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『コーヒートーク』のモハメド・ファーミ氏が見つめていた「SNS社会の落とし穴」―逝去の報に触れて【コラム】

稀代のクリエイターとして新作も嘱望されていたファーミ氏。逝去の報に触れ、氏が見ていたインドネシアの現状を紐解きながら、現地でどのように受け止められているかなどをまとめていきます。

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『コーヒートーク』のモハメド・ファーミ氏が見つめていた「SNS社会の落とし穴」―逝去の報に触れて【コラム】
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  • ストポ・プルウォ・ヌグロホ氏(Photo credit should read Jefta Images/Future Publishing via Getty Images)

災害の度に拡散されるデマ

インドネシアでスマートフォンが爆発的に普及したのは、2015年からである。筆者はこの時のインドネシアを、まるで昨日のことのように覚えている。

2015年の中頃に100ドル程度のAndroidスマホが続々登場するようになり、それまで1年ローンを組まなければ買えないようなものが一括支払いで入手できるようになったのだ。様々なオンラインサービスも雨後の筍のように登場し、Facebook、Twitter、Instagram等のSNSもあっという間に普及した。

今現在のインドネシアでは、スマホの2台持ちや3台持ちは珍しいものではない。しかしそれは、ネガティブな情報がSNSを通じてあっという間に拡散されてしまうということでもある。「ネガティブな情報」とはデマ、フェイクニュース、特定の人物や民族に対する誹謗中傷だ。

その上で、インドネシアは環太平洋火山帯に沿う島国だ。日本と同じように地震が頻発する。

たとえば、インドネシア国内のどこかの地方で大地震が発生したとする。すると「地震発生数時間後の動画」がSNSで拡散される。そこに映っているのは、商店へ空き巣に入る火事場泥棒の集団。店主が避難している隙に、店の中のものを次々と盗んでいく。

当然、この動画は炎上する。「こいつらは一体誰だ!?」と言い出すSNSユーザーが現れ、それをきっかけにあらゆる憶測が飛び交うようになる。「これは○○族の仕業に違いない!」「いや、××人だ!」「△△市のプレマン(ギャング)だろう」。

しかし、この動画自体がインドネシアとはまったく関係のない、他国の過去の地震を撮影したものだったら?

日本でも2016年の熊本地震の際に「動物園から逃げたライオン」の写真がSNSで拡散されたことがあったが、そのようなデマがインドネシアでは災害が起こるたびに拡散されている。その伝達速度は、日本の比ではない。何しろインドネシアでは、SNSのアカウントの数だけスマホを所持する人が少なくないからだ。

まさしく津波のように押し寄せるデマやフェイクニュースに対して、たった一人で立ち向かった人物がいた。2019年に逝去したインドネシア国家防災庁のストポ・プルウォ・ヌグロホ報道官である。

「ネット情報の真贋」を検証し続けた報道官

ストポ・プルウォ・ヌグロホ氏(Photo credit should read Jefta Images/Future Publishing via Getty Images)

ストポ報道官は、「ネット上で拡散されている画像・動画の真偽」を検証することで知られていた。真贋の結果は、ストポ報道官のTwitterアカウントで公開する。

ひとつ例を挙げよう。以下は日本でも拡散された動画である。

2018年のライオン航空610便墜落事故で、乗客が墜落寸前の機内を撮影してSNSに投稿した動画……という触れ込みだった。ところがストポ報道官の検証により、この動画はライオン航空610便とはまったく関係ないことが判明したのだ。

ここで我々は、上述のリオナの言葉を思い出す必要がある。

「視聴者はいつだって正しいと思う?」

ネットユーザーたちは、ほんの一瞬とはいえ「それを見た自分の解釈は正しい」と信じていた。だからこそ、「610便墜落寸前の機内の動画」をリツイートしてしまった。自分の持っているアカウントの数だけ――。

この時既に末期の肺癌に蝕まれていたストポ報道官は、2019年7月に逝去するまで世界のネットユーザーに対して模範を示し続けた。「デマやフェイクニュース、他人を傷つける可能性のある書き込みは、君のところで止めよう(Stop di kamu)!」。このような偉人が、日本とさほど離れていない環太平洋諸国に存在したのだ。

『コーヒートーク』は今現在のインドネシアそのもの

ファーミ氏がゲームクリエイターとして活動する中で、「SNSとの付き合い方」は熟考せざるを得ない項目だったはずだ。それを『コーヒートーク エピソード2』で表現する予定だったとしたら、このゲームはやはり「今現在のインドネシア」そのものなのだ。

……もちろんこれはインドネシアに限らず、「SNSがきっかけのトラブル」や「インフルエンサーの暴走」、「ネット上の誹謗中傷コメント」といったことは日本でも頻繁に発生している。中には面識のない誰かを中傷することで、一時のストレスを解消しようとする人もいる。そして、この記事を書いている今も第二、第三のリオナが頭を抱えながら、怒りと悲しみに我を失っている。

ファーミ氏は、我々現代人に対して大きな宿題を与えたのだ。

そんな稀代のクリエイターが手掛けた『コーヒートーク』のSteam版は、4月5日3時まで32%オフのセールを実施中で、セールの収益はファーミ氏の遺族に全額寄付される。日本国内向けには、コーラス・ワールドワイドよりPS4/Xbox One/ニンテンドースイッチ版も販売されている。










《澤田 真一》

ゲーム×社会情勢研究家です。 澤田 真一

「ゲームから見る現代」をテーマに記事を執筆します。

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