
ネクソンは、2025年6月24日から26日にかけて「Nexon Developers Conference 2025(NDC)」を韓国にて開催しました。NDCは『メイプルストーリー』『ブルーアーカイブ』『デイヴ・ザ・ダイバー』などを手掛けるネクソングループをはじめとして、第一線の開発者らが集まり知識の共有を図るカンファレンスです。
本稿ではUniversal Koreaのカク・キョンウォン氏による「IPを超えて:ブランドの創出」をお届けしていきます。このUniversalとは、映画配給会社のUniversal(以下、「ユニバーサル」)です。Universal Picturesやユニバーサル・スタジオなど、IPを扱うことにおいて世界トップクラスと言えるカク・キョンウォン氏の視点から、IPおよびブランド価値についての講演が行われました。
「シルク・ドゥ・ソレイユ」と「江南スタイル」は何が違う!?「fun」と「fan」の違いとは

まず講演はユニバーサルもディズニーも100兆ウォンの売り上げを出す企業(ユニバーサルは昨年約160兆ウォンとのこと)と紹介しつつ、ディズニーの収益の内訳から解説されていきます。ディズニーの売り上げは34%がディズニーランドなどのパーク事業、66%がメディア関連事業。さらにディズニーは老若男女をターゲットとしながらも、紹介したイラストに抜けている「妊婦」などの層も漏れなくターゲットとしていることに触れ、「メディア事業の強さ」を取り上げました。

本講演が行われたNDCは韓国での開催とあって、かつて韓国で一世を風靡した伝統的なサーカス団に触れつつも現在はその力が残っていないことに言及。ディズニーとサーカス団の違いとして「fun」と「fan」があると説明されました。

まずは「fun(楽しみ)」について。同氏は日本でも流行ったPSYの楽曲「GANGNAM STYLE(江南スタイル)」を引き合いに出し、約60億ほどの再生回数があるにも限らず、熱狂的なファン以外は“PSY自体がグッズ、イベント化”したとしても利用されないだろうと続けます。これは「fun」であり、その環境を楽しんでいるからです。

その一方で「fan(ファン)」の成功例として「シルク・ドゥ・ソレイユ」を出します。「シルク・ドゥ・ソレイユ」にはそれそのものにブランド価値があり、名前そのものを信用をしている人が多いため「fan」中心のビジネスがとなっているとのこと。つまり安定した売り上げを出せているのです。
「fan」において、韓国での最たる例はK-POP。ブランド化が成功していると紹介されました。これは「fun」から入り「fan」中心のビジネスが行えた事例です。ちなみに、今の韓国の小学生の間では、自身が持つ高額なK-POPトレカを「お金として持っている」とふざけて言う人もいるといいます。

ブランド化の話は映画産業に移ります。カク・キョンウォン氏は「ミニオンズ」は一作で700億ウォンほどの製作費がかかっているとしつつも、その上で「ミニオンズ」シリーズ6つを合計した場合9兆ウォン、一本当たり1兆2000から1兆5000ウォンの収益があると、「莫大なコスト」と「莫大な売り上げ」について述べていきました。「ミニオンズ」のような新規IP創出の重要性を語る一方で、IPとして強いのは「オズの魔法使い」を原案とする「ウィキッド」などだと、全年齢をカバーする「すでに知られているIP」に焦点を当てていきます。
ブランド価値の創出に有効な「ライセンス契約」という方法

続けては、おもちゃ(トイ)市場に目を向けられました。トイ市場では1位がレゴ、2位がバンダイナムコエンターテインメント、3位がフィッシャープライスと続きます。そしてレゴで売れ行きの良い商品は「スター・ウォーズ」IPを使ったものですが……ただし、これは韓国では売り上げが悪いそう。その理由は「韓国でSFの人気が少ない」からです。

これはユーザーが抱くジャンルへのコネクションの問題。韓国は宇宙開発に参入していなかったこともあり、宇宙というジャンルが“ニュースの世界のもの”であり強い関心がないと言われ、さらに韓国で当たりづらいジャンルは「乗馬」「ジャングル」だと語られていきました。カク・キョンウォン氏はこの前提を述べつつ、そうはいってもアメリカで「スター・ウォーズ」のレゴは売れていると続けます。これはもちろん、スターウォーズがグローバルにブランド力を持っているためです。

そして話は他IPが持つブランド力を活かす「ライセンス契約」に展開していきました。たとえば韓国で売られているHershey'sのチョコなどは「ライセンス契約をしただけで、韓国オリジナルの商品」などがあると続けていきました。しかしその一方で、韓国企業はその特性として「一社で完結したがる傾向」があると警鐘を鳴らします。
K-POPで同氏が残念だと思うのは、(当たり前だと述べつつも)音楽周辺にしか活動の手を広げていないことだそう。グローバル市場に参入するためには貪欲に全方位的に参入していくことが重要で、これにはライセンス契約の力が発揮されるとします。

そして直近でユニバーサルが他企業と組んだ事例では、Amazonと「ジュラシックワールド」がコラボして「恐竜をAmazonで、ユニバーサルスタジオまで配達する」イベントなどがあげられました。これによってAmazonは配送を、ユニバーサルは映画をアピールできました。このタッグを組むことで特に上手いのは「ナイキ」であり、コラボ商品が多く出ていることは注目に値すると述べました。

カク・キョンウォン氏はこのように、「ブランド価値の創出にパートナーシップやライセンス契約が重要」と語り、一社でやれることには限界があると述べました。多くの人が「スティーブ・ジョブスがやっていたから自分もできる」と思いがちですが、各自に出来る分野は違うと述べます。「いかにブランドを作るか」よりは「いかにブランドの責任を取るか」という認識を持って物事に取り組めば、多少は円滑にブランドを拡張していけるのではないかと述べつつ、講演「IPを超えて:ブランドの創出」は幕を閉じました。
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