オーディンは案外普通のおじさんなのかもしれない―『アサシン クリード ヴァルハラ』オンラインセッションレポート Part4 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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オーディンは案外普通のおじさんなのかもしれない―『アサシン クリード ヴァルハラ』オンラインセッションレポート Part4

第4部ではヴァイキングの精神世界について詳しく語ります。

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オーディンは案外普通のおじさんなのかもしれない―『アサシン クリード ヴァルハラ』オンラインセッションレポート Part4
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第3部では『アサシン クリード ヴァルハラ』で登場する音楽や俳優陣によるモーションキャプチャーなど、ゲーム制作の裏話が披露されました。第4部では、いよいよ本作の中核をなす精神世界と歴史上の人物についてが語られます。

第3部の内容については以下のリンクからどうぞ。

ヴァイキングが人々を惹き付ける理由―『アサシン クリード ヴァルハラ』オンラインセッションレポート Part3


第4部:北欧神話と北欧社会、イングランドとノルウェーにおける中世の信仰について

司会:Juria Hardy

登壇者

Thierry Noel:歴史考証

Darby McDevitt:ナラティブディレクター

Philippe Bergeron:レベルデザインディレクター

Ryan Lavelle:英ウィンチェスター大学教授、アングロサクソン時代のウィンチェスターや、アルフレッド王について世界的に有名な中世初期の歴史に関する専門家

Lucie Malbos:仏ポアティエ大学にて中世史のクラスを持つヴァイキング時代の専門家

北欧神話の考証について

Lucie Malbos信仰については13世紀に書かれた「エッダ」を基にしています。有名なオーディンやトール、フレイヤなど、愛と憎しみが織り混ざるとても人間味のある世界です。

Ryan Lavelleそれぞれの場所が当時の人々にとってどのような意味を持つかを考えました。例えばある川の水源があるならば、神聖な森にとって重要な役割があるなど、スカンジナビアの風景には何かしら物語が付随しています。それが、彼らが自然をどう認識していたかを探る手がかりになりました。

Darby McDevittこのゲームでは「古エッダ」からいくつかの部分をモチーフにしています。自分の死を避けるために知恵を求め続ける場面など、オーディンの物語をエイヴォルも体験することになります。特にオーディン自身の言葉とも言われる「ハヴァマール(オーディンの箴言)」は、ヴァイキングにとって善い生き方とは何かを窺い知るよい例です。大昔に書かれた言葉でも、現代の日常に通用する知恵が込められているんです。

Juria Hardy例えばどんなものがありますか?

Darby McDevitt「あらゆる扉に気を配れ、周囲を警戒せよ。その向こう側に敵がいるやもしれぬ」。他にも「夜中に心配事を考えたとしても、朝起きればそれは変わらず存在し、八つ裂きにしたくなるだろう」など、信仰の本なのにもっと最近書かれたもののように思えるんです。ヴァイキングにカウンセラーは似つかわしくないと思ってしまいますが、していたから受け継がれたのでしょうね。

Juria Hardy小さな本にして駅の売店に置いてあったら思わず買ってしまいそうですね。

Darby McDevittゲーム中のルーン文字を作成していただいた歴史家のJackson Crawford氏(コロラド大学教授、古ノルド語の専門家)が出版していて、分厚い本が私のデスクに置いてあります(笑)

Philippe Bergeron紳士のガイドであったり、品行方正な人間のあり方、悪いやつにはなるな、近所とはうまく付き合えなど、まるでオーディンが飲んだ知恵の水(ミーミルの泉)のように、日常に役立つ箴言で溢れているんです。オーディンが日常を過ごす普通の男のように見えてとても面白かったです。

Thierry Noel彼はとても個性的な人物で、大いなる歴史を抜きにしても、私たちに理解できる大事なことを教えてくれるんです。そこが興味深いですね。

Juria Hardyどんなに時代が離れていても人々の悩みや人間がどうあるべきか、家族を大事に思う気持ちは変わらないのですね。

Ryan Lavelle個々の細かい事情は21世紀の私たちと違いがあるのはもちろんですが、歴史を振り返ってみると、影響を及ぼす要素は私たちと変わらない人間的な振る舞いだと思います。

予言者について

Juria Hardy当時は未来を見通す予言者がいました。未来予知とはどのようなものですか?

Lucie Malbos彼らは特別な未来、主に災厄などを視て人々に知らせます。神でさえも未来を知りたがり、オーディンもラグナロクという世界の終わりを知ってしまうのです。

Juria Hardyタロットカードなど様々な方法がありますよね。

Ryan Lavelleヴァイキングの場合は「ルーンドローイング」などですね。ルーンを刻んだ枝を混ぜてその中から引き当てます。ルーン文字にはそれぞれ象徴する意味があるんです。Lucieが言及したオーディンもこのルーンを使いました。過去と未来は予め決定づけられているという考えに基づいて、その中で何ができるのか、ということですね。

Juria Hardyゲームの中にも予言者が登場しますね。

Darby McDevittエイヴォルは予言者ヴォルカを通して「ヴォスルパー(巫女の予言、「古エッダ」の一節)」のような終末の幻視をします。序盤でも好きな場面ですね。エイヴォルは神話世界へ赴くために予言者を何度も尋ねます。そのなかで、エイヴォルの運命を動かしているものは何か、最後に何が待ち受けているのかを知るのです。

「歴史的サガ」の中にも超常的な場面が含まれていて、「エギルのサガ」ではルーンを使って毒を見破っています。実際には魔術ではなかったかもしれませんが、人々はそういった力があることを信じていたのです。

Philippe Bergeron彼らは複数の世界が存在すると考えました。人間の住む世界は「ミッドガルド」で、全部で9つあるとされています。ゲーム中では神々が住む「アースガルド」、巨人が住む「ヨトゥンヘイム」を訪れます。

Lucie Malbos9つの世界は「世界樹ユグドラシル」の一部であり、巨大な樹を通じてつながっています。

北欧社会における女性の役割

Juria Hardyゲーム中でエイヴォルの性別を切り替えられますが、実際女性は社会の中でどんな役割があったのですか?

Lucie Malbosスカンジナビアの家庭において女性は大黒柱です。鍵を守り、家族を守り、かなり強い権限を持っていました。

Juria Hardy女性が戦士になった例はあるのですか?

Lucie Malbosあまり記録は残されていないのですが、有名な例だとスウェーデンのビルカで発掘された墓の中に、武装した女性の遺骨が含まれていました。様々な仮説はありますが、何かの象徴的な意味合いの埋葬品かもしれないので、一概に女性戦士だったと断定はできないのです。彼女には戦闘の傷が全くありませんでしたから。

Ryan Lavelle傷を受けないくらい強かったかもしれませんよ! 当時は私たちが思っている以上に柔軟だったのかもしれません。現代では二項対立するものだと考えてしまいがちですが、千年の昔には違っていたかもしれません。それらの解釈は史学者と考古学者に委ねられていますから、多数の異なる解釈が生まれますし、面白い議論がたくさん生じるのです。

Darby McDevitt「サガ」の物語では、多くの女性たちが戦闘に巻き込まれたであろうと想像するに難くありません。他の文化圏よりも女性が登場することが多く、神話のブリュンヒルデ、「ヴィンランドのサガ」のフレイディス、「ヘルヴォルとヘイズレク王のサガ」のヘルヴォルなどがいます。神のフレイヤさえも積極的に武器を手に取りました。当初からゲームに取り入れたかった要素の一つです。

Lucie Malbos実のところ、「サガ」に描かれる女性像は後年のもので、「サガ」が書かれた13世紀の女性像を反映しているんです。

Darby McDevitt……過去を振り返るのはよしましょう(笑) 見解の違いということで収めてもらえませんか?

Juria Hardyそれが良さそうです(笑)

Darby McDevitt「ヴィンランドのサガ」のフレイディスはぶっ飛んでますよ。ヴィンランドの探検の時にはある男を殺そうとするのですが……とにかくエキサイティングなドラマです!(笑)

当時に生まれるとしたら誰になってみたい?

Darby McDevittノーサンブリアを治めたラグナルの息子ハールヴダンにもなってみたいですが、詩を書くなどして言葉を自由に使えるようになりたいですね。私がヴァイキングになっても、他の人に詩を書いてもらえそうにありませんから。

Ryan Lavelle私もそれがいいですね! 詩を競い合うステージに立って、栄誉をつかんだ暁には人々を酔わせて一山稼ぐんです。

Lucie Malbos私は予言者ヴォルカです。見通す未来にも、過去の歴史へも自在にタイムトリップができますから。

Thierry Noel皆さんヴァイキングばかりですけど、私はアルフレッド大王です。彼は大敗北を喫した後に反撃を成し遂げましたが、本当にイングランドを守るまでに至ったかは謎なんです。

Philippe Bergeron鍛冶屋になって剣や鎧を作りながら年を取りたいですね。戦士に武器や防具を提供しつつ、静かな余生を送りたいです。

ゲームに登場する実在の人物について

Darby McDevittヴァイキングのイングランド侵攻は「暗黒時代」と呼ばれるだけに、ほとんど何も知りませんでした。アングロ・サクソン側に残されたアルフレッド大王の記録と「サガ」から名前を集めていきました。その中で特に重要だったのが、ラグナルの息子たちが率いる「大異教軍」です。イングランドで殺された父ラグナルの仇討ちに、骨無しのイーヴァル、ノーサンブリア王になるハールヴダンなどが大活躍しました。それから数年後にグスルム率いる「大夏軍」が上陸し、アルフレッド大王と激戦を繰り広げます。ヴァイキング側には個性的な人物がまだまだ登場しますよ。

アングロ・サクソン側はアルフレッド大王のウェセックスを含む4つの国があります。ブルグレッドのマーシア王国を始め、それぞれのリーダーに会うことができます。

Juria Hardyラグナルはどのような人物だったのですか?

Thierry Noelラグナルは最も有名な伝説のヴァイキングです。その実在は今のところまだ分かっていませんが、「サガ」の中で最も影響を及ぼした人物でしょう。本当の血縁に関係なく「ラグナルの息子」を誰もが名乗りたがり、パリを攻めたヴァイキングの中にもいました。イングランドで殺されたとされ、息子たちがその復讐に侵略を行ったといいます。

Juria Hardyクエストの要所で彼らと出会いますが、実在の人物を物語に組み込むとき、確たる歴史の中からどのようにフィクションを加えていったのでしょうか?

Philippe Bergeronそれほど難しくはありません。彼らの周囲は濃いキャラクターが出てくる雄々しい愛憎劇で溢れていますから。それぞれが個性や動機を持っていて、題材には困りませんでした。イーヴァルとウッバはこの時代のロックスターで、旅を通じてより大きく成長していきます。アルフレッド大王はいつ背後から刺されてもおかしくない、まるでチューダー朝のような家族の愛憎に囲まれています。プレイヤーの目的も「サガ」などから見つけてこれるんです。

Juria Hardyアルフレッド大王についても教えてください。

Darby McDevittこの時代のイングランドを知るにはアルフレッド大王は欠かせません。兄のエゼルレッド王とともにヴァイキングとの戦い(アッシュダウンの戦い)へ赴いた際、傷を負ったエゼルレッド王が死去し、アルフレッドが王位を継ぎました。そのとき彼はまだ22歳で、自分が王になるとは思ってもいませんでした。彼は敬虔なクリスチャンで、クローン病だったとも言われています。彼はそれを克服してヴァイキングに立ち向かいました。そのことで国中から尊敬を集めたのです。

ヴァイキングがトールの鎚にするように、彼も十字架に自国を守ることを誓いました。数年かけてヴァイキングの戦術を打ち破り、最終的に小王国に分かれていたイングランドを統一します。ヴァイキングが思わず改宗したくなるくらい、彼はキリスト教徒を良くまとめていました。ゲームの中でも彼の優しい一面に触れることができるでしょう。

Juria Hardyイーヴァルもまた歴史に名を残している人物ですね。

Philippe Bergeron「骨なしのイーヴァル」と渾名される彼は、先ほどから何度か出てきたラグナルの息子たちの一人です。ラグナルの息子は多くのヴァイキングが名乗りましたが、私たちはその中からイーヴァルとウッバを選びました。ヴァイキング文化の異なる面を象徴するキャラクターで、イーヴァルは戦いの中で名誉の戦死を望むような昔ながらのヴァイキング、ウッバは外交でヴァイキングを平和的にまとめようとしています。方向性の違いで対立するのですが、これによってヴァイキングの二面性が見えてくるでしょう。

Juria Hardy彼らの情報はとても少なく大変だったでしょうね。

Thierry Noelウッバなどは時代が下るにつれて何度も上書きされ、実在していたかは分かりません。イーヴァルの方は大異教軍を率いて大きく活躍しましたから、イングランドの歴史に大きく影響を及ぼしています。アイルランドや小王国の多くが彼に滅ぼされ、そのときにラグナルの息子だと名乗りを上げたそうです。

Juria Hardyなぜ皆がラグナルの息子を名乗りたがるんでしょう?

Philippe Bergeronラグナルの名前はヴァイキングにとって王権のようなものですから、手っ取り早く名を挙げるには便利だったんでしょう。

Juria Hardy今で言うとYouTubeの有名人になるんでしょうか(笑) 歴史資料を集める中で、何か変わり種はありましたか?

Darby McDevitt史学家の方とは早くから相談はしていたのですが、現存する文書からは新しい情報はなかなか出てきませんでした。考古学者の方は金貨の山や宝物を探していて、例えばイーストアングリアで見つかった宝物庫では、イーストアングリアのÆthelberhtとÆthelred、それぞれが刻印された2枚のコインが見つかりました。

このコインの発行はどちらも同じ867年です。2枚コインは元々同じもので、イーストアングリアの乗っ取りが行われたことが分かります。その犯人はおそらくヴァイキングの傀儡だったでしょう。このコインからオズワルドというキャラクターを構築していきました。デモで彼が登場したとき、多くの人が「イーストアングリアのオズワルド」で検索したでしょうが、彼はこの千年もの間誰にも知られていませんでした。今回、ようやく彼が日の目を見るときがやってきたのです。

Juria Hardyでは続いて神話の有名人のことも教えてください。これは誰ですか?

Philippe Bergeronこの可愛い仔は「フェンリル」です。彼は「古エッダ」の冒頭にある「ヴォルスパー」で、オーディンが神々の未来を知る場面に登場します。この巨大な狼はオーディンを喰い殺すとされ、オーディンはそれを回避することで頭がいっぱいになるんです。

Juria Hardy動物が出てきてうれしいんですが、もうちょっと可愛い子はいませんか?(笑)

Philippe Bergeronツノメドリやアザラシもいますよ! 喋らせたりはしませんが、イングランドのレイブンスカーを訪れたときに、崖を降りていくとたくさんのアザラシが群れていて、カナダで見たときよりもずっと側まで近寄れました。すぐにゲームへ出したいと思いましたね。

Juria Hardyアザラシは「扉」へ連れて行ってくれるそうですね。

Darby McDevittキノコをかじったときに見る幻覚のなかでパズルを解く場面があるのですが、アザラシはその中で手助けをしてくれます。とてもフレンドリーですから優しくしてあげてくださいね。

Juria Hardy残念ながら本日はこれにて時間いっぱいです。登壇いただいた皆さん、ありがとうございました。


緻密な歴史考証を誇る『アサシン クリード』ならではの濃厚な歴史談義が繰り広げられたパネルディスカッション。一つの文化をまるごと描き出すために莫大な時間をかけていることがよく伝わりました。本作でもディスカバリーツアーがあり、さらには季節イベント「ユール」が12月に予定されています。なかなか外に出かけられない昨今ですが、『アサシン クリード ヴァルハラ』でイギリスと北欧の観光旅行を心ゆくまで堪能しましょう!

《Skollfang》

好奇心と探究心 Skollfang

ゲームの世界をもっと好きになる「おいしい一粒」をお届けします。

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