2008年にRPGツクール製フリーゲームとして公開された伝説的RPG『OFF』が、リメイクされました。
オリジナル版はMortis Ghost氏によって制作され、独特なユーモア、不穏でシュールな世界観、そして忘れがたいサウンドで、インディーRPG史に大きな影響を与えた作品です。今回のリメイク版では、その空気感を受け継ぎながら、グラフィックやUI、戦闘システム、BGM、日本語ローカライズなどが現代向けに再構築されています。
一方で興味深いのは、本作を手掛けたのが、ゲームグッズ制作・販売で知られるFangamerであるという点です。なぜ『OFF』は今、Fangamerの手によって蘇ることになったのでしょうか。
本稿では、FangamerのRyan Alyea氏、Jack Murphy氏、Dan Moore氏、EVERDRAED氏、そしてFangamer Japanの千嶋優香氏にインタビュー。リメイク版開発の経緯や、原作者Mortis Ghost氏による新要素、Toby Fox氏らが参加した新録BGM、日本語ローカライズ、コレクターズエディション、そしてFangamerの今後のパブリッシング展開について訊きました。

――まず最初に、皆さんの役職と開発担当について、軽く自己紹介をお願いいたします。
Ryan Alyea(以下Ryan):Fangamerの共同創設者、Ryan Alyeaです。本作ではスタジオディレクターとして、戦闘システムなどのプログラミングだけでなく、マーケティングやリリースも担当しました。
Jack Murphy(以下Jack):Jack Murphyです。ゲーム開発者としてのキャリアは、Fangamerの様々なUnityプロジェクトに関わったことからスタートしましたが、元々夏休みにRPGツクールで何百時間も過ごす幼少期を過ごしていました。『OFF』には開発の途中から参加し、オーバーワールドとUIを中心に、ゲームのほぼすべての部分に関わりました。直近では日本語ローカライズを担当していました。
Dan Moore(以下Dan):Dan Mooreです。Fangamerに12年間勤務しています。ゲームのローンチ計画とローカライズの監督、そして大本の英語ローカライズを担当しました。
EVERDRAED:やあ!EVERDRAEDです。ビデオエディター兼アニメーターです!追加ボス用のバトルアニメーションを多数制作し、OFFのトレーラーやプロモーションビデオも制作しました。プロジェクト全体を通して、デザイン関連の支援業務も数多く担当しました。
千嶋優香(以下、千嶋):Fangamer Japan ゲームパブリッシングマネージャーの千嶋優香です。
OFFでは、主に日本でのパッケージ版ソフトやコレクターズエディションのリリースに向けて、各種ハンドリングを担当しています!
――『OFF』リメイク版の開発のきっかけを教えていただきたいです。また、リメイク版開発はいつ頃からスタートしましたか?
Ryan:このプロジェクトは、Mortisやその他多くの協力者とグループで話し合っていた時に始まりました。最終的に「スイッチ版のパッケージ版が作れたら最高じゃないか」に着地しました。それで、なんとなく……やってみたんです。
Jack:OFFをコンソールに移植する話が最初に出たのは、パンデミック前にフローズンヨーグルトを食べに行った時だったかな。
EVERDRAED:覚えてるよ!トッピングの種類が多すぎて選ぶのに苦労したんだ(結局、リーシーズカップ※1のピースを選んだよ、リーシーズピーセス※2じゃなくてね)。Toby(※『UNDERTALE』の作者)が遊びに来ていて、OFFプロジェクトの種を蒔いてくれたんだけど、アイスクリームをご馳走させてくれなかったんだ…。
※1 リーシーズカップ:Reese's Peanut Butter Cups。チョコレートのカップにピーナッツバタークリームが入った、アメリカの定番お菓子。
※2 リーシーズピーセス:ピーナッツバターを糖衣で包んだ小粒菓子。映画「E.T.」に登場したことでも有名。
――なぜ、本作の開発とパブリッシングを、グッズ開発・販売などを行うFangamerが担当することになったのでしょうか?
Ryan:不思議なことに、開発とパブリッシングの能力は最初からあったんです。社内ツールの開発からグッズのマーケティングまで、自然と全てできました。
Jack:才能あるプログラマー、アーティスト、ライター、ミュージシャンなど、多くの優秀なスタッフがFangamerにいます。そしてみんなRPGツクールの名作の数々も大好きだったんです。
EVERDRAED:インディーRPGへの愛によって『OFF』をプロジェクトとして引き受けることになり、ゲーム開発という壮大な挑戦は、強烈な興奮へと繋がりました。
――本作を現代に蘇らせる意義はどこにあると考えますか。
Dan:『OFF』はインディーRPG開発者たちに大きな影響を与えました。私たちは、その影響を受けたインディーゲームを愛しているファンたちが、もっと気軽に原典の一つである『OFF』をプレイできるようにしたかったのです。ずっと遊ぶことができる『OFF』のリメイクを作ることは、とても重要だったのです。
Jack:開発した当時のMortisには特別な開発環境も「壮大な夢」も一切ありませんでした。ただ、他の友人たちのために何かを作っただけです。このときのMortisのモチベーションこそが、「ゲームづくり」の本質の一つだと思っています。この大事な作品をより多くの人に共有できて嬉しいです。

――本作はオリジナル版と比較して、大まかな世界観はそのままに、細かいグラフィックなどがよりリッチに更新されています。こちらはオリジナルクリエイターであるMortis Ghost氏本人の手によるものでしょうか?
Jack:そうなんです!Mortis Ghostは、新しい敵キャラクターのデザインと、ゲーム画面の背景画像をすべて担当してくれました。また、新しいメニューデザインではDave Hoffman、新しいボス攻撃アニメーションにはEVERDRAEDが協力しました。
EVERDRAED:Mortisは、他のアーティストが自分のコンセプトをどのように解釈・表現するかを見るのが好きなので、新しいボスのキャラクター設定やテーマのアドバイスはくれましたが、基本的には自由に表現させてくれました。彼と一緒に制作できて本当に楽しかったです!
――また、リメイク版においては新エリアや隠しボスなど、プレイング面においても新要素が追加されています。こちらはどういった経緯で織り込まれることになったのでしょうか?
Ryan:すべてMortisのアイデアです!彼は新しいエリアやボス、をいくつも持ってきてくれました。しかもすべて元のゲームのフォーマットで提供してくれたので、リメイク版に移植しました。
Jack:実は「図書館」に、ニンテンドースイッチの携帯モードでしか体験できない秘密の演出があるんですが、皆さん見つけましたか?

――オリジナル版は元々RPGツクールで制作されていましたが、リメイク版を開発するにあたって、プログラミングやスクリプトにおいてはどのような開発がなされてきましたか?また、苦労したエピソードなどがあればお訊きしたいです。
Jack:RPGツクールからUnityへデータをインポートするための独自のツールを開発しました。しかし、ゲームの動作はすべて、オリジナルのゲームプレイをフレームごとに分析し、独自のコードで再現することでプログラミングしました。プロジェクトでの最初の仕事は、特にジェットコースターのシーンのために、スクロールする背景映像を実装することでした。
Ryan:戦闘システムは、元々の古いスタイルの戦闘システムをどうするか、最も難航しました。かなりの回数(8回だったかな?)の試行錯誤を経て、最終的に現在の戦闘システムにたどり着きました。Zserv(戦闘デザイナー)とDave(UIデザイナー)がプロジェクトに参加し、ゲーム開発の専門知識を提供してくれたことに、とても感謝しています!
EVERDRAED:ZservとDaveは素晴らしい仕事をしてくれて、戦闘体験を飛躍的に向上させてくれました!残念だったのは、プロジェクトの初期段階で検討していたタイミングヒットのコンセプトがいくつかなくなってしまったことです…。時には、素敵で興味深いアイデアもボツにしなければならないことがありますが、それらは自分の中で良い思い出として心に残るでしょう。
――リメイク版のサウンドトラックでは、Toby FoxやMorusqueなど、インディーゲームにて功績を上げた作曲家が主導してBGMを作り上げています。彼らに依頼した際の経緯もお訊きしたいです。
Jack:Tobyはオリジナル版の長年のファンで、MorusqueはMortis Ghostの親友です。私たちはインディーゲームのグッズ制作の経験から、『OFF』を愛し、自分たちのインスピレーションの源となったこのゲームに恩返しをしたいと考えている開発者を数多く知っていました。そうしたファンや友人のネットワークのおかげで、リメイク版が日の目を見ることになったのです。
EVERDRAED:『OFF』の楽曲制作は、複雑で困難な状況でした。参加してくれた作曲者全員、『OFF』への愛、そしてMortisを応援したいという気持ちが、プロジェクトを救ってくれました。彼らはヒーローです。

――本作の新録BGMは、オリジナル版の黄昏めいた、それでいて享楽的な雰囲気をそのまま持ち味としつつ、サウンド面では細かなモダナイズが行われ、より世界観に没入させるための工夫がなされていると感じました。作曲家たちとのコミュニケーションや、世界観構築におけるビジョン共有などのエピソードをお訊きしたいです。
Jack:『OFF』の開発チームはFangamerのパブリッシングチームと定期的にミーティングを行い、全員でできたてほやほやの楽曲を聴きました。そしてフィードバックをまとめ、Mortis Ghostのフィードバックと合わせて、作曲者に送り返しました。この作業はとても長く続きました。最終的には、非常に主観的なものになりますが、サウンドチームが作り上げたサウンドトラックに誇りを持っています。
――本作の日本語版ローカライズでは、オリジナル版の有志翻訳を行ったサラチ氏が引き続き担当しています。オリジナル版と比較して、具体的にどのような作業があったのでしょうか?
Ryan:フランス語から英語へのアップデートで大量の修正指示があったので、それらの指示を日本語版にもしっかり反映させました。それに加えて、新しいUIや戦闘システムなど、あらゆる新要素も追加しました。
Jack:ローカライズ作業で最も大変だったのは、ゲームに新しい専用フォントを追加し、既存のUIに新しいテキストが馴染むように調整することでした。この作業において、ハチノヨンは非常に重要な役割を果たしてくれました。彼らはサラチ(翻訳者)の校正と編集という主要な業務に加え、ゲーム内の静止画のテキストをすべて、オリジナルのフォントに合わせて手書きでデザインしたフォントに置き換えてくれました。また、翻訳後のゲームがすべてスムーズに読めるか、数え切れないほどのプレイテストも行いました。
――本作は、コレクターズエディションがFangamer日本版サイトにおいても販売されています。こちらはグッズ開発を行ってきたFangamerならではの施策といえますが、特に力を入れた点や、どのような視点でグッズ開発を行ったかもお訊きしたいです。
Jack:おっしゃる通り、私たちがパブリッシングするゲームの関連グッズを作る上で、大きなアドバンテージがあります。社内では、社員全員がどんなゲームのファンなのかリストを作成しており、それらのゲームの新しいグッズを考案し始める際には、そのファン全員をブレインストーミングに参加させ、企画化するというやり方を行っております。
『OFF』に関しては、バッターをテーマにしたEMFメーター(ゴーストセンサー)やゴム製のペダルボートのお風呂用おもちゃなど、かなり突飛なアイデアが多かったですが、最終的には現実的なものに落ち着きました。
前日譚コミック『OF』は、既存のファンにとって最高の逸品だと思います。また、CEOの妻であり才能あるアーティストでもあるCamille Youngが首振り人形を制作してくれたのも幸運でした。彼女の造形作品の一部※は、v1.2パッチのトレーラーでご覧いただけます。
※日本語版トレーラーに登場する監督官イーノックの顔の造形などを担当

――Fangamerとしてのパブリッシングは本作が第1作目ですが、これからもパブリッシングの予定はあるのでしょうか?また、その場合はどのような作品やジャンルをパブリッシングしていくのでしょうか?そして、今後の展望についてもお訊きできれば。
Ryan:『OFF』は最初のリリースとしては大成功でした!現在取り組んでいるプロジェクトについてはまだお話しするには時期尚早ですが、ストーリー重視のゲーム開発に注力しつつ、プレイヤーの選択肢を広げることを目指しています。
Jack:もちろんです!私たちは長年、自分たちのゲームを作りたいと思っていました。Fangamerにゲーム開発部門を設立できたことは夢の実現で、皆さんのためにさらに多くのゲームをお届けできることを楽しみにしています!
千嶋:日本でも今後、積極的にパブリッシングを行っていく予定です!
まだ詳しいことをお伝えできる段階ではないのですが、既に次のタイトルのパブリッシングに向けて、日本チームも精力的に動き始めています。というのも、実は最近Fangamer Japanには新しいメンバーが加わったんです!今まで日本ではあまりトライできていなかったパブリッシングですが、これからはもっと多くのプロジェクトに挑戦しようとチームみんなで意気込んでいます。
また、本社のあるアメリカと日本では好まれるゲームにも違いがあるので、日本ならではの目線を取り入れたプロジェクトも進めていきたいと考えています。世界中のゲームファンの皆さんに喜んでいただけるタイトルをお届けできるよう頑張りますので、ご期待ください!
――最後に、日本のファンに向けてメッセージをお願い致します。
Jack:『OFF』の独特なユーモアと雰囲気が皆さんの心に響き、インスピレーションを与えてくれることを願っています。経験上、ゲームがこのように文化の壁を越えることができると、そこから計り知れないほどの創造性がファンから生まれると思っています。これからどんな新しいファンアートが生まれるのか、とても楽しみです。プレイしていただき、ありがとうございました!
リメイク版『OFF』は、PC(Steam)およびニンテンドースイッチ向けに発売中です。多種多様な特典付きのパッケージ版も近日予約が開始される予定なので、気になる方はぜひお知らせメールを登録しておきましょう。










