現実と幻想の間を行き来するゼロという円環の夢―『Kentucky Route Zero: PC Edition』【プレイレポ】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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現実と幻想の間を行き来するゼロという円環の夢―『Kentucky Route Zero: PC Edition』【プレイレポ】

2023年8月17日に公式日本語訳改善の対応があった本作。その概要を寂れてしまう前にここに記します。

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現実と幻想の間を行き来するゼロという円環の夢―『Kentucky Route Zero: PC Edition』【プレイレポ】
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ルートゼロは丸い、永遠に続く、ループの円環、夢。

2023年08月17日に「Postmodern Update」の一環として、公式日本語翻訳改善が行われた『Kentucky Route Zero: PC Edition(ケンタッキールートゼロ、以下『KRZ』)』。2013年2月23日に初めてリリースされ、Netflixを経由したスマートフォン版が先がけて2022年12月14日に配信されていました。

本作はエピソード方式のリリース形態となっており、ニンテンドースイッチ版である『Kentucky Route Zero: TV Edition』配信に合わせて、最終章となる“第V幕”が2020年1月28日にリリースされました。予てから難解なストーリーテリングでも注目されていた『KRZ』でしたが、「初めての日本語版」はこの時点で提供されました。ちなみに日本語Mod版もリリースされており、そちらでの使用フォントは“Junebug Gothic Regular”。公式で採用されたのはユニバーサルフォントとなっています。

以前は流しの“シンク”が「沈む」と訳されていましたが、改訂版では「流し」に変更。
改訂前テキスト。
改訂後テキスト。

本作の日本向けリリースには紆余曲折があり、特に「翻訳品質」には言及せざるを得ません。オフィシャルな「初の日本語版」は翻訳の品質がきわめて低く、それを手直ししたashi_yuriさん制作の有志翻訳Modがユーザーコミュニティの間で話題となっていました。この有志翻訳ModはのちにPC版を含む全プラットフォームに公式訳として採用されています。


『KRZ』ってどんなゲーム?

『KRZ』はCardboard Computerによって開発・販売されているアドベンチャー作品。一時期はAnnapurna Interactiveがパブリッシングを担当していました。

本作の特徴としては、コロンビア出身のノーベル文学賞受賞作家ガブリエル・ガルシア=マルケス「百年の孤独」に代表されるような、現実と幻想が入り交ざるマジックリアリズムの手法をふんだんに用いながらも、プレイヤーに選択の余地を(一定の量ですが)与えています。つまり「現実に与する」か「幻想に寄りかかるか」をある程度プレイヤーが選べる点に、本作のゲームデザインの美しさがあります。

マジックリアリズムらしさを感じられるシーケンスとしては、「当たり前のようにカラスと喋る」「死者が突然語りかけてくる」など多様に渡ります。

なによりも、物語の根幹に関わり、タイトルにも冠されている「0号線」のマップの作りもマジックリアリズム的です。永遠の円環がモチーフとなっていて「特定のポイントで引き返し、また特定のポイントで引き返す」など、脱出方法もどこか非現実的なのです。それでいて、登場人物たちはそういったことを疑問にも思わず受け入れており、「常識的な世界」の中で突然「常識が覆る」という、良い意味でプレイヤーを混乱させる展開を見せます。

テキストの視点も目まぐるしく入れ替わります。先ほどまでは「シャノン」というキャラクターとして選択肢を選んでいたかと思えば、いきなり「コンウェイ」という別のキャラクターとして選択を求められたりと様々。そのうえテキストが三人称に変化したりと、“主”が定まらないアプローチにクラクラとさせられます。

『KRZ』のゲームプレイ

ここからはストーリーに触れていくため、一部にネタバレになり得る内容を含みます。第一章となるアクトIの物語は、アンティークショップの年老いた配達員・コンウェイが「EQUUS石油(EQUUSとはラテン語で「馬」という意味)」にやって来たところから幕を開けます。「0号線」なる道の向こうにあるドッグウッド通りにある家へ配達しに向かっていた彼は、このガソリンスタンドでコンピューターにアクセスし、とある人物の住所を探します。

その際に入力する選択肢はなんとポエムを生成するもので、プレイヤーの思いのまま好きに選んでも、進行に問題はありません。正解も不正解もないこの選択肢もまた、本作のポエジーをよく表現しています。

会話の選択肢には、基本的にはペナルティなどはありません。多くの選択肢が出てくる、選択の塊のような本作。だけれども、会話においては何を選択してもよい。EQUUS石油を出たあとはマップシーンになり、目的地の農場を目指しますが、この際マップで触れるオブジェクトが多数あり、豊穣なテキストがプレイヤーの想像力を刺激してくれます。

その後は「エルクホーン鉱山」に向かい、コンウェイは長い旅の相棒となる“シャノン”と出会います。しかし鉱山での事故で足を痛めてしまうコンウェイ。物語の途中まで治すことはできず、移動速度にも大きく影響することになります。

つまりプレイヤーは長い間にわたり低速のゲームプレイを強いられるわけですが、不思議といらつきも焦りもしませんでした。それは本作がテキストを味わわせてくれるスタイルの作品だからでしょう。

「スタイライズドレンダリング」された特徴的なグラフィック。ミュージシャンのライブでの歌詞も選べる、美しすぎるシーン。天井のテクスチャが剥がれていって野外ライブのようになるシーケンスは感動しました。詩情たっぷりの本作、ぜひとも読者のみなさまもその言葉を浴びてみてはいかがでしょうか。0号線への向こうへの旅は損はしない、絶対的な旅になることは間違いないです。

繰り返し登場する「コンピューター」と「テープレコーダー」という表象。表示するもの。記録するもの。ロバート・フロストの引用もある「The Death of the Hired Man」というシーケンスもありより強まるポエジー。すべてが伏線になっている緻密な作り込み。

そして、話はこの原稿の頭に戻ります。





詩情たっぷりのベストポエジーゲースパね!




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《SHINJI-coo-K(池田伸次)》

FPSとADVを偏愛しつつネトゲにも造詣のあるフリーライター SHINJI-coo-K(池田伸次)

「Game*Spark」誌に寄稿しつつも「IGN JAPAN」誌と「GAMERS ZONE」誌にも寄稿。「インサイド」誌にも寄稿歴あり。今はなき「Alienware Zone」誌や「週刊Steam」誌にも寄稿していたフリーライター。 そしてヒップホップビートメイカー業も営む音楽家兼ゲームライターの兼業家。通称シンジ。

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