現実で「リミナルスペース」的空間を探してみた。『バックルーム』『8番出口』みたいなところが東京にある?【特集】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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現実で「リミナルスペース」的空間を探してみた。『バックルーム』『8番出口』みたいなところが東京にある?【特集】

地下鉄ロビー、銭湯、公共広場……日常空間に潜む「非日常的恐怖」がそこに。

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去る2019年、海外掲示板「4chan」に、黄色い壁紙が一面に広がる無人オフィスのような画像が投稿され、それが「The Backrooms(バックルーム)」という都市伝説としてミーム化し、SNSやインターネットを中心に大流行しました。


「バックルーム」を始めとする、現実にはあり得ないような異質な空間は、無人の空港、地下鉄通路、寂れたショッピングモールなど、本来“人がいるべき場所が閑散としている”その既視感と不気味ささらにはノスタルジーをも感じさせる人工的な空間を指し、それらは「リミナルスペース」と呼ばれ独自の美学をネット上で確立しました。


そして近年、「リミナルスペース」が持つメランコリーな雰囲気や不穏な空気感は“新たな恐怖”として認知され、単なるミームの枠を超えて『8番出口』、『Liminal City』、『POOLS』といったゲームの主題として扱われるようになってきています

では、そんな「日常に潜む非日常」的感覚を引き起こす「リミナルスペース」のような異空間は、果たして現実世界にも存在するのか?そんな疑問を抱いた筆者は、東京へ行って探してみることに。というわけで今回は、その調査の模様をレポートいたします!

◆そもそも「リミナルスペース」とは何か

「リミナルスペース 新しい恐怖の美学」

こうして着実に認知されつつある「リミナルスペース」ですが、それでは本来どういった概念で、どんな美学的な性質を持ち、ホラージャンルにおける「新たな恐怖」として誕生したのか?

フランス人映像クリエイターの「ALT 236(YouTubeチャンネル)」著、翻訳家の佐野ゆか氏が日本語訳を務めた、おそらく世界初の“リミナルスペース専門書”として話題となった「リミナルスペース 新しい恐怖の美学(フィルムアート社)」を参照し、リミナルスペースという概念の成立過程や概要などをざっくりと簡単にご紹介します。

意外にも起源は「人類学」だった―境界と通過儀礼

まず「リミナル(Liminal)」という言葉は、ラテン語で「閾(しきい)」を意味する“limen”に由来し、二者の中間で揺れ動くどっちつかずの状態を指し示す語として使われていました。

そうした意味合いを持つ「リミナル性」の概念を最初に提示したのは、人類学者のアーノルド・ヴァン・ジェネップであり、1909年に著書「通過儀礼」の中で「リミナリティ(境界性)」という概念を提唱しました。これは、社会集団における個人が、社会から分離され新たな地位に統合されるまでの「中間の段階(閾)」を指します。

そして1970年代に、文化人類学者のヴィクター・ターナーがこの概念を発展させ、境界性は社会的な変化だけでなく、場所や状態までもが「あわい(間=空間)」にあるとし、あらゆる事象や状況全般に適用しました。

リミナルの概念はさらに拡張され、1990年代初頭に人類学者マルク・オジェがその著書「非-場所―スーパーモダニティの人類学に向けて」で、リミナルスペース自体を「非場所」と名付け、過剰に飽和した現代のかりそめの都市空間における人間の占める位置、役割などについて現代社会のかかえる現象として分析を試みました。

東成田駅。「リミナルスペース」本書より

「非場所」という不気味な空間

オジェはこの著書の中で、私たちが生活するさまざまな場所――地下鉄の通路、駅の構内、エレベーター、食堂、病院の廊下――など、現実世界を構成する大部分が、「通過するときだけ」に存在し意味を持ち、自分の住まい以外で留まる場所は意外なほど実は少ないことを指摘します。

とくに、公共空間は普段人々が行き交いにぎやかな雰囲気ですが、そこから人の存在を取り除いたとたん、それらの場所に「別の姿」が立ち現れてきます。実用性をすっかり失った空間は、不確かで奇妙な様相へと変異し、そこに潜む違和感、メランコリーな孤独感を浮かび上がらせるのです。都市空間に誰一人いないという状況は、やはり空虚で奇妙だと言わざるを得ず、慰めと言い知れぬ不安(Uncanny)の入り混じった、独特な風景を映し出しています。

まさに、それこそが「非場所」=「リミナルスペース」であり、日常の中の非日常、不安と懐かしさの混在、現実と非現実の境界を感じさせる空間、とオジェは看破しています。

ブルータリズムとビデオゲームの関係性

「北朝鮮の室内」本書より

リミナルスペースは、さまざま種類の建築物や構造物からの産物であり、建築そのものが人間の身体や感覚に直接影響を与えます。たとえば、狭い満員電車での移動は非常に息苦しく感じ、窮屈で逃げ出したくなるし、逆にがらんとした巨大な空港ターミナルなどにいると、迷子になったような気分になります。身体が知覚する空間認識は、人間のそのときの感情に強く作用するのです。

また、写真家のオリバー・ウェインライトは「北朝鮮の室内」という連作写真で、その空間の陰鬱なまでの清潔さや完璧さ、わずかな乱れもなく収まった家具と椅子など、秩序に支配され完全な単調さの中での“人間の存在が完全に欠落”したリミナルスペースの特徴的な姿を描き出しました。これが暗示するのは、リミナルスペースが内包する徹底した「非人間性」に由来する根源的な恐怖であり、現在におけるリミナルスペースの原型を見出すことが出来ます。

Limasse Five『NaissanceE』(2014年/Steam)

戦後のモダニズム運動から派生した「ブルータリズム」という建築様式は、重厚かつ直線的で角張っており、装飾を徹底的に排しているのが特徴です。その多くはコンクリートに覆われ、非人間的な無機質さと巨大なスケール感があり、強烈なリミナル性を宿しています。

このブルータリズムの痕跡が、現在では「ビデオゲーム」の領域で見られます。本書によれば、ビデオゲームとブルータリズムの接続は、プレイヤーが能動的に空間を移動し、その広がりや形を感情を伴って体感することが可能なインタラクティブ性、もうひとつはゲーム開発者が現実世界にはありえない環境を創造できる自由さに、興味深い接点があると指摘しています。

モシュ・リンケ『Fugue in Void』(2018年/Steam)

先述のブルータリズムを色濃く反映した作品が、「リミナルスペース」の概念が明確に定義されていなかった黎明期にも数多く存在しました。

このニッチな分野でひときわ異彩を放つクリエイターの一人が、ドイツを拠点にする「モシュ・リンケ(Moshe・Linke)」です。『Figue in Void』『Neo Brutalism of Tomorrow』などリンケの作品に共通するのは、プレイヤーがブルータリズムの空間を歩き回るだけのウォーキングシミュレーターに近いもので、その非現実的な環境設定とめまいのするようなプレイ感覚は、明らかに「リミナル性」を反映しています。

Limasse Five『NaissanceE』(2014/Steam)

さらにその起源を辿ると、リンケが直接影響を受けたのはLimasse Fiveが開発した『NaissanceE』です。プレイヤーは、ブルータリズムの巨大な構造体が画面を埋め尽くすフィールドを探索していきますが、壁にはテクスチャがなく、単調な雰囲気が続き、感情を呼び起こす要素が徹底的に排除されており、深い孤独感や自信の矮小さを強く感じさせるゲーム設計になっています。

こうしたブルータリズムの痕跡と再構築は、先駆的な「リミナルスペースゲーム」にインスピレーションを与え、のちに『バックルーム』や『8番出口』のような後発ゲームの登場に繋がったのだと言えるでしょう。

インターネット神話:「新たな恐怖」の誕生

「バックルーム」オリジナル画像

「リミナルスペース」という空間は、一夜にしてムーブメントになったわけではなく、これまで見てきたように、さまざまな時代の潮流と歴史が堆積して分厚い地層となってきた経緯があります。最後に、今日的なリミナルスペースの概念がどうやって出現し成立したのかを追っていきます。

まず前提として、以前から「クリーピーパスタ」と呼ばれるオンラインフォーラムに投稿される怖い話がネット上で盛んであり、そこから派生した架空の超常現象報告書「SCP財団」などの参加型クリエイティブ・ライティングが界隈を賑わせていました。

そんな折、2019年にあるユーザーが匿名掲示板に投稿した一枚の写真がネットの一部を熱狂させます。青白い蛍光灯に照らされた、黄ばんだカーペットと壁紙、誰もいない空洞のような部屋―それこそが「バックルーム」と呼ばれるホラーコンセプトであり、その絶妙に謎めいた無人空間の風景と「この奇妙な場所に迷い込んでしまった」という短い文章は、多くのユーザーの想像力を焚き付けたのです。

レベル94

バックルームには、「レベル」という悪夢のような異なる階層(次元)があるという設定ですが、このミームの特筆すべき点は、コミュニティが各階層のイメージとして選んだ画像が、ファンタジーやSF的世界観ではなく、どこにでもありそうな味気ない場所―つまり、「リミナルスペース」だったのです。

こうして、有志によって次々と肉付けされていく設定と世界観は、さながらデジタル空間における“インターネット神話”のようであり、リミナルスペース的な概念が爆発的に流行するきっかけとなりました。

『POOLS』(Steam)

また、バックルームはリミナルスペースの概念と深く結びつき、「ここではないどこか」へ誘われるような懐かしい郷愁、日常的な光景が本来の文脈(人の気配や活動)を外れることで起きる強い心理的違和感、現実と非現実の境界が曖昧になり、自分が現実から切り離されたような孤独感など、リミナルスペースを構成する要素が確立し「新たな恐怖の美学」が誕生したのです

参考文献:「リミナルスペース 新しい恐怖の美学」
著者:Alt236
:佐野ゆか
発行:フィルムアート社
発行年:2025年

◆リミナルスペースを「現実世界」で探す~東京異界探訪録~

改札前通路(筆者撮影)

さてさて、前置きが長くなりましたが、さっそく現実世界で「リミナルスペース」的な場所を探索していきまましょう。なぜ「東京」を舞台にしたのか?と言うと、「たまたま用事があって出向いたから」なのが正直なところ。

しかし東京という特殊な空間は、毎日大量の人々がさまざま場所を往来しており、もし空間から人が消え静寂に包まれたとしたら、その違和感は絶大です。メランコリーな孤独感、不気味さと不穏なイメージはとてつもなく大きく、強烈なリミナル性がそこに浮かび上がってくるはずで、リミナルスペースを探すのに最適だと思いました。

★東京メトロ構内~地下歩道

最初に訪れたのは、朝方の東京メトロ構内。多くの人々がごった返す都内の駅構内も、時間帯によっては無人の空間が広がり最高の「リミナルスポット」になります。

その地下深くまで続く構造や複雑に入り組んだ通路、先の見えない階段など、見慣れた場所であるはずなのに、あるべきはずの「人」や「喧騒」が欠けているだけで、言いようのない非現実感とほんのりとした不吉な感覚がしたのは、筆者の気のせいだったのでしょうか。日常と非日常の境界線が重なり、リミナルな空間を存分に味わえる素晴らしいスポットでした。

タイムズ・アベニュー

その後、東京都新宿区の西新宿エリアに位置する全長約1kmの地下歩道「タイムズ・アベニュー新宿歩行者専用道第2号線)」へと移動。区間は、東京都庁第一本庁舎から青梅街道の地下を経由し、新宿西口ハルク前付近までを結んでいます。

この場所は、その圧倒的な無機質で広大な空間からリミナルスペースの好例としておすすめできます。時間帯によっては人通りが極端に少なくなり、都市のど真ん中にありながら切り離されたような感覚に陥り、終わりのない静寂と孤独感が身を包むようでした。

それに加えて、こちらも目的地ではなく「AからBへ移動するためだけの場所」という、リミナルスペースの本質的な特徴を備えています。

蛍光灯に「異変」が…

ちなみに、都営大江戸線の「清澄白河駅A3出入り口」が『8番出口』の世界観に似ており、ファンの間で人気を集めています(実際は大阪の地下通路がモデル)。

確かに、ランダムに配置された蛍光灯が「異変」を感じさせる不思議な雰囲気。長い通路の曲がり角に何かがいるかもしれない不気味さを非常に感じられる場所でした。

★汐留駅構内~汐留ダンジョン

タイムズ・アベニューを後にして向かったのは、都営大江戸線とゆりかもめの2路線が乗り入れる「汐留駅」。駅周辺には、「カレッタ汐留」や「汐留シティセンター」、「日本テレビタワー」などオフィスビルや商業施設、観光スポットなどが集まっています。

構内通路は清潔に整備されており、その近未来的で無機質なデザインの規則性も相まって、リミナルスペースの雰囲気を醸し出していました。しかし、比較的明るい時間帯だったためか不気味な感覚はあまり感じず、むしろシュールな印象のほうが強かったかもしれません。

それよりも、駅下に広がる複雑な地下通路や建築構造のいわゆる「汐留ダンジョン」のほうが、よほどリミナルスペース空間として魅力的でした。各エリアに統一感がないために導線が分かりにくく、境界性のあいまいな「迷宮」感を強く感じさせており、ここを歩き回るのはとくに楽しかったです

★銀座コリドーの湯

画像は公式サイトより

続いてやってきたのは、「SPA&SAUNA コリドーの湯」。コリドーの湯は、銀座駅・新橋駅から徒歩5分にあるスパ&サウナ施設です。都会の中心でリラックスできる空間として人気があり、洗練されたデザインと充実した設備が特徴です。

営業時間は午前11時~翌朝9時まで営業しており、深夜料金を払えば一晩滞在も可能。内湯に加えてドライサウナ&スチームサウナも併設され、水風呂や外気浴スペースでゆったりと整うことができます。

見ての通り、「コリドーの湯」はリミナルスペースの雰囲気をビンビン感じさせる空間で、特に内湯や水風呂における青白く紫色がかった照明の演出効果と、日常から切り離された落ち着いた静かな環境は、まるで「プールルーム」に迷い込んでしまったかのような非日常的な感覚に思う存分浸ることができました

奥に何かが潜んでいそうな空間
画像は公式サイトより

ちなみに、当然ですが脱衣所を含めて風呂内は全面撮影禁止ですのでご注意ください。先述のように、一泊すれば誰もいない時間帯に入ることも可能なため、神秘的な無人空間体験を十二分に味わうことできる超オススメのリミナルスポットです。何より、内湯の気持ちよさったら……!最高でしたよ。

★行幸地下通路(東京駅)

ギャラリー前のエスカレーター

最後に訪れたスポットは、「行幸地下通路(ぎょうこうちかつうろ)」です。この通路は、丸の内エリアと日比谷方面を結ぶ長大な地下歩行者通路であり、かつて駐車場だった空間を再整備して作られました。雨の日でも快適に通行できるうえ、全長220mのガラスショーケースに美術作品や歴史・文化を紹介する展示を行う「行幸地下ギャラリー」としても機能しアートや展示を楽しめます。

ギャラリー通路

この通路はリミナルスペースの特性を多く備えていると感じました。というのも、まず多くの人々が単に通過するためだけに利用する機能的な場所でしかなく、空間の「境界性」を際立っていること。

また、全長約220mの広々とした空間は、統一された壁の色味や掴みどころのないのっぺりとしたデザインなど、どこかブルータリズムを感じる建築仕様となっているため、ともすれば非人間的な冷たいリミナル性を有しています。

さらに、時間帯によっては人気がないため、少し不気味でノスタルジックな独特の「はざま」の感覚を生み出されます。これが「リミナルスペース」特有の感覚と一致し、東京駅周辺の喧騒と皇居周辺の静けさという、雰囲気の異なる二つの場所をつなぐ「境界(Liminal)」として機能しているのだと考えられます

時と場合によっては、圧倒的なリミナルスペースの無人感を味わえるおすすめのスポットでした。


今回は時間的な制約もあり、多くのロケーションを探索することは出来ませんでしたが、「リミナルスペース」という空間は、日常という見慣れた風景に潜んでいます。「ここはリミナルっぽいぞ」という場所があれば、コメント欄でぜひ教えてもらえると幸いです。



リミナルスペース
¥3,366
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)
ライター:DOOMKID,編集:みお

ライター/心霊系雑食ゲーマー DOOMKID

1986年1月、広島県生まれ。「怖いもの」の原体験は小学生の時に見ていた「あなたの知らない世界」や当時盛んに放映されていた心霊系番組。小学生時に「バイオハザード」「Dの食卓」、中学生時に「サイレントヒル」でホラーゲームの洗礼を受け、以後このジャンルの虜となる。京都の某大学に入学後、坂口安吾や中島らもにどっぷり影響を受け、無頼派作家を志し退廃的生活(ゲーム三昧)を送る。その後紆余曲折を経て地元にて就職し、積みゲーを崩したり映像制作、ビートメイクなど様々な活動を展開中。HIPHOPとローポリをこよなく愛する。

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編集/Game*Spark共同編集長 みお

ゲーム文化と70年代の日本語の音楽大好き。人生ベストは『街 ~運命の交差点~』。2025年ベストは『Earthion』。 2021年3月からフリーライターを始め、2025年4月にGame*Spark編集部入り。2026年1月に共同編集長になりました。

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