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シリーズ最新作『SILENT HILL: The Short Message』プレイレポ!まさかの暗黒の青春ドラマによって、シリーズ再生の号砲を撃ち鳴らす

おそらく『サイレントヒル』シリーズは、ここから間違いなく蘇る。

連載・特集 プレイレポート
シリーズ最新作『SILENT HILL: The Short Message』プレイレポ!まさかの暗黒の青春ドラマによって、シリーズ再生の号砲を撃ち鳴らす
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その恐怖が主人公たちの精神の混乱に裏付けされているということ。数あるホラーゲームのなかで、『サイレントヒル』シリーズが高いオリジナリティを持ち得ることができたのは、そんな登場人物の心にフォーカスしていた点が大きいのではないでしょうか。

『サイレントヒル』の描く恐怖は、少なからず人間の精神や記憶の崩壊や暴走に関わっています。だからこそ同シリーズは長い間ファンを惹きつけ、ずっと新作が待ち望まれてきたのだと思います。しかしそんな新作も、すでに10年以上発表されていません。

そんな空白を埋めるかのように、近年はシリーズが復活する機運が高まっています。Annapurna Interactiveとの共同による『SILENT HILL: Townfall』の発表から始まり、『Layers of Fear』のBloober Teamによる『SILENT HILL 2』のリメイク開発や日本を舞台にした『SILENT HILL f』。さらにインタラクティブ・ストリーミング・シリーズ『SILENT HILL: Ascension』の配信と、立て続けに新たな動きが明かされました。

そこへ唐突に、完全新作となる『SILENT HILL: The Short Message』(以下『The Short Message』)がPS5にて無料配信されました。

本作は無料だからと言って軽いゲームではありません。まったく新しい挑戦を行っています。 “人間の精神にこそ恐怖がある”というシリーズの方向を引き継ぎながら、なんと今作では、青春ドラマを展開しているのです

ですが、ここにあるのは暗い青春です。淡く、楽しかった学生時代みたいな青春はありません。承認欲求、他人との比較、無力さ、焦り、それらがもたらす壊れた青春です。目をそむけたくなる青春もまた、誰しも身に覚えがあるものでしょう。

本稿では、そんな『The Short Message』を先行プレイする機会を得たので、そのインプレッションをお届けします。なお、自傷行為、自殺、虐待やいじめといった内容に触れていますので、記事を閲覧する際にはご注意ください

暗黒の青春譚

暗黒の青春の主人公はアニタ。眼鏡の彼女はどこか自信がなく、人の目を気にして怯えた様子を隠せません。アニタは友人のマヤからスマートフォンへのメッセージで呼び出され、廃墟となったマンションを訪れていました。内部は朽ち果て、誰かがいるとは信じられません。

しかし壁にはグラフィティが描かれており、何者かがいたということはわかる。マヤは綺麗な絵を描くのが得意で、グラフィティのぎらついたイメージと違う、桜を彩った華やかな絵を壁に描き残していました。アニタは鮮やかなグラフィティの後を追い、マヤがいるはずの薄暗いマンションの奥へ進んでいくのですが……。

主なゲームプレイは、プレイヤーが彼女の視点となり、廃墟となったマンションでマヤを探しにゆくものです。いわゆるウォーキングシミュレーターと言えるでしょう。廃墟のさまざまな部屋の様子を観たり、捨てられた雑誌や新聞を読んだりしながら、世界観を想像していくことで物語を追います。

ウォーキングシミュレーターと言えば、比較的広大なフィールドを探索させるタイトルも少なくはないのですが、本作においてはアニタの物語を迷わず最後まで体験できるように、丁寧なレベルデザインが設計されています。

誰もいない、朽ちたマンションの据えた空気。剥げ上がった壁の塵の匂いに、グラフィティを描くスプレーの塗料の匂いが混ざり合う。そんな雰囲気を想像できる空間を通り抜けます。どの家具も朽ち果てた壁の塵に塗れています。

塵をまとったダンボールの箱に捨てられたパンフレットを読むと、この場所が「ケッテンシュタット市」だとわかります。国境沿いの歴史ある街ですが、現在は過疎化により衰退してゆく状況にあります。近年では街の衰退を食い止めるため再開発が立案されており、アニタやマヤの親の世代はそれに取り掛かろうとしていたようです。

しかし2007年ごろのリーマンショック、近年の2020年の新型コロナウィルスの蔓延など、過去10数年の間で諸外国の投資を得るチャンスを次々と逃し、再開発は中断。街は朽ち果ててゆきます。アニタやマヤは、そんな行き詰った街で10代を迎えたのでした。

未来のない街で少年や少女たちはどう育つのでしょうか? アニタのスマートフォンへ届くメッセージを読むと、薄々とその結果が見えてきます。街に残るもの、大学への進学で出ていこうとするもの……。

アニタのSNSではさらに切実なことが見えてきます。マヤと同じようにグラフィティを描いていたこと、しかし思うような評価を周りから受けなかったこと、それでも自分への評価が欲しくて、SNSでセクシャルな自撮りを載せるようになるになったこと……。それらはアニタの心をかき乱すのに十分でした。

出口のない衰退した街で、アニタも、他の若い世代も親世代からの虐待を受けていることまで見えてきます。この街では自分の行く末を見つけられず、自殺を選ぶ人間も少なくありません。アニタもまた、その選択へと引きずられてゆく最中でした。

やがてプレイヤーは、アニタの手首に何本もの傷が入っているのを見つけるでしょう。ゲームを進めれば、アニタのリストカットを行った記憶が蘇るシーンも登場します。主観視点で剃刀で手首に傷を入れる動きは、プレイヤーに鋭い痛みを想像させるでしょう。

アニタの心の混乱に伴い、だんだんと現実か、アニタ自身の強迫観念が生み出した世界か分からない場所に迷い込むようになります。その奥には実体の知れない怪物が潜み、アニタに襲い掛かります。怪物の頭は桜の花で彩られていました。

怪物から逃げながらも、アニタはマヤの描いたグラフィティを見つけていきます。絵を目にしたアニタの前に、マヤと語り合った記憶が実写映像として蘇ります。いまマヤはどこにいるのでしょうか。アニタの出口はどこにあるのでしょうか。

過去10年のインディーで発展したウォーキングシミュレーターの文脈に合わせたゲームデザイン

『The Short Message』をプレイしていると、『サイレントヒル』シリーズが休止してからの10年を埋めるような要素で満ち溢れていることに気づきます。

ひとつは、先述したウォーキングシミュレーターの活況。これは2012年に『Dear Esther』や『Gone Home』などの高い評価から、大きな注目を集めていったジャンルです。

このジャンルではプレイヤーがある空間を探索しながら、作品世界の状況を探っていきつつ、主人公の精神や記憶を追うようなものや、社会的なテーマを取り上げた物などが誕生していきました。

ジャンルの影響は大きく、2019年の『環願 Devotion』がウォーキングシミュレーターの構造を取り入れたADVを開発し、その80年代の台湾社会を反映した内容は(作品内容や中国との政治的な問題も含め)大きな話題になりました。

そして『サイレントヒル』シリーズとは、まさしく登場人物の心にアプローチすることを主眼に置いたタイトルです。そこで10年以上のブランクを埋める意味で、『The Short Message』がここ10年のウォーキングシミュレーターの要素を研究し、取り入れたことは理にかなっていると言えるでしょう。

また、実写映像の使いどころも非常にシャープです。普通、実写映像を使うとそこだけ浮いて見えやすいもの。しかし本作においてはマヤが出てくるパートにのみ使うことで、「アニタが探し求める、少し遠くにいる友人」という印象を生み出しています。

これにより実写映像が無理な表現ではなく、物語としてしっかり馴染んで見えるのです。国内のタイトルで、比較的スマートに実写映像を作品に落とし込んだものは珍しく、ひとつの成功例として頭の片隅に入れておくべきケースであると感じました。

ふたつめはADVやRPGなど、物語の要素を持つジャンルで描くテーマが、より身近な暗黒面を扱うようになったことです。『ライフ イズ ストレンジ』や『ディスコ エリジウム』などは、(多少のファンタジーがあれども)現実を舞台に、登場人物たちが私たちでも起こりうるような悩みを抱えていました。『The Short Message』もまた、現代の10代が巻き込まれる問題を取り扱うことで、現実の我々に近い物語を描くという流れに忠実であるといえます。

もちろん、「現実的なテーマを扱うから何でもよい」わけではありません。物語全体の丁寧な構成も魅力です。アニタ自身の葛藤を中心にシナリオは二転三転し、プレイヤーを飽きさせないように作られています。なにより テーマが“恐怖と青春”という、相容れないように思える鉱脈を掘り当てた点でも筆者の評価は高いです。

総じて完成度が高く、「これは1000円台で販売したとしても問題ないんじゃないか」とすら思えます。これを無料で公開するということに、今後の『サイレントヒル』プロジェクトの本気さがうかがえるのではないでしょうか。

『サイレントヒル』シリーズ再生の号砲

『The Short Message』は新鮮な驚きでした。もちろん過去10年のウォーキングシミュレーターを見ていると、決して本作だけにしかない新しさはありません。ですが10年以上のブランクがある『サイレントヒル』シリーズを、現代のビデオゲーム表現の文脈に繋ぎ合わせたことは高く評価できます。

というのも、日本の長い歴史を持つシリーズが世界で進む新たなゲーム表現の文脈を繋ぎ合わせること自体が実はかなり難しく、どこも苦労しているように思えるからです。その意味で『The Short Message』は、『サイレントヒル』シリーズの空白を埋める一手なのは確かです。このあたりは、本作のプロデューサーである岡本基氏の「批評性」という部分が大きいのではないかと思います。

岡本氏はKONAMI入社以前、過去に任天堂で『ピクミン』や『はじめてのWii』、『Wii fit』に関わってきたことで知られています。のちに独立してエンタースフィアを設立し、自らのプロジェクトを開発していたクリエイターでした。

その一方で同氏は、インターネット上でゲームに関する言説を、さまざまな媒体で活発に残しています。言説はかなりの数があるのですが、とりあえず公式でメディアに掲載されたものに絞ると批評性の高さがうかがえるでしょう。たとえば英語圏のゲーム業界やゲームデザインなどを特集する著名なサイト「Game Developer(旧Gamasutra)」にて、日本のゲーム産業に関する考察を英語で寄稿していたことなどには注目できます。

特に岡本氏の批評性の高さが伺えるのは、やはり国内ゲームメディアに掲載された『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の考察でしょう。同作のシリーズの歴史を辿りつつ、英語圏で発達したオープンワールドなど3Dのゲームデザインやその自由度において、『Ultima Underworld』や『Deus EX』などイマーシブシム(または没入シミュレーション)のジャンルと比較することで、ゲームデザインを考察するものでした。

あの批評を読み返すと「オープンワールドなど海外で進歩したゲームデザインに、いかに日本が追いつくか」の問題に言及されています。その解決として、日本国内のゲームのみに絞った論点で完結せず、英語圏で数十年単位で追求されてきたゲームデザインと比較し、いかに日本のゲームが今の文脈を繋げたかについて考察している点が白眉でした。

そして『サイレントヒル』シリーズをいま蘇らせるにおいて、おそらく岡本氏も、シリーズの止まった時を動かさなくてはならないことにかなり自覚的だったのではないでしょうか。

『The Short Message』が英語圏のウォーキングシミュレーターやナラティブのデザインを研究し取り入れたスタンスなのも、岡本氏の過去の批評を読むとかなり納得がいきます。本作の開発はヘキサドライブですが、岡本氏もチーム全体でかなり厳しく考えながら作ったように感じました。

そんな『The Short Message』から、今年発売が予定されているリメイク版『SILENT HILL 2』に繋がるという点にも注目しておきたいですね。なぜなら今回のリメイクを請け負ったBloober Teamこそ、『Layers of Fear』や『Observer』などここ10年で注目に値するウォーキングシミュレーターやADVを作ってきたチームなのですから。彼らの開発思想を持って、20年前の日本のゲームデザイン文脈にあった『SILENT HILL 2』をリメイクする意味も一考に値するでしょう。

結論として『The Short Message』からは、これからKONAMIが『サイレントヒル』シリーズ再生を本気で達成しようという意志が伝わってきます。ここから『SILENT HILL 2』リメイクに繋ぎ、10数年以上に及ぶシリーズの空白をこの1年で埋めるつもりです。『The Short Message』は間違いなくシリーズ再生を告げる号砲です

  • タイトル名:SILENT HILL: The Short Message(サイレントヒル:ザ ショートメッセージ)

  • ジャンル:サイコロジカルホラー

  • 対応機種:PS5(ダウンロード版販売のみ)

  • 配信日:2024年2月1日

  • 価格:無料

  • CEROレーティング:C(15歳以上対象)


©Konami Digital Entertainment

※UPDATE(2024/2/1 20:10):当初「リンク先では没入シミュレーションと表現」としていた部分の表現を修正しました。コメント欄でのご指摘ありがとうございます。

《葛西 祝》

ジャンル複合ライティング 葛西 祝

ビデオゲームを中核に、映画やアニメーション、現代美術や格闘技などなどを横断したテキストをさまざまなメディアで企画・執筆。Game*SparkやInsideでは、シリアスなインタビューからIQを捨てたようなバカ企画まで横断した記事を制作している。

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