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【JRPGの行方】第2回 モラトリアムの延長とタナトスの失効

モラトリアム【moratorium】「知的・肉体的には一人前に達していながら,なお社会人としての義務と責任の遂行を猶予されている期間。また,そうした心理状態にとどまっている期間。」

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【JRPGの行方】第2回 モラトリアムの延長とタナトスの失効
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■RPGにおける「モラトリアム」

    モラトリアム【moratorium】「知的・肉体的には一人前に達していながら,なお社会人としての義務と責任の遂行を猶予されている期間。また,そうした心理状態にとどまっている期間。」(デジタル大辞林)

日本のRPGにおいて、メインディッシュとなる物語は「感動」というキーワードをたずさえて、泣けるエンディング、豪華声優、すごいCGといった要素を盛り込みながら、演出面でピークを迎えていきます。

そこでもうひとつ、RPGがとり入れていったのがサイドメニューの充実でした。

    「ここから先はもう戻れないぞ!」
    「どうだ? 準備はできたか?」
    「 はい →いいえ」

みなさんは物語が終盤になって、こうしたやりとりに遭遇した経験はないでしょうか。往々にして我々は、ここからやり残したコンテンツに取りかかることになります。隠された武器を探したり、動物レースに夢中になったり、闘技場に通いつめたり、人助けをしたり……。世界の崩壊の際にあるか、あるいは主人公が切迫した状況にある物語の終局において、どちらかといえば優先順位の低い事項にもかかわらず。

ここでモラトリアムを思い出してみます。しばしばビルドゥングスロマンの要素(主人公の成長を描く物語)を持つ日本のRPGにおいて、この物語終盤の自由時間は「ラスボスを倒す(=物語を終わらせる)強さに達していながら,なお主人公としての義務と責任の遂行を猶予されている期間」、つまりRPGにおけるモラトリアム期間といえないでしょうか。

■ゲームを「終わらせる」欲望

日本のRPGほど、明確な終わりがあるジャンルもありません。長大なラストダンジョン、強大なラスボス、壮大なエンディング、そして感動のスタッフロールに至るまで、プレイヤーがゲームを「終わらせる」ことの動機づけが積極的に行われてきました。この「終わらせる」というのは単純にエンディングを見ることではなく、そのゲームそのものからプレイヤーが離れることを意味します。

RPGの終わりがしばしば「カタルシス」という言葉で表現されるのは、それが浄化であると同様に排泄の心地よさであるからなのです。ラスボスを倒し、スタッフロールを見て、“fin”などのワードを確認して、「ああ~終わった~!」といって背伸びし、このゲームとサヨナラする。この「開放感」こそが、RPGの魅力のひとつなのです!

RPGにおいて「終わらせる」ということは、プレイヤーの死を意味します。ゲーム中の主人公がエンディングでどうなろうが、プレイヤーはそこから一切介入できません(例外もありますが)。エンディングを迎えて、もう一度タイトル画面に戻ったとき、プレイヤーはすでに死んでいるのです。

    デストルドー(英語: destrudoまたはdeath drive、ドイツ語: Todestrieb (トーデストリープ))とは、ジークムント・フロイトの提唱した精神分析学用語で、死へ向かおうとする欲動のこと。タナトス(英語: Thanatos)もほぼ同義で、死の神であるタナトスの神話に由来する。(Wikipedia)

こと日本のRPGにおいて、「物語を終わらせたい=プレイヤーとして死を迎えたい」という欲望を喚起するために「感動」が用いられてきました。誰もがそこにたどり着くことができ、多くの人に受け入れられる「優しさ」をもったままに。感動のエンディングと同時にプレイヤーとしても終わりを迎える、つまりカタルシスを得つつタナトスを満たすことで、プレイヤーはそのゲームから真に解放されるのです。

「なにを言ってるんだ。俺はいったんエンディングを見てから、やり込み要素にとりかかるよ」という人もいるでしょう。そういった場合、エンディングを迎えたはいいものの、タナトスが満たされない状況(物語は終わってもプレイヤーが終わってない状況)になり、かえってエンディング=物語の頂点は魅力を損なってしまいます。ラスボスと対峙しつつ、やり残したことを頭の中でリストアップしてはいませんか?

《Kako》
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