
皆さん、ルイス・キャロル著の名作「不思議の国のアリス」は読んだことがありますか?主人公の少女「アリス」が夢の世界で冒険する本小説は、児童文学でありながら世代や年齢を超えて愛され続けてきました。

発刊から150年以上続く歴史のなか、アニメ化や実写化はもちろん、小説を原作にしつつオリジナルの物語を描くものも存在しています。今回はそんな作品たちからエレクトロニック・アーツ(EA)発売のゲーム『アリス イン ナイトメア』をご紹介!
本作は“原作のあと、成長したアリスが醜く変わり果てた不思議の国で戦う”3DアクションホラーADVであり、続編『アリス マッドネス リターンズ』と併せ、その独創的な雰囲気は発売から25周年を迎える2025年でも話題になるほどです。

筆者は日本語版を2005年頃に購入したものの、“後でやろう”そう思っているうちに20年近く放置してしまっていました。今更ながらシリーズ作を遊んでみようと今回クリアしたため、本記事ではインストールまでの様子を交えつつ本作の魅力をお届けします。
なお、本記事執筆にあたり、有志作成のパッチを使用してゲームをプレイしているためご了承ください(詳細は後述)。
最初の敵はDRM?『アリス イン ナイトメア』の概要からインストールまで

まず『アリス イン ナイトメア』の概要ですが、本作は『Quake』ゲームデザイナーであるアメリカン・マギー氏が中心に手掛けた海外PCゲームです。原語では『American McGee's Alice』という名で2000年に発売され、日本版が発売されたのは翌年の2001年でした。

日本版ではゲーム内テキストが翻訳されているほか、『忍たま乱太郎』の「佐武虎若・山本シナ」の声優で知られる小林優子氏が主人公「アリス」の吹き替えを務めており、他のキャラクターも大友龍三郎氏など、当時でもベテランの面々が起用されています。

後に英語のみのコンソール版などが作られていますが、筆者が購入したのは2004年に発売された日本語対応のPC向け廉価(EA BEST)版です。通常版には「ラトレッジ精神病院 症例記録」という冊子が付属していたらしいものの、本バージョンはゲームディスクとマニュアル、認証用のシリアルコードのみ。ローカライズも英語音声+字幕版などを選べたようですが、こちらは音声・字幕ともに日本語だけとなっています。

さっそくゲームディスクを読み込んでみると、「アリス」と「チェシャ猫」を背景にしたインストール画面がポップアップします。

シリアルコード入力が要求されるほか、特定のグラフィックボード用に調整されたライトマップ選択もでき、現代のPCゲームのインストール画面ではあまり見ない構成で逆に新鮮です。

インストールも終わりゲームをプレイ…したいところですが、EXEファイルをクリックしても起動せず、「アクセス違反」「管理者権限でログインしなおしてから、やりなおしてください」と表示されてしまいます。というのも本作、古いDRMの「SafeDisc」を採用しているものの、セキュリティ上の脆弱性から現行のWindowsではサポートされていないのです。実際に「イベントビューアー」で確認してみると、このDRMの動作に必要な“「secdrv.sys」ドライバーの読み込みがブロック”されており、上手く機能していないことが分かります。

マイクロソフト側が提供している解決案には「レジストリを編集して、secdrv.sys ドライバーのサービスを一時的に有効」にする方法がありますが、前述の通りセキュリティ上のリスクが問題です。そこで有志が配布しているパッチを使ってみたところ、無事に起動しました!
純100%の公式環境で遊びたい気持ちもあるものの、今回はゲームプログラム側を調整して対応します。
いざ歪んだ不思議の国へ!どちらかと言えばハードコア?アリスが敵を血祭に上げていくTPS

無事ゲームが起動したところで、ここからはプレイ本編を見ています。物語は幼い頃、火事で家族を亡くした「アリス」の回想から。火事のショックで精神病院に入院した「アリス」は、「白ウサギ」に再び不思議の国へ誘われることになります。

不思議の国に降り立った後は本格的なゲームプレイの始まりです。ゲームはキーボード&マウス操作のTPSとなっており、敵を倒したり、パズルを解いたり、時には足場から足場へと飛び移る、3Dプラットフォーマーのマップを踏破したりしながら進んでいくことになります。

マップは全体的に暗いトーンで統一されているほか、敵を倒した際に真っ二つになったり、首が飛んだりとゴア表現も多彩です。

ジャンルとして“ホラー”を自称しているものの、ジャンプスケアといった演出もなければ、むしろ「アリス」が殺人鬼のごとく勇猛に敵を血祭に上げていくため、2025年の観点から見れば「ハードコア」の方が表現としては適切かもしれません。

また、プレイしていて驚いたのは美麗なグラフィックとバラエティ豊かな武器です。もちろん現行のコンソール向けAAAゲームと比べると見劣りはしますが、テクスチャはHDリマスター版PS2タイトルに匹敵する解像度であり、不気味な精神病院や荘厳な庭園、歯車がひしめき合う時計塔のような建造物を進んでいくシーンは、思わず息をのんでしまいそうな没入感と緊張感をもたらしてくれます。

武器に目を向けると、10種類も用意されており、大半にはメインとサブで2つの攻撃方法が存在。切っても良し、投げても良しの初期武器「ナイフ」、マシンガン風に連続で撃ったり、ショットガン風に散らして撃てたりする「トランプ」、敵味方見境なく攻撃する悪魔を召喚する「悪魔のサイコロ」など、見た目はメルヘン寄りなのにどこか殺意マシマシのラインナップです。

多くの武器は使用に「勇気レベル」というゲージを消費しますが、敵を倒すたびに回復アイテムが落ちるため、残弾管理的な要素は無視できるレベルでした。ゲームに慣れていくうち、敵を見かけしだい武器を撃ちまくるプレイに帰結するため、「アリス」が『DOOM』の「ドゥームガイ」のように見えてきます。

さらに、ゲーム性という観点では本作は物語の節目にボスと戦う機会もあり、いずれも初見では厳し目の難度です。高速で逃げ回りながら遠距離攻撃を仕掛けてくるボスもいれば、分裂しつつ物量で攻めてくるボスもおり、行動パターンを覚えることを要求されます。

肝心の本作ストーリーに関しては、原作「不思議の国のアリス」と続編「鏡の国のアリス」に沿った冒険譚でありつつも、本筋は“火事から1人だけ生き残った「アリス」が自身を蝕む罪悪感(サバイバーズギルト)と向き合う”という内省的な物語となっています。

パブリックドメインと化した往年の名作を原作にした露悪的な作品は多くありますが、本作はゴア表現が目を引くものの、“夢の中にある不思議の国”を“精神世界”と解釈することで、スプラッターな部分に説得力を持たせつつ、荒唐無稽なビジュアルの裏で丁寧かつ感情移入しやすいストーリーを成立させている点が印象的です。

なお、筆者はプレイの大部分では本作を楽しめましたが、一つだけ気になる部分として、“進行のわかりにくさ”が挙げられます。例えば、本作は各ステージで似たような風景のマップが続くものの、“次にどこへ行くべきか”は大抵の場面で示されません。

筆者がプレイした際は、床のテクスチャも代わり映えしないため、そもそも“どこが道か”もわからず、“ゲームの設計ミスで乗れてしまう足場”なのか、“開発が想定した通りの進行ルート”なのか区別がつきませんでした。

また、パズル要素も“察しろ”と言わんばかりで説明不足です。特に“マップ内の時計を攻撃して壊すと道が開く”というものが存在しますが、ステージ開始時の“時計が壊れる”演出から推測しなければいけないだけでなく、“素直に進んだだけでは立ち寄らない大量の小部屋を調べ、その中の時計も壊す”という手順も要求されます。

本作にはいつでも「チェシャ猫」にヒントを聞ける機能があるものの、聞いても返ってくるのは“役に立つような、役に立たないような、深いが今は必要なさそうな助言”ばかりです。

経験豊富なゲーマーであれば、恐らく過去にクリアした古めのタイトルからパターンを見出せますが、人によっては迷子になったまま抜け出せなくなってしまうかもしれません。

しかし、それを差し引いても往年の名作にアレンジを加えた3DプラットフォーマーTPSとしては代えがたく、独自の魅力もある作品なのは確かです。
おわりに―幻の『Alice: Asylum』に思いを寄せて

『アリス イン ナイトメア』の紹介は以上となります。興味があれば是非プレイしてみて…と言いたいところですが、日本語版を遊ぶには執筆時点で絶版のディスクを中古で購入するしかないのが現状です。
中古市場には探せば定価と同等~少し安いものもあるものの、インストールに必要なシリアルコードの有無に気を付けなければいけないほか、前述のサポートされていないDRMもプレイを阻む壁として立ちはだかります。

デジタル版として『ザ・シムズ レガシーコレクション』などのように、SteamやDRMフリーのGOGで日本語も含めたバージョンが配信されれば理想ですが、販売元のEAは本作含めたシリーズの展開に意欲が無さそう…という点も問題です。
近年、かつてシリーズを手掛けたマギー氏は新作『Alice: Asylum』開発のためEAと交渉したものの、同社から帰ってきた返事は“開発許可やIPの売却・供与などもできない”という結果でした。それがどこまで直接の原因となったのかはともかく、2023年に同氏はゲーム開発から引退しています。
“今後誰かがEAを説得できたとしても、『アリス』関連の開発に関わる気はない”、“今後は『アリス』全般について質問するのをやめてもらえると本当に嬉しい”とも話しており、筆者としては“ここまで新作が絶望的になってしまったシリーズに、ある種そうなることを選んだEAが今さら光を当てることはないだろう”と思わざるを得ないのが本音です。
とはいえ、本作の続編『アリス マッドネス リターンズ』はSteamなど各所で購入できるほか、『Alice: Asylum』もストーリーを含めた設定資料集が公開中。筆者は本当に遅ればせながらですが、今回の体験でシリーズの魅力を知ったため、これらをプレイ&読んでいく予定です。
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