珠玉のミステリー『ゴースト トリック』『逆転裁判』と「オッドタクシー」はいかにして生まれたか【巧 舟×此元 和津也 対談】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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珠玉のミステリー『ゴースト トリック』『逆転裁判』と「オッドタクシー」はいかにして生まれたか【巧 舟×此元 和津也 対談】

『ゴースト トリック』HDリマスター版の登場を記念し、巧氏・此元氏の対談が実現!それぞれの流儀や、自身の原点、仕事へ対する熱量などを存分に語り合っていただきました。

連載・特集 インタビュー
珠玉のミステリー『ゴースト トリック』『逆転裁判』と「オッドタクシー」はいかにして生まれたか【巧 舟×此元 和津也 対談】
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2023年6月30日にHDリマスター版の発売を控えた、名作として名高い『ゴースト トリック』。

街の片隅で、命と記憶を奪われた主人公・シセルの、たった一夜の追跡劇。自分を殺した犯人と、その真実をたどるうち、すべての物語は1つの結末に収束してゆく……という物語です。

2010年、そのオリジナル版を手がけたのは、人気シリーズ『逆転裁判』の生みの親でもあるカプコンのゲームクリエイター・巧 舟氏。その彼が「おもしろい!」と膝を打ち、2日間で全話を見終えたと語るのは、2021年放送のオリジナルTVアニメ「オッドタクシー」です。

41歳のタクシードライバー・小戸川と女子高生失踪事件をめぐる不穏さをはらむ群像劇は、巧氏のみならず多くの視聴者を虜にしました。その脚本を手がけた、「セトウツミ」でも知られる漫画家/脚本家の此元和津也氏に、「なんとなく同じニオイを感じる作り手として興味を持っていた」という巧氏。

このたび、『ゴースト トリック』HDリマスター版の登場を記念し、巧氏・此元氏の対談が実現!それぞれの流儀や、自身の原点、仕事へ対する熱量などを存分に語り合っていただきました。

■巧 舟
1994年カプコンに入社。2000年『DINO CRISIS 2』で初のディレクターを務めたあと、2001年『逆転裁判』で企画、脚本、監督を兼任。以来、約20年にわたるシリーズとなる。『逆転裁判3』までの初期三部作を制作後、『逆転裁判4』ではシナリオ原案を担当、いったんシリーズを離れ『ゴースト トリック』の企画、脚本・監督を務め、2010年発売。2012年、レベルファイブと共同で制作した『レイトン教授VS逆転裁判』でシリーズに復帰、2015年、成歩堂龍一の先祖の活躍を描いた『大逆転裁判 ~成歩堂龍ノ介の冒險』、2017年『大逆転裁判2 ~成歩堂龍ノ介の覺悟』を手がける。逆転シリーズは宝塚歌劇団、テレビアニメ、漫画、映画、舞台、リアル脱出ゲームなど幅広いコラボを展開、その監修も務めている。

■此元和津也
2010年、漫画「スピナーベイト」で漫画家としての活動をスタート。2013年、読み切りで掲載された「マジ雲は必ず雨」が人気を集め、その後「セトウツミ」に改題、連載スタート。2014年には、「聾の形」「弱虫ペダル」「僕だけがいない街」など名だたる作品と共に『第18回手塚治虫文化賞-読者賞』にノミネートされる。同じ場所、同じ二人の会話だけで繰り広げられる物語は、その後映画化、ドラマ化と拡大していき大ヒット。 2019年、「ブラック校則」では映画、ドラマ、Huluオリジナルストーリーで本格的に脚本家としての活動をスタート。2021年に放送されたTVアニメ「オッドタクシー」でオリジナル脚本を手掛け大きな話題を呼んだ。現在は独自の作家性を生かして、漫画以外の領域へも活動の場を広げている。2018年よりP.I.C.S. managementに参加。

◆オフでは仕事を忘れたい!


僕がアニメ「オッドタクシー」を初めて知ったのは、チームの仲間のオススメだったんですけど、それと同時に、当時『ゴースト トリック』のファンのあいだで話題になっているらしいと聞いたんです。それで興味を持って、一気に観ました。『ゴースト トリック』好きがオススメするなら、きっと自分も気に入るはずだと思って。

そして実際、とてもおもしろかったです。そのことをメディアのインタビューなどで話していたら、それが縁になったようで、去年、番組のWebラジオに呼んでいただきました。

そのラジオでも言ったのですが、脚本を担当した此元さんの存在が気になっていたんですね。「オッドタクシー」を観たあと、実はマンガ家だと知ったので「セトウツミ」を読んで、これもおもしろくて。作者はどんな人なんだろうと興味を持ったんですけど、とにかく情報が少なくて謎の存在だったんです(笑)。だから今回「対談してみませんか?」というお話をいただいて飛びつきました。実際お会いしてみて、やはり“作家さんだな”という印象ですね。

此元そうですか?

此元さんって、本当に情報がないんですよ。写真もないし、インタビュー記事もほとんど見あたらない。ちなみに今回の対談で、顔を出すのは……?

此元出方によりますが、あまり出したくないです。今も交流がある学生時代の同級生たちにも、自分の仕事のことは話していないくらいです。

徹底してますね(笑)。

此元作品を作る以外のことで、負担になることはしたくないなと……。

友だちから「オッドタクシー、面白かったよ!」なんて言われたら、何かの励みになるかもしれませんよ。

此元そういう話はあまりしたくないんです(笑)。プライベートでは、仕事のことをいかに忘れるかが大事だと思っています。

オンとオフの切り替えがシッカリしすぎているような(笑)。

此元むしろ「切り替えがうまくないので無理やりオフにしている」という方が近いです。巧さんは、ずっと会社員をされているんですよね。

はい。ずっとカプコンの人ですね。

此元普段、シナリオは会社で執筆されているんですよね?

そうですね。なんといってもサラリーマンですから。

此元でも、うまく書けない日、思うようにネタが出てこない日というのもありますよね。

たしかに。それでも何か書かないといけないのがサラリーマンですね。でも、その縛りのおかげでなんとかやっている部分があるかもしれません。此元さんは、就職する道は考えなかったんですか?

此元まったく考えていませんでしたね。仕事をするということがどういうことなのか、いまだによく分かっていません(笑)。今日は、それを巧さんに教えてもらえればと思っています。

いやいや(笑)。僕としては、会社という組織に属さず、自分のウデ一本を頼りに生き抜いていく作家という立場を選んだ勇気がすごいと思います。

此元これまでに独立を考えたことは?

その勇気はなかったです。小さい頃からミステリーが好きだったので、それを仕事にできたらいいな、とは思っていましたが、作家になろうと本気で考えたことはないですね。小心者なので。

此元やはり、ミステリー作品を手がけたくて就職しようと?

そうですね。だから、ミステリーが得意な出版社を思いつくかぎり受けたんですけど、すべて落ちてしまって。そこで、カプコンの二次採用募集に滑りこみました。

此元そうなんですか……その出版社は、見る目がありませんでしたね(笑)。

◆プロットはどこまで準備する?それぞれの“流儀”とは


脚本や漫画を描かれる際は、どういう方向からアプローチされますか?

此元アプローチといえるほどのことは何も……。そういった勉強もしたことないですし。

やっぱり、描きたいという思いや描きたいものがあったからこそ、この道に進まれたわけですよね。

此元きっかけは勤めに出たくないとかそういう感じでした。でも漫画家としてデビューした前後は書きたいことがたくさんあった気がします。

あった”って、過去形じゃないですか(笑)。その時の熱い気持ちが続いたのは、どのくらい?

此元半年くらいですかね?

思ったより短い!ちなみに、僕が楽しく読ませてもらった「セトウツミ」はどうだったんでしょう。

此元当時、色々な編集者の方がわざわざ大阪まで来てくださることになり、手ぶらで帰ってもらうのは申し訳ない……という一心で描いたのが一番最初の読み切りでした。

それが評価され、連載しようという流れになったんですか?

此元そうですね。あまりやりたくはなかったんですけど……。

なんと(笑)。「セトウツミ」って、2人の高校生が放課後、いつもの場所でひたすら無駄話をする、という基本設定がありますけど、あのエピソードは、どういうふうに作っていくんですか?

此元1話完結なので様々です。オチから思いつくこともありますし、「このセリフを言わせたいだけ」というパターンもあります。

そういえば、個人的に、第11話の「つまり我々ゴリラは~(※)」の1コマが、なんだか絶妙にハマってしまって、しばらく頭から離れなかったんですけど……あれ、此元さんとしてはどうでしたか?

※編注:「セトウツミ」コミックス第2巻収録の第11話「人間と動物」に登場する生物教師・木沢先生のセリフ。人類の進化の歴史を教える際、勢いあまってこう言ってしまった。もちろん本人もゴリラに激似。

此元あれは確か1巻発売前後の掲載だったので、みんなに届くわかりやすい笑いをという意味では手応えがありました。

あれ、妙に好きなんですよね。此元さんも気に入ってると聞いて、なんだかうれしいです。きっと楽しんで描かれたんだろうな、と感じたので。「オッドタクシー」の脚本はどうでしたか?聞いた話では、此元さんが参加された時点で、すでに設定がある程度固まっていたそうですね。

此元各キャラの造形と、職業などのプロフィールはすでに決まっていました。

自分でイチから考えるのと違って、そういう制限がある中で物語を作るのも、挑戦しがいがありますよね。

此元楽しいですね。とはいえ、アニメの脚本はこれが初めてでしたので、どこから手をつけたものかなと……。

オッドタクシー」は序盤から伏線が張り巡らされている作品でしたが、書き始める前に結末までのプロットをしっかり固めていたのでしょうか?

此元いえ、固めたのは50%くらいですね。

なんとも想像しづらい数値(笑)。

此元「ここからどんな結末にも持っていける」というくらいの遊びは残してありました。実際、どのような結末にするかは、脚本を書きながら決めていきましたので。

最初からあの結末が決まっていたわけじゃないんですね! そういう書き方で不安になったりしませんか?

此元いや、毎日不安でした(笑)。

僕も、初めて『逆転裁判』のシナリオを書いた時は、とにかく書きたい気持ちだけで走り出したんですけど、結局どこにも行けず、すぐに詰まりました。

此元その話は知っています。たしか第2話「逆転姉妹」でのことだったんですよね。筆が止まってしまったのはどの辺だったのですか?

冒頭で事件が起こって、ヒロインの(綾里)真宵ちゃんが、容疑者として警察に捕まっちゃうんですよ。

此元はい、はい。

それで、なるほどくん(主人公・成歩堂龍一の愛称)が面会に行って、自然な流れで「ご家族はどうしているの?」と尋ねるんですけど、そこで手が止まりました。「そういえば、この子の両親ってどうなってるんだ?」って。設定がないので、書けなくなってしまって。それ以来、設定や結末までの道筋を固めてから書くようになりました。

此元一度決めたら、そこからずれることはもうない感じですか?

正直なところ、ずれまくります(笑)。書きながら「いや、こうはならないな」ということが多々あります。それでも、最初に「これなら面白い」という感触のプロットがないと、書き始められないですね。

◆これは自分の作品ではない?アニメの脚本執筆で感じた作品との微妙な距離感


此元6月30日にリリースされる『ゴースト トリック』は、だいぶ前に発売されたゲームのリマスターだと聞きました。

はい。2010年にニンテンドーDSで発売されました。昔のゲームって、発売されてしまったら、後はそのまま忘れられていくことが多かったと思います。でも、最近はこうして“リマスター”という形で再び日の目を見る機会を与えてもらえたりして、作り手としては本当にありがたい時代だと思います。

此元企画はどういう着想から得たのでしょうか?

逆転裁判』の三部作が一段落したところで、「今度は群集劇のミステリーを書いてみたい」というのがキッカケでした。そこから、「いろんな人の生活をのぞき見て、そこに干渉していける存在はなんだろう……ゴーストだ!」というふうに発想を広げていきました。

此元シナリオはすべて1人で書かれたのですか?

そうですね。1人で書くことで統一感のある世界になるし、そもそも自分で書かないと気が済まないし納得できない性分で(笑)。此元さんは「セトウツミ」ではいかがでしたか?

此元セトウツミ」はアシスタントも入れていないですし、すべてが1人で完結していました。

それはすごいですね。でも、それが作品の個性を生み出しているわけで、貴重なことだと思います。一方で、アニメ制作は集団作業だから、「オッドタクシー」では大きく環境が違いますよね。

此元そうですね。集団作業になったことで(1人で漫画を執筆するよりは)楽な部分もありましたが…自分が手がけたところと、そうではない部分の境目が曖昧なのは、作品との距離感がつかみづらいとも感じました。自分が大きく関わっている作品ではあっても、どうしても届かない箇所があるので、そこが“もどかしい”ですね。

逆転裁判』もアニメ化して、僕も脚本作りに深く関わったので、その「自分の作品とまでは言えない」という感覚は分かります。でも、深く関わったからこそ納得した部分が大きくて楽しかったです。ちなみに、そういう感覚は今もあるんですか?

此元ありますね。やけにつきまとってくるなと思っています(笑)。

◆小規模のプロジェクトだからこそ生まれる熱量


此元クリエイターは、自分の作りたいものとビジネスとの板挟みになった結果、ビジネスに傷つけられてしまうことが往々にしてあると思います。巧さんはそういう経験はありますか?

ありがたいことに、あまりないと思います。『ゴースト トリック』は、オリジナル版の制作当時、かなり技術的に凝った作り方をしていて制作に時間がかかったため、前編と後編に分けて発売しなさい、という流れになりかけたことがあって。でも、一夜の物語を一気に駆け抜けないとダメなゲームなんだというチームの訴えを会社に聞き入れてもらって、なんとか今の形で完成できました。

此元好きな物を好きなように作れたと。

そうですね。いつもそういうわけにはいかないですけど(笑)。『ゴースト トリック』は、かなり小規模なチームで、少人数ゆえの集中力がありました。スタッフどうし顔が見える距離というか、インディペンデンスの熱気のような空気があって。「オッドタクシー」を見て、同じような「作り手の熱量」を感じて親近感を持ったのも、気に入った大きな理由です。

「オッドタクシー」は、アニメの外側でもいろいろな仕掛けがありましたよね。登場人物が現実の時系列に合わせてツイートしていたり、オーディオドラマがあったり。ああいう遊びも含めて、楽しんで制作されたんだろうと感じたのですが、いかがでしたか?

此元さっきから当時のことを必死に思い出そうとしているのですが、ほとんど思い出せません……。

ああ。やっぱりそれは、執筆の日々が濃密すぎて?

此元結構前の話なので……。

普通に時間経過だった(笑)。僕も、制作の終盤の記憶がポッカリ消えることがあるんです。あまりにいろいろ凝縮された日々なので。一生懸命やっていたのは間違いないですけど。

此元そうですね。それは僕も同じです。

◆巧氏と此元氏の共通の原点?江戸川乱歩のミステリー


「セトウツミ」は会話劇が楽しくて笑いのセンスもステキですが、「オッドタクシー」は会話劇としての魅力もありつつ、主軸はミステリーですよね。此元さんの中で、そういった要素の比重はどんな感じですか?

此元ミステリーは好きです。

それは聞き捨てならないですね!どんなものを読まれるんですか?

此元いえ、そこまで食いつかれるほどではないのですが(笑)。あくまで娯楽として、というくらいです。初めて「(本格的な)ミステリー作品を読んだな」と思ったのは大人になってからで、江戸川乱歩の短編集でした。「二銭銅貨」を読んで、頭の中をひっくり返されていくかのような衝撃を受けました。

いいですね江戸川乱歩。実は、『逆転裁判』の原点って、子どもの頃に読んだ乱歩さんの「心理試験」という短編なんです。綿密に計画された完全犯罪が、たった一つの見落としで逆転するラストにしびれました。

此元幼少期からずっとミステリーが好きなんですね。

僕にとってはもう「業」みたいなものですね(笑)。小学生の頃にファミコンが発売されたんですけど、買ってもらえなくて。みんながファミコンで遊んでいるのを横目に、ミステリーばっかり読んでました。

此元当時はどんなものを読んでいたのですか?

小さい頃は、ホームズさんをはじめ、米英のクラシックミステリーですね。1987年に綾辻行人さんが「十角館の殺人」でデビューして、そこから日本でもミステリーが盛り上がったんですけど、それまでは海外の古典に夢中でした。

「オッドタクシー」って、ミステリーの部分以外で、会話の自然な流れがあって、ワードのチョイスに個性があってよいですよね。此元さん自身、お笑いがお好きなんですか?

此元M-1はもちろん、それ以外のお笑い番組もちょくちょく見ています。

僕もお笑いが好きなのですが、気をつけているのは、今、流行している笑いのスタイルに影響されないことですね。流行しているものは、古くなる。だから、自分がシナリオを書くときは、時事ネタや流行語は使わないようにしています。

大逆転裁判』では明治時代を舞台にしたんですけど、これ以上は古くなりようがない絶対的な安心感があるという意味で、個人的には非常に心地よかったです。

此元なるほど。それはあるかもしれないですね。『逆転裁判』は、今遊んでもストーリーに古臭さをまったく感じません。

ありがとうございます。ところで、此元さんの作品には、ブルース・スプリングスティーンを始め、ジャニス・ジョプリン、モーガン・フリーマンとか、あえて時代性からはずれた名前がちらほら出てきますよね。あれがずっと気になっていたんですけど、やはり、狙いがあるんですか?

此元その辺は雰囲気やノリ、語呂で決めています。あとは、子供の頃、わからないけど雰囲気で面白がってたものが、見識を広めて理解した時にまた面白い。みたいな経験をしたことがあると思うのですが、その感覚を味わってほしいなというのもあります。

なるほど。反対に、「こういう言葉は使わない」というものはありますか?

此元その時その時で変わりますが、なるべくネットスラングは使いたくないです。

◆気分転換にイキった部屋を借りる!? それぞれのモチベーションの保ち方


――ここまで、大変興味深いお話でした。編集部からも質問させてください。脚本やシナリオを書いていて、筆が止まってしまった時はどうしますか?

此元それは僕も聞きたいです(笑)。10分だけ休むつもりでちょっと動画を見始めても、気が付いたら6時間ほど経ってたりするんですよね……。最終的には、やっぱりやる気だけの問題なのかなとは思うのですが。

締め切りが書かせてくれる、という感じですか。

此元そうですね。「締め切り直前の2~3日間がんばったらなんとかできた」という成功体験が、僕を何度もそうさせています(笑)。とはいえ、書いてない時は仕事のことをまったく考えていないかというと、そういうわけではないのですが。仕事を抱えている時は、いつも心のどこかに仕事のことがあります。

僕はサラリーマンなので、何も出てこなくてもデスクに向かって何かをヒネり出さないと(笑)。その点、此元さんのような会社勤めでない方は、気分転換のルーティーンみたいなものがあるのかなと気になったのですが。

此元工夫はしているんですよ。例えば、あえてめちゃくちゃイキった部屋を仕事場として借りてみるとか。

イキった部屋(笑)。いいじゃないですか。

此元そういう仕事部屋が家の外にあれば、やる気が出るのかなと。でも、実際にやってみたら「これ、自宅にいるのと何も変わらないわ……」となるだけでした。

とりあえず、借りたコストを回収しないと(笑)!

此元このままじゃ赤字だって話ですよね(笑)。あとは、外を歩いて日の光を浴びたりもするのですが、これもなかなか気分転換にはなりませんね。

あれ。さっき、此元さんは夜型だとおっしゃっていたような。

此元そうですね。

日の光って、夕陽だったりして(笑)。

此元そんな時も……あるかも……。いつも夜はずっと起きていて、寝るのは朝ですしね。この仕事を始めていつまで経っても、時間の使い方がいまいち分からないんですよね。巧さんは、筆が止まってしまった時にどうリカバリーしますか?

ダメなときはダメですよね。それでも、ほんの少しでも進めることと、どんなに厳しい状態でも手を抜かないのが重要かなと思います。手を抜いたところは、必ず書き直すことになるし、少しでも進められれば、明日、状況が変わってリカバリーできるはず……と、そう信じて進むしかないですね。

此元メンタル面はどうでしょう。「自分は何のためにこの仕事をしているのだろう」的な部分は、どう立て直してますか?

僕は、自分の作ったゲームが大好きなんです。だから、今はつらくても、それが完成したら大好きなゲームが1本増えるはず。その日を信じて、日々の仕事をしています。苦しいときに「何のために……」となることもあるけど、立ち直れる日を待つ感じです。作り手にとって、作ることが生きることなのかな……と思ったりして。

いったんシナリオが仕上がって、素材を組みこんで、ゲームの形に最終調整する段階に入ると、急に仕事が楽しくなります。どんどんゲームが面白くなっていくので(笑)。

此元シナリオを書いていて誰かに相談することはありますか?

あります。すごく不安になって、チームのみんなに相談します。でも、それで根本的に不安が消えることは少ないですね。おもしろいかどうか、自分で分かっているから。

此元なるほど……。僕は、自分でも分からないんですよ。手ごたえを感じることはありますが、それが人から見ておもしろいものであるかは分からない。

オッドタクシー」の脚本もそうだったのですか?

此元はい。初めてのアニメ脚本執筆ということもあり「これで大丈夫かな?」とずっと思っていました。後になって、木下麦監督たちはおもしろがってくれていたらしいと知りましたが、執筆時はこちらにはあまり反応がなかったので。

執筆中は孤独だから、そういうリアクションはリアルタイムでほしいですね。多少大げさにして(笑)。

オッドタクシー」には、本当にいろいろな要素が詰まっていますよね。此元さんは、あまり自分の情熱をストレートに口にするタイプの方ではないとお見受けしますけど(笑)、あれだけのものは、決して使命感だけでは生まれないと思うんです。「人を楽しませてやる」という強烈なサービス精神のようなものが絶対にあるはずで。

此元それはどちらもありますね。仕事をがんばりたいという気持ちは常にありますし。同時に「もうやめたい」とも思っていますが。

またまた(笑)。

此元特に今は、いろいろな案件が来ていてキャパオーバー気味なんですよね……。どれもやりたくなってしまう自分が悪いんですけど。

でも、いくつかの案件を並行して進めるのも、それはそれで楽しそうですね。気分転換に他の案件に移ったりできるし。

此元いえ、僕は全然楽しくないです(笑)。

デキる人のジレンマですね(笑)。

◆作品を生み出す幸せからは絶対に逃れられない


僕が作るものと此元さんが作るものに、決定的な違いがあると感じたことがあって。此元さんの作品は、現代的な要素をうまく作品に落としこんでいるんですよね。「オッドタクシー」でいうなら、SNSとか地下アイドルとかマッチングアプリとか。

此元たしかに現代っぽいツールや仕組みなどを使うことはありますが、結局は僕が書きたいのはその向こうにいる「人間」なんですよ。「こういうヤツ、いるよね」というのを描くためのものです。

僕は人間の残念な習性を見るのが好きで、それをキャラクターに落とし込むことがあります。そうすると、自分にも、見る人にもどこか身に覚えがあるようなキャラになる。それが印象に残るんだろうなと思いながら書いています。

オッドタクシー」第4話の「田中革命」は、それを凝縮したようなエピソードでした。此元さんはきっと、人間が好きなんですね。僕は、キャラクターを作る際は自分の中のさまざまな一面を切りとって振り分けることが多いかもしれません。

此元巧さんは、あまり人は好きではない?

そんなことはないですけど(笑)。でも、かなり人見知りです。こういう場でお話しするのは楽しいけど、ふだんはおとなしく人畜無害です。

此元では、人に対して怒ったりは?

たぶん、あまりないと思います。逆に、腹が立っても、うまくそれを吐き出すことができなくて貯め込んでしまうという、自分でもよくないタイプだと思います(笑)。此元さんはどうですか?

此元人に対してイラっとすることはもちろんありますが、なんというか、その感情も含めて楽しんでしまえばいいのかな……と考えることが多いですね。少なくとも、貯め込んでしまうことはないです。

生きる達人じゃないですか(笑)。

此元時間が経ってから思い出すと、段々むかついてくることもありますが(笑)。『逆転裁判』は、現実とリンクさせるようなことはあるのですか?

あまりないですね。完全に別の世界として切り分けたい気持ちが強いです。その設定も最小限にしたくて、個人的には、キャラクターの生年月日やプロフィールを設定するのも好きではないです。ちなみに此元さんは、キャラクターのプロフィールは作り込むタイプですか?

此元僕も全然設定しませんね。ただ、設定を固めてほしくないというわけではないので、オフィシャルブックを出したいので……というようなお話をいただいた際は、物語に関わらない設定をお任せすることもあります。

僕も、どうしても身長と体重を決めなくちゃいけない時、考えてもらったことがあります。なんとなく、彼らの物語の外側の部分を決めたくないんですよね。

此元それはなぜですか?

なぜでしょうね。たとえば誕生日を決めて、「このキャラクターは“おとめ座”なんだ」とか、そういうふうにイメージが限定されるのを避けているのかもしれません。ミステリーって、ある種「ファンタジー」で、個人的に、なんとなく浮世離れした世界にしたいんです。『ゴースト トリック』でも、背景のグラフィックに、あえて文字の情報を一切入れないようにデザインして、国や時代を特定できないようにしています。キャラクターの名前もそうですね。

此元なるほど。僕はキャラがおとめ座になってしまったら、そのおとめ座を利用して何かを書くタイプです、長くナンバリングされていくような作品をつくろうと思ったことがないからかもしれません。

――話は尽きませんが、そろそろ時間が迫ってきましたのでまとめに入っていければと思います。

此元さんは、作品を生み出すことに幸せを感じていますか?

此元そうですね。それは感じています。

イキった仕事部屋もいいけど、気分を変えて会社勤めとか?

此元それは無理ですね。絶対に朝起きられないので……。

そこですか(笑)。

此元自宅を仕事場とし、時間にも縛られない今のスタイルの方が僕には向いていると思います。ただ、脚本の仕事が向いてるかどうかは、今も答えを出せていません。

その感覚、分かる気がします。この先もずっとつきまとうかもしれませんね。そういえば今回、個人的には、此元さんが『逆転裁判』をちょっと遊んでくれているという情報を聞けて、うれしかったです(笑)。

此元逆転裁判123 成歩堂セレクション』を購入していますからね。これからも続きを遊ばせてもらおうと思います。

ゴースト トリック』も後日お送りします!

此元ありがとうございます。DS版からの新要素はあるのですか?

物語は当時のまま手を加えていませんが、ビジュアルとサウンドが完全にブラッシュアップされて、かなり新鮮に生まれ変わっています。

ゴースト トリック』は、作った当時もそうでしたが、10年経った今でも自信作で、こうして装いを改めてもう一度、手にとってもらえる機会ができたことは、オリジナルを作った者として最高に幸せで、ありがたいことだと思っています。遊んだことがない方はもちろん、当時遊んでくれた方も、10年経っていい感じに忘れているはずなので、ぜひ手にとっていただきたいです。

あと、「オッドタクシー」が好きな方には、間違いなく気に入ってもらえると思いますので、ファンの方はゼヒ(笑)。

――それでは、此元さんも最後になにかありましたら。

此元ビッグコミックスペリオールのデジタルマンガレーベル「ダルパナ」で、隔週金曜日に僕が原作を手がける「RoOT / ルート オブ オッドタクシー」を連載中です。作画は前回に引き続き肋家竹一先生です。TVアニメの物語を探偵の佐藤と玲奈の視点から描いた作品で、「映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ」は、前々から練っていたこの企画を先出しするという意味合いも持つ作品でした。アニメとリンクする部分も多いので、アニメを見てから読んでもらえると嬉しいです。


かたやゲーム、かたやアニメという違いはあれど、それぞれ『逆転裁判』、「オッドタクシー」というミステリーの大ヒット作を手がけた巧 舟氏と此元 和津也氏。仕事のスタイル(生活スタイル)は対照的ながら「創作が自分に向いているのかは今でも分からない、しかし、作品を生み出す喜びからは逃れられない」という生粋のクリエイター気質は共通のものであるとたしかに感じられました。

2010年にリリースされた氏の自信作のひとつ『ゴースト トリック』のリマスター版は2023年6月30日にリリース予定です。此元氏の「オッドタクシー」に興味を持った方は、Amazon Prime Videoほかで配信中のTVアニメから入るのがオススメです!


アニメ「オッドタクシー」
各配信サービスにて全話配信中!
(C)P.I.C.S. / 小戸川交通パートナーズ

コミカライズ「RoOT / ルート オブ オッドタクシー」
原作: 此元和津也/P.I.C.S. 作画: 肋家竹一 
https://www.shogakukan.co.jp/purchase/digital/digital/09D120590000d0000000
小学館「ビッグコミックスペリオールダルパナ」にて隔週金曜日更新
(C)P.I.C.S.

『ゴースト トリック』(Nintendo Switch、PlayStation®4、Xbox One、Steam)が、2023年6月30日(金)に発売予定!

「逆転裁判」シリーズの生みの親“巧 舟”が手掛けた名作謎解きミステリー『ゴースト トリック』(2010年発売)を、高解像度でより美しく、新機能でさらに遊びやすくした現行機版です。詳細は公式サイトをご覧ください。

『ゴースト トリック』公式サイト
https://www.capcom-games.com/ghosttrick/

ゴースト トリック
発売日:2023年6月30日(金)予定
プラットフォーム:Nintendo Switch、PlayStation4、Xbox One、Steam
ジャンル:アドベンチャー
プレイ人数:1人
レーティング:CERO B(12才以上対象)
(C)CAPCOM CO., LTD. 2010, 2023 ALL RIGHTS RESERVED.

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