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『メトロイド ドレッド』RTAの1時間切りは如何にして達成されたのか。発売から1年間で起きたシーケンスブレイクの軌跡

2021年10月8日に発売された『メトロイド ドレッド』。最新の攻略ルートは一体どこまで進化を遂げたのでしょうか。黎明期から現在に至るまでのシーケンスブレイクの軌跡を紹介します。

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『メトロイド ドレッド』RTAの1時間切りは如何にして達成されたのか。発売から1年間で起きたシーケンスブレイクの軌跡
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2021年10月8日に発売された『メトロイド ドレッド』。『メトロイド フュージョン』以来19年振りとなる2D『メトロイド』シリーズの新作とあって国内外のファンを熱狂させた本作は、多くのRTAプレイヤー達をも魅了する1本となりました。

『メトロイド』RTAと切っても切れない関係にあるのが、開発者の想定する攻略ルートを逸脱してショートカットを行う「シーケンスブレイク」。シリーズ最新作ではどんなシーケンスブレイクが発見されるのか、発売直後から本作のRTAコミュニティの動向には多くの注目が集まりました。

発売から1年あまりが経過した2022年12月、最新の攻略ルートは一体どこまで進化を遂げたのでしょうか。本記事では、その変遷を第一線で見続けてきた日本人プレイヤーのバネ氏から提供いただいた情報に基づいて、黎明期から現在に至るまでに『メトロイド ドレッド』のRTAコミュニティが辿ってきたシーケンスブレイクの軌跡を紹介します。

なお、本記事の画像は全て、2022年10月に「RTA in Gunma」内で披露された同氏によるプレイの現地写真およびアーカイブ動画のスクリーンショットを使用しています。

黎明期に猛威を振るった「無敵バグ」

海外人気の特に高い『メトロイド』シリーズ待望の最新作とあって、最初期は非常に多くのRTAプレイヤー達が日夜研究に励みました。発売直後に発見されたテクニックのひとつに「壁貫通ビーム」があります。本作において壁を貫通するビームを撃つには本来「ディフュージョンビーム」の取得が必要ですが、サムスのアームキャノンを上手く壁に埋めることで、通常のビームでも壁中の爆破ブロックを壊すことができ、ゲーム開始直後のE.M.M.I.との遭遇をスキップすることが可能となります

その他にも、本シリーズにおける定番技ともいえる「連続ボムジャンプ」を利用したショートカットや、後にタイム短縮のために活用されることとなる「Ledge Warp」を始めとするいくつかのグリッチが、最初期から知られていました。

発売から2週間後、「水切りジャンプ」の発見による大きなシーケンスブレイクが起こりました。通常であれば水中では「グラビティスーツ」を取得しなければ初期位置より高い所に上がれないところ、水面付近の適当な高さでジャンプを繰り返すことで、少しずつ高度を上げられることが判明したのです。この「水切りジャンプ」を活用した「スクリューアタック」の早期取得は、「グラビティスーツ」取得に伴う惑星凍結イベントや「実験体Z-57号」との戦闘回避を可能にし、大きなタイム短縮に貢献しました。

続いて見つかったのが「床抜けバグ」です。「スピードブースター」を溜めて「フラッシュシフト」と組み合わせると、サムスは下に沈むような挙動を見せ、1マス分の床を抜けられます。この発見は「スクリューアタック」の取得ルートを更に洗練しました。「水切りジャンプ」に必要な「スペースジャンプ」を取るには長い寄り道を強いられていたのですが、床抜けを使うことで「スペースジャンプ」が不要となったのです。

「スクリューアタック」取得のためのルートには、すぐさま別の選択肢が生まれました。「カメラロック」と呼ばれるグリッチの発見です。「カメラロック」使用中は、カメラが固定されている間にサムスは画面外を移動できます。何も見えないのでマップを丸暗記する必要はあるものの、本来通れないゲートを通れたり、高温や低温によるダメージを受けなかったりするなどの恩恵があります。

「カメラロック」を活用することで、「スピードブースター」入手後すぐに「スクリューアタック」を取れるようになりました。以前は「スピードブースター」から「アイスミサイル」の取得までの道のりを普通の攻略順で進めてから「スクリューアタック」を取得していたことを考えると、これは大きなシーケンスブレイクです。

ところが、「カメラロック」には1分ほど仕込み時間がかかるという重いデメリットがあります。床抜けによる「スクリューアタック」取得ルートと比較した場合に、「カメラロック」の仕込み時間分のロスと得られる短縮効果のどちらが大きいのかは、すぐに分かるものではありませんでした。「床抜け」と「カメラロック」のどちらを採用すべきか、RTAコミュニティ内で議論されている最中、本作史上最凶とも言われるひとつのグリッチが発見されました。

そのグリッチは「無敵バグ」と呼ばれています。「無敵バグ」発動中はサムスからダメージ判定が消失し、通常のダメージや高温・低温下でのダメージを受けません。この無敵状態を活用することで「バリアスーツ」や「グラビティスーツ」、「ディフュージョンビーム」といった数々のアイテムが不要となり、極めて大きなタイム短縮に繋がりました。

「グラビティスーツ」のスキップにあたっては、紫色のE.M.M.Iゾーン内で水中から高所への移動が必要であり、通常のやり方ではここを突破できません。この問題は、「無敵状態でE.M.M.Iに対して適切なタイミングで振り向きながらメレーカウンターを当てることでサムスが正面を向く」という現象の発見によって解決しました。サムスが正面に向かって走ることで、狭い場所でも「スピードブースター」を溜めて「シャインスパーク」で一直線に飛び上がれるようになります。この頃に知られていた最速のタイムは、バネ氏による1:10:42という記録でした。

冬の時代に終止符を打った「床抜けバグ」の進化

発売から1か月半で大きく発展してきた本作のRTAですが、ここから2022年4月までの約半年間は革新的なグリッチが見つからない"冬の時代"とも呼べる期間に突入します。きっかけは11月17日に任天堂が配信した『メトロイド ドレッド』更新データVer.1.0.3でした。その更新内容は、「特定の条件でサムスのダメージ判定が消失する問題を修正しました」というもの。

メトロイド ドレッド 更新データ Ver. 1.0.3 [2021.11.17]|Nintendo Switch サポート情報|Nintendo

「無敵バグ」はその強力な効果とは裏腹に、非常に再現が容易でした。発動手順は、「E.M.M.I.ゾーンゲート」に入る直前で「モーフボール」状態を解除するだけ、という極めてシンプルなもの。そのためか、任天堂が修正の理由を以下のようにはっきり述べるという珍しいケースとしても話題になりました。

本件につきましては、意図せず発生する可能性もあり、発生した場合は本来の『メトロイド ドレッド』の遊びかたとは大きく外れたプレイ体験となってしまうため、修正する判断をしました。

この修正を受けて、RTAでは「Any%」カテゴリから、「無敵バグ」を使用可とする「Legacy」カテゴリが派生しました。通常の「Any%」は、「無敵バグ」以外何をしても良い「Unrestricted」、主要なグリッチの使用を禁止する「No Major Glitches」、グリッチの使用を認めない「Glitchless」の3つに分かれますが、本記事でここから扱うのは「Any%」の中でも「Unrestricted」カテゴリの歴史です。

「無敵バグ」修正により、「カメラロック」を使うルートに戻ることとなった「Any% Unrestricted」カテゴリですが、2022年4月ごろまでは大きくルートが変わることもなく、細かい攻略順やボスの倒し方の変更などによる最適化の積み重ねがタイムを少しずつ縮めていきました。

この時期に発見された最大の技は「アダムスキップ」です。各マップで発生するアダムとの会話は、シーケンスブレイクによって一度でもスキップできればその後一切発生しなくなります。2つ目のマップ「カタリス」で無理やり高いところに上る方法で「アダムスキップ」が実現したことにより、2分程度のタイム短縮が達成されました。この頃知られていた最速記録は、Bdog氏による1:10台のタイム。「無敵バグ」時代の記録更新は目前まで迫っていました。

さて、ここから起こるルート変更は全て「スピードブースター」取得以降のシーケンスブレイクに基づくものです。冬の時代を終わらせたのは、みかん氏による「ショートブースト」の発見でした。「フラッシュシフト」を使って「スピードブースター」に必要な助走距離を短縮するこの技は、本来「スピードブースター」を溜められないような狭い場所での床抜けや水中からの上昇を可能にしました。「ショートブースト」を利用すれば、「カメラロック」時代のような長い仕込みをせずとも「スクリューアタック」を入手できます。

その2週間後、「床抜けバグ」の使用箇所は更に増えることとなります(一転、「カメラロック」は再び必要になりました)。これまでは1マス分の厚さの床しか抜けられなかったのが、2マス分まで抜けられるようになったのです。ここでカギとなったのは、「フリーエイムモード」の活用でした。

そもそもサムスは基本的に壁や床に埋まると即死してしまうため、「床抜けバグ」を行う際にはあの手この手で死亡判定を回避する必要があります。そこで、死亡判定を回避するために「グラップリングビーム」を発射するのが従来の「1マス床抜け」でした。「2マス床抜け」では、床に埋まる最中に「フリーエイムモード」に入って解除するという一手間を加えることにより、サムスの姿勢が立ち状態となり、抜けられる床の厚みが1マス分増えるのです。

この発見により、「グラビティスーツ」取得に至るルートが大きく変わりました。以前は「クワイエットローブ」と会いに行くことや要塞施設「エルン」に立ち寄ることが不可欠でしたが、これらを丸々スキップすることが可能に。新ルートでは惑星凍結イベントを見て「実験体Z-57号」と戦う必要が出てくるものの、この頃には実験体との戦闘開始時に正面を向くグリッチが見つかっていたので、「スピードブースター」を溜めることで一瞬で撃破できました。

「2マス床抜け」による大幅に短縮により、世界記録は1:02:36まで更新されました。ただし、失敗即死のリスクを伴うグリッチを至るところで決めなければならなかったこの時期は、RTA走者にとって死なずに完走することが困難な“厳しい環境”でもありました。

1時間切りを可能にした「正面向きバグ」の実用化

革命が起こったのは2022年9月。これまで限定的な用途でのみ使われてきた「正面向きバグ」の応用範囲が一気に広がりました。本記事でも既に何度か登場している「正面向きバグ」ですが、その第一発見は2021年11月のことでした。

第一発見時の動画は、残された録画の範囲が限られていたために、誰も同じ現象を再現できませんでした。発見から10か月の時を経て、日本人走者のばさしさん氏が練習配信中に偶然再現に成功すると、動画は海外走者間で共有されて瞬く間に研究が進み、ついに原理が解明されたのです。

第一発見者の名にちなんで「Bomuhey Skew」と名付けられたこのグリッチは、サムスの動きの軸をずらすことで正面に向かって走ることを可能にします。一度仕込んだ「Bomuhey Skew」状態は比較的容易に維持できるため、色々な場所でサムスに正面を向かせて「スピードブースター」を溜められるようになりました。

「Bomuhey Skew」の発見に伴い、ついに床だけでなく壁も抜けられるようになりました。サムスが正面を向いている際、真正面から少しだけ角度がずれていると、ダッシュ中にサムスはほんの少しずつ左右に移動します。新たな壁抜けは、この現象によってサムスをある程度壁にめり込ませた状態で「シャインスパーク」を発動するという方法です。壁抜けを成功させるためにはサムスの軸をずらす角度を絶妙に調整する必要がありますが、予め左右に何度も方向転換してから正面を向く「トルネード」と呼ばれる角度調整テクニックが後に確立されました。この技術により、壁抜けは(一発で決めるのは簡単ではないものの)RTAで十分実用できるものになりました。

これらの一連の発見により、「カメラロック」や「ショートブースト」等を駆使しながら苦労して取得してきた「スクリューアタック」は、最短距離に近いルートで取って帰れるものになりました。そして発売1周年を迎えた2022年10月、ついにArkandy氏によって前人未踏の1時間切りが達成されたのです。

しかし、革命はここで終わりません。次に実現したのは、ラスボスである「レイヴンビーク」戦のスキップでした。ラスボスを無視して進むこと自体は「2マス床抜け」を使えば可能なのですが、エンディングに向かう通路を閉ざしている「ハイパービームゲート」のせいで、「レイヴンビーク」戦だけをスキップしても意味がなかったのです。正規の方法では「レイヴンビーク」撃破後に取得できる「ハイパービーム」が必須となりますが、“「ハイパービームゲート」さえ抜けてしまえばエンディングに直行できるだろう”という話は以前から挙がっていました。

「ゲート抜け問題」を解決したのは「グラップリングビーム」の活用でした。「Bomuhey Skew」発見直後の知識では、2マス分の壁までは抜けられるものの、各種ゲートは3マス分の厚みがあるため抜けられませんでした。これを解決したのは、サムスが半分壁に埋まった状態で走りながら「グラップリングビーム」を出すという素朴な方法でした。

「ゲート抜け」が「レイヴンビーク」戦のスキップを現実にした一方で、その後のイベント戦にあたる「レイヴンビークX」戦のスキップは未だ実現に至っていません。エンディングが始まる条件として、惑星ZDRからの脱出イベントにおける制限時間を示すタイマーが作動していることが必要であるためです。最新のRTAルートでは、床抜けを利用することで「レイヴンビーク」と戦うことなく「レイヴンビークX」のみを討伐し、タイマーを作動させます。

「ゲート抜け」は、「ウェイブビーム」のスキップにも応用可能です。「ハイパービームゲート」が位置するエリア「ハヌビア」には、「ウェイブビームカバー」が数多くありますが、これらを無視して進むルートが確立されました。「ウェイブビーム」をスキップする意義は大きく、「ウェイブビーム」取得のために必要だった「グラビティスーツ」や「ストームミサイル」といった多くの能力をスキップできるようになり、大幅なタイム短縮に繋がりました。

以上をまとめると、「ハヌビア」到着後は壁や床を抜けて「レイヴンビークX」を倒したら脱出イベントをこなしてエンディング、というのが最新の攻略順となります。開始から33分ほどで「スピードブースター」を取得した後のルートは非常にコンパクトになり、残された最適化の余地はいよいよ少なくなってきています。

本稿執筆時点では、バネ氏が50:07という記録を保持しています。また、「ルーキーモード」と連射コントローラーを使用した記録を含めると、Satorha氏による48:38というタイムが現行の最速記録となっています。「ルーキーモード」とは、2022年2月の無料アップデート時に追加された初心者向けモードです。受けるダメージ量が少ないうえに初期ミサイル数が倍になるため、RTAにおいては「ノーマルモード」よりも若干有利に働きます(48:38という記録は、「ノーマルモード」、連射コントローラーなしでも50分切りに相当するタイムです)。

「スピードブースター」取得後のルート開拓が一通り終わった本作のRTAですが、今後期待されていることのひとつに、序盤の「バリアスーツ」のスキップが挙げられます。「無敵バグ」時代は可能だった「バリアスーツ」スキップですが、現状の知識では「バリアスーツ」なしで高温エリアを早く突破する方法が知られていません。

1時間切りの達成で立ち止まることなく、50分切りの先まで一気に駆け抜けた『メトロイド ドレッド』RTA。次なるブレイクスルーはいつ起こるのか、今後の展開からますます目が離せません。


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《とんこつ》

RTAプレイヤーです とんこつ

福岡県出身。東京大学卒業後、2018年にRTA(リアルタイムアタック)に出会い、現在に至るまでTwitch & Youtube Partnerとして活動中。主なプレイタイトルはスーパードンキーコングシリーズとマリオ&ルイージRPGシリーズ。RTA in JapanやGames Done Quickへの出場多数。

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