Game*Sparkレビュー:『ファッションドリーマー』―全ハードコアゲーマーに伝えたい!ノーコストでアイテム入手し放題のオンラインゲームが崩壊しないワケ | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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Game*Sparkレビュー:『ファッションドリーマー』―全ハードコアゲーマーに伝えたい!ノーコストでアイテム入手し放題のオンラインゲームが崩壊しないワケ

ファッションに興味のある方だけでなく、すべてのハードコアゲーマーに伝えたい、オンラインゲームの新たな可能性を示す意欲作です。

連載・特集 Game*Sparkレビュー
『ファッションドリーマー』
  • 『ファッションドリーマー』
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2023年11月2日、ニンテンドースイッチ向けにマーベラスより発売された『ファッションドリーマー』は、ファッションを通じてプレイヤー同士がコミュニケーションを楽しむゲームです。開発にあたったのはこのジャンルの人気作『ガールズモード』シリーズで知られるシンソフィア。

本作を一言で例えるなら、現代風にアレンジされた「デジタル着せ替え人形」です。その徹底的な作り込みは驚きを禁じ得ないほどで、着せ替え人形やファッションに興味がない方でも、他のゲームでアバターの作成や装備の見た目にこだわった経験があるなら楽しめるでしょう。

アバターの設定項目は19種類に及ぶ。最初から多すぎる選択肢はゲームを進めるにつれてさらに増加する。

本作は一人で遊ぶこともできますが、オンラインに繋げばメタバースをモチーフにした仮想空間「イヴ」を舞台に、世界中のプレイヤーとファッションを通じた交流が楽しめます。

ゲームの舞台となる仮想空間「イヴ」。世界中のプレイヤーとオンラインで交流できるメタバースだ。

前代未聞のチャレンジ

しかし、本作の特徴はそれだけではありません。本作のオンラインプレイでは従来の着せ替えゲーム、ひいては従来のオンラインゲームにはない意欲的な試みが行われているのです。

従来の着せ替えゲーム

  • コーディネートの相手はNPCだけで、オンライン要素はおまけ程度。

  • アイテムを手に入れるにはゲーム内で購入したり、特別な条件を満たしたりしなければならない。

ファッションドリーマー

  • NPCと他のプレイヤーがオンライン空間上に共存し、プレイヤーはそれらを区別なくコーディネートする。

  • アイテムを手に入れるには他のアバターが身につけているものを「いいね」するだけで良い。コストは一切かからない。

従来のゲームでは、コーディネート(衣服の組み合わせを整えること)の相手は着せ替え人形代わりのNPC(人間以外のキャラクター)だけで、オンライン要素はおまけに過ぎませんでした。しかし、本作ではNPCと他のプレイヤーが同じ場所に肩を並べて登場し、プレイヤーはそれらを区別なく同じ手順でコーディネートすることになります。つまり、着せ替えの対象が「人形」から実体のある生身の人間へと自然に拡張されているのです。

左手前がNPC、中央が自分、右奥が他のプレイヤー。NPCも他のプレイヤーも同じ手順でコーディネートできる。

また、従来のゲームで着せ替えに用いるアイテム(衣服や装飾品)を手に入れるには、ゲーム内で購入したり、特別な条件を満たしたりする必要がありました。しかし、本作では他のアバターが身につけているものを単に「いいね」するだけで、どんなに貴重なアイテムでもコストをかけずに手に入れることができます。ゲーム内のお金を払う必要もありません。

誰かが身に着けているアイテムは「いいね」するだけで即座に手に入る。コストは一切かからない。

通常のオンラインゲームでこんな仕組みを導入したら、たちまちゲームバランスが崩壊してしまいます。それでは、本作はいかにしてバランスを維持しているのでしょうか。そして、その仕組みは多数のプレイヤーが活動するオンライン環境上で期待通りに機能したのでしょうか。

本稿ではハードコアゲーマーの視点から、この点に着目したレビューをお届けします。着せ替えゲームとしての紹介は他の記事に譲りますので、興味のある方はぜひそちらをご覧ください。

服のすそを中に入れたらスカートが広がった!着せ替えコミュニケーションゲーム『ファッションドリーマー』の徹底したこだわり(INSIDE)

なお、本作ではアバターをミューズ、コーディネートをルカットと呼び替えていますが、本稿では一般的な名称で統一します。

魔法の呪文「いいね」

本作のオンラインプレイではNPCに混じって他のプレイヤーのアバターが自分のゲーム世界に登場します。他のプレイヤーとのコミュニケーションは間接的なもので、MMORPG(多人数同時参加型オンラインRPG)のようにリアルタイムに同じ世界を共有するわけではありません。他のプレイヤーのアバターに対して「いいね」などのリアクションを行うと、そのプレイヤーがオンラインになったときに相手に通知が届く仕組みです。

画面左側に表示されているのがゲーム内SNSのイヴログ。他のプレイヤーのリアクションはここに通知される。

例えば、NPCを着せ替えるのと同じ手順で他のプレイヤーのアバターをコーディネートすると、そのプレイヤーにその内容が通知されます。相手のプレイヤーは届いたコーディネートを見て気に入ったなら、ボタンひとつでその服に着替えることができます。

このとき、相手のプレイヤーが着替えるのに必要なアイテムを持っていなければ、その場で送られてきたコーディネートに「いいね」するだけで、すべてのアイテムが手に入ります。アイテムを入手するのにコストは一切かかりません。

他のプレイヤーから送られてきたコーディネート。アイテムが不足していても「いいね」するだけで手に入る。

このように、どんなに貴重なアイテムでもアバターの誰かが身に着けているものやコーディネートの提案を「いいね」するだけで手に入ります。「いいね」する側のプレイヤーはなにもコストを支払う必要がなく、一方で「いいね」された側のプレイヤーは報酬としてゲーム内で利用可能なポイントを獲得できます。つまり、どちらのプレイヤーも利益を得られる仕組みです。まさしくウィンウィン(Win-Win)の関係だと言えるでしょう。

自分が他のプレイヤーをコーディネートすると、相手の要望を満たせているかをゲームが評価してくれる。

着る者と作る者

しかし、このような仕組みを通常のオンラインゲームに導入すれば、開発者が用意したすべてのアイテムがあっという間にゲーム内に流通してゲームバランスは崩壊。レアアイテムをコレクションする楽しみも失われてしまいます。

それでは、本作がオンラインゲームとして破綻していないのはなぜでしょうか。それは、すべてのプレイヤーが色違いのアイテムを自作して他のプレイヤーと共有できる仕組みが用意されているからです。

アイテムを作成する際はあらかじめ用意されたパレットの中から色を選ぶか、カラーコードを直接指定する。

アイテムは複数箇所の色を細かく指定することが可能で、そこから生み出されるバリエーションは膨大な数に上ります。その結果、ゲーム世界に参加しているプレイヤーのアイデア次第で、新たなアイテムが次から次へと登場し続けることになります。

自分が目指す最高のコーディネートを実現する上でも、他のアバターから求められるコーディネートの条件を満たす上でも、デザインの異なるアイテムはいくらあっても足りません。そのため、新たなアイテムへの需要は簡単にはなくならないのです。

「いいね」するだけでアイテムが手に入るにもかかわらず、本作のゲームバランスが崩壊しないのは、よく考え抜かれた仕組みのなせる技でした。

現実世界と切り離された仮想空間が舞台なので、登場するNPCも個性的なキャラクターが多い。

また、コーディネートが「いいね」されると、そのコーディネートを行ったプレイヤーだけでなく、コーディネートに使われたアイテムを最初に作成したプレイヤーにもポイントが配分される仕組みまで用意されています。この仕組みのおかげで、なるべく多くのプレイヤーに利用されるアイテムを作ろうという動機づけが生まれているのです。

このように、本作のオンラインプレイにはプレイヤーによる需要と供給のバランスを保つための仕組みがいくつも用意されています。

映える写真を撮るための機能も充実。写真を撮ると自動的にハッシュタグがつきイヴログに投稿される。

インフルエンサードリーム

それでは、リリース後のオンラインプレイでこの仕組みは期待通りに機能したのでしょうか。結論から述べると、リリースから5日後の時点で、筆者のプレイしている範囲では大きな問題は起きていません。

各プレイヤーはポイントを稼ぐために、自分の作成したアイテムをゲーム内で流行らせようと試行錯誤していますが、今のところゲームを破綻させるほどの必勝法は見つかっていません。普段は戦略ゲームをプレイしている筆者も、公開されているルールの範囲内で効率的に自分のアイテムをバズらせる戦略をいくつか考えました。



しかし、最終的には他のプレイヤーと交流しながら普通にプレイするのが一番安定してポイントを稼げるという結論に落ち着いています。ただし、本作の経験値に相当する「フォロワー数」に関しては、刻一刻と変化するトレンドを意識してコーディネートすることで獲得数が数倍に跳ね上がることがわかりました。

自由に家具を並べたショールームを公開し、自分の作ったアイテムを宣伝する機能まで用意されている。

しかし、ゲームバランス上の問題がまったくなかったわけではありません。

本作には自分のアイテムを同時に1個だけ宣伝できるポップアップと呼ばれる機能があります。この機能を使うと、ゲーム内の目立つ場所にアイテムが展示され、それを見た他のプレイヤーは「いいね」するだけで入手できるのです。

ゲーム内のTIPSでこの機能を知った筆者がさっそく自作アイテムを宣伝したところ、その直後から大量の「いいね」が届き始めて通知音が鳴り止まない状態になりました。どうやら、この機能はプレイヤーの間でまだ広く知られていなかったらしく、結果的に筆者のアイテムが多くのプレイヤーに展示されたようです。

各プレイヤーが作成したアイテムが一堂に会する展示場。ここでも「いいね」するだけでアイテムを入手できる。

この件で大量のポイントを獲得した筆者はリリース後わずか1日半でスタッフロールを見るに至りました。ただし、本作のスタッフロールはゲームの終了を意味するものではなく、筆者は現在も精力的にプレイを継続しています。また、プレイヤーの間にポップアップ機能の存在が広まったためか、現在はその効果も以前ほど強力ではなくなっています。

画竜点睛を欠く

本作にはゲームバランス以外にも改善して欲しい点がいくつかあります。

まず、頻繁に処理落ちが発生する問題です。特に、アバターが走っているときには結構な頻度で画面がカクつくので、せっかくの綺麗なアバターに注意が集中できません。

処理落ちはプレイに支障が出るほどではないが、画面が綺麗なだけに目立ってしまうのが残念。

次に、ほとんどのアイテムに男女の区別があることです。本作では男女という表現を用いておらず、性別による体型の違いはタイプA・タイプBと呼び変えられています。それにもかかわらず、スカートやワンピースだけでなくTシャツにまで男女の区別があり、気に入った服があっても性別が違うと着用できないのは残念でなりません。

異性用のアイテムでも「いいね」で入手することは可能。異性のアバターをコーディネートするときに使用する。

最後に、コーディネートを保存する機能がないのは不親切だと感じました。せっかく他のプレイヤーからコーディネートの提案が届いても、それと入れ替わりで自分のコーディネートが消えてしまうのでは困りものです。

アバターは最大4人まで作成可能。上手くやりくりすればコーディネートを使い分けることはできる。

本作はすでに近日中の大型アップデートが予告されているので、プレイ環境を改善するアップデートにも期待したいところです。

総評

本作は、コーディネートを通じてフォロワーを増やし、インフルエンサーになることだけが目的のゲームではありません。ゲームの中で何度も語られている通り、本来の目的はプレイヤーが自分自身の個性を発揮して他のプレイヤーと交流することです。

本作では、徹底的に作り込まれた着せ替えの楽しさと、アイテムを好きなだけ手に入れられる喜び、そしてなによりファションを言葉代わりにして世界中のプレイヤーとコミュニケーションする新体験が味わえます。細かい不満点は残るものの、作品本来の面白さを損なうほどではありません。

プレイヤーが好き勝手にアイテムを手に入れてもゲームバランスが崩壊しないという、これまでのオンラインゲームでは考えられなかった可能性を示す意欲作として、ファッションに興味のある方だけでなくすべてのハードコアゲーマーに知っていただきたい作品です。

総評:★★★
良い点
・徹底的に作り込まれた着せ替え要素
・同じ空間に共存するNPCと他のプレイヤー
・「いいね」するだけで手に入るアイテム
・アイテムの需要と供給を保つための仕組み

悪い点
・頻繁に処理落ちが発生する
・アイテムが男女ごとに分かれている
・コーディネートの保存機能がない
・リリース直後のゲームバランスが若干悪い



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《FUN》

遊ぶより創る時間の方が長いかも FUN

元ゲームプログラマー。得意分野はストラテジーゲーム。ゲームライターとして活動する傍ら、Modの制作や有志日本語化に携わっています。代表作は『Crusader Kings III』の戦国Mod「Shogunate」。

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