「誰にとっても作品が楽しめる環境を作りたい」ホラーACT『FAITH: The Unholy Trinity』ashi_yuri氏インタビュー【有志日本語化の現場から】【UPDATE】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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「誰にとっても作品が楽しめる環境を作りたい」ホラーACT『FAITH: The Unholy Trinity』ashi_yuri氏インタビュー【有志日本語化の現場から】【UPDATE】

海外のPCゲームをプレイする際にお世話になる方も多い有志日本語化。今回はレトロ風味なホラーアクションゲーム『FAITH: The Unholy Trinity』の有志翻訳者に話を訊きました。

連載・特集 インタビュー
『FAITH: The Unholy Trinity』
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  • 『Kentucky Route Zero』
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海外のPCゲームをプレイする際にお世話になる方も多い有志日本語化。今回はホラーアクションゲーム『FAITH: The Unholy Trinity』の有志翻訳者に話を訊きました。なお、弊誌では同じ翻訳者が手がけるアドベンチャーゲーム『Kentucky Route Zero』についても後日改めてインタビューをお届けする予定です。

※UPDATE(2023/8/18 18:40):『Kentucky Route Zero』インタビューを掲載しました。


日本語化とは海外のゲームを日本語で遊べるようにすることです。その中でも、デベロッパーやパブリッシャーによる公式の日本語化ではない、ユーザーによる非公式な日本語化を有志日本語化(有志翻訳)と呼びます。一般的にボランティアで行われ、成果物は無償で配布されます。

有志日本語化には、デベロッパーやパブリッシャーが許可する範囲内で行われるものと、無許可のものがあります。最近はインディーゲームを中心に有志日本語化が公式日本語版として採用される例も出てきています。


連載第24回は、ホラーアクションゲーム『FAITH: The Unholy Trinity』の非公式翻訳Mod作成者ashi_yuri氏に話を訊きました。

FAITH: The Unholy Trinity - PC Launch Trailer

始めたことを終わらせるために

どのように有志翻訳を進めていくかのイメージがつかめず非常に苦労しました

――自己紹介をお願いします。

ashi_yuri氏(以下、敬称略)『FAITH: The Unholy Trinity』非公式翻訳Mod作成者のashi_yuriです。近日公式化予定の『Kentucky Route Zero』非公式翻訳Modも作成しました。そのほか、『Momotype』や『Critters for Sale』などの有志翻訳を行っています。

――『FAITH: The Unholy Trinity』(以下、『FAITH』)の魅力を教えてください。

ashi_yuri本作は、1年前の悪魔祓いに失敗した神父ジョンがもう一度その家を訪れることから始まるエクソシストホラーアクションゲームです。十字架を掲げて悪魔を祓うシンプルなアクション。やけにリアルで禍々しいロトスコープアニメーションの演出。メモを拾いながら進むことで少しずつ明らかにされる謎めいた物語。とても恐ろしく力強く楽しいインディホラーの傑作です。あなたも「始めたことを終わらせる」ため、ぜひ闇の奥に踏み込んでください。MORTIS。

――最後の「MORTIS」にはどんな意味があるのですか?

ashi_yurimortisはラテン語で「死」を表します。本作の死亡シーンで表示されるのですが、『FAITH』はいわゆる「死にゲー」なのでクリアまでに100回以上は見ることになる印象的なフレーズです。本作をプレイした人はつい言いたくなってしまいます。

――『DARK SOULS』の「YOU DIED」に似ていますね。ロトスコープアニメーションとはどんな手法ですか?

ashi_yuriモデルの動きを実写映像で撮影し、それをなぞってイラストを描くことで実写をアニメーションに変換する手法です。本作ではこのアニメがとても不気味に生々しく動くのですが、レトロ調のドット絵で描かれている他のシーンとのギャップが大きく、より一層リアルで禍々しいものに見えます。同時に流れる音もガビガビに割れた電子音なので、この世ならざる者が近づいてくる気持ちになって怖いです。

『FAITH』のロトスコープアニメーションの例。

――有志翻訳に携わるようになったきっかけはなんですか?

ashi_yuriアドベンチャーゲーム『Kentucky Route Zero』の非公式翻訳Modを作成しようと思ったことです。『Kentucky Route Zero』はテキストを含めてとても繊細で美しい作品ですが、当初の公式翻訳の質が著しく低かったため作品の魅力をまったく引き出せていませんでした。パブリッシャーなどに問い合わせましたが改善が見られず、この状況を一プレイヤーとして改善したいと思い有志翻訳を始めました。

なお、本作については先日翻訳Modが公式に採用され、Netflix版では修正された翻訳で遊ぶことができます。PC版やコンソール版についても近日アップデートにより翻訳が修正される予定です。

ashi_yuri氏の翻訳Modが反映されたNetflix版『Kentucky Route Zero』(『FAITH』の画面ではありません)
『Kentucky Route Zero』については後日インタビューを掲載予定です。乞うご期待。

※UPDATE(2023/8/18 18:40):『Kentucky Route Zero』インタビューを掲載しました。


――有志翻訳を志す方に向けて「一から始める海外ゲーム有志翻訳事始め」というブログ記事を公開していますね。どうして記事を書いたのですか?

一から始める海外ゲーム有志翻訳事始め(はてなブログ)

ashi_yuri海外ゲームを有志翻訳、日本語化したいと思い立った方が、実際に着手するまでのハードルを下げるためです。

自分が有志翻訳を始めたとき、日本語を表示するための技術的な情報はインターネットで見つけることができたのですが、どのように有志翻訳を進めていくかの全体的なイメージがつかめず非常に苦労しました。また、著作権のことも考えなければならないのですが、これもまとまった情報があまり見つからず、かなり悩みました。

そこで、後進の方がもっと気軽に有志翻訳を始められるよう、有志翻訳を思い立ってから実際に翻訳Modを作って公開するまでの流れを大まかにまとめることにしたのです。

――記事への反響はありましたか?

ashi_yuriブログのアクセス数を見ると、有志翻訳を始めたい方に少しは役立っているのかなと思います。また、有志翻訳や海外デベロッパーのサポートをしているnicolithさんがこの記事をきっかけに有志翻訳を始めたと聞きました。


配慮は誰もが楽しむために

公式サイドから方針が明言されているとファンは安心して自由に活動できます

――『FAITH』の非公式日本語翻訳Modを作成したきっかけはなんですか?

ashi_yuri自分はホラーゲームやアクションゲームが苦手で普段はプレイしないのですが、VTuberの男鹿梨衣子さんのゲーム紹介配信で本作の魅力や作成背景を知りました。男鹿梨衣子さんが別名義でIGN Japan誌に書いた紹介記事に『FAITH』の魅力が的確にまとめられています。

【PCゲーム極☆道】第127回『FAITH: The Unholy Trinity』 ハロウィンにオススメなレトロゲームスタイルのホラー死にゲー(IGN Japan)

ashi_yuri実際に本作を買ってみて非常に面白かったのですが、本当に怖いし「死にゲー」なのでクリアは早々に挫折しました。それだけでは悲しいので、最初はプレイ動画やWikiを参考にテキストのみを翻訳して自分のホームページに置いておきました。

本作はゲームエンジンに「GameMaker」を使用しており、日本語化が難しめです。そのため、自力での翻訳Mod作成は諦めていたのですが、別作品の有志翻訳をしている燻丸さんが一連のブログ記事で「GameMaker」製タイトルの日本語化方法を紹介してくれました。そのおかげで、日本語化Modの作成に着手できたのです。

GameMaker製のゲームを日本語化する方法 日本語フォント実装~前編~(note)

――翻訳Modを作成するにあたってデベロッパーからはどのように許諾を得ましたか?

ashi_yuriGame*Sparkの開発者インタビューで、開発者のAirdorf Gamesさんが「無償であれば有志翻訳は歓迎」と発言していたため、この翻訳ポリシーに則り翻訳Modを作成しました。配信ポリシーや二次創作ポリシーもそうですが、開発者など公式サイドから方針が明言されていると、ファンは安心して自由に活動できるので助かりますね。メディアが訊いてくれるのもありがたいです。


――将来、本作が公式に日本語対応した場合、翻訳Modの配布を中止するのはなぜですか?

ashi_yuri公式翻訳との競合を避けるためです。自分は一プレイヤーとして問題のない範囲で有志翻訳を楽しみたいですし、自分の考えが開発者やパブリッシャーに伝わるよう英語でも明記しておきたいと思っています。また、趣味で有志翻訳をしていることもあり、自分の翻訳が無意味にプロの翻訳と競合することは避けたいと考えています。

――翻訳Modを公式翻訳として取り入れてもらうことは考えていますか?

ashi_yuri本作はそれなりの規模のパブリッシャーが販売している作品でもあり、こちらから積極的になにかすることは考えていません。『FAITH』という作品が日本でより広く遊ばれたらいいなと思っているので、もし何かの形でご縁がありましたら協力させていただきます。

――プレイ動画の配信や投稿を行う際に、翻訳Modを使用していることを明記するよう求めているのはなぜですか?

ashi_yuri配信や投稿を見た方が、公式に日本語対応していると誤解するのを避けるためです。本作はニンテンドースイッチなど翻訳Modが利用できないプラットフォームでの発売も予定されています。配信を見て期待して買ったのに日本語対応していないという不幸な誤解が生じるのを避けたいと考えました。

また、もし公式に日本語対応された場合、収録されている日本語と違うテキストが配信されている状態になるため、公式の日本語翻訳でないことを明確にしておく必要があると判断しました。

――Steamのストアページへのリンクを記載することも求めていますが、なぜですか?

ashi_yuri「本作を実際にプレイして欲しい」、「作品が売れて欲しい」という願いを込めて翻訳Modを作成したためです。

――様々な方面に配慮して活動している印象を受けますが、その一番の理由はなんですか?

ashi_yuri開発者にとっても、プレイヤーにとっても、配信する人にとっても、自分にとっても、作品を楽しめる環境が作れたらいいなと思っているからです。

――翻訳Modの共同作成者ブリッツ氏はどんな役割を果たしましたか?

ashi_yuriテキストやフォントの実装、画像加工、各種解析など、技術面を担当してもらいました。文字や演出も含めて、本作の不穏で禍々しい雰囲気を十分に伝えられたのはブリッツさん(@blizcavalier)の技術的支援があってこそです。以前、他の翻訳Modを作成した際にも技術支援してもらったのですが、今回も主人公が歩かなくなるバグが発生して詰まったときに声を掛けてもらい、翻訳Modを共同作成することになりました。

ブリッツ氏の画像加工により英語の画像しかない攻略ヒントに日本語が追加された。

――翻訳がゲームに正しく反映されているかはどのように検証しましたか?

ashi_yuriブリッツさんに翻訳を反映するプログラムを作成してもらい、実機の画面で確認と修正を繰り返しました。

また、自分はホラー、アクションともに苦手なので、翻訳Modを完成させるには他のプレイヤーによるテストプレイが必要でした。Twitter上で希望者を募集し、匿名で書き込めるGoogle スプレッドシート(FAITH非公式日本語翻訳mod報告書)に100件以上のフィードバックをもらった結果、翻訳Modを大幅にブラッシュアップできました。また、皆さんが感想やファンアート、プレイ動画を提供してくれたことも励みになりました。

――それでは、結局自分では一度もクリアしていないのですか?

ashi_yuriそうなんです。他人の動画では10回以上もクリアするところを見ているのに……。プレイして楽しめるものになっているか心配だったので、テストプレイでプレイ動画を提供してもらったり、配信しているところを見せてもらったりしました。本当に感謝しかありません。

――集まったファンアートやプレイ動画を開発者に伝える予定はありますか?

ashi_yuriそこまでは考えていませんでした。開発者やパブリッシャーは自ら感想や動画を見て回っているようです。ちなみに、開発者はファンアート推奨で、ご自身のTwitterで頻繁にリツイートしています。『FAITH』のファンアートを描いたら、ぜひAirdorf(@Airdorf)にメンションしてみてください。

テストプレイによる修正前。画面下部のテキストが枠からはみ出している。
テストプレイによる修正後。画面下部のテキストは枠に収まるようになった。

こだわりは物語を届けるために

信仰を持っている方の真剣な思いや苦悩を損なうテキストにはしたくありません

――翻訳Modを作成する上で文体にはどのような工夫をしましたか?

ashi_yuri本作の中心となる「メモ」は、日記、手紙、新聞記事、業務メモなど様々なので、それぞれに合わせた文体にしました。これらのテキストはただのフレーバーではなく、お祓いや悪魔との戦闘で得られる大事な報酬であり、困難の多いゲームの物語を読み進めていくための原動力でもあります。なるべく先が気になって読みたくなるように、ホラー映画の演出をイメージしながら雰囲気が出る文章を心掛けました。

――ホラー映画の演出とはどんなものですか?

ashi_yuri大事なところで途切れてしまう文章。徐々に様子のおかしくなっていく人物。怪しげなカルトからの謎めいた手紙。このような、全貌がはっきりわからず不安になり、同時に先が気になる演出です。

――実際に参考にしたホラー映画はありますか?

ashi_yuriあまりホラー映画に詳しくないのでメジャー作品ばかりですが、『エクソシスト』、『パラノーマル・アクティビティ』、『イット・フォローズ』、『ヘレディタリー/継承』あたりを参考にしました。ちなみに、開発者は重度のホラー映画おたくで、海外版の『リング』も好きだそうです。

――ホラーが苦手というわりには結構観ていますね。

ashi_yuriグロいのや怖いのは苦手ですが、ホラーの描くものや演出は好きです。配信で薄目や早送りで恐る恐る観ることが多いですね。

――登場人物の口調はどのように工夫しましたか?

ashi_yuri主な登場人物は神父なので、神父らしい丁寧な口調をベースとしつつキャラクターごとにバリエーションをつけました。神父の口調が自分の中で醸成されていなかったので、実際の神父の方の日記を読むなどしてイメージを壊さないように気をつけました。また、一番苦労したのは悪魔崇拝のカルト信者や指導者のイメージづくりです。カルト宗教が題材の映画やドキュメンタリーから着想を得て試行錯誤した結果、今の形に落ち着きました。

――どうやって神父の日記を読んだのですか?

ashi_yuriたまたまウェブメディアで新米神父の日記が公開されているのを見つけて、それを読みました。聖書を頻繁に引用して、辛い境遇にある方に寄り添うことを旨とする内容だったので、その雰囲気を参考にしています。

――本作にも聖書からの引用が登場しますが、翻訳するときはどうしていますか?

ashi_yuriウェブ上で参照できるメジャーな聖書協会共同訳や新共同訳を参考に翻訳、引用しています。

聖書からの引用例。出典を詳細に明記している。

――出典まで明記していますね。

ashi_yuriこの場面はもじったりせず本当に原文そのままなので引用表記しました。ゲーム内のセリフはもじっている場合もあるので、すべてには表記していません。自然と聖書を引用する文化があるのでしょうか。聖書からの引用だと明確にわかるセリフもあれば、セリフやメモの一節に自然と入れられている箇所もあります。

『FAITH』というタイトルの通り「信仰」が物語に大きな意味を持つので、翻訳する際には信仰が伝わる文章になっているかとても気を配りました。

――信仰ですか。

ashi_yuri本作は特定の信仰を促すようなことはなく、信仰の有無にかかわらずお勧めできます。開発者いわく「無神論者からキリスト教信者まで幅広く好評」とのことです。

一方で、本作ではキリスト教の信仰とそれに対抗する悪魔をベースとした物語が展開します。自分自身は特定の信仰は持っていませんが、信仰を持っている方の真剣な思いやそれにまつわる苦悩を損なうテキストにはしたくないので、『FAITH』というゲームの魅力を削ぐことのないよう気をつけて翻訳しました。聖書の引用やキャラクターのセリフに存在する宗教的厳格さや力強さが伝わるテキストになっていると良いのですが。

――話は変わりますが、翻訳Modでは独特な日本語フォントが使われていますね。このフォントはどのように選んだのですか?

ashi_yuri本作のデザインは、物語の舞台となる1987年当時のPCゲームのピクセルスタイルをイメージして作られています。「Atari 2600」や「Apple II」といった古いPCのゲームですね。その雰囲気をなるべく活かすため、同じ1987年に完成したフリーのピクセルフォントを使用しました。ピクセルフォントは一般的に『ドラゴンクエスト』や平成ビジュアルノベルのイメージを抱かれがちですが、それらとは違うレトロPC感が出せたと思います。

――オリジナルの英語フォントにはなにか由来があるのですか?

ashi_yuri開発者は一番好きなゲームに『ゼルダの伝説 夢をみる島』をあげていて、『FAITH』の英語フォントは『ゼルダの伝説 夢をみる島』の英語版に使われたものと同じ形のフリーフォントが使われています。ホラー作品で使われるとそっけなくて、ちょっと不気味な感じがしますね。

――ちなみに、初代『ドラゴンクエスト』の発売は1986年。本作の舞台と同年代でした。

ashi_yuriそれは気づきませんでした。本作は最初にフロッピーディスクの読み込み音が入っているくらいPCへのこだわりが強い作品です。『ドラゴンクエスト』はファミリーコンピュータのイメージが強いので、勝手なこだわりですが自分としてはPC由来のフォントを使いたいと思いました。

――こだわりと言えば、登場人物の名前をどう訳すかでも悩んだそうですね。

ashi_yuriGaryをゲイリーと訳すかギャリーと訳すか、Wardをウォードと訳すかワードと訳すかで迷いました。私家翻訳なので、結局画面で見た時に格好良く見えるゲイリーとウォードを選びました。

――その名前で思い出しましたが、作中に「ゲイリーはあなたを愛しています」という印象的なフレーズが登場しますね。

ashi_yuri“Gary loves you.”は、冒頭で紹介した「MORTIS」と並ぶ『FAITH』の重要フレーズです。悪魔崇拝を行うカルト宗教の合言葉のようなもので、最初に読んだときはとても違和感を持ちました。しかし、物語を進めて謎を解いていくにつれて、このフレーズの持つ重要性が分かってくる仕組みになっているのです。

この最初の不自然さや違和感を大事にしたいと思い、直訳調で「ゲイリーはあなたを愛しています」と翻訳しています。英語のようなキャッチーさを出すのは難しいですが、ぜひ物語を読み進めてこのフレーズの謎を解いてください。

――他にもこだわった翻訳はありますか?

ashi_yuriとあるボスを倒した後に、“A gun with one bullet.”というセリフが出てくるのですが、最初は「弾が一発入った銃だ。」という翻訳でした。不気味さが足りないなと思っていろいろ試した結果、最終的に「銃の弾丸は一発。」になりました。不穏で謎めいたこの作品らしい気味の悪い台詞となり、気に入っています。

印象的に現れる「ゲイリーはあなたを愛しています」のフレーズ。

――今回の翻訳で機械翻訳が果たした役割を教えてください。

ashi_yuri自分は英語の専門教育を受けていない一般人なので、文意のおおまかな把握にDeepL翻訳を役立てました。語句や文章の抜けがあるので翻訳結果はそのまま使えませんが、自然な言い回しを提案してくれた際には拝借しました。

また、聖書からの引用としてラテン語が出てくるので、Google 翻訳で英語に翻訳してから日本語に翻訳しました。有志翻訳ならこの精度でも許されるのではないでしょうか。Google 翻訳はエスペラント語などにも対応していますし、素人でもマイナーな言語を翻訳できるのはありがたいですね。

――他にはどんなツールを利用しましたか?

ashi_yuri雰囲気づくりのためか作品中に英語の古語が使われているメモが登場するので、日本語でも古文らしい文章を作成しました。その際に利用したのがウェブ上で公開されている「自動古文作成ツール」です。このツールは日本語の現代文を入力すると古文に変換して出力してくれます。精度はよくわからないので、文法ミスがないかできる範囲で確認し、出力結果を読みやすくした形で文章を作成しました。

本作に登場するラテン語の翻訳には機械翻訳が活用されている。

――翻訳Modを作成する上で苦労したことはありますか?

ashi_yuri技術的なことを除けば、翻訳Mod作成の佳境と本業の繁忙期が重なったのが一番苦労しました。残業が終わった後にPCの電源を入れる気力が残っていなくて、テストプレイを始めた後に翻訳Modの作業を一週間休んだこともありました。テストプレイヤーの皆さまのご協力や、楽しみにされている方の励ましでなんとか乗り越えられました。

――逆に、有志翻訳をしていて一番嬉しいことはなんですか?

ashi_yuri翻訳Modをきっかけに作品をプレイしてくれる人が一人でも増えてくれるのが嬉しいです。感想やレビューや配信者が増えるのも嬉しいですね。『FAITH』でRTAをしている人もいて、とても驚きました。また、登場人物エイミーのファンアートが一枚でもこの世に増えると泣いて喜びます。エイミーは冒頭にロトスコープアニメーションの例として紹介したこの子です。

――これから有志翻訳を志す方へ一言アドバイスをお願いします。

ashi_yuri有志翻訳はいろいろ大変なことも多い趣味ですが、ゲームのデータを弄って色々試したり、自分が気に入ったテキストを翻訳したり、日本語化されたことでより多くの人がゲームを遊んでいる様子を見たりするのは、好きなゲームをより深く楽しむ一環としてとても楽しい作業です。あなたの好きなゲームをぜひ日本語でお楽しみください。

――有志翻訳者としてゲーム開発者やゲーム業界に伝えたいことはありますか?

ashi_yuri自力で翻訳するのが難しいと考えている小規模開発作品は、配信ポリシーと同様に翻訳ポリシー(多言語化の予定の有無、有志翻訳の可否と条件、必要なら連絡先等)を明記していただけると有志翻訳がしやすいので助かります。

テキストが重要な作品を公式翻訳する際は、時間がかかっても、その分コストがかかっても構わないので、作品の魅力がきちんと伝わるテキストを届けてくれることを一プレイヤーとして期待しています。テキストの先に作品を楽しみに待っているプレイヤーがいることを、どうか忘れないでいてほしいです。

最後に、いつも楽しいゲームを作ってくれて、届けてくれてありがとうございます!

――本日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。


ゲーミング英語フレーズ
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《FUN》

遊ぶより創る時間の方が長いかも FUN

元ゲームプログラマー。得意分野はストラテジーゲーム。ゲームライターとして活動する傍ら、Modの制作や有志日本語化に携わっています。代表作は『Crusader Kings III』の戦国Mod「Shogunate」。

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