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『バルダーズ・ゲート3』森の番人、魔術師、裁判官、謎多きドルイドとケルト文化【ゲームで世界を観る#67】

一度滅ぼされた自然信仰が現代で再び注目されています。

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『バルダーズ・ゲート3』森の番人、魔術師、裁判官、謎多きドルイドとケルト文化【ゲームで世界を観る#67】
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『バルダーズ ゲート3』の冒険は、自然崇拝のドルイドが守っているエメラルドの森から始まります。ゴブリン族の襲撃を受けている森には別の土地から避難してきたティーフリングが身を寄せていますが、ドルイドは禁術で森を封じるためにティーフリングを追い出そうとしています。流れ者の主人公達は問題に対してどう関わるか、どこに肩入れするか、最初の大きな選択に直面するのです。

ヨーロッパにおけるシャーマニズムを代表するドルイドは、欧州に広がるガリア人、ブリトン人などの「ケルト人」の文化がモデルです。個々の民族としては欧州各地で分化していますが、古代オーストリア周辺のハルシュタット文化にルーツがある大枠の共通文化をもつ諸民族をまとめて一般的にケルト人(ケルト系)と呼ばれています。

ハルシュタット文化は東からやってきた騎馬民族が定住して発生しました。集中権力は無く一族の小国単位で暮らし、各クランの中に王族周辺の政治層、戦士、農耕をする平民、3つのグループがありました。その中のイギリス、フランス周辺のガリア人、ブリトン人に自然崇拝のドルイドがいたとされています。今で言う「ケルト文化」というとこのあたりを指しますが、他のケルト系全体がドルイドの信仰を共有していたかどうかは不明です。

キリスト教と融合した「ケルズの書」より

ドルイドは3グループの中の政治層に入り、様々な口伝を学んだ知識者として助言、儀式を司りました。日本における陰陽師のような役割です。カエサル「ガリア戦記」によるとブリテン島に信仰の中心があり、各地のドルイドはそこへ修行に行って知識を持ち帰ったとされています。

ケルト文化では円や渦巻きの文様がよく用いられます。円の中に動植物を描いたものも多くあり、ケルトの精神性を知る起点になります。ケルトには魂が万物に生まれ変わる輪廻転生の思想があり、終点が無く永久に続くことを表します。

彼らが信仰する自然の中でも太陽は別格で、農耕生活を送る彼らには昼と夜、一年の周期を司る存在として最も重要視されていました。太陽の巡りと季節の変化は万物流転の価値観を形成し、自然の流れと調和を司る存在として、日々起こるトラブルの仲裁も担いました。王を承認する権限もあり、時には王を殺して代替わりさせることもあったとか。

ドルイドは樹木、特にオーク(主にヨーロッパナラ)の木を神聖視していました。一般的に「樫」と訳されることが多いですが、英語で「Oak」は樫と楢両方を含むので注意しましょう。彼らは樹木から杖を作り、儀式の道具に使います。ヤドリギが付いた樹には特別な力が宿ると考え、切り落とした枝が地面に付かないよう大切に扱ったそうです。

周囲の欧州よりも早く鉄器が発達し、ローマに先駆けて欧州全体に進出したケルト人は、ハルシュタット、ドナウ川などの地名に足跡を残しました。しかしローマとの戦争に敗れて以来、異教として排斥され、文字の記録を残さなかったことから、古代ケルトの社会形態が直接的に分かる記録はほとんどありません。

本作のドルイドや、他作品に出てくる異端者のように今日私たちが目にする古代ケルトのイメージは、「ガリア戦記」、プリニウス「博物誌」などローマによって書かれた記録が元になっていて、それによると生贄やカニバリズムの儀式が行われたとも記述があります。

ローマの敵として誇張されている面もあるでしょうが、2001年の英国ブリストル大学の調査では、サウスグロースター州アルヴェストンで食人が行われた痕跡が確認されました。どのような考えでこれらの儀式を行ったのかは不明ですが、他文化から見て残酷だとするのは拙速です。彼らの信仰や死生観からすれば益のあることだったはずですし、その価値観を解き明かすのが肝心です。中世の時代に魔女と呼ばれた人々の中には、こうしたケルトの信仰を受け継いでいた人もいたでしょう。

エコロジーやサスティナブルといった概念が根付いた昨今、自然との調和を目指したケルトの信仰は再び関心を集め、2010年に英国で現代ドルイドの組織「ドルイド・ネットワーク」へ、日本の公益法人に相当する慈善団体資格を与えられました。これによって他の宗教と同等の布教活動を行うことが可能になります。異教として長い間迫害されてきたケルトの信仰が、英国史上初めて政府から公的に容認されたのです。

多文化のあり方について見直しが進み、長らく迫害されてきたドルイドの信仰を認めるのはローマ以来の歴史的な転換点と言えます。文化再興の視点からもケルトのこれからに注目です。


《Skollfang》

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