
「すき」(あるゲームに投稿されたゲームレビューより)
最近「レビューは一言でいいよ!『GG』、『神』とかそんなんでOK! どんどん気になったゲームに気軽にレビューを投稿していこうよ!」っていう運動をSNSなどで見たことがあるのではないでしょうか? 最近の「Steamに気軽にレビューを投稿しよう!」運動のことです。
「すき」って気軽に一言書けば、確かにSteamレビューはOK。どんなに短い内容でも、良いと思ったその声が、見える形で届けば大丈夫です。
ただプロのライターとしては、やっぱり「レビューを読んだら、そのゲームの実態がだいたいわかる」ものが増えてくれると読んでいて楽しく、嬉しいです。ですが、今までレビューが増えづらかった理由を考えれば、詳細なこと・難しいこと・格好いいことを書こうとしてせっかくの意欲がなくなってしまっては本末転倒でしょう。だから「気軽に書ける、短い内容でそのゲームのことがわかる」というレビューがストアに集積されるのがいいんじゃないかな~と思うんですね。
そこで、「何をどこまで書いたら実態が分かるレビューとして成立するのか?」という思考実験をこのゴールデンウイークにやってみましょう。
今回は「今年話題となった『ダンジョン崩し』についてをギリギリ限界の分量で書くならどうするか?」というテーマで進めていきます。
楽にいいレビューを書くために、書くべし書くべし
とりあえず、先人に習って最低限の2文字から始めてみましょう。
「すき」

だめだ……。自分には『ダンジョン崩し』をこれだけでレビューできたとは思えねえ……もっと伝えたいことがあるのに。もう少し実態を伝える情報を入れても良さそうです。
僕がライターを始めたくらいのとき、ゲームメディアに「すき」くらいの内容で初稿を送ったら、編集者に「おい! なんだこれは! まずゲームの情報を書け! そしてどういうゲームデザインかを説明しろ!」と怒られたのを思い出しますね。「え~ダメなんですかめんどくさいなあ」とか思いつつも、「プロのメディアはなんだかんだで提供するゲームの情報の説明をする責任もあるんだなあ」と学びを得ました。
というわけで、まずはレビューにゲームの情報を書いた方がレビューっぽくなるのでしょうか?とりあえずいつもの自分の手癖で書いてしまいましょう。
さて『ダンジョン崩し』とはこんなゲームです。ふつうのRPGなら冒険者が迷いながら探索することになるダンジョンの壁を、プレイヤーは豪快にぶち壊しながら先へ進んでいくことを特徴としています。
『Vampire Survivors』の影響を受けたと思われるゲームメカニクスなどが特徴ですが、『ダンジョン崩し』の場合はそれとは別の体験になっています。アイテムや仲間を集め、強くなるごとに火力がインフレし、入り組んだダンジョンの壁を完全に破壊してしまう豪快さが魅力なのです。
とりあえずできたので、先の「すき」にくっつけて……。
「すき!さて、『ダンジョン崩し』とはこんなゲームです。普通のRPGなら迷いながら探索することになるダンジョンの壁をぶち壊しうんぬんかんぬん~『Vampire Survivors』の影響がどうだらこうたら~」
ん? 待てよ? よく考えたら、ゲームの情報自体はすぐ上のストア部分に載ってるし、ユーザーレビューにもいちいち同じような情報をまた書く必要ってなくないかな……?
ゲームメディアに掲載するレビューの場合には、けっこうストアにまとまってるような事前情報とかを書けって言われることも少なくないです。もちろん読者が必ずしも前提知識を持っているわけでもないですしね。そして、事前情報って書くのめんどくさ……いやいや大変なんだけど、ユーザーレビューの場合は別にスキップしていいのでは?
そうだよな! “楽にいいレビューを書こう”を考えた場合、まずプレイヤーがどう感じたかを速攻で書いたほうがいいだろ! 『ダンジョン崩し』をやってみて自分が感じた初期衝動を書きつければいけるだろ!
「すき!壁ぶち壊しきもちいーーーーーーーーーーーーー!」
とにかくスッキリ短くなった!
……どう? レビューっぽい? 「ダメだ……お前はこれをレビューと思うのか……」誰だ!どこからか声がする! 横か! 後ろか! ……いや、僕の頭の中だ。長いライター生活のなかで頭の中に自然と作り上げられた “イマジナリー編集者”が僕にダメ出しをしてくる!
「お前は自分でこれを認められるのか……」うるせえな! わかってるよ! どうすりゃいいんだよ!「レビューと言うにはに何が足りないかをお前は分かっているはずだ……」わかったわかったわかりましたよ! でもちょっと休憩していいですか? 状況を整理したいんで!
~小休憩~ なんで「Steamにレビュー投稿しようよ」運動がはじまったの?
さて、「Steamレビュー投稿しよう!」運動がそもそもなぜ発生したかというと、早い話「Steamのアルゴリズムに合わせて、期待のゲームをもっと注目させていきたい」という背景があります。Steamでは、ゲームがレビュー10件を達成するとディスカバリーキューでおすすめに掲載されるようになり、ストアのトラフィックが上昇し、ゲームの注目度が上がる仕組みがあります。
アルゴリズムの区切りこそ10件ですが、もちろんレビュー数が増えれば増えるほど、ストアの新着を気にするようなアルファなインディーゲーム愛好者、新たなネタを探すストリーマー、そしてメディアの目に付く可能性も増えます。100件ぐらいはきっとみんな欲しいんじゃないでしょうか。ほらゲムスパの日刊特集「採れたて!本日のSteam注目ゲーム」の基準も100件ですし。
そこで最近、日本のインディーゲームが活発にリリースされている状況が関係しているわけです。今年は『都市伝説解体センター』が話題ですが、本当はその周辺に気鋭のインディーゲームがいろんなパブリッシャーからいくつも出てきています。しかし、まだまだ注目されたいゲームは数知れず。レビュー10件はともかく、100件に満たないものなら山のようにあります。
以前、『ほりほりドリル』を開発したとーらい氏のインタビュー原稿を書いたとき、「本当なら、Steamレビュー100件越えは相当に凄いことなんだ」という旨を僕は書いたんですが、依然としてこの問題は立ちふさがっています。かつてのコンソールの有名シリーズの移植でもレビュー100件越えない、なんてこともありますしね。そこで日本のインディー全体を盛り上げるために、いろいろな人がSteamレビュー投稿を勧めるようになったのが、この運動の背景にあるわけですね……。
特にインディーゲーム産業はビジネス上、Steamレビューがともかく大事なことをわかっているので「レビュー書こう運動」に親和的です。
たとえばオンラインの大規模インディーゲームイベント・INDIE Live Expoは運営委員会が公式に「ウィッシュリストアド美ちゃん」を立ち上げています。名前の通りウィッシュリストの追加を推奨しているほか、レビューの投稿も推奨しています。
こうして大手イベントの後押しもあり、「みんな、レビュー書こうぜ!」という流れが生まれ始めているのでした。
「日本人は辛口レビューばかりを付ける」なんて話もありますが…。正直、実態はジャンルや対応言語などにもだいぶ左右されそうですが、いずれにしても、レビューとあれば「きちんと書く」か、何らかの不満をフラストレーションの赴くまま開発者へのペナルティ目的として書き捨てる場所、みたいな風潮があるなら、不満ばかりが目立ってしまいそうですね。そこで「気軽なレビュー」が求められているのです。
と、まとめたところで再び先程の文章に向き合いましょう。
レビューの必要要素を知り、簡単にゲームの内容と評価がまとまったものを考えよう!

「すき!壁ぶち壊し気持ちいいー!」
「……とりあえずここに必要な要素を加えるようにしろ……」うわっ僕の頭の中に住む編集者!急にアドバイスしないで! ちょっと校正が入って文章からのばし棒が減らされてるし!「ああいうのはいくら何でもひどいと思う」うるせえな! 知ってるよ!
あらためて、レビューの必要な要素ってなんでしょう? ちょっと洗い出していきましょうか。
1・レビュアー自身がゲームを遊んだ印象
実際にゲームプレイしてみた実感を書く。これがいちばん分かりやすいところですし、基本的には他の人がまずレビューで気にするところじゃないでしょうか。
『ダンジョン崩し』に関しては、「キャラを強くしていって、壁ぶち壊せるのが気持ちいい。ダンジョンを台無しにするのが面白い」というのを、一言で言ったら「壁ぶち壊しきもちいーーーーーーーーーーーーー」になるという。
「……だからのばし棒は減らせ……IQが低く見える……」うげっイマジナリー編集者からまた指摘が。文字数制限がある原稿で文字数が余ったとき、文字数を埋める時にこういうやり方はできたりしないですかね?
「……紙媒体など文字数制限がある原稿はきっちりした文章を求められることが多いはず。そんなイキり文章が許されるのはWebメディアだからというのはお前がいちばん分かっているはず……」そうだよ! その通りだよ!
2・実際のゲームを最後までやった評価
ゲームって事前のプロモやストアページの説明と、実際にゲームプレイしてみたら感覚が違うことがあるというのもよくあることでしょう。
『ダンジョン崩し』もやっぱりそういうところがあって、ちょっとプレイしていてもやもやするのは、「どうも一回死んで、そこまでに集めたお金とかリソースを持って最初のステージからやり直して強くするほうがクリアまで早い感じ」でしたね。
本作って残機制なんですけど、少なくともノーミスでゲームクリアに行きつくハードルが異様に高く感じるところがあります。「死にもどりで強くするのが前提では?」となってしまうのは、いささかバランスにフェアな部分が足りないように思えました。
これが「実際にプレイしないと分からない部分」ですね。やっぱり「キャラのパワーをインフレさせてダンジョン破壊!」にノーミスでたどり着けるのか?というのが気になります。
しかしここまでの説明でも相当な文字数がかかってますね……。では、この感覚を簡単な短文にするとこうなるか……?
「すき!壁ぶち壊し気持ちいー! でも死なずに一発で強くなりてー!」
どうだ? わりと「ゲームの実態が垣間見える意見、かつ適当に書いた感」ということでレビューに見えるんじゃないか?
「……いいや、まだお前自身はこれをレビューと思っていないはずだ……」なっ、なんですか編集者、もうレビューな感じはあるんでは。な、なにが必要ですか? 「お前は80年代~90年代の紙媒体から育ったライターではなく、Webメディアで育ったライター……だからこそレビューで出来るようになったものについても “書かねば”という部分がある自覚があるだろう……」
3・ゲームの背景や文脈
「……レビューとは、現代ではただ印象を書くだけで成立するものにあらず。ゲームを作ったクリエイターがこれまで開発したゲームの歴史や背景、コンセプトまで掘り下げ、それがゲームとどのように関係しているかも書くべきではないか……」
ゲッ、たしかに。さっきも文字数の話が出ましたが、紙媒体が文字数を絞っている一方で、Webメディアは比較的、文字数を自由に出来る違いがあります。だからこそ、2000年代~2010年代に勃興した新興のWebメディアは、長文によるレビューをウリにしました。
さらに、ゲームもAAAからインディーゲームまで多様になり、単純ではなくなりました。だからこそ、まとまった文章量による背景の指摘も必要とされています。ゲーム史学のキュレーターとしての側面も求められるケースがあるということですね。
さて、『ダンジョン崩し』の背景を紐解きますと、本作を開発したのは吉田浩太郎さん。吉田さんは過去に『勇者30』を開発するなど、よくある王道RPGに違う見せ方をもたらしてきました。『ダンジョン崩し』もまた、そんな王道RPGを別の見せ方で表現する、という作家性のひとつと言えるでしょう……とこんな感じで文脈を掘り下げられるわけですね。
しかし……改めて考えるこれがまた、普通のゲーマーにとって「レビューを難しいと感じさせ、なかなかSteamに投稿させるのをためらわせているのでは」ともちょっと思いますね。正直、知らなければこのような視点は入れなくてもいいんですが、知っていれば入れたくなるのが人情。もうちょい簡単に書くとしたらこうか……?
「すき!壁ぶち壊し気持ちいー! 同じ作者の『勇者30』もやってたしこれもいい!でも死なずに一発で強くなりてー!」
ど、どう? 「……ど、どう?」お前もわからんのかい! イマジナリー編集者! 「まあ、いいんじゃないか……」おいやめろ! なんか難航している原稿で、何度もライターが修正を重ねたものをあきらめて受け入れた編集者が言いがちな反応は!
というわけで、みんなも気軽にレビューを書きつつゲームの実態を知らせよう

というわけで、最後に、より文章を人に解読してもらいやすいよう、文章のリズムを調整しておきましょう。自分の口で読み上げてみると「言葉の繋がりが悪くて口にしづらいかも…?」みたいなところがわかるので、そこを言い換えたり、別の言葉を加えたりするだけです。わからなければ気にしないでおきましょう。
なんか最後の最後で、「そこが知りたかったのに!」と感じる料理番組みたいな状態になりましたが、とにかく。「気軽に書けて、なんとかレビューとして成立してるっぽい文章」の限界はイマジナリー編集者との協議の結果、以下になりました……。
「たのしー!壁ぶち壊し気持ちいー!同じ作者の『勇者30』もやってたしこれもいい!でも死なずに一発で強くなりてー!」
細かく内訳を見ていくと、下記のようになります。
「たのしー!(※プレイヤーの感情の説明)壁ぶち壊し気持ちいー!(※ゲームの手触りの評価) 同じ作者の『勇者30』もやってたしこれもいい!(※ゲームの文脈の解説)でも死なずに一発で強くなりてー!(※実際のゲームプレイで感じた批判)」
このレビューの文字数はなんと56文字。ゲームメディアに投稿されるレビューが3000~10000字前後と考えると、完全に簡素。Xにひとことを投稿するより文字数だけなら少ないはずです。これならユーザーみんなやりやすいのではないでしょうか?
「……だめだ……」えっまだなにかあんのイマジナリー? 「……冒頭の “たのしー!”とはなんだ……」いや、ちょっと読み直して気軽さを出してみただけですけど? 「……いまごろ『けものフレンズ』をやりだすのはイタい……」いやそんな意図はないって!
ともあれ、皆さんもお気楽かつ、ゲームの実態を知らせるレビューをばりばりSteamに投稿してゲームシーンを活性化させていきましょう! ってこんなまとめで大丈夫ですかね。「まあ、いいんじゃないか……」もういいよ!
※コメントを投稿する際は「利用規約」を必ずご確認ください