【特集】2K Games矢野要介氏が説く「現代的ゲームローカライズのあり方」 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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【特集】2K Games矢野要介氏が説く「現代的ゲームローカライズのあり方」

Game*Spark編集部は、『バトルボーン』『ボーダーランズ』などを担当した2K Gamesローカライズマネージャー矢野要介氏を直撃取材。ゲームローカライズへのこだわりをたっぷり語ってもらいました。

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Game*Spark編集部では、スクウェア・エニックスの赤石沢賢氏やスパイク・チュンソフトの本間覚氏をはじめ、海外タイトルを日本に届ける各社のローカライズ担当者を独自に取材してきました。今回は、2K Gamesで『ボーダーランズ』や『バイオショック』シリーズを筆頭に数々の作品を手掛けてきたローカライズマネージャー矢野要介氏を直撃。なかでも『ボーダーランズ』シリーズの日本版は、その破天荒かつ完成度の高い翻訳でユーザーからも定評があり、先日発売をむかえた新作シューター『バトルボーン』にもそのエッセンスは受け継がれています。2K Gamesがどのようなこだわりや手法でゲームをローカライズしているのか、矢野氏にたっぷり語ってもらいました。

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――本日はよろしくお願いします。まずは矢野さんの経歴を教えてください。

矢野要介氏(以下、矢野): よろしくお願いします。私は、2000年ごろからゲームシナリオライター業に携わっていました。その頃から英日翻訳を副業として行うこともあり、2004年くらいから某海外MMORPGの翻訳チームリーダーに選ばれ、本格的にゲームローカライズ業を始めるようになりました。その後、コンシューマゲームの制作業務などを経て、2010年末からはテイクツー・インタラクティブ・ジャパンのアジアローカライズマネージャーを担当し、今に至ります。


――それ以降、2K Gamesタイトルすべてのローカライズに参加しているということですね。矢野さんが手掛けた作品では、『バイオショック インフィニット』がとても印象的でした。アメリカの歴史観と文化的な背景を日本人ゲーマーに向けて表現するにあたり、苦心されたこともあったのでは。

矢野: 『バイオショック インフィニット』はアメリカの文化的な側面に深く切り込んだ作品でした。このゲームに限ったことではありませんが、私にとってのゲームローカライズポリシーとして、「オリジナル言語版のプレイヤーが体験するゲームプレイの感動と同質のものを、日本のプレイヤーにも提供する」というのが根底にあります。『バイオショック インフィニット』に関しても、独特なシナリオを日本人プレイヤーに分かりやすく伝えるよう、工夫を凝らしながら臨みました。

――『バイオショック インフィニット』の宗教的なメタファーや深い歴史的背景とは対照的に、メインキャラクターに当てられた声優の演技は、大変明るくキャッチ―でした。特に人気の高いヒロイン“エリザベス”の躍動感溢れる日本語音声は、どのように生み出されたのでしょうか。

矢野: 『バイオショック インフィニット』に限って言えば、「英語を喋れる女性声優」というポイントにこだわりました。台本は日本語に訳されていますが、それだけではオリジナル版英語音声の細かいニュアンスは分かりません。英語に堪能なことでも知られる沢城みゆきさんをエリザベスに配役した理由の1つはそこにあります。信じられない話かもしれないですが、沢城みゆきさんには全ての英語音声データをひとつひとつ聞いていただいて、キャラクターの些細な心境変化なども汲み取ってもらった上で、セリフのレコーディングに挑んでもらっています。『バイオショック インフィニット』のシナリオは文化的・宗教的な背景が奥深くデリケートな部分もあるので、そこまで徹底しました。


――シリアスな『バイオショック インフィニット』に比べ、『ボーダーランズ』シリーズではユニークなセリフ回しが際立っていたと思います。「一狩りいこうぜ!」「二番じゃダメなんですか?」のように日本版独自のギャグも含まれてましたが、あのようなダイアログはどのように作られたのでしょうか。

矢野: ローカライズテキストの監修を担当したライターさんには「恐れずに踏み込んでいってくれ」と指示していました。これも「オリジナル言語版と同じ体験」を目指すためです。言葉尻のみでなく、「アメリカ人がプッと吹き出すようなギャグ」をそのまま体験として提供する必要がありましたからね。

――ハンサム・ジャックやクラップトラップなど、日本語でも個性あふれる魅力的なキャラクターが描かれて、日本人ゲーマーに親しまれています。どのような過程でローカライズしているのでしょうか。

矢野: まず真っ先に「キャラクターバイオ」、いわゆるキャラクターの人物像に関する資料をローカライズ初期段階から確認して、再現度を意識しながら翻訳を進めています。『ボーダーランズ2』やその続編においては、翻訳監修を担当していただいた川嵜暁さんからも大きな協力を得ました。川嵜さんは本来は国内ゲームのシナリオライターとして実績がおありで、音声収録に関してもエキスパートです。レコーディングのさじ加減まで全面的に信頼して進めてもらいました。

――まずは「英語のエキスパート」が翻訳、その後「日本語シナリオのエキスパート」を通すという作業フローが非常に重要だったということですね。

矢野: ただ正確なだけの翻訳では止めず、「オリジナル言語版と同じ体験」を目指してゲームテキストとしての正しさを意識しました。この工程は『ボーダーランズ』のローカライズにおいて、かなり重要なものになったかと思います。


――今月発売される最新作『バトルボーン』も、『ボーダーランズ』と同じGearbox Softwareが開発していて、コミカルな世界観など共通する部分がありますが、ゲーム性は大きく異なります。ローカライズにおいても感覚の違いがあったのでは。

矢野: どちらかと言うと、PvPのほうがローカライズの難易度は高いかもしれません。PvPは「本筋のストーリーを理解すれば翻訳できる」というジャンルではなく、セリフもパッと見で理解しにくいところがあります。膨大な時間を費やしてテストプレイをしつつ、ゲームシステムを深く把握した上でセリフを理解する必要がありますからね。その点で言えば、『バトルボーン』はかなり上手くいったかなと。

――『バトルボーン』はプレイアブルキャラクターが多数用意されているため、『ボーダーランズ』シリーズや『バイオショック インフィニット』に比べて、翻訳の工数が多かったのではないでしょうか。

矢野: 単純な作業量で言えば、どちらも「死ぬほど大変」でした(笑)。ですが『バトルボーン』のプレイアブルキャラクターの数は自慢のひとつですね。タイトル発表時で25体も用意されていた登場キャラ達の個性を際立たせるため、1体ずつ翻訳ガイドラインを設けていました。「通常の一人称」「二人称」「特定の敵に対しての二人称」など細かい監修を、翻訳チームとは別のラインで行ってます。

――『ボーダーランズ』と同様に、英語翻訳と日本語ライティングを上手く切り分けながら作業を進めていたということですね。ちなみに、矢野さんが初めて『バトルボーン』に触れたときに印象的に感じたキャラクターはどれでしたか?


矢野: まずびっくりしたのは「キノコのキャラクターが出てくる」という設定ですよね……「キノコが喋るの?」と戸惑いました。ビジュアルからはセリフの口調も想像できませんでしたし、翻訳ガイドラインを作るにしても性別すら分かりにくい(笑)。はじめ、文字だけで“ミコ”という名前だけを見たときは、日本人の女の子かな?と思っていました。実際にキャラクターを見た瞬間、頭の中のプランが崩壊しましたね。

――『バトルボーン』はマルチプレイヤー作品とは言えど、ストーリー性も重視しています。ストーリー部分のローカライズについても詳しく教えてください。

矢野: 『バトルボーン』のゲーム内“ロア(物語設定)”は、ムービーシーンなどでまとめて描かれるものではありません。対戦を含めゲームプレイを繰り返すことで、徐々に物語がつながっていくという、PvPとストーリーテリングが両立している形です。プレイしている側としてはとても楽しいのですが、ローカライズする側としてはとんでもないことなんですよ(笑)。断片的に散りばめられた設定を全体的に理解するため、がっつりとテストプレイに挑みました。“遊びながらジワジワと物語を理解できる”というゲーム体験を提供するために必要なことです。

――矢野さんは、ゲームローカライズにおける「フォント選び」にもこだわりはありますか?

矢野: 日本語や他のアジア言語って、西洋のアルファベットとは大きく違うんですよね。したがって、「フォント選び」というのはローカライズの第一関門であり、同時に最終関門になることもあります。「フォントを正しくゲーム内に実装できたら、そのタイトルのローカライズは9割がた終わったも同然」という私だけが言ってる格言があります(笑)。これまでのゲームローカライズって、フォントの扱いに対する比重が軽過ぎたんじゃないかと思ってます。翻訳のこだわりとは別の側面ですが。特にミドルウェアとの兼ね合いでフォントの実装を調整するノウハウは非常に重要になっています。

――『ボーダーランズ』では、カートゥーンらしい雰囲気の特徴的なフォントを採用してましたね。

矢野: 『バトルボーン』もフォントにはかなりこだわりました。あまりポピュラーではないフォントを見出しなどに選んでます。ローカライズやゲーム翻訳を気にするタイプの人に注目してていただきたいポイントです。


――矢野さんがゲームローカライズ業を通して「楽しいと思う瞬間」「辛いと思う瞬間」をそれぞれ教えてください。

矢野: 楽しいと思えるのは、「自分がローカライズを担当したゲームを遊ぶ」瞬間です。今まで英語テキストで遊んでいたゲームを日本語テキストで遊ぶと、シンプルにとても感動します。英語版でも内容は理解できるのですが、とにかく感動の深さが違います。「ローカライズが辛い」と思ったことはあまりないですが、限られた作業スケジュールと様々な事情がある中で、仕様を変更したり、調整を行わなければなりません。作り上げるものが商業作品であるがゆうの辛さというものはあります。物作り全般にいえることですが。

――矢野さんがゲームローカライズ業に足を踏み入れたきっかけを教えてください。

矢野: 自然な流れ、ですかね。もともと本業でシナリオライター、副業で翻訳をやっていたので、両方のスキルを活かせる仕事だとは思ってその道に進みました。しかし、ローカライズ自体を特別視しているつもりはありません。今の「ゲームローカライズ」というのは、ゲームを全世界のユーザーに届けるためのプロセスのひとつであるとも思ってます。

――ローカライズ職は、日本のゲーマーに海外タイトルを届ける「メッセンジャー」的役割といった感覚でしょうか。

矢野: そうですね。昔のローカライズというのはまさに職人芸という感じで、長い時間をかけてひとつの大きな芸術作品を作り上げるような印象すらありました。それはそれで素晴らしく、事情が許すなら、私自身も1人で気が済むまで翻訳から品質チェックまで全て担当してみたいとよく思います。ですが、今は昔とは時代が変わりつつあります。例えば海外版発売から丸1年かけてじっくりとローカライズを施した商品がどんなに素晴らしくとも、その1年のあいだに市場は変わってしまい、その作品の話題性は失われてしまいます。今の時代に求められているのは、ゲームという商品をを全世界で発売するグローバルビジネスの1プロセスとしてのゲームローカライズだと考えています。


矢野: 現代的ローカライズのテーマとしては、いかに「職人芸」を「商業作品」の中に活かせるか、というのが課題になってると思います。商業作品のサイクルと職人的なセンスを両立させるためには、私は「ゲームローカライズの仕組み作り」がとても大事だと感じています。開発スタジオとの密な情報共有に始まり、専任のライターによる監修やリライトなど、作品性を担保するための工程を設けることによって、「商業作品」の中に「職人らしさ」というものを提供できる筈なんです。大量生産品になって心を忘れたローカライズになってしまったらそれは最悪なことだと思うので、「今の時代に則しつつ、いかに昔ながらのこだわりを反映できるか」というのが、ある意味ではゲームローカライズ業界全体のテーマになってるんじゃないかなと。

――最後に、新作『バトルボーン』の発売を待つユーザーや、海外ゲームを好む日本のユーザーに向けてメッセージをお願いします。

矢野: 『バトルボーン』は、日本語版も英語版も同じゲーム体験をできるように強くこだわってローカライズしたので、ぜひ遊んでほしいです。Gearbox Softwareが生み出した素晴らしいゲーム性、時にはシリアスで、時には良い意味でくだらなかったりもするこの不思議な世界観を、日本語版で堪能していただけたら幸いです。

――本日はありがとうございました。



(取材・文 / 早川夏生 撮影・編集 / 谷理央)
《Game*Spark》

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