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老いれば老いるほど強くなる中国拳法の不思議。『Sifu』で再現されている「高齢格闘家の強さ」を中国拳法教練が解説!

「加齢システム」が教えてくれる、人生で最も大切なこと。

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老いれば老いるほど強くなる中国拳法の不思議。『Sifu』で再現されている「高齢格闘家の強さ」を中国拳法教練が解説!
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今年3月に配信が予定されているカンフーアクションゲーム『Sifu(師父)』は、本物の中国拳法家をモーションアドバイザーに招聘したタイトルです。

故に、その動きは極めてリアル。昔の香港映画にありがちだった「ややオーバーなアクション」ではなく、「小さく細かい打撃」が見事に再現されています。そしてこの『Sifu』の最大の特徴は「加齢システム」。主人公が死亡した場合、少しずつ加齢しながら復活します。

20歳から始めて、気がつけば70歳を超えていた……ということも。歳を取れば格闘家としては弱くなるどころか、何と老人になればなるほど攻撃力が増加!

「若者より老人のほうが強い」というのは、実際の中国拳法を反映しています。今回は詠春拳教練の筆者が、「なぜ老人のほうが強いのか?」という点について解説していきます。

若いうちはなかなかできない「脱力」

とはいっても、筆者はパンデミックをきっかけに詠春拳を始めてからまだ2年ほどしか経っていません。

去年、仏山の本部が指定する型の試験に合格し、今は中国から認定証が届くのを待っています。それが筆者の自宅に到着したら「詠春拳初級教練」になるらしい……というのが実際のところ。結局はまだまだ未熟者で、偉そうに他人を指導できるレベルではまったくありません。澤田真一38歳、師父への道は遥かに遠い凡庸な小市民。

実際、中国拳法で30代は「若造」です。

普段は杖をついて歩いている老師が型の演舞をしている動画を観たことがありますが、ところどころの「止め」「脱力」が完璧にできています。中国拳法のパンチはボクシングのように「腰の捻りをフル活用して勢いをつける」というのではなく、関節にほとんど力を入れていない状態からいきなり拳を繰り出します。

最初はゴム人間になったようにフニャフニャ状態で、インパクトの瞬間だけ力を入れる。端的に書けば、これが中国拳法です。

しかし、実際にやってみると脱力が難しい! 「肩に力を入れるな」と言われても、どうしても入ってしまいます。特に若者はパワーに頼ってしまうため、むしろ動きがギクシャクしてしまうというわけです。

パンチングマシンと「実戦での強さ」は関係ない!

中国拳法において、防御は直後の攻撃に入るための前段階でもあります。

相手のパンチを左腕でブロックした刹那、右の拳でカウンターを見舞う……という展開はカンフー映画でもよく見かけますね。これらの動作は脱力ができていないと、どこかで遅れたり途切れが出てしまいます。

『Sifu』の加齢システムにおいては、老齢になれば攻撃力は増しますがHPが少なくなります。つまり「相手の攻撃を恐れずに倍返し」という脳筋戦法はできなくなり、代わりに中国拳法本来の「防御直後のカウンター」が物を言うようになります。

70歳を過ぎてしまった『Sifu』の主人公にパンチングマシンをやらせたら、もちろん若者の記録にはまるで及ばないでしょう。

しかし、パンチングマシンは人間のように動きません。「何百kgの重さのパンチを繰り出すことができる」ということと「対峙している相手を即座に倒せる」ということは、本来であればまったく関係のない要素です。

人体の構造や急所を知り尽くし、そこに確実な打撃を見舞うことのできる老師は、筋骨隆々の20代を数秒で制圧してしまいます。

もしもブルース・リーが存命なら?

歴史的映画俳優ブルース・リー師父は10代の頃、イップ・マン(葉問)という詠春拳の先生に弟子入りしました。

従って詠春拳の系譜図にも「李小龍(リー師父の中国名)」と書かれているのですが、もしもリー師父が32歳で落命せず今も存命であれば……という“if”をこの機会に考えてみましょう。

リー師父は1940年11月27日生まれ。今も健在なら、今年で83歳ということになります。「燃えよドラゴン」の頃の筋肉はもはや失われ、普段の動きも鈍くなっているでしょう。

ところが、その分だけ脱力ができているはずです。脱力は結果として「初動の速さ」に直結します。つまり80代のリー師父を戦わせたら、若い頃よりも打撃にキレがある可能性が……ということです。

友よ、水になれ

老いれば老いるほど強くなる中国拳法と、それをシステムに反映させた『Sifu』。このゲームを通じて、我々現代人はひとつの希望を見出すことができます。

それは、「加齢は悪いことではない」という希望です。

現代では38歳は「アラフォー」と呼ばれ、区分けをしたら完全に「中年」に入ってしまいます。しかし、もっと広い視野で見れば30代後半は未だ若輩ではないでしょうか? そして理性的に考えたら、人間は経験を積めば積むほど各分野で強くなっていくはず。敢えて逆さにした言い方をすれば、若い頃は有り余る体力くらいしか頼れるものがないということです。

「友よ、水になれ」(ブルース・リー)

人生を歩む上で一番大事なことを教えてくれる『Sifu』は、ニンテンドースイッチ/Epic Games ストア/PS4/PS5向けに配信中。2023年内にはSteam/Xboxコンソール版がリリースされます。



Sifu -Switch
¥3,700
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)
《澤田 真一》

ゲーム×社会情勢研究家です。 澤田 真一

「ゲームから見る現代」をテーマに記事を執筆します。

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