高評価な短編ADV『ファミレスを享受せよ』開発者・おいし水にインタビュー。ビジュアル&サウンドのルーツや新作についても訊いた | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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高評価な短編ADV『ファミレスを享受せよ』開発者・おいし水にインタビュー。ビジュアル&サウンドのルーツや新作についても訊いた

今、ファミレスの裏側に迫る

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高評価な短編ADV『ファミレスを享受せよ』開発者・おいし水にインタビュー。ビジュアル&サウンドのルーツや新作についても訊いた
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大好評の短編ノベルゲーム『ファミレスを享受せよ』。筆者はこちらの記事で詳細なプレイレポートを書かせていただいている通り、同今作の大ファンなのですが、今回はその開発元である月刊湿地帯おいし水さんにインタビューを実施しました!


『ファミレスを享受せよ』制作の背景から新作『METRO PENGUIN EUTOPIA』の情報まで様々な質問を投げかけましたので、既にプレイされた方もこれから遊ぶ予定の方もぜひチェックしてみてください!


――最初に、自己紹介をお願いします。ゲーム制作を始めたきっかけや、サークル名の由来なども併せて教えてください。

おいし水さん(以下、敬称略) おいし水(すい)と申します。月間湿地帯というウェブサイトを月イチで更新しつつ、ゲーム制作をしています。現在は『METRO PENGUIN EUTOPIA』という新作に取り掛かっております。

ゲーム制作についてですが、元々小学生の頃からゲームを作ってみたいと思ってはいたんです。でも、当時は技術がなかったので……大学生になってプログラミングに触れたことで、自分の技術がやりたいことに追いついてきたと感じて、Webサイト制作やゲーム制作を始めました。最初のゲームが完成したときに「自分でもできるんだ」と達成感を覚え、自分の活動の主軸をゲーム制作に置くようになりました。最初に作ったゲームである『湖』は、今でも私のWebサイトに載っています。

月刊湿地帯『湖』

元々は、漠然と「Web制作って就職活動に活かせるんじゃないか」と考えていて、Webサイトを作る技術を身に着けようとしてたんです。とはいえ、音や動きを実装していくとブラウザだと限界があるので、次第にゲームエンジンを使って制作するようになりました。

サークル名の由来は、大したことない話なんですが、夢に出てきた雑誌の名前です。自分でもおしゃれだと思っております(笑)。 

――なかなか斜め上からの由来だったので驚きました。

おいし水「居住地としての湿地帯」という特集が組まれるという夢を見たんです(笑)。

――今までにハマったゲームやコンテンツについて、影響を受けたものがあれば教えてください。

おいし水作風や文体で影響を受けたのは安部公房ですね。高校生のころに出会いました。モノの考え方など、自分を形成してきた作家です。平易な文体で不思議なことを表現していて、自分の創作にある「難しい言葉をあまり使わない」というスタイルも安部公房の影響下にあると思っております。

他には「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」をよく薦めています。まっすぐな前向きさに心を動かされました。この作品に出会ってからは「露悪的なことをやらない」「明るいものを作りたい」という考えになりましたね。

ゲームについては、学生時代はFPSばっかりやっていたこともありましたが、それはただ楽しかっただけで、作風に影響は与えられてないと思います。小学生のときに遊んだブラウザゲームBABARAGEO」や「ネコゲームス」のような、レトロ風だけど音やグラフィックの表現にこだわりのある作品が好きです。「ダンボール」っていうサイトの『粉遊び』というゲームも好きで、それらのおかげで“グラフィックスの最小単位が見えるゲーム”が趣味嗜好になっていきました。チープでヘンな感じに惹かれるのもその辺りからでしょうね。

――最近ハマっているゲームなどはありますか?

おいし水最近はあんまり人の作品に触れる暇がないんですけど、Steamで配信されている『Mosa Lina』ってゲームが良かったです。

ステージ上に表示されているいくつかのフルーツを取るだけのアクションパズルなんですけど、攻略に使うためのアイテムがランダムで出てくるので、場合によってはほぼ詰んでるか、もしくはクリアできないようなステージになることもあるんですよ。とはいえ、メチャクチャな挙動を試してみると、ヌルッと攻略できたりもします。そういうファジーさがありますね。

ゲームってクリアできるようにデザインされているのが当たり前だと思ってたんですけど、これはそうじゃないので、その点が面白いなと思ったんですよね。

『Mosa Lina』

『ファミレスを享受せよ』について

――続いて、『ファミレスを享受せよ』についてお聞かせください。影響元を見てみると、古典的な文学作品から、フリーゲーム、メジャーなアニメや映画まで幅広く影響を受けているようです。そういった作品をどう選んでいるのかとか、どういった点に注目して観賞したり遊んだりしているのかという“こだわり”について教えてください。

おいし水体系的に何かを追うというよりは、ネットを見ていて気になったモノをメモしておいて、なるべく多数触れていく感じでやっています。図書館に行くと「買うほどではないが、妙に気になる変な本」があって、とても面白いというわけではないけれど、やけに魅力を感じるんですよ。ああいうのが好きです。書店とかゲームのオンラインストアでも、そういった具合で、あんまり自分の趣味嗜好にないところを探すこともありますね。

ゲームを作り始めてからは、ゲームのシステムとかUIを重視して見ることが増えたんですけど、そもそもが作り手の都合とか考えながら触れるのがそこまで好きじゃないので、ゲーム以外のものは何も考えずに楽しんでますね。影響を受けるときはそこから盗もうと思わなくても、自然と受けるものですから。

――イラストについて、色の数が少ないことは雰囲気を出すことと手間を減らすことの両義があるというようにブログのほうで書かれていました。個人制作では大量のイラストや音楽を用意するのが難しい側面があるとは思いますが、その他、手間とクオリティの両立について工夫された点はありますか。

おいし水おおむねそこまで気にしてないのですが、絵の枚数を減らすための施策としては「基本的にアニメーションはナシ」でやっているなと、ふと思いました。『METRO PENGUIN EUTOPIA』でもそのようにしていますね。

アニメーションは手間がハンパないので、基本的には静止画です。アニメーションがあるように見えていても、実際は簡単な映像効果だけで、モヤモヤ動いているように見せています。手間とクオリティというのは、相関関係はあっても、必ずしも因果関係があるわけではないと思っているので、絵とかゲームとかコンセプトとか、作ることでやりたいことがハッキリしていて、それを達成できていれば、ウェルメイドに出来上がっている必要はないと感じています。

――特に気に入っているキャラクターやシーンはありますか。

おいし水キャラクターはセロニカですね。暗くて真面目で責任感の強い男キャラが好きなんです(笑)。どのキャラも対等に扱いたいとは思っていますが。

シーンで言えば、ドリンクバー関連が自分で気に入ってて、線のフニャッとしたドリンクバーの絵は上手く描けたと思います。ドリンクバーでボタンを押したときのブーって音が好きなので、実装できた時も嬉しかったですね。コーヒーがあふれるシーンも「ああ~……」という雰囲気を出せたと自負しています。

――今回のアップデートではピアノバージョンの音楽が追加されましたが、特にこだわった点や、ここは聴いて欲しいというポイントがあれば教えてください。

おいし水自分で意識したのは、「ピアノで、一人で(両手で)弾ける曲」を意識して作りました。YouTubeなどでアレンジ曲とかを聴くと、ただMIDIノート(鍵盤の演奏情報)をピアノ音源で出力しただけのものが多く、それらも聴く分には魅力的ではあると思いますが、自分で作る際は「人間が真似できる曲」にしたかったんですよね。

BGMのひとつ「総当たり」だけは、人間の両手で対応できなくてもいいという考えがあり、そうなっています。ピアノバージョンはあくまで2周目から聞く音楽と捉えています。相当雰囲気を変えたので聴いてみて欲しいです。

メインテーマでもある「過去を照らす月」は、もにゃっとした不安定な雰囲気を出せるように、他の曲よりも細かく打ち込みをしました。

――『ファミレスを享受せよ』ではキャラクター同士の会話文が非常に短く、特にゲーム中盤までは“各々が思ったことをただぶつけあうようなやりとり”が印象に残っています。こういったシナリオライティングで意識した点についてお聞かせください。

おいし水シナリオより先に「雑談するゲーム」というのを最初から決めていたので、前半のシナリオあたりはストーリーに関係のないただの雑談になるよう意識していました。遊ぶ人には「会話自体が目的である」と感じて欲しかったんですよね。

ストーリーに絡むこともあるけど、キャラクターから自然に出る話を書きたかったんです。自然な会話になるよう意識しました。小説でも、ストーリーに絡まない断片的で変な部分のほうが記憶に残ったりもするので、あとから「あれってなんだったんだろう」と思えるような会話になるように頑張りました。後半は「話題がなくなる」というところから、物語が動くような展開にしていました。

――音源制作にSERUM(ソフトウェアシンセサイザー)を用いていることについて、意外なハイファイさを感じました。捉え方によっては「コスト削減のため」というより「レトロ風」ともとれるビジュアルとサウンドですが、おいし水さんの中で特別に「古さ」を意識することはありましたか。

おいし水「レトロ風」は意識しておらず、趣味嗜好を突き詰めていたら結果的にそうなったという感じです。SERUMは「これ一個あればいける」というありがたいシンセですね。インターフェースが分かりやすいのも良いです。音もグラフィックも「最小単位が見える」ものが好きなんですよね。

――おいし水さんの音楽のルーツについてお聞かせください。どのようなジャンルから作曲を始めたりしたのでしょうか。

おいし水昔からピアノを習っていたことが大きいです。最初に弾いていたのははクラシックでしたが、ピアノを習わなくなってからも好き勝手に弾くことが多くて、YouTubeで音楽系の動画を観たり、ボーカロイド楽曲のピアノ楽譜や、ゲームBGMの楽譜を印刷して弾いていました。

――ゲームリリース以外の展開についてもお聞かせください。グッズ販売などの予定はあるのでしょうか。

おいし水漠然とグッズとか出せたら楽しいかもとは思っていますが……。

わくわくゲームズ(本作パブリッシャー)担当者過去にはオフラインイベントで作中のファミレス「ムーンパレス」のロゴ入りコースターを配布したりしていましたね。実際のファミレスにあるような「ドリンクバー用のコップ」を検討したことはあったのですが、新作『METRO PENGUIN EUTOPIA』も進行していますし、そういった展開はバランスを見ながら、ですね。

新作『METRO PENGUIN EUTOPIA』について

――Steamのゲーム概要を読ませていただく限り、ビルドを伴った選択式のRPGになりそうに感じました。『ファミレスを享受せよ』とはゲーム性がかなり異なりますが、このゲームを作ろうと思ったきっかけなどあれば教えてください。

おいし水そもそも『ファミレスを享受せよ』も「ADVを作ろう!」と思って作ったものではありませんでした。描きたいシーンや状況を考えた結果、ADV的なシステムになっていった感じです。『METRO PENGUIN EUTOPIA』も同じ流れで、元になったアイデアの「地下でペンギンと戦う」というものは昔から漠然と考えていたんです。

『METRO PENGUIN EUTOPIA』

元々はこのアイデアをゲームにしようとまで思っていなかったのですが、「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド(村上春樹)」を読んだときに、“都市の薄皮一枚向こうに得体の知れない何かがいる”という状況が魅力的だと感じたんです。

「都市計画・設計について専攻している学生が孤高の狩人として戦う」というエピソードは学生の頃から妄想していたものでして、『ファミレス』の制作を進めるときのモチベーションとして「次に作るゲームの構想を考える」ということがありました。『ファミレス』がしっとりしたゲームだったので、反動で暴力のあるゲームを作ろうという気持ちになったんですよね。

元々は現代の札幌を扱う予定だったんですが、世界観や現実の法律などを考えてるとリアリティが出せなくなりそうだったので、近未来の札幌にしています。

――全体のボリュームはどれくらいを予定していますか。

おいし水ハッキリとは言えないけど、寄り道らしい要素はあまり収録しない予定です。10時間くらいで終わるボリュームを考えています。

――『ファミレス』の2倍以上ですね。

おいし水1周でも完結するが、ストーリー的には周回前提になるかもしれないんですよね。制作期間もプレイヤー側も大変だと思うから短くしたい気持ちはあるんですが、やりたいことをやろうとすると結構かかりそうです。

『METRO PENGUIN EUTOPIA』

――発売はいつ頃を予定していますか。

おいし水まだ全然見えてないです(笑)。漠然と来年のうちに完成させたいとは思っています。システムは決まっていて、実装の途中という段階です。エディタをいじって作っていける段階まで進めば、そこからはハイペースで進みそうなんですが……今はいろいろ練りながら進めている状態です。いつも時間がかかりがちなので、今の段階で“来年”とは言っても、実際には再来年になってしまうかもしれないです(笑)。

――『METRO PENGUIN EUTOPIA』の制作でお忙しいとは思いますが、ゲームに限らず、今後「こういう活動をしてみたい」というものはあるでしょうか。

おいし水ゲームがありえないほど売れて、ありえないほどお金が入ったら、札幌にほどほどの水族館を建てたい(笑)。道楽で喫茶店をやるイメージで水族館をやってみたいんですよ!

――それは壮大な夢ですね(笑)。水生生物がお好きなのでしょうか。

おいし水そうですね。昔から何となく好きです。小学生のころに図書館にあった「さかな図鑑」や「海のいきもの図鑑」という感じの図鑑の、深海魚のページを見るのがとても好きでした。の生き物特有の「話が通用しなそうな感じ」に惹かれましたね。海って怖いですし、自分に対して全方位が“魚たちの領域”だと思うとゾッとします。


以上、月刊湿地帯のおいし水さんへのインタビューでした。コアなファンを持つ『ファミレスを享受せよ』、そして新作『METRO PENGUIN EUTOPIA』を応援すれば、もしかしたら札幌に水族館がひっそりと構えられるかもしれません。『ファミレスを享受せよ』はPC(Steam)/ニンテンドースイッチ向けに配信中。新作『METRO PENGUIN EUTOPIA』は2024年リリース予定です。


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《各務都心》

各務都心

マーダーミステリー『探偵シド・アップダイク』シリーズを制作しているシナリオライター。思い出の一本は『風のクロノア door to phantomile』。

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