲームとしてはかなり印象的だと思いました。興奮するのが私だけじゃないのか、他の人でも試してみるべきでしょうか…。
――リリース後のユーザーのフィードバックはどのようなものがありましたか?特に印象深いものを教えてください。
Charlotte 「心をかき乱される気分」を受け入れてくれるプレイヤーたちがいることに、私は本当に嬉しく思っています。私たちは嫌な経験をするとき、多くの場合、社会からの恥辱と自分自身の中に内面化された恥辱の両方があります。レビューの中には、ゲームに登場する女性の状況や感情に対する思いやりを示すものもありました。私の作品が、私たちが被害者に対して、あるいは自分自身に対して時に抱く厳しい態度の一部を和らげる一助となったことに感謝しています。
――ユーザーからのフィードバックも踏まえて、今後のアップデートの方針について教えてください。
Charlotte メスの取り方や、花をクリックしてシーン間を移動する方法を理解するのに苦労するプレイヤーもいます。それらを明確にするため、ツールチップやその他の視覚的なフィードバックを追加したいです。それ以外にも、言語サポートを増やしたいですし、音声も見直すかもしれません。
――本作の日本語対応予定はありますか?有志翻訳は可能ですか?
Charlotte 幸運なことに、すでに私に手を差し伸べてくれた人がいます。
――本作の配信や収益化はしても大丈夫ですか?
Charlotte はい、もちろんです!
――最後に日本の読者にメッセージをお願いします。
Charlotte 本作が注目されたことに深く感謝しています。このゲームは実験的なアートゲームで、100人くらいがプレイしてくれればいいと思っていました。しかし、実際は私の想像をはるかに超える多くの方々にプレイしていただくことができました。
日本の読者の皆さんには、あなた方の文化に感謝の意を表したいですし、私の作品を通して賞賛の念を伝えることができたなら幸いです。私たちがどこで育とうとも、自国の文化が私たちの価値観や現実の捉え方、さらには感じ方を形作っています。異文化について学び、人間の経験に対する理解を広げることがこれほど容易な時代に生きていることを、私はエキサイティングだと思っています。
――ありがとうございました。


◆「注目インディーミニ問答」について
本連載は、リリース直後のインディーデベロッパーにメールで作品についてインタビューする連載企画です。定期的な連載にするため質問はフォーマット化し、なるべく多くのデベロッパーの声を届けることを目標としています。既に700を超える他のインタビュー記事もあわせてお楽しみください。
※コメントを投稿する際は「利用規約」を必ずご確認ください