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損をさせない保証はできない―あなたの度肝を抜く“攻撃的な”ADV『シルバー事件25区』を今こそ薦める

Game*Sparkライターとしてもお馴染みの文章書く彦氏にSteamサマーセールオススメの1本を選んでもらいました。

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損をさせない保証はできない―あなたの度肝を抜く“攻撃的な”ADV『シルバー事件25区』を今こそ薦める
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世の中にはプレイヤーに対して攻撃的なゲームというものがあります。あくまで筆者による分類ですが、例えば『Hotline Miami』のような内容が反転しプレイヤーに責任を問いかけるゲーム(『UNDERTALE』のGルートもそれに近いかもしれません)、あるいは.exeゲームやジャンプスケアを多用する悪趣味なホラーゲームもそういった「プレイヤーに対して攻撃的な」作品の一種といえるでしょう。アンダーグラウンドなフリーゲームは置いておいて、販売されているものは商品ですから「攻撃的」といっても、たいてい悪意ではなくあくまでサービスの範囲内ではありますが……。ともかく、攻撃的な作品を遊ぶと場合によっては心に傷をつけられます。そして消えない記憶として、いつまでも残り続けるのです。

さて、今回「Steamサマーセールでのおすすめゲームを紹介する記事を書いてほしい」という依頼を受けたとき、ふと『シルバー事件25区(以下、25区)』が頭に浮かびました。個人的な話をしておくと、前作にあたる『シルバー事件』(1999年発売)のファンでした。カッコいい音楽、おしゃれなインターフェイス、なにやら意味深な物語……。発売当時中学生だった筆者はゴリゴリに影響されまくり、「こんなゲームやってるオレ、かっこいいかも!」みたいな感覚に酔っていたのかもしれません。しかし、続編にあたる『25区』の携帯アプリ版(本作は2005年にフィーチャーフォン向けにリリースされたものがベース)は遊んだことがありませんでしたし、そもそも存在すら知りませんでした。ですので、本作がPC(Steam)向けに発売されるというニュースを聞いたときには非常に喜んだものです。しかし、実際にプレイして度肝を抜かれました。……というのも『25区』というゲームは、非常に攻撃的なゲームなのです。「プレイヤーに倫理的な問いかけをしてくる」とか「急に脅かしてくる」とか、そういう類いの攻撃性ではなく、端的に説明するのが難しいですが、プレイヤーのことをおちょくっているような、かなり人を食った作品であることは間違いありません

まず、本作のプレイにあたって前作『シルバー事件』のプレイは必須……といってもいいと思います。やや敷居が高いですが、前作と今作の2タイトルにプラスしてサントラやアートブックまでついてくるバンドルもセール中なので、前作未所持の方はそちらを購入すればいいでしょう。基本的にはテキストアドベンチャーゲームですし、すさまじく難易度が高いということもありませんから誰でも遊べるとは思います……が一部異常に意地悪な仕掛け(これについて解説するとネタバレになるので割愛しますが、是非攻略を見ないで遊んでほしい)が登場します。このあたりの要素は先ほども説明したように滅茶苦茶プレイヤーをおちょくっている感が強いのですが……。なお、マウスで遊ぶと操作感が悪いので、パッドでのプレイをオススメします。

今回スクリーンショット収集のため久しぶりに序盤部を再プレイして改めて感じたのですが、画面の作りと音楽がとにかくカッコよく(なのでサントラ付きがオススメ)、それだけでなんか真面目なゲームだと説得されるような魔力がありました。そしてテキストはユーモラスで、時々示唆に富んでいるような気がする内容も含まれています。かといえばどうしようもない下ネタやギャグが挿入され、仰け反ってしまうときもあるでしょう。ストーリーや設定は入り組んでいますし、時折意味不明な用語も矢継ぎ早に登場するのでかなり難解な印象を受けるかもしれませんが、無理して全部を理解しようとせず、ガンガン読み進めて大丈夫です。

特に前半部はそういった難解さも込みで普通に読み物ADVとして面白いと思います。話はそれますが、こういう独特の雰囲気をもったアドベンチャーゲームって昔は結構ありましたよね。特に初代プレイステーションやセガサターンのこういったゲームが好きだった人は懐かしい気持ちになること請け合いです。多分に漏れず前作『シルバー事件』も元々は初代PSのゲームなわけですし。ちなみに本作は“ほぼ”一本道であり、“ほぼ”分岐も存在しないのですが、操作が必要な場面はそこそこあり、単に読み物を読んでいるというわけではなく、「ゲームを遊んでいる感覚」はかなり印象に残っています。

しかし本作が普通に遊べるのは中盤までです。それ以降、ストーリーはどんどん意味不明になり、特に最後の方は本当に困惑させられることでしょう。最初にエンディングを見たときのことを未だに覚えていますが、はっきりと「バカにしてるんだろうか?」と感じました。このギミックについても言及すると台無しなので是非(うっかりSteamレビューを見たり攻略を見たりせず)自分の目で確かめて下さい。たぶん狐につままれたような気分になると思いますが、頑張るとちょっとだけいいことがあります。

冒頭でも触れましたが、本作は人を選ぶゲームです。はっきりと「時間を無駄にした」と感じるプレイヤーもいるでしょう。前作『シルバー事件』が好き、というプレイヤーであっても合うかどうかは断言できません。両作のディレクターである須田剛一氏の作品群はその独特さから「須田ゲー」と呼ばれ、熱狂的なファンもいることは周知の事実ですが、本作はそうした「須田ゲー」の中でも人を選ぶ作品であることは間違いないでしょう。ただ、それなりにゲームをプレイしてきた筆者でも、「こんなゲームは遊んだことがない」と断言できます。

正直なところ、本作をどう評価するかは決めかねています。ただ、ここまでずっと記憶に残っているのだから、おそらく非常に印象的な体験だったのでしょう。つまり傷が深かったわけです。当時、筆者の身の回りにはほとんど本作を遊んだプレイヤーがおらず、また「須田ゲー」ファンの感想も有り体にいえばすっかり氏の作品や表現に感化されているといった印象で、「これ、もしかしてバカにしてんのかな?」という筆者の素朴な問いに答えてくれる人はいませんでした。今回「攻撃的」であるという文脈で本作を取り上げましたが、そう感じている人間も身の回りにはいないため、「オレだけが被害者意識を抱えているのでは……?」という疑念も捨てきれません。

セールで遊ぶ人が増えればいろいろな人の感想を読めるかもしれないので、とにかく買ってみて下さい。たいていこういうオススメの記事は、「損はさせない」と言いきるくらいがちょうどいいのでしょうが、ハッキリ言って損をするかもしれません。でも、そういうもんじゃんね、人生って……。セールのときぐらい絶対に面白いと決まってるゲームじゃなくて、損をするかもしれないゲームを買っていいと、僕は思いますけどね……!


褒めているのだか、けなしているのだかわからないオチになりましたが、紹介はここまで。最後に蛇足ではありますが、記事執筆にあたって考えていたことを書き連ねていきます。

筆者としては、本作にも見られるように鑑賞者(プレイヤー)をおちょくるような表現は好みですし、音楽や映画には同様の表現がよく見られますよね。言葉にするとかなり野暮ですが、ヒール(悪役)レスラーが人気になるように、人間には「攻撃的」な態度のものに魅力を覚えるという一面があるのでしょう。ショッキングだったり不快だったりする作品が人気を得るのも、おそらくそういう理屈なのだと考えています。そして、日頃からSteamで海外ゲームを探すようなコアゲーマーには、そういう表現を好む傾向が強いと思っています。何より自分がそうだから、と言ってしまえばそれまでですが。

個人的な体験を通じても、本来こうした表現を好むであろうユーザー層があまり『25区』を遊んでいないのでは……?という長年の疑念があり、サマーセールの特集記事執筆依頼に乗じて本作を紹介することにした次第です。ありがちなオススメ記事風に仕上げてもよかったかもしれませんが、ただただもっと遊ばれてほしいという願いで、包み隠さず感じたままを書き上げました。本稿がきっかけとなり、少しでもプレイヤーが増えることを願ってやみません。

《文章書く彦》
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