
欧米ゲーム業界で相次ぐ激しい人員削減について、「日本のゲーム業界は別物だ。ユートピアではないが、日本を見習うべき」という専門家・Amir Satvat氏の発言をめぐり、掲示板Redditでは日欧米における企業の役員報酬や解雇規制といった、様々な観点での意見が交わされています。
Satvat氏が指摘する「日本のゲーム業界」の特徴
話題の大元となったのは海外ゲーム誌「Edge 428」に掲載され、ウェブにも転載された「2度目のビデオゲーム業界崩壊のさなか、どうすれば復活し、明るい未来を取り戻せるのか?」という、重いテーマを扱ったインタビュー記事。Epic GamesのCEOティム・スウィーニー氏や、インディーゲーム専門のパブリッシャーKitfox Gamesの共同創設者Tanya X. Short氏ら、9人のゲーム業界専門家が回答しています。
回答者の一人、Amir Satvat氏はTencent Games北米法人の事業開発ディレクターを務める傍ら、ゲーム業界の求人情報・キャリア相談などの支援ネットワークを無償で提供する「ASGCゲーム業界解雇トラッカー」を運営する人物です。「ゲーム業界の労働市場に関するデータは誰よりも豊富にある」という同氏が、人員削減について「日本を見習うべき」という旨の発言をしたことが、今回注目を集めました。

Satvat氏は、日本が完全にユートピアというわけではなく、もちろん人員削減は行われているものの、その中心は「日本国内の中核スタッフを守るため、主に海外に拠点を置く契約社員を対象としたもの」であり、「その数は概して数千人というよりは数百人程度にとどまっている」と指摘。
任天堂だけでなく、「コナミやカプコンも従業員定着率が97%以上」である点から、欧米ゲーム業界が学ぶべきところとして「一般的に日本のチームははるかに小規模でスリムな傾向にあること」、そして「ライブサービスの潮流に巻き込まれることもなければ、500人規模のチームを擁するメガ・ブロックバスター作品に取り組むこともない」と付け加えています。
また、企業の役員報酬の違いにもSatvat氏は触れています。日本のゲーム会社の役員報酬は高額ではあるものの、「200万~300万ドル(約3億1,200万~約4億7,000万円)であって、3,000万ドル(約46億8,900万円)ではない」と述べました。
なお「GamesRadar」ではこの点について、EAのCEOであるアンドリュー・ウィルソン氏は昨年度の役員報酬3,864万9,984ドル(約60億3,800万円)を受け取りましたが、これは従業員の中央値の約305倍に相当。ほぼ同時期に任天堂の古川俊太郎氏の報酬総額が、200万ドル(約3億1,200万円)だったと報じています。
Redditでは日本の労働環境をめぐり異論も
Japanese companies like Nintendo, Capcom, and Konami are healthier because they have smaller teams, don't have frequent layoffs, and don't pay executives $30 million, says expert
by
u/Altruism7 in
gaming
Redditでは「日本の法律では、CEOの給与削減などを含め、解雇を行う前に他のあらゆる手段を講じなければならないと定められている。米国でもこの法律にすべきだ。多くの経営幹部が短期的な利益のために行動している」と、日本の法規制を見習うべきとする意見もありました。
その一方で、「日本の開発者が小規模チームを維持できる主な理由の一つは、従業員に長時間労働をさせ、より多くの責任を負わせているからだ」「日本の労働文化は、過労死寸前まで人を働かせることで有名で、ゲーム業界も例外ではない。ゲームへの情熱を理由に低賃金で週6日、1日12時間労働を強いる業界の慣習を称賛するのか?」という、“やりがい搾取”を指摘する声も。欧米にも似たようなクランチと呼ばれる文化があることが知られていますが、日本の長時間労働について指摘する人もいるようです。
あるいは「日本では解雇が難しいため、正社員になるのは大変な苦労です。契約社員=正社員への登竜門だと思っているなら、とんでもない勘違いですよ」「社員をやめさせるため給料は支払うが何も仕事を与えない、携帯電話の使用すら禁じ、壁を8時間見つめる部屋に入れられる“窓際族”や“追い出し部屋”もあるぐらいです」など、人材の流動性が低いゆえに起こる、日本の雇用実態を解説する投稿も見られます。
本記事冒頭にある「2度目のゲーム業界崩壊」とは、ティム・スウィーニー氏いわく「アタリが没落し任天堂に取って代わられた、1983年のアタリショックに匹敵する」2度目という意味とのことで、Amir Satvat氏もこの件に言及。2022年から2026年までの5年間でゲーム関連の失業者総数は5万8,000人を超え、従来型のAAAスタジオを含む数百もの開発スタジオが閉鎖に追い込まれているそうです(ただし、同等規模の新規雇用も創出されているとのこと)。
「これを業界崩壊と捉えるならば、長期的にどのような影響が予想されるだろうか?」という問いにスウィーニー氏は、「ゲーム業界の長い歴史の中で数々の変革があり、時代遅れになり買収される企業もあれば、新たなリーダーが登場してきた。今回の業界崩壊後も新たな勝者と敗者が生まれるでしょう」と述べています。
日本のゲーム業界も決して問題がないわけではありません。しかし、日欧米の企業文化や雇用制度の違いがSatvat氏の発言やRedditから浮き彫りとなりました。なお、このスレッドで題材となったGamesRadarの記事の記者には「日本は無傷で乗り切るゲーム開発拠点のひとつ」と見えているようです。
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