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GDC 13: NIGORO楢村匠氏が語る、「"Suck"は激励の言葉」「ゲーム大国末裔の我々は"Luck"」

ハイレベルな和製インディータイトルとしてSteam Greenlightを通過した『LA-MULANA』開発元NIGOROの楢村匠氏がGDCの壇上に立ちました。本題に入る前に、2月の Bitsummitでのインタビューもご参照ください。

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ハイレベルな和製インディータイトルとしてSteam Greenlightを通過した『LA-MULANA』開発元NIGOROの楢村匠氏がGDCの壇上に立ちました。本題に入る前に、2月の Bitsummitでのインタビューもご参照ください。

まず楢村氏は「"Suck"の国から参りました。これを激励の言葉と受け取っていますが、返事をまだしていないのでそのために講演に来ました。」と左ジャブからではなく右アッパーから入ります。テーマはインディーズゲーム制作におけるユーザーコミュニティの活用などについて。

いきなりクライマックス。

日本人であればこそ「ニゴロ」と聞けば数字を思い浮かべますが、英語圏向けにその名前の由来を説明。8bit時代のゲームの熱さを忘れないための名前であるとしました。

NIGOROの名前を世界に広げようとした最初期、PCさえあれば誰でも簡単にプレイできるブラウザーゲームを中心とした歴史があり、その頃に生まれた伝説的フラッシュゲー『薔薇と椿』を動画で紹介。会場からは大きな笑いが巻き起こっていました。いわく、NIGOROや『ラ・ムラーナ』を知らなくても『薔薇と椿』を知っている人がいるくらいに世界的にヒットしたとのこと。基調講演後の質疑応答では、とくに韓国での人気が高いこともあきらかにしていました。一対一で対手を圧倒することが美徳とされるため受け入れられたそうです。物理的距離が近い国だけあって、武士の習い的な部分も似ているのでしょうか。ともあれ、結果として世界的な知名度も上がり、北米から『ラ・ムラーナ』リメイクのオファーが来るに至ります。

日本と海外ではインディーに対するイメージが違う。

ここでひとまずインディー製作チームの話題に切り替わります。まだ未成熟とも言われる日本のインディー界ですが、実際にはデベロッパーは無数に存在していると明言。ただ、発展するより前に細分化してしまったのが特徴であるとしました。同人ゲーム、フラッシュゲーム、スマホ向けアプリ、フリーゲーム、インディーゲーム。それぞれは独立系開発という共通点を持ちながらもまとめて「インディー」として語られることがほとんどないのが日本の傾向です。

奇妙な枝分かれ。

もう一つの問題点として、個人製作のゲームやアイデアが買われることはあっても、デベロッパーの名前が出ず、メーカー(パブリッシャー)製品としてリリースされる習慣があることについても言及。点在する日本インディー界も集約されれば大きな力になれるポテンシャルがあるにもかかわらずそうした歴史的経緯のため繋がりが出来づらいことや、開拓心とそれを発露する舞台が海外に比べ少ないことなどに苦言を呈しました。

そして世界配信にあたり当然になるのが言葉の壁。海外リリースに向けて英語でやり取りする負荷が高すぎたため、ゲーム製作よりも事務仕事にリソースを割かれるという問題が発生しました。そこに颯爽登場したのがPLAYISMです。

プレイズムマンじゃないか!

PLAYISMが翻訳や契約、リリースにかかる作業を請け負うことで、デベロッパーが開発だけに専念できるようになりました。また、『ラ・ムラーナ』のGreenlight通過という偉業も、PLAYISMがコミュニティを運営し投票を促したことが大きな要因であると称賛していたのが印象的です。Steamでインディー作品をリリースするにあたり自力で宣伝するか声が掛かるまで耐え忍ぶしかなかった流れに対し、現状を打破する契機になるとしました。

PLAYISMのJoshua Weatherford氏。気さくなナイスガイです。

次に、『ラ・ムラーナ』がリメイクされた理由について。もともと趣味で創られていた『ラ・ムラーナ(原作)』は、海外の熱心なファンが翻訳に名乗りをあげたため、世界的に広まっていった経緯があります。そもそもリメイクすること自体が海外のファンの動きなくしてはありえず、つまりインディーゲームで挑戦していこうと決心したのもコミュニティのお陰であると感謝の意を滲ませました。日本にも支持者はいるけれども、海外人気が高いなかSteamコミュニティに入っていく日本人はごく少数で、やはり海外志向にならざるをえないことも述べています。

また、『ラ・ムラーナ』のセルフリメイクにあたりコミュニティから多大な影響を受けたとしました。すでに意見や感想が出尽くしており、生ぬるいバランスでなく手応えのある調整が評価されたことを十分に認識した上で、そうしたファンに応じる形でリメイクする必要性があったのです。楢村氏は父親の「小さな規模でやるなら大手ができないことをやれ、自分たちを必要とするニッチな市場を見つけろ」という言葉に強く影響を受けているとのことでしたが、まさしくその通りです。

さらに、コミュニティとの連携を密にするため、リメイク版製作にかかった2年(制作メンバーは3名)の間、開発状況をオープンにすることを徹底。いわゆるアルファファンディングに類似した手法を当時から採用していました。ストーリーや謎解きを主体としたゲームながらも、リメイクであるからこそ多少のネタバレも問題にならないことが奏功したのです。

油断すると死亡説が流れる。

また、リメイクにあたり、オリジナルの良さをスポイルしてもならないし、それでいてファンをいい意味で裏切らなければならないというさじ加減についてもコミュニティの力を活用したと解説しました。大容量のレトロゲームと表現される『ラ・ムラーナ』をいかにリメイクするかにあたり、ディレクターが手腕を発揮するのではなく、ファンの感想や評価をフィードバックとして参考にしたのです。具体的には、理不尽な部分や面倒な部分の変更や、UIの洗練など。

ボス戦。横から攻撃することを想定していたにもかかわらず、
上部の足場が安地になってしまい一方的に倒すことができてしまった。

こうしたいわゆる裏技的な攻略が動画投稿サイトで広まる中、「上の床がなくなれば面白くなるのに」のコメントを発見。これを間接的に採用しました。

原作通りに陣取ると先制攻撃で足場を壊される。
予想を裏切る良リメイクの典型例。

単にユーザーの意見を仕様化するのではなく、クリエイターとしての発想と照合し、最適解を導く。これがNIGORO流のコミュニティ活用術なのです。さらに、その「意見」にもゲームに対する慣れの要素が多分に含まれており、そのバランス感覚に注意したことも事例を挙げながら説明しました。

上述の通り動画投稿サイトをユーザーの意見を集めるにあたり重用したNIGOROですが、その中でもとくにニコニコ動画の優秀さについて指摘。タイムライン上にコメントが付くことが、コミュニティの反応を収集するにあたり非常に役立つとしました。例として挙げられた動画を見た海外勢の反応は良好。ニコ動もまたクールなのでした。

トラウマは世界共通言語。

続いて、投稿動画に見る海外と日本の趣向の違いについて。よく日本と海外ではゲームに対する反応が違うと言われますが、NIGOROの結論はその逆、つまり「全く同じ」。注記するとすれば、映像表現などのデザイン領域ではなく、ゲーム性にかかる部分が同じだということ。

また、動画やスクリーンショットを投稿する行為の是非について、NIGOROとしては"アリ"だとしました。大規模なプロジェクトとしてリリースされるタイトルではとかく権利が問題視されがちですが、ゲームに対する感想(『ラ・ムラーナ』の場合はトラウマ)を発信するのも視聴するのもあくまでも生きた人間であり、それを楽しんでいるのならばプレイ動画公開を奪うべきではないと述べています。ここは非常に繊細な部分ですので一概には言えませんが、「権利者の申し立てで」の一言で何でもかんでも規制して回るのがプラスに働かないであろうことは想像に難くありません。

なお、楢村氏自身も自分が創ったゲームでプレイヤーが死にゆく様を楽しんでいるようで、わざわざ「メシウマ」を英語圏に伝播させようとしていました。

また日本文化が広まりました。

"プレイヤー殺しの男"楢村氏は、日本のインディーゲームはどうなっているのか?というよくある質問に対しては「これから始まるのだ」と返すと強調しました。さらに、もはや定型化した感すらある"Suck"問題については、発言自体を肯定的に解釈する日本のゲームファンも存在していること、今後日本のインディー界が創りたいゲームを創る(つまり職人気質な作品をリリースする)ポテンシャルを秘めていること、自分たちがゲーム大国の出身であることを挙げ、これを"Luck"と捉えるとしています。こうした論調は、奇しくもBitsummitでのクリスピーズによる基調講演と類似する点が多くあります。なお、GDCのクリスピーズセッションについては近日中に掲載予定です。

Suckの「次に来るのは何か」と考えていた。
これからはLuckだよ。

最後の質疑応答で興味深かったのは、日本の同人またはインディーに二次創作が多い理由について。もともと同人ゲームがコミックと同じ流通に乗って発展したため、集客目的で知名度の高い既存作品を使う動機があったと説明しました。売上を上げようとして人が集まるものを作りがちで、オリジナルのものを生み出さないという悪循環があると指摘しています。なるほど確かに媒体を問わず、クオリティがあきらかにその域に達していないようなものでも二次創作ならば需要を満たすというような風潮はありそうです。

賞を獲得した作品のセッションのようなスタンディングオベーションなどはなかったものの、張り詰めた空気、日本のインディー界の最先鋒を見つめる眼差しのようなものが立ち込める会場の雰囲気が印象的でした。

なお、今回のセッションで一切言及のなかった次回作の横スクロールシューティングについて直接お話しを伺ったところ、まだ開発途上とのこと。楢村氏の中での課題はグラフィックス。ボリュームゾーンである海外ファンにフォーカスするにあたり、このままの路線で行くべきかどうか迷っている様子でした。ともあれ、インディーのニゴロは寝ているわけではありません。今後の動向に注目です。
《Gokubuto.S》
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