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『ゴラム』はなぜ失敗しなければならなかったのか?元&現役社員32人が開発舞台裏からリリースまでを赤裸々に語る

今年最大の失敗作と言われる『ゴラム』開発の舞台裏でいったい何が起きたのか?

ニュース ゲーム業界

家庭用ゲームとPCゲームに関するドイツの動画メディア「Game Two」は10月7日、「『Gollum』はなぜ失敗しなければならなかったのか」をYouTubeにて公開しました。

本動画は今年最低級のメタスコアを記録した『The Lord of the Rings: Gollum』について、その舞台裏でいったい何が起こったのか?どのような決定が悲惨なローンチにつながったのか?そして、スタジオ「初の超大作ゲーム」の紆余曲折した開発と最終的なスタジオ閉鎖を関係者はどう見たのか?匿名の情報提供者を含む、開発元であるDaedalic Entertainmentの元従業員と、現役社員まで32人へのインタビューを元に構成。同社の成り立ちから『Gollum』リリース後に至るまで、7章からなる約40分の番組となっています。


第1~第3章ではファンには“Poki”の愛称で知られるゲームデザイナーにして、Daedalic社の共同創設者Jan Baumann氏とFichtelmann氏との出会いから企業設立に始まり、給与面での待遇の悪さや残業時間の長さ、上司の監視下で作業を行い上司に話を聞かれる恐怖から同僚とは小声でしか話せないといった職場の雰囲気の悪化など、労働環境を巡る告発が語られます。

現役スタッフは「E3」前の2週間は週60時間の残業続き、かつE3後には1日16時間労働する日があったことや、2014年に導入された最低賃金法案がありインターンシップも一部の例外を除き、時給8.50ユーロ(約1,340円)となっていたがDaedalicはそれにも応えておらず、待遇を巡り“インターンの反乱”と呼ばれる騒動も勃発。「AAA級のゲームを開発しようという企業であれば、払えるはずのものをもらえない給与の低さ」が赤裸々に語られています。

第4章からいよいよ、『Gollum』開発に向けた具体的な動きに触れています。それによれば「ロード・オブ・ザ・リング」のゲームを作るというアイデアは、ケン・フォレットの世界的ベストセラーを原作とした『The Pillars of the Earth』(2017年)のを同社がゲーム化した時すでにあり、かなりの期間にわたってトールキン財団とコンタクトを取り続けたとのこと。Fichtelmann氏は2014年から映像権を所有するMiddle-earth Enterprises(トールキン財団とは別組織)と契約を結ぼうとし、2018年にようやく契約成立した際には、「あの世界的メジャー作品をゲーム化する権利を、ドイツのスタジオが手にした」こと自体、ちょっとしたセンセーションを起こしたと述べています。

ゴラムの視点からゲームを語るというアイデアは、Daedalic社自身から出たものではなく、ブレーメンを拠点とするリアルタイム戦略ゲーム『アイアン・ハーベスト』などで知られるスタジオKING Art Gamesのものであること、Daedalic社内では社員の多くはトールキンのファンであり、先述のような風通しの悪い職場環境にもかかわらず、関係者の間では意欲的な楽観ムードが漂っていたそうです。

それまでは比較的無名のパブリッシャーであったDaedalic社でしたが、『Gollum』が発表されてからは各国メディアが『トゥームレイダー』や『アンチャーテッド』のような大ヒットタイトルと比較したり、このゲームが原作小説と同じように時代を超越した作品になるかもしれないなどと大々的に報じました。Fichtelmann氏の同社を国際的に成功しパブリッシャーにしたいという願望は、マーケティング的には大成功を収めたと言えます。

第5章「Gollum」は、ほぼ匿名によるインタビューで構成されており、端的に言ってしまえば「時間・予算・技術のすべてがタイトルの規模に見合っていなかった」に尽きるようです。現役・元従業員たちはいずれもDaedalicはこれまでAAA級を目指すようなゲームを開発したことはない。Unreal Engineを使ったことはあるが、それで実現したのは全く違うジャンルのゲームだけなのに、投資した金額やスタジオのもつ技術力以上のものを望んでいるように見えたこと、メディアが比較するような『トゥームレイダー』や『アンチャーテッド』では最低でも2倍~3倍のプログラマが投入されていること、ビデオゲーム業界に10年、15年、20年といるような人たちがこのゲームに取り組んだが彼らに十分な時間はなかった、と述べています。

結果としてリリース後、プレイヤーが目にしたものはコピー&ペーストしたようなNPCやカットシーンで画面に覆いかぶさったりフレームからはみ出したままの物やキャラでした。しかしリリースは2021年から2022年9月に、さらに2023年5月25日までの再延期されても修正する時間はなく「プロジェクトにいくらかの資金を投入し、もう1年追加して、すべてが良くなることを願うだけではだめなんです」とし、『Gollum』の開発予算は1,500万ユーロ(約23億7,454万円)程度で、AAA級ゲームの10分の1に過ぎなかったと番組内で触れています。

「Game Two」は今回の番組企画の意図を、社員であれ経営者であれ、意図的に悪いゲームを作る人はいない。だからこそ『Gollum』のケースを取材したと述べており、最終章で「アイディアや設定は素晴らしく『Gollum』というゲームが最初から全て間違っていたわけではない。ただ、ゴラムの物語ありきゆえ、その物語の重要な部分を語らせプレイヤーに聞かせることがメインとなり、ゲームがコントロールを失いプレイ体験という重要な要素が軽視されている」と、根本的な問題を指摘しています。

また、番組は美しいゲームを生み出すことで知られた同社の開発部門閉鎖という悲劇的なエンディングにくわえ、インターンや若手社員の待遇の悪さや時間外労働など、最初に被害を受けるのは常に従業員である点も強調して触れています。








《稲川ゆき》

プレイのお供は柿の種派 稲川ゆき

ゲームの楽しさに目覚めたのは25歳過ぎてからの超遅咲き。人やら都市やら、何でも育て上げるシミュレーション系をこよなく愛する、のんびりゲーマーです。

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