Game*Sparkレビュー:『コーヒートーク』【年末年始特集】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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Game*Sparkレビュー:『コーヒートーク』【年末年始特集】

会話のテンポが非常によく、紡がれる物語も小さなものではあるものの、落ち着いていてなおかつ煌めいた日常を丁寧に描いた傑作ADV。

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Game*Sparkレビュー特別企画として、2020年にリリースされた作品でレビューできなかったタイトルを厳選してお届けします。ぜひ年末年始のゲームプレイの参考にしてください。

コロナ禍の今、日常生活から多様な香りが遠ざかっています。読者の皆さんにはないでしょうか、汗だくになったときの匂いがどこか学生時代を想起させるような体験が。住宅で香るカレーの匂いに郷里を呼び起こされたことが……香りにはなんらかの記憶が染みつきやすく、人の感情を深く呼び起こします。

あえて味気のないことをいってしまえば、鼻腔内に入ってきた匂いは脳の「嗅球」へ辿り着き対象物の嗅覚イメージを作り出し、嗅球は扁桃体と海馬との繋がりがあるためそれらが関わる記憶と感情を呼び起こすだけ、といえます。いえますが、特定の香りは確かに私たちを時にナイーブな気持ちにさせ、時に奮起させます。

そして香りが記憶を呼び起こすのにコーヒーはうってつけです。馴染みの喫茶店にやってきたときの安堵は店の雰囲気というより、コーヒーの匂いで覚えて想起しているものです。

人種がミックスされた世界はダイアログに期待させる

本作はシアトルにあるコーヒーショップ店長、バリスタである男性主人公(名前は自由に決められます)が馴染みのお客さんであるジャーナリスト「フレイヤ」から小説を書きたいと相談を受け、店にやってくるほかのお客さんの会話に側耳をたててインスピレーションを得て書くという彼女とともに、一人一人のお客さん個人のオーダーに沿うようドリンクを組み合わせて提供し背景をうかがいながら進めていくアドベンチャーゲームです。『VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action』(2016年)のフォロワーといえそうですが、本作は主人公よりお客さんの方、特に語り部のような存在であるフレイヤにフォーカスが当てられている点が特徴といえます。

また本作はエルフや吸血鬼に人狼など亜人が普通に暮らしている社会をベースにしています。それを活かして現実社会を照射するような描写があり、フレイヤが「もしも人種が1つしかなかったら」というのを言い出し、もしもそうなら争いなんか生まれているわけがない、というようなやり取りがあります。「酸っぱいブドウ」といえばそうですが、軽妙な皮肉といえるでしょう。何よりこの描写は本作がインドネシア産であり、インドネシア社会においてはパプア人への差別が問題になっており、デベロッパーが社会の風潮を汲み取っているのがわかる良い点だと思います。

基本的なゲームプレイは簡素だがそれこそが会話劇を盛り上げる

本作のプレイはお店にやってきたお客さんがなにかしら飲み物をオーダーして、そしてそれに合うように組み合わせて提供して会話のムードを作り出す、そして会話を聞く、というフローになっています。基本的には会話劇ですが、会話のペースがすごくよく、たとえば数人のお客さん相手に主人公はあまり割り込まず、ここぞといったときに一言発して場の空気を作り出すムードは非常に巧みです。

手探りを要求するレシピはとっつきづらい

お客さんはたまにふわっとした「コーヒーと、なにか元気のでるものを入れてくれ」などといった「手探り」を要求してくることがあります。この点は何があたりのコーヒーなのかセーブアンドロードで試す、もしくは事前にコーヒーの知識が求められることもあり、多少のとっつきづらさはあるかもしれません。また、プレイに数日を空けると「この人にはどのレシピが正解なのか忘れてしまっている」という現象も起こりえます。しかしながらきちんとオーダーに応えられたときの喜びは大きいです。

本作の世界観を牽引するサウンドトラック

本作ではジャズが流れたり、チルなピアノトラックが流れたりと落ち着いたムードのサウンドトラックが特徴ですが、世界観の落ち着きに寄与していることもあって非常に効果的に用いられているといえるでしょう。全体的にBPM(曲の速さ)は遅めでゆったりとしていて「ローファイヒップホップ」なムードもあり、そのサウンドをベースに進めるプレイはまったりと、しかし会話を読み飛ばさない程度のフォーカスを与えてくれます。

小さいけれど大きな要素であるスマホ

画面レイアウトの左下にはスマートフォンのアイコンが置かれており、タップすることで知り合ったお客さんの個人情報(仲良くなればより多くの)が閲覧できます。また、作ったことのあるレシピの閲覧機能もあり、たびたびアクセスすることになりますが、ゲームへの没入を妨げない設計になっており自分のタイミングで触れるので好感触です。

総評

会話のテンポが非常によく、紡がれる物語も小さなものではあるものの、落ち着いていてなおかつ煌めいた日常を丁寧に描いています。それはフレイヤの小説家デビューに関してもそうですし、異種族間の恋愛模様もそうです。彼ら彼女らを幸せにする1杯を提供するバリスタとしての役割として、レシピはそこそこ複雑で、入れる順番によって出来上がるものも変わります。これがゲームの攻略要素となり、少々のトライアンドエラーが求められますが、全体的に過不足なくコンパクトにまとまっているので非常によいものをみたな、遊べたな、という感慨に浸れる一作です。

総評:★★★

良い点
・会話劇のペースがよい
・物語の慎ましさと穏やかさ
・ムードに寄与するサウンドトラック

悪い点
・一部のレシピがとっつきづらい

タイトル:コーヒートーク
対応機種:PlayStation 4/Xbox One/Nintendo Switch/Windows/Mac
発売日:2020年1月30日
記事におけるプレイ機種:PC(Steam
今回の記事執筆に限定したプレイ時間:14時間
価格:1,320円


《SHINJI-coo-K(池田伸次)》

FPSとADVを偏愛しつつネトゲにも造詣のあるフリーライター SHINJI-coo-K(池田伸次)

「Game*Spark」誌に寄稿しつつも「IGN JAPAN」誌と「GAMERS ZONE」誌にも寄稿。「インサイド」誌にも寄稿歴あり。今はなき「Alienware Zone」誌や「週刊Steam」誌にも寄稿していたフリーライター。 そしてヒップホップビートメイカー業も営む音楽家兼ゲームライターの兼業家。通称シンジ。

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