海外で2001年7月23日(Rockstarでは7月25日表記)に3D RealmsよりPC向けに発売された、Remedy Entertainment開発のTPS『Max Payne(マックスペイン)』。ジョン・ウー監督作品を筆頭に香港映画のアクションから色濃く影響を受けた本作は、能動的なスローモーションをゲームシステムに落とし込むとともに、ハードボイルドなストーリーを展開しました。ゲーム内TVでの寸劇など後のRemedy作品の基礎を数多く作り、20周年を迎えた本作を振り返ります。
「その男は、憎しみを装填する」―ハードボイルドでダークな復讐劇
本作は、ニューヨークで繰り広げられるハードな復讐物語と共にシビアなゲームバランスで成り立っています。そのストーリーは過去に妻子を合成麻薬「ヴァルキア」中毒者によって殺されてしまった警官の主人公マックス・ペインが、復讐心に燃えるなかヴァルキアの裏に潜むギャングや巨大企業などの陰謀に立ち向かうというもの。
『Max Payne』のストーリーを振り返ってみると登場人物に焦点が強く定まっているため、ロケーションに富んだ銃撃戦だけでなくキャラクターの名前やグラフィックノベルでの描写が印象に残りやすく出来ています。
こういったハードなストーリーでは、セリフの量が少なくなりがちですが、積極的にマックスのモノローグを増やすことで解決し、復讐の炎に燃えるマックスの心情を丁寧に描くことで物語への没入感を高めています。改めて台詞などを取り上げてみても古のハードボイルド小説の朗読を聴いているような、抑揚を抑えたドライな表現を持っていることが他にない魅力でした。
他にも、本作独特の語り方を強く感じさせるのがフルボイスのグラフィックノベルパート。このパートのビジュアルは、実際に撮影された写真を元に水彩画風のイラストへと加工したもので、マップ上で現れるマーキングや電話、物体など「!」マークが現れたところを調べると、一部にノベルシーンが展開されます。
ゲームの舞台となる場所もニューヨークの地下鉄駅からスタートし、ギャングが潜むアパートやコンテナヤード、レストラン、豪邸、工場、立体駐車場、高層ビル……など80~90年代アクション映画で舞台となりそうなロケーションがピックアップされています。
またマップ細部には、一部に環境ストーリーテリングを用いているような壁の落書きや意味深な注射器などが配置されており、そのこだわりを見て取ることができます。他にも、マックスが抱える心の闇を描くものとして、各パート冒頭ではメタネタやホラー要素を含めたマックスの悪夢が展開。プレイヤーはおどろおどろしい空間を突破することでマックスを正気にさせるのです。
バレットタイムを用いた緩急激しい銃撃戦だけでなく、物語描写に強い力を注いでおり、モノローグやカットシーンなども含めてフルボイス化されていることが本作の魅力を決定付けたと言えるでしょう。もちろん、20年前の作品ということで相対的にクラシックなゲームとなってしまった2021年現在でも本作が持つ魅力は色褪せていません。
また今改めてプレイしてみると、2001年当時としてもストーリーや登場人物、そして街並みに関して古い小説のようにクラシックなデザインであることを意識させ、モダンなデザインが出ることを極力抑えていることに気付きます。続編の『Max Payne 2』が古いフィルムノワール映画を意識していたのに対し、2012年の『Max Payne 3』がカットシーンの描写も含めて現代的なクライムアクションを表現しようとすることに精力的だったのが対照的です。
シンプルかつ奥深いバレットタイム―TPSの基礎を完成させた『Max Payne』
ここからはゲームプレイについても改めて振り返っていきましょう。本作はジャンプや射撃などの基本的な操作を有したTPSですが、最も特徴的なのが体感時間を遅くさせる「バレットタイム」です。バレットタイムはゲージで管理されており、使用するとゲージを消費しつつ時間が遅くなることで(敵を倒すと回復する)、敵から発射された弾丸を回避したり、エイミングで敵を一網打尽にするようなプレイが可能になります。
加えて「シュートダッジ」と呼ばれるジョン・ウー映画などで繰り広げられる飛び込みアクションを再現するような、前後左右への飛び込み攻撃がとれるスタイリッシュさも持ち合わせています。一方でゲームスピードはかなり早く、さらに敵の射撃精度やスピード、ダメージ量も高いため、バレットタイムやシュートダッジを積極的に使用しないと倒されやすいシビアなゲームバランスでした(加えて、突然手榴弾が投げ込まれたり敵配置も不意を突かれたりと、パターン化して対応するシビアなシーンも多々あった)。
逆に考えれば「難易度が高い故にバレットタイムを使用する」という導線が完成しているため、ゲームバランスがシビアであればあるほどその存在価値が高まったとも評価できるでしょう。
本作がいつでも発動出来るスローモーションを導入した初めてのゲームではありませんが、(1998年発売の弾幕STG『怒首領蜂』のPS版ではスローモーション機能がある)、その影響は大きかったのか、FPSでスローモーションを大々的に取り入れたMonolith Productionの『F.E.A.R.』(2005年発売)のようなタイトルだけでなく、『コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア2』(2009年発売)のブリーチングなどゲームプレイの一部のみに導入されるケースもありました。
他にも、現在のTPSにおいて当たり前となった自由なカメラ操作+照準について、マウス/右スティックで照準を定める操作系の基礎に大きく寄与したタイトルであるのかもしれません(過去に射撃要素があるゲームでもロックオン形式が多かった)。
そこを考慮してみると、以後にリリースされたIllusion Softworks(現、2K Czech)の『Mafia: The City of Lost Heaven』(初代『マフィア』。2002年発売、日本語版は2003年発売)やRockstarの『レッド・デッド・リボルバー』(2004年発売、日本語版は2005年発売)などは本作のTPSスタイルを踏襲していることに気付かされます。一方で、TPSが2005年の『バイオハザード4』のビハインドビュー形式に落ち着くまで約4年ほどしか間がないため、このジャンルが如何に研究され様々なアプローチが取られて来たのかということにも驚きます。
『Max Payne』初出はベンチマークソフトの『Final Reality』から
フィンランドに拠点を据えるRemedy Entertainment(以下、Remedy)は、90年代に欧米で旺盛を極めたメガデモを制作していたデモグループFuture Crewの一部によって設立したゲームメーカーです。彼らが手掛けたこの『Max Payne』は、Remedy初作品である1996年リリースの『Death Rally』後に計画されたタイトルで、1997年にはVNU EuropeanLabs共同開発のベンチマークツールである『Final Reality』に看板として登場していました(なお、同ツールを開発したチームが「Futuremark(現、UL Benchmarks)」として1998年に独立)。
Game InformerやRetro Gamer issue 143(3D Realms公式に掲載)に掲載されているメイキングによると、当初はトップダウンシューターを想定していましたが開発が進むにつれてジャンルがTPSへと変化。また、主人公の顔やグラフィックノベルのモデルに脚本のサム・レイク氏を起用していたのは、単純に俳優を雇う予算がなかったためです。
他にも元RemedyのAki Raula氏へのインタビューによると、本作を特徴付けるバレットタイムは、初期において特定の部屋やストーリー展開で発動するように割り当てられていましたが、なかなか上手く機能せず調整に苦労していたそう。本作のデモを考える過程で、手動でスローモーションのオンオフを繰り返すうちに、プレイヤー側へスローモーションの制御を移せばゲームとして成り立つことに気付いたと語っています。
『Max Payne』の開発は時間がかかり、RemedyがFuturemarkと共にゲームエンジンMAX-FXを『3D Mark』シリーズのリリースに合わせてブラッシュアップしていくなか、1999年には実際にボディーガードを引き連れてニューヨーク深部への取材をしています。ゴールド(完成)を迎えたのは2001年6月で、最終的に北米で発売されたのが2001年7月25日であることを含めると実に4年以上の歳月が掛かりました。なお同年末には、テイクツーとRockstarの支援を受けてPS2/Xbox版が北米にてリリースされています。
一方で日本国内では、PC版の日本語マニュアル付英語版が2001年8月10日に発売。また、PS2向けの日本語版が発売されたのは2003年5月22日と最後発ですが、ローカライズをかつてのEA Japanが担当するとともに、グラフィックノベルの日本語化や吹き替え音声など必要なパートは全て日本語化されていました(ちなみに主人公マックスの吹き替えは小杉十郎太さん)。
ちなみに、映画「マトリックス」からの影響を色濃く受けていたのは『Max Payne』本編とというよりは『3D Mark』シリーズ側。例えば『3D Mark 2000』の「ポリゴンに表示された縦書きの文字の羅列」や、『3D Mark 2001』における「エレベーター前の銃撃戦」などです。一方で『Max Payne』はインタビューなどで言及されているとおりジョン・ウー監督作品的な要素が強く、二丁拳銃アクションや劇中のセリフ「まるで俺はチョウ・ユンファだ」などに現れています。
テイクツーへ売却された『Max Payne』―今から遊ぶにはスマホ版が最適か
長い年月を掛けてリリースされた『Max Payne』は、最終的に400万本以上の売り上げを達成しました。その後2002年5月にRemedyとApogee Software(3D Realms)は、テイクツー・インタラクティブへ『Max Payne』IPを売却するとともに、Remedy開発による続編『Max Payne 2』を発表。
『Max Payne』の版権がテイクツーに買収された後、2003年10月に続編の『Max Payne 2: The Fall of Max Payne』が発売されました(『2』は残念ながら日本においてローカライズされなかった)。シリーズとしては一旦ここで立ち止まる形となりましたが、2008年に実写映画版が公開された事に加え、開発をRockstar Studioが担当する『Max Payne 3』が『2』発売から9年の時を経て2012年に発売されています。
一方でRemedyは、2005年にオープンワールドタイトルとして『Alan Wake』を発表するものの開発が難航し、最終的には進行をリニアに変更して2010年にリリースするという初代『Max Payne』並みの長期間に及ぶ開発となっていました。
なお初代『Max Payne』は2012年にiOS/Androidのスマートフォン向けに移植されています。このスマホ版は、PC版をベースにワイド画面へ対応させたもので、どこでもセーブが可能となった他にも、前述のフルローカライズされた日本語PS2版の音声ソースなどを用いているために理想的な日本語版として仕上がっています(加えて、パッドにも対応している)。
オリジナルのPC版はSteamで販売されていますが、日本語が導入されていないことに加え、通常インストールしてもBGMが鳴らないことやワイド画面に対応していないことなど、対処しなければならない問題も多く、勧めるのが難しいところ。
そのため、2021年時点ではスマホ版が今からプレイするなら最適ですが、出来れば大きい画面で遊びたいところです……(それでも調整されているためちゃんと遊べる作りにはなっている)。20周年を迎えたタイトルですが、ゲームそのものの完成度の高さは今プレイしてみても現代のTPSと比較しても遜色ないといえます。記念すべきこのタイミングで再びプレイするもよし、プレイしたことのない若いゲーマーは過去の金字塔に触れてみるのもいいかもしれません。