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インドネシアの大人気ADV『コーヒートーク』から見る「多様性の中の統一」と「経済発展の在り方」

なぜ『コーヒートーク』には多様な種族が登場するのか―インドネシアの政治・文化から改めて本作を深掘りし、その現状を解説する

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インドネシアの大人気ADV『コーヒートーク』から見る「多様性の中の統一」と「経済発展の在り方」
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インドネシアのToge Productionsが開発した喫茶アドベンチャー『コーヒートーク』は、PC/PS4/Xbox One/ニンテンドースイッチで2020年1月に発売(国内コンソール版はコーラス・ワールドワイドが販売)され、高い評価を得て人気を博している。本作は、ある意味で現代のインドネシアを表現しているようなアドベンチャーゲームである。

世界最大の島嶼国家インドネシアは、その広大さ故に様々な問題に直面している。地域間の経済格差、宗教及び民族の違いから生じる摩擦、そして衝突……。『コーヒートーク』はそれらの事象を上手く取り込み、ひとつのストーリー作品として仕立て上げている。本稿ではニンテンドースイッチ版『コーヒートーク』をプレイしながら、「インドネシアの今」について解説していきたい。

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250以上の民族、700以上の言語が存在する国

まず、インドネシアは多民族国家であることを強調しておきたい。

約2億7,000万もの人口は、250以上の民族に分かれている。言語はさらに細分化されていて、実に700を越える地域語が存在する。インドネシア語は公用語ではあるが、普段の生活の場では地域語が用いられる。

日本人にも人気のバリ語は、その名の通りバリ人の地域語。狭い海峡を隔てたジャワ島ではジャワ語、スンダ語と言語圏が分かれている。ただしこれは、あくまでも大まかな区分けだ。細かい方言もある上、ジャワ語とスンダ語、そしてインドネシア語とも混合してクレオール化している場合もある。

東ヌサ・トゥンガラ州に属するフローレス島は日本の四国よりも面積の小さい島だが、それでも主要言語が5言語ある。ここは環太平洋火山帯に沿う島で、険しい山脈が民族間を隔てていた。今でも島内の移動は簡単ではなく、日光のいろは坂のような山道をクルマで何時間も走るか、それが嫌なら小さなプロペラ飛行機で空を飛ぶ羽目になる。

同じ島の中ですら、それだけの差異があるのだ。「インドネシア全土」という話になれば尚更である。

Indonesia regions map (ja)

首都ジャカルタに行けば、初代大統領・スカルノの言葉通り「サバンからメラウケまで」の人を一度に見かけられる。サバンはインドネシア最西端アチェ州の都市、メラウケは最東端パプア州の都市だ。この両者は、言語はおろか肌の色も文化も風習も、そして宗教もまったく異なる。「インドネシアはイスラム教国」というのは大きな誤解で、同国の憲法ではイスラム教徒もキリスト教諸派信者もヒンズー教徒も土着信仰主義者も「ひとり1票」が保障されている。

故にインドネシアでは、国是でもある「Bhinneka Tunggal Ika」という古ジャワ語の言葉が重大な意味を帯びる。これは日本語では「多様性の中の統一」と訳されている。

「種族間の交流」がテーマのゲーム

『コーヒートーク』の主人公は、夜間に開店する喫茶店のマスターである。

この店には、様々な人が訪れる。いや、「人」だけではない。サキュバス、エルフ、人狼、オークといった亜人もやって来る。彼らは人間と同じように仕事を持ち、中には社会的地位の高い職業に就く者も。

様々な感情や悩みを抱えた彼らの要望に沿って、マスターは飲み物を作る。が、必ずしも注文に忠実でなくとも構わない。敢えて要望とは違った飲み物を出してやるのもひとつの手段。それによってシナリオの展開も変化する。

派手なアクションがあるゲーム、というわけではない。プレイヤーのやることの大半は、テキストを目で追うことだ。もちろん飲み物を作る作業はシナリオを左右するものではあるが、喫茶店のマスターは「客の話を聞く」ために存在していると言っても過言ではない。従って、このゲームを「特にやることのない退屈な代物」と感じてしまう人は少なくないのではないか。10代の少年少女なら、特に。

そう、『コーヒートーク』は心の片隅に擦り傷を抱えた大人向けのゲームなのだ。

そして、このゲームで展開されていることはジャカルタで頻繁に見かける光景でもある。

『コーヒートーク』を進めていくと、エルフとサキュバスのカップルが登場する。エルフのベイリースは結婚に前向きで、それ故にサキュバスのルアとの交際に反対する両親と絶縁しても構わないと言い出す。種族が異なるからこその摩擦でもあるが、現実のジャカルタにも「父親がバタック人で母親が華人」というような境遇の人が多くいる。「従兄弟とは宗教が異なる」というファミリーも珍しくない。

都市部のインドネシア人にとって、「自分と異なる存在」との交流は日常事である。

オークのマートルと海棲人のアクアが協力して新作ゲームを開発するシーンも、ジャカルタの平日の様子をそのまま表している。母系社会で知られるミナンカバウ族出身の女性と傭兵の供給地域だったマドゥラ島の男性が同じ職場で仕事をする、ということもジャカルタでは起こり得るのだ。

インドネシアの「農閑期問題」を解決するのはゲーム開発か
《澤田 真一》
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