
水鉄砲のようなブキから“インク”を発射して、ステージ中を塗りたくるTPSである『スプラトゥーン』シリーズ。4対4のチーム戦で、インクを塗った面積を競う「ナワバリバトル」を中心に、これまで対戦ゲームとして人気を博してきたタイトルでした。
一方で、シリーズ1作目から「ヒーローモード」と呼ばれる一人用の3Dプラットフォーマーモードを内包しているのも特徴であり、ニンテンドースイッチ2向け新作『スプラトゥーン レイダース』は、その一人用モードを独立させて売り出したようなスピンオフ作品となっています。
本作は、一言でいうなら「“ルートシューター”になった『スプラトゥーン』」です。シリーズのCo-opモード「サーモンラン」の「シャケ」を敵に据えつつ、『ボーダーランズ』や『Destiny』シリーズなど、同ジャンルでおなじみのアイテムドロップを中心とした成長要素や、豊富な構築が模索できるビルド要素などが取り入れられています。
本記事では、そんなシリーズの新たな試みである『スプラトゥーン レイダース』をレビューしていきます。
“ルートシューター”と『スプラトゥーン』の遊びの融合

これまで、『スプラトゥーン』シリーズの一人用モードでは、ステージクリア型の純粋な3Dプラットフォーマーである「ヒーローモード」、高難度で短いチャレンジに挑む『オクト・エキスパンション』、“ローグライト”の要素を取り入れた『サイド・オーダー』と、さまざまな遊びが試みられてきました。
今回、「オタカラハント」をテーマとし、ルートシューターの要素を取り入れた『スプラトゥーン レイダース』は、主人公の能力自体に過去作から大きな変更が加えられています。
これまで、シリーズの主人公であるイカ・タコの装備は、メインとなる「ブキ」と、補助となる「サブウェポン」、そしてゲージをためて使う「スペシャルウェポン」が基本となっていました。

『スプラトゥーン レイダース』では、この基本的な構成が一新。メインとなる「ブキ」こそ変わらないものの、サブウェポンはこれまでとまったく効果のことなる「ガジェット」へと置き換わりました。この多彩な「ガジェット」の面白さが本作の遊びの中心となっています。
ガジェットは、Lボタン、Rボタン、Aボタンにそれぞれ装備できる武器であり、装備できるガジェットはプレイヤーの選択した「タンク」の種類に左右されます。タンクには「スピード」、「パワー」、「テクニック」の3種類が存在しています。

たとえば、「スピード」タンクに装備できる「カチコミシューズ」は、前方に大きく飛び上がって着地地点に爆風を起こすガジェットです。正面からの攻撃が効かない敵に対して裏に回り込んで対処したり、敵に囲まれた時の脱出の手段になったりと、スピードの名に恥じない高い機動力を実現するガジェットになっています。
「パワー」タンクで代表的なのは、「ズバットスラッシャー」と呼ばれる、一歩踏み込んで強力な近接攻撃をお見舞いするようなガジェット。敵のアーマーを貫通してダメージを与えられるほか、広範囲の敵をノックバックさせながら大ダメージを与えられるなど、火力特化な性能になっています。


「テクニック」タンクにもさまざまなガジェットがありますが、固定砲台になる「スケットポット」など設置型のものが多めです。複数個を浮遊させると、それぞれが接続されて爆発の威力があがる機雷のようなガジェット「ツナガルバルーン」も高火力で楽しい。
こういったさまざまなガジェットを駆使して本作を攻略していくことになるのですが、本作をルートシューターたらしめているのがこのガジェットたちをカスタマイズできる要素「パーツ」です。

ステージを攻略するなかでたまにドロップするパーツは、ガジェットにさまざまな効果を付与できるアイテムです。ズバットスラッシャーの攻撃範囲を広げたり、カチコミシューズの飛距離を上げたり、スケットポットのストック数を増やしたりと、単純な強化といえるものから、使い方が大きく変化するものまでパーツの種類はさまざま。限られたコストの中からパーツを取捨選択して自分なりのビルドを組んでいきます。
パーツにはレアリティがあり、よりレアリティの高いパーツはコストが低く効果も高いという特徴があります。
ゲーム後半には、レアリティの高いパーツの入手は攻略においてより重要になってきます。最高レアリティのパーツがドロップした時の気持ちよさはまさしくルートシューターならではの体験といえます。

ガジェットのパーツだけでなく、ブキそのものにもレアリティがあり、高いレアリティのものにはより多くの付帯効果がついています。パーツによってカスタマイズした自分だけのガジェットと、ブキの付帯効果とのシナジーによって、プレイヤーは際限なく強くなっていきます。
「シャケ」という敵が生む、ハードコアとぬるま湯の見事なバランス
『スプラトゥーン レイダース』の舞台となる「ウズシオ諸島」には、大量の「シャケ」たちが生息しています。気性が荒く、プレイヤーを見かけたら集団で襲いかかってくる恐ろしい敵であるシャケは、もともとは『スプラトゥーン2』にて追加されたCo-opモード「サーモンラン」にて初登場したキャラクターです。

シャケは、数の力でプレイヤーに迫る「ザコシャケ」と、それぞれにことなる対処が求められるさまざまな種類の「オオモノシャケ」に二分されます。
オオモノシャケは、頭上で巨大なボムを作って発射してくる「バクダン」や、プレイヤーの位置にミサイルを撃ってくる「カタパッド」、長い胴体でインクの壁を作りながら迫ってくる「ヘビ」、壁を貫通するレーザーでどんな距離からも攻撃してくる「タワー」などなど、それぞれに強力な特徴を持っています。

倒し方もことなっており、たとえばバクダンは頭上で生成中のボムが弱点になっていたり、ヘビは最後尾の操縦席にいるシャケを追いかけなければいけなかったり、タワーは胴体を同時に壊せば素早く倒せるといったコツがあったりと、それぞれにことなる戦い方が求められます。
こういった強力なシャケ達に対して、プレイヤー側も強力なガジェットで対抗します。上述のように、本来ならば正攻法での対処が求められるシャケも、ガジェット次第ではゴリ押しできてしまう。成長要素による難易度の差は顕著で、さっきまでは苦戦していたステージも、少しガジェットやパーツを見直すだけで見事に攻略が容易になる絶妙なバランスです。敵が強ければこちらはもっと強くなればいい…というサイクルを繰り返す優れた調整のルートシューターに仕上がっています。

本作は、シリーズではじめての難易度選択が存在しているのも特徴。「トラベラー」、「レイダー」、「サバイバー」という3つの選択肢があり、アクションゲーム慣れしている人なら「サバイバー」が程よい歯ごたえが味わえる難易度になっています。
上述したように、ガジェット次第ではゴリ押しできる絶妙なバランスになっている『スプラトゥーン レイダース』ですが、「サバイバー」にして敵が固くなり、火力が上昇すると、ゴリ押しがしづらくなります。それぞれに特徴のことなるシャケたちに適切に対処していかなければ容易なクリアはできないようになるため、より工夫が求められるアクションゲームらしい体験が味わえます。

一方で、そういったシャケ達が大量に迫ってくるステージは相当にハードコアな体験です。厳しいと感じれば難易度を下げて、“芝刈り”のような気持ちのいいシャケ狩りを楽しむこともでき、任天堂作品らしい間口の広さも担保されています。
ちなみに、クリア後に解放される高難度ステージは難易度「サバイバー」以外が選べないようになっており、本作が最終的に想定している体験は中間の「レイダー」の難易度ではないということが伺えます。
せっかくの成長要素を活かせる場に乏しい、種類の少ないエンドコンテンツ
全体として、ルートシューターの遊びを見事に『スプラトゥーン』へと落とし込んでいる本作。この成長要素の面白さはこれまでのシリーズにはなかったものであり、ルートシューターの新たな金字塔となりうるポテンシャルを秘めているように思えます。
しかし、残念なのは、それらをさまざまな方面で楽しめるエンドコンテンツの数の不足です。ハックアンドスラッシュやルートシューターのジャンルは、よく「ストーリークリアまではチュートリアル」と言われるように、クリア後のコンテンツ量によってその中毒性を担保している部分があります。

しかし、『スプラトゥーン レイダース』のエンドコンテンツは最低限といえるものしかなく、さまざまなビルドや遊び方が試せるコンテンツの種類に乏しいというのが現状です。
具体的に、本作のエンドコンテンツには、ストーリー上で攻略したステージの高難度版と、己の限界に挑戦できる「無限食堂」というものがあります。
前者は、ストーリークリア後しばらくするとすぐに容易に攻略できるものになるため、主に素材集めとしての役割に落ち着きます。メインとなるエンドコンテンツは後者の無限食堂です。

無限食堂は、名前のとおり無限に続くかに思えるステージを攻略するモードで、制限時間内に、シャケ達が落とすイクラを規定数集めるラウンドを1ステージあたり3ラウンドクリアすることが目的になります。
ステージをクリアするとより深い階層が追加され、それにつれてシャケ達は硬くなってくるため、プレイヤー側もより強力なガジェット、ブキを用意しなければ間に合わなくなってきます。数字の暴力に対してビルドのシナジーで対抗する要素であり、確かにプレイヤーを限界まで強化する動機としては機能しているものの、遊びとしてはずっと同じものが続く形です。
実のところ、同シリーズにおいては、ローグライトを取り入れた前作「サイドオーダー」の時にも、成長要素に対するエンドコンテンツの不足が目立っていました。今回は際限なく強くなっていくステージに挑戦できる無限食堂がある分改善されてはいるのですが、それでも、フルプライスのルートシューターに求められるコンテンツ量には届いていないというのが正直なところです。

クリア前のプレイの動機となりうるストーリー面についても、これまでの『スプラトゥーン』の一人用モードではさまざまな捻りを見せてくれていましたが、今回はオタカラハントというテーマゆえか予想通りの展開しかなく、インパクトは弱い印象でした。過去作の「オルタナ」や「深海メトロ」といったミステリアスなロケーションと比べると、「ウズシオ諸島」は魅力的なバックボーンに乏しいように思えます。
一方で、これまでの一人用モードでは活躍の機会に乏しかった『スプラトゥーン3』のアイドル「すりみ連合」たちを魅力的に描くシーンに富んでいるのはファンとしては嬉しい部分。過去作よりも強化されたフェイシャルとアニメーションで生き生きと動くキャラクターをみることができました。

『スプラトゥーン』の遊びとルートシューターの成長要素を見事に融合させた『スプラトゥーン レイダース』は、多様な遊びを許容する同シリーズにまた新たな可能性を見出す作品となっていました。
特に、新たな装備「ガジェット」が生み出す遊びの幅はこれまでと大きくことなるものになっており、強化の仕方次第で強力なシャケ達が溶けていく爽快感は抜群です。ゲーム全体を通して、苦戦と成長のサイクルが多幸感を生むデザインになっていました。
一方で、ストーリークリア後のエンドコンテンツの不足は、ルートシューターやハックアンドスラッシュの作品としてみると残念な部分です。際限なく敵が強くなっていく「無限食堂」の存在こそあるものの、実質的なエンドコンテンツはこれのみであり、新たな遊びはほとんど用意されていません。
ルートシュータージャンルの新たな金字塔となりうるポテンシャルを秘めている『スプラトゥーン レイダース』ですが、心からそう呼ぶためにはあと一歩要素が不足している印象。DLCや続編にて、このポテンシャルがさらに生かされることを願っています。
Game*Spark レビュー 『スプラトゥーン レイダース』 ニンテンドースイッチ2 2026年7月23日
シャケもルートシューターも美味しく調理して、シリーズの新たな可能性を拓いた一作
-
GOOD
- 『スプラトゥーン』と“ルートシューター”の見事な融合
- 「ガジェット」と「パーツ」による多彩なビルドが生む遊びの幅の広さ
- それぞれに対処のことなる“シャケ”という敵の面白さ
- ハードコアとぬるま湯のほどよいバランスによる多幸感
BAD
- 多彩なビルド、成長要素を活かせるエンドコンテンツの種類の不足
- ストーリー面でこれまでのような捻りは見られない













