ハードコアゲーマーのためのゲームメディアGame*Sparkでは、日々、様々なゲーム情報をご紹介しています。しかし、少し目線をずらしてみると、世の中にはゲーム以外にもご紹介したい作品が多数存在します。
そこで本連載では、GameSparkスタッフが、ゲーマーにぜひオススメしたい映画/ドラマ/アニメ作品を1本紹介していきます。今回ご紹介するのは、ジェイムズ・サリスの同名小説を原作とする映画「ドライヴ(原題:Drive)」(2011)です。
昼と夜の顔を持つ、天才ドライバーの純愛
鮮烈な映像美と、華麗なアート的センスを備えた鬼才ニコラス・ウィンディング・レフン。24歳という若さで監督デビューを果たした「プッシャー」(1996)は、批評家筋から高く評価され、映画好きからはカルト的人気を集めました。そして2004年、2005年とそれぞれ続編が公開。この“プッシャー3部作”は本作「ドライヴ」と並ぶ、レフン監督の代表作として広く知られています。
「ドライヴ」の主人公は、昼は自動車整備士と映画のスタントマンとして生活していますが、夜になると“逃がし屋”に変貌。実際の仕事には一切関与はしない、武器も持たなければ、殺しもナシというスタンスで卓越したドライビングテクニックを駆使し、ただクライアントを逃がす……。
彼の名前は劇中では明かされず、単に“ドライバー”と呼ばれています。すご腕ですが、日ごろは無口で無表情。その雰囲気ゆえに、感情はいっさい読めません。この難役を見事にこなしたのは、本作出演後に、「ラ・ラ・ランド」(2016)「ブレードランナー 2049」(2017)でさらなる知名度を獲得することになるライアン・ゴズリング。ニコラス・ウィンディング・レフン監督とは、本作以降も「オンリー・ゴッド」(2013)で再びタッグを組むことになります。
二足のわらじを履く“ドライバー”、彼の運命を大きく変える存在となるのが、キャリー・マリガン扮するアイリーンでした。おなじ階に住む隣人アイリーンには、息子ベニシオがいて、なにかの犯罪に手を染めた夫は、いまは服役中だといいます。ドライバーとアイリーンの出会いは“偶然”か、“必然”か。一目で恋に落ちたふたりは、徐々に親密な関係に発展していくのです。しかし、アイリーンの夫スタンダード(オスカー・アイザック)が服役を終えたことで、ドライバーの純愛の歯車はさらに加速していきます。サスペンス、バイオレンス、アクション、クライム、そしてロマンスの結合。異彩を放つ本作は、レフン監督の才覚がなし得た、最もクールな作品。種々のジャンルを融合させた唯一無二の映画なのです。
美的なバイオレンス描写と、レフン監督の感性
人気女優エル・ファニングを迎えたレフン監督作「ネオン・デーモン」(2016)では、おどろおどろしいまでの残虐シーンを描き話題に。美貌を備えたイノセントな少女が、愛憎と嫉妬にあふれるファッションモデル業界に足を踏み入れ、毒に侵されていくさまを描いています。恐ろしく精彩に富んだバイオレンスな表現は、ときにアート的感覚さえ覚えるハズ。まさにレフン監督の才能とセンスが生んだ奇跡の要素といっていいでしょう。本作「ドライヴ」では“ドライバー”のイノセントな恋心と、その無垢な感情に反発するかのごとく展開するバイオレンスシーン。レフン監督の作品には、こうした芸術的センスを放つ暴悪シーンと、主人公の無垢な情緒の融合が一貫して表出されます。
暴力が渦巻く世界と、主人公のイノセントな感情の対比は、先日公開された『ディビジョン2』の実写トレイラーでも見ることができます。レフン監督が手がけた実写トレイラーには、荒廃した時代を背景に、暴力のはびこる世界を描き、無垢なゆえに自問し苦悩する男の生きざまを映し出しています。
ニコラス・ウィンディング・レフン監督は、こうしたバイオレンスの描写と、ある登場人物のイノセントな苦悩をあえて両極端に描くことで、それぞれの要素を克明に切り取っています。また、さまざまな要素をまぜた異色の2D見下ろし型ゲーム『ホットライン・マイアミ』は、本作「ドライヴ」に強い影響を受けたと、開発陣が言及していることでも有名です。事実、ゲームのエンドロールには、スペシャルサンクスとして、レフン監督の名前がクレジットされています。ゲーム業界にも爪痕を残すレフン監督の代表作「ドライヴ」は、今後も多くのポップカルチャーに影響を与えることでしょう。
映画「ドライヴ」はNetflix、U-Nextで視聴可能。おもわず目を背けてしまいそうなバイオレンス描写と、ピュアなロマンスの融合。レフン節炸裂の奇抜な傑作をぜひ!