8月27日に、国内ではPC/Xbox Series S|X向けにリリースされるマイクロソフトのサードパーソンカバーシューター『Gears of War: Reloaded』(以下、GoW)のSteam版プレイレポをお届けします。
本作は様々なバージョンがあるので、レポートに入る前にどんな遍歴を辿ったのかざっくりと説明しましょう。まず、2006年11月に北米でオリジナルとなるXbox 360版『GoW』が発売。2007年1月には一部ゴア表現に規制が入った日本語版が発売されると共に、同年11月にはブルマック戦の追加チャプターを導入したPC版が海外で発売されます(PC版は日本語版未発売)。
2015年には追加チャプターを導入し、1080p/60fps動作に加えグラフィックを刷新したリマスター版『Gears of War: Ultimate Edition』がPC/Xbox One向けに海外で発売されるも、表現修正を含めたローカライズなどの問題から日本語版発売が中止になったという経緯を持ちます。
今回の『Gears of War: Reloaded』では、クロスプレイにも対応しPS5(海外のみ)/Xbox Series S|X/PC向けに、日本でも発売されることとなりました。なお、日本語字幕/音声が入っていますが、ゲームプレイ中は英語音声でカットシーンのみ日本語音声という形での対応となります。
表現規制が大幅緩和!パワーアップした『Gears of War』が帰ってきた!
『Gears of War』はカバーアクション+ショルダー視点を導入したTPSです。2015年の『Gears of War: Ultimate Edition』が日本向けに発売されなかったため、プレイするのは久々となりましたが、本作のキャンペーンが持つシンプルな操作と程よく遊びやすいバランスを堪能することができました。

『Gears of War: Reloaded』は更なるリマスター的作品であるため、基本的なゲームプレイはUIや操作もオリジナル(Xbox 360/PC)と大きく違いがありません。
本作はリメイクでなくリマスターですし、体験そのものに違いがありませんがオリジナルのギラギラとしたエフェクトが抑え気味であることなど、ライティングを筆頭に徐々に『Ultimate Edition』で施された違いが分かってくると、かなり別物であることがわかりました。
そこで、Xbox 360版と見比べてみたところ、『Reloaded』版はオブジェクトの3Dモデルや景観、ライティングを含めて大きく変化。プレイ序盤で違いが分かるポイントと言えば、初めてローカストホールが登場する建物上部での戦闘でしょう(エリアに入る前に白鳩が飛ぶシーンが映される場所)。


ここではマップに木が生えるとともに新たに柵も設置。ギラギラとしたブルーム効果が抑えられると共に遠景の曇り空も白飛びせずに黒々としてる他、カバーする障害物のスケール感も少し抑え気味となっており、リアリティも向上しています。加えて、『Ultimate Edition』のプレイ映像などを比較してみるとライティングやオブジェクトのシャドウ、そして色味などにも調整が入っていることもわかりました。
『Ultimate Edition』を経ることが出来なかった故に、筆者の視点ではほぼリメイクであるように感じてしまうほどの変化が体感できます。
加えて、本作をプレイして特に驚いたのは、Xbox 360日本語版から表現規制が大幅に緩和されたことでした。Xbox 360日本語版でのチェーンソーで倒した時の切断面や、ショットガンなどでバラバラに吹き飛ぶ敵味方などなど…、オリジナルの日本語版発売当時に諸事情で差し替えされた要素が『Reloaded』の約20年の時を経て復活したのは、オリジナルを体感できる嬉しさと驚きの両方を感じてしまいます。


一方で『Reloaded』版のカットシーンは『Ultimate Edition』と同じく新映像へと変更。Xbox 360版のものと見比べてみると、新版はキャラクターの演技や衣装、カメラ演出そのものにも手を加えており、全体的に新しくなりテンポ良く進むことで緊張感が持続する内容になっています(ここまで変わると本当にリメイクに近い印象を受ける)。一方で旧作のカットシーンも味わい深いさがあったために、好みが別れるかもしれません。




音声周りについて当初の発表の通りゲームプレイ中は英語音声でカットシーンのみ日本語音声が収録されています。そのため、移動中の会話劇だけでなく、ローカストの「ジンルイだ!」や「グランドウォーカーだ!」などのセリフもちろん英語。英語音声もダンディーで魅力あるボイスなのは確かですが、終盤に登場する人気の「プランB」に関する問答も日本語でも楽しめないのが寂しさを感じてしまいます。
しかしながら、後に追加されたブルマックとの戦いを描くACT5チャプター1から5のカットシーンにおいて日本語音声が新録されているため、初代『GoW』のシナリオを完全に楽しめることが嬉しく思えます。


約19年越しに日本語でACT5追加チャプターを楽しめる喜び
ここからは、『Gears of War: Reloaded』におけるゲームプレイとキャンペーンの全体的な印象に入りましょう。本作のストーリーは惑星セラの地下に潜む地底人ローカストが地表へ侵略を開始し、プレイヤーは様々な経緯から収容所へ入れられた軍人のマーカス・フェニックスとなり、相棒のドムらのデルタ小隊の一員となってローカストとの戦いに身を投じるというもの。
前述の通りカットシーンや配置されている背景や建物の3Dモデルも作り直されておりほぼ別物ですが、マップ構造などはオリジナルと大きな差異が無いために体験の本質は変わりません。


ACT1では、ローカストホールを破壊しつつ迫り来る敵を一掃し、レゾネイターを得るために破壊された街中を先へ進むことがメインとなります。ACT2では危険な暗闇が迫るなか難民から装甲車を手に入れて、夜の街を抜けて採掘場へ。ACT3では、地下の採掘場周辺での戦いでレゾネイターを仕掛けるも失敗。ACT4へ地上へ戻るものの街の郊外へ移動し、屋敷内での戦いが中心となります。



いよいよACT5では、直接駅へ遷移せずブルマック戦を描くPC版に存在した追加チャプターが登場。前述の通りカットシーンのみ新録の日本語音声があることに加え、『Ultimate Edition』由来のカットシーンによって、前後の繋がりが自然となっていました。
この追加チャプターの特徴は、再び市街戦に焦点を当てることで、惑星セラにおける街の様子が知れるようになっています。橋の下に作られた難民キャンプ跡や、パラソルが置かれているレストラン的な施設、公園、劇場などなど、ACT1的な華やかさを感じます。




この追加チャプターの特徴としては一部にパズル的要素があることでしょう。劇場に現れたシーダーを撃退するため壁の一部を破壊することや、ドーンハンマー無しで倒すためにガス缶や廃自動車を使うなど、カバーしてエイミングして射撃するという基本要素を守りつつ、新しい行動をさせてくれるのが満足感を増やします。ここを突破し変電所でブルマックとの戦闘を経ると、駅に到着し列車でのラスボス戦へ突入です。



前述の通り、今回の『GoW』はリマスターであるために、カットシーンを除けば基本的なストーリーやゲームプレイはオリジナルとほぼ変わりありませんが、全体を通して見た時に、ACT5追加チャプターが『Gears of War』の品質を十分に引き上げていると思えました。
ゲームプレイを始めてしまえば、本作が持つゲームメカニクスの高い完成度によってストレスなくプレイできますし、約19年経過しても奥底にある面白さは変わらないと思えました。


『Gears of War』は何が凄かったのか?派手なキャラやアクションに隠れる、駆け引きをわかりやすくしたゲームメカニクス
E3 2005で初発表された『Gears of War』は発表当時から注目度が高く、発売後は海外だけでなく日本の一般ユーザーや各種メディアを見ても何らかの注目記事(4Gamer誌、Game Watch誌)が公開されていました。まさにXbox 360を代表するのに相応しい人気です。
そこで当時の海外レビューを複数追ってみると、本作の評価ポイントはUE3による美麗なグラフィックと壮大なアートワーク、楽曲と効果音、そしてチェーンソーなど、それ以前のゲームとは一線を画す品質の高さでした。
本作には、カバーアクションや肩越し視点での照準が導入されているものの、一目で革新性を見出すことが難しいのです。しかし、メカニクスの歴史を追うことで何を完成させたのかが見えてきます。
『GoW』を特徴付ける肩越し視点は、元々2002年頃から目立ちはじめていたカメラアングルで、TPSだけでない三人称視点のゲームに一部導入されていました。2002年に北米で発売されたユービーアイソフトのステルスゲーム初代『スプリンターセル』では壁際のカバーアクションと共に登場したことに加えて、同年任天堂の『スーパーマリオサンシャイン』でも似た照準方法がありました(他にも、2003年発売のIO InteractiveのTPS『フリーダムファイターズ』にもある)。


特にユービーアイソフトのトムクランシーシリーズでは、『スプリンターセル』続編である2004年発売の『パンドラトゥモロー』や、2005年発売の『カオスセオリー』にも肩越し視点+カバーアクションが引き続き登場。また2004年の『ゴーストリコン2』もFPSから肩越し視点的なTPSにジャンルが変わりました。なおGDCの講演によれば『ゴーストリコン2』から3人称視点になったのは、武器無し1人称視点ではプレイヤーとアバター間の繋がりを築くのに適してしなかったからだそうです。
もちろん、2005年1月発売のカプコンの『バイオハザード4』は外せません。『バイオ4』がこれまでのTPSと異なるところは、敵として登場するガナードの大半は斧といった近接武器を装備しており、必然的に緊迫感がある近中距離戦が主体となっていたことでした(ここまで至近距離で戦うタイトルはあまり多くなかった)。

他にも、同年にはVolitionの『The Punisher』やRareの『コンカー: Live and Reloaded』など、『バイオ4』の圧倒的な知名度と相まってカバーアクションとの融合は成し遂げていなくとも、肩越し視点自体がそこそこ見られるようになったという状況でした。
ここで忘れてはならないのは、北米で2006年3月に登場したXbox 360版ユービーアイソフトの『ゴーストリコン アドバンスウォーファイター』(以下、GRAW)の存在です。
『GRAW』のXbox 360版は、肩越し視点とカバーアクションを融合させたものを一足先に導入していたタイトルでした。なお『GRAW』のPC/PS2版のジャンルはFPSであり、PCとPS2版それぞれは別物と言って良いほど違いがあります。
『GRAW』はタクティカルシューターとしてのリアリティを目指しているため、中距離以上の敵は豆粒ほど小さく描画されています。『GRAW』が近未来を想定した作品でもありますが、こうした敵を探す難しさを当時米軍が研究していたランドウォーリアー計画の1要素を取り入れて解決を図っていました。

基本的に壁や障害物へカバーしつつ、敵を発見して攻撃して倒しミッションを遂行するというゲームプレイの一連の流れは同じです。しかし、カバー状態へ推移するには壁に直接移動して張り付かなくてはならないことや、自動回復が無いためダメージを考慮しながら戦わなければならないこと、そして遠距離戦がメインになることなど、コンセプトの違いから得られる体験が決定的に異なります。

このように『Gears of War』北米発売の2006年11月に至るまで、ユービーアイソフトを筆頭にカバーアクションと肩越し視点のTPSが融合したタイトルが出現しつつあるも、決定打となるタイトルが出てきていない状態だったのです。
本作オリジナル版のリードデザイナーであるクリフ・ブレジンスキー氏(通称、クリフB)のGDC2007の講演によると『Gears of War』は、カプコンの『バイオハザード4』のテンポと肩越し視点が、『バイオニックコマンドー』のワイヤー移動が、そして北米ナムコの『Kill.Switch』のカバーシステムがそれぞれインスピレーションの元であったと語っています。
つまり『Gears of War』は、壁や障害物への距離が少し離れていてもボタン1つでカバー状態に推移するようにしたことで、テンポの良い肩越し視点のTPSを成り立たせたものと言えます。

ここで『Gears of War』のゲームメカニクスに注目してみましょう。ゲームプレイにおいてプレイヤーの行動は、移動、カバー、射撃とそれぞれ分離しており、それぞれの状態に対して何らかの強みとリスクの駆け引きが常に存在する三すくみのような関係になっています。
つまりカバー状態は敵の射撃に強く、射撃は相手の射撃と移動中の相手に強く、移動はカバー状態の相手に強い(近づいてチェーンソーやメレー攻撃を仕掛けられる)ということ。また、カバー状態での照準は無理に左右へ動く必要がないために比較的落ち着きながら狙う事ができます。

このことから、プレイヤーが攻撃と回避をするには移動+射撃+回避といった複合的なアクションを極力行う必要がなく、移動、カバー、射撃、それぞれの行動一つに集中できる単純明快さによって、ゲームに不慣れなユーザーにもリーチできたのが本作の強みでした。
『Gears of War』は、リアルタイムに高速で動くFPS/TPSの複合的な駆け引きをカバーアクションによってシンプルにしたことが、本作のなかなか言及されない凄さの1つではないかと今回筆者が改めてプレイして思えた部分でした。


Xbox 360豪華版付属のボーナスディスクに収録されているメイキング映像「Gears: A Closer Look」によれば、『Gears of War』は本作開発時における最初の取り決めにおいて、遠くの1ドットを撃ち抜くような遠距離戦でなく、登場人物やモンスターを画面いっぱいに描き、ブラインドファイアが活きるような近距離戦を描きたかったと語られています(そのためスナイパーライフルのスコープ要素さえ導入に迷いがあった)。他にも、2006年付近におけるゲームの難しさに触れると共に、操作をシンプルにしたとも述べられています。
恐らくそれらは、Aボタンでカバーを含めた移動アクションのほぼ全てを行えることや、グレネードの投擲軌道、注目ポイントボタンなど、プレイヤーが瞬時に状況を理解し、駆け引きへ集中できることに現れています。



これらのことから、『Gears of War』はテンポ良いカバーアクションシューターを作り出しただけでなく、複雑になりがちだったFPS/TPS系の操作体系を単純化し、比較的シンプルで奥深い近距離戦の駆け引きを生み出したことが、革新性として現れていたのです。
現代にも続く『Gears of War』の影響力―日本への余波は意外と大きい?
2006年11月に北米でXbox 360のオリジナル版が発売された『Gears of War』は、2007年1月までの約10週間で当時として300万本を売り上げるすさまじい勢いを得ていました。2007年2月のクリフB氏へのインタビューでは、日本での反響が良いことにも触れており(日本語版発売は2007年1月18日)、本作が常に動くゲームでないことが受けた理由であることなど、様々な要素を分析していました。
この『Gears of War』が与えた影響力は大きく、発売以降に海外では本作以降にキャンペーンCo-opや『ギアーズ』的なカバーアクションを導入したタイトルが複数登場。日本も例外ではありませんでした。
全てを網羅することは難しいですが、ここでいくつか特徴的なタイトルを挙げてみましょう。2008年にはEAから『アーミー オブ ツー』が登場しており、肩越し視点やカバーアクション、キャンペーンCo-opなどの要素を引っさげていました。
日本では、『GoW』の影響を特に受けたと思われる「和製ギアーズ」と言える作品が2009年ごろから登場していました。2010年5月に発売したカプコンの『ロストプラネット2』がその影響を受けているような雰囲気を出していましたが、どちらかと言えば複数人で役割分担をするモンハン的要素が強く現れていました。『GoW』の影響が大きく現れていたわけでないものの、直接『GoW』とコラボしていました。
他にも、プラチナゲームズの『ヴァンキッシュ』が2010年8月末に登場し、カバーアクションだけでなく高速移動によるカバーアクションやバレットタイムも合わせてアクションに秀でたゲームプレイを魅せていました。
コーエーテクモゲームスの『クウォンタム セオリー』も2010年9月に発売。2012年にはセガの『バイナリー ドメイン』、2015年にはValhalla Game Studiosの『デビルズサード』も登場するなど、和製ギアーズ的作品はそれなりの数が形となって現れていました。
『バイオハザード』シリーズ自体も、2009年の『5』ではナンバリング初のキャンペーンCo-opが搭載されたほか、2012年の『6』ではCo-opだけでなくローディラン風のダッシュやカバーアクションが搭載されるなど、どんな形にせよ『GoW』の影響は無視出来ない形で現れていたのです。
こうしてPS3/Xbox 360世代における海外市場を意識した和製ギアーズと呼べる作品が数多く、これには様々な要因が挙げられると思いますが、TPSならこれまで培った近接アクションゲームの要素を投入しやすかったからではと推測してしまいます。
本作の影響は現代にも続いており、2022年11月にサービスを開始したlevel infiniteの『勝利の女神:NIKKE』もインタビューにおいて、『GoW』のカバーと攻撃状態のポーズを取り入れたいとした事が語られています。このことから察するに、恐らく「ギアーズライク」もしくは「和製ギアーズ」はここで挙げた以上に存在しており、『Gears of War』の影響力は今も続いていると言えるでしょう。
大幅にパワーアップした『Gears of War』を遊べる嬉しさ
こうして『Gears of War』をプレイしたのは十数年ぶりでしたが、今になって練られたゲームメカニクスや攻守バランスなど気付かされる部分も多くありました。キャラクターが見えるカバーアクションと肩越し視点を融合させることでゲームプレイを変化させ、FPSとの差別化を図れたことがTPSの大きな転換点であったとも思えます。

完全日本語版でなかったことは残念でしたが、登場キャラクターの細かなセリフの掛け合いは字幕でも伝わりますし、表現規制も緩和されたのでオリジナル状態で遊べる初代『Gears of War』を堪能出来るのはとても喜ばしいことです。続編の『2』と『3』もリマスターされて遊べるようになることも願いたいところです。

かつての『GoW』ファンや、当時プレイ出来なかったユーザーも遊んでみてはいかがでしょうか。『Gears of War: Reloaded』は、国内でPC/Xbox Series S|X向けに8月27日に発売予定。価格は5,390円(税込み)です。











