ほとんどの人間がサイボーグと化してしまった世界で、狐が子狐を咥えて街の外へと脱出する『The End: Inari's Quest』。本作で描かれるのは、サイバーパンクな世界で生きる狐の物語。プレイヤーは稲荷神の頼みを引き受け、子どもを守りつつ街の外へと最後の人間を探す旅に出ることになります。本稿では、「雰囲気を楽しむ」ことに主眼が置かれたであろう本作のプレイレポートをお届けします。
神はお稲荷さん
本編を開始すると、たくさんの機械がある部屋からスタート。そのまま道なりに進んでいくと「INARI GODNESS」、いわゆるお稲荷さん……が賽銭箱の上におり(!?)、その横に狛犬が鎮座している祭壇に辿り着きます。近付いてみると、「私は稲荷の女神。この世界には未改造の人間がほとんど残っておらず、街の外にいる最後の人間を探すのを手伝って欲しい」とのこと。さらに、目の前にある円の中で眠ると残機が回復するよ、とついでとばかりに説明。
その近くには「これがあなたの最後の子どもで、ペットとしてもうすぐ売られる予定。この世界は狂ってしまった」とキューキュー鳴くかわいい子狐。プレイヤーはこの子を咥えて運ぶことができ、敵から守らなければなりません。また、床に置いておくとネズミが持っていこうとしますが、持っていかれてしまうと子狐が死んでしまい、ゲームオーバーになってしまいます。子狐は床に置いた時点で緑色の光を発するため、どこかに置いておいて離れても見つけやすくなっているので安心です。
複雑そうでシンプルなサイバーパンクの街中
街中をひたすら子狐を咥えつつ歩いていくことになるのですが、道すがらに出会うのはサイボーグ(敵)や空中浮遊する機械の警察(敵)、犬の死骸を漁っているサイボーグ(敵ではなかった)といった感じで、基本的にサイボーグやメカのみ。ネズミもオレンジ色に光っており、謎のクリーチャーと化しています。触れたり攻撃を受けた瞬間に気絶してしまい、スタート地点に戻ってしまうので、残機は3つあるものの、気を付けながら動くことが重要です。
思った以上にプレイヤーの敵となるNPCは少ないようでした。もぞもぞと動くサイボーグもそれなりに見かけますが、特に反応のない「背景的なオブジェクト」でしかなかったりします。脱出するために街を駆け回ることになる作品なので、プレイ自体は気軽であるものの、一方である程度以上進めてからは繰り返しのように感じてしまう部分もあります。
本作に登場する仕掛けは、基本的に「敵を指定の場所に移動させてボタンを踏ませる」「アイテムを探して指定の場所に咥えて持っていく」といったもので、非常にシンプル。何が必要かも分かりやすくなっているため、やさしい作りになっています。一方で、アクロバティックなアクションは存在しないため、「飛び越えて反対側に行く」といったこともなく、比較的落ち着いてゲームプレイができる印象でした。
狐の「残機システム」は活きるのか
本作には残機システムが存在しています。「指定のポイントで寝ることで残機が回復」、そして「敵に攻撃されると残機がひとつ減って、スタート地点に戻される」というもの。このシステムはシューティングゲームなどでは馴染み深いものですが、こういった類のゲームでは非常に斬新に感じました。しかし、結局はスタート地点の近くに回復ポイントがあり、実質的にHPは無限と言っても過言ではないため、果たして残機システムは必要だったのだろうか、と疑問が残るところもあります。
また、「攻撃」と「ジャンプ」、「死んだふり」といったコマンドも実装されていますが、攻撃をしたところでサイボーグの敵は倒せませんし、通用する相手はネズミだけ。走っていれば攻撃を避けられるため、死んだふりが必須になるシーンにも筆者は遭遇していません。一部を除き、子狐は咥えたままでも進行できるため、ネズミの存在も「初見殺しのうちのひとつ」としか感じられませんでした。このあたりのコマンドをもっと活用して、それぞれの動作を駆使して進められるような仕組みがもっとあれば、さらにプレイの幅が広がったとは思うのですが、現状ではあってもなくても変わらないようなものです。
そして筆者が最も気になったのは、冒頭から一切のガイドやチュートリアルがなかったこと。チュートリアル的なヒントは随時表示されますが、初プレイ時に何をすれば良いのか分かりにくく、不親切さを感じました。ギミックもいくつかあるものの、敵を移動させてスイッチを踏ませるのがほとんどで、全体のボリュームはかかっても1時間ほどとかなり短め。リプレイ性もなく、同価格帯のインディータイトルと比較しても、いわゆるゲーム的な要素が少な過ぎます。どちらかと言えば、インタラクティブ寄りの映像作品に近い印象が残りました。
どの層に刺さるタイトルなのか
ここまで辛口なことを述べてみましたが、総括としては「サイバーパンクとエセ日本と海外の街が混ざりあった独特な雰囲気を楽しみたい人にはオススメかもしれない」と言ったところです。
本作はいわゆるウォーキングシミュレーターと言うのも難しいと思わせるほどの出来で、没入するにも、アクションを起こすにも、仕掛けを動作させるにも、すべてが非常に希薄としか言えません。開発元は「ほとんどの人はクリアできると思うけど、一部の人はクリアできずに詰まるかもしれない。でも、ネットに上がってるヒント付き動画を観ることができる」と発売後3日の時点でコメントしていますが、このボリュームとゲーム性でヒントを見てしまうと、実質的にはプレイしてもしなくても同じのように感じてしまいます。
筆者としては、ゲームのコアとなるテーマやSteamのスクリーンショットから「これは攻めた作品が来た」と期待していたのですが、実際は上記のように失望せざるを得ない結果になってしまいました。Steamストアでは、ユーザーが定義した人気タグとして「アクション」「アドベンチャー」「独立系開発会社」の三つがリストアップされていますが、個人的にはアクション要素は皆無、アドベンチャーとしてもストーリー性が希薄過ぎて、もう少し明確な何かが欲しいと感じました。
ちなみにSteamの製品情報によると、本作はエピソードごとに分かれているとのこと。とは言え、このボリュームと満足感で毎エピソードが1,000円ほどで販売されるのならば、筆者が続編を買うことはなさそうです。
『The End: Inari's Quest』はSteamにて1,010円(税込)で販売中。8月1日までは20%オフの808円(税込)で提供されます。