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『ホグワーツ・レガシー』なぜ天井にドラゴンを飾るのか?天文学が魔術師の必須科目となるまでの歴史【ゲームで世界を観る#38】

宇宙の法則は魔術の源泉です。

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『ホグワーツ・レガシー』なぜ天井にドラゴンを飾るのか?天文学が魔術師の必須科目となるまでの歴史【ゲームで世界を観る#38】
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前回の「マーリンの謎」に引き続き、『ホグワーツ・レガシー』を見ていきましょう。今回は先生が必ず1年で辞めるという、常に事件のホットスポットであった「闇の魔術に対する防衛術」の教室。決闘の実演など見せ場も多いですが、映画ではその天井に大きなドラゴンの骨が吊してありました。特に説明はされませんが、これは占星術と関係があるシンボルなのです。

古い絵画で魔術師や錬金術師を調べると、部屋で研究している場面のものだと天井にワニが吊してあることがよくあります。これはドラゴンの代わりで、天井に天文図を作っていたときの名残です。占星術で「ドラゴンヘッド」「ドラゴンテイル」と呼ばれるものを模しているそうで、その意味を知る前に欧州に於いて天文学=占星術がどのような過程を辿ったかを見ていきましょう。

古代に於いて星々の運行は神や魔術的な力と結びつけられており、現代の科学的な天文学、魔術的な占星術という区分けはありませんでした。超自然の法則を探ることは精緻な観察とイコールであり、文化の大小に関わらず世界の様々な地域で古代天文が発展しました。暦や測量、数学など、法則を発見し、次の動きを予測するという科学の基礎が生まれ、権力者がそれを操ることに人々は神秘性を感じていたのです。

欧州中東の起源は約7000年前の古代バビロニアに遡り、星の運行が地上に影響を及ぼすと考えた人々は、星の中でも動きが目立つ惑星に神々を見立てました。それがギリシャやアラビア、ローマ帝国などに伝わり、黄道十二星座、ホロスコープの概念など、現在に通じる占星術の基礎が培われました。

占星術の影響は言葉の中に名残があり、「インフルエンザ(伊:Influenza)」は星々の力が地上の「中に入り込む(羅:influens)」、「災厄(英:Disaster)」はイタリア語の「Disastro」、つまり「Dis(離れる)」「Astro(星)」で星の悪い運行で起きるという考えに由来します。

やがて古代ローマが地中海を制覇すると、ギリシャの神話と天文学が取り入れられ、ギリシャ起源の星座をラテン語名で呼称することになります。黄道12星座、いわゆるゾディアックはギリシャ語の「小さい動物の輪」から来ていますが、現在英語で一般的な「Sagittarius(射手座)」「Aquarius(水瓶座)」は綴りもラテン語そのままです。

ところが恒星の名前になると、シリウスやレグルスなどの一部はギリシャ・ローマ由来でも、アルタイル、デネブ、アルデバランなど、約7割ほどがアラビア語由来になっています。何故このようなことになったのでしょうか?

原因はキリスト教の権威とローマ帝国の崩壊にあります。ローマ皇帝にはお抱えの占星術師もいましたが、キリスト教の立場では天文学は「異教」の産物であり、神の奇跡以外の超自然的な力は排除されていきます。そこからローマ帝国の分裂、異民族流入やヴァイキング襲撃など、長い暗黒時代が続く中で人々の関心は天体から離れ、欧州の天文学は壊滅状態になってしまいました。

その代わりに科学先進国となったのがイスラム圏でした。6世紀の預言者ムハンマド以降、ローマと入れ替わるようにして広大な版図を拡大していったイスラム勢力は、エジプトやギリシャ、インド、中国など、アフリカからユーラシアにかけた広範囲の貿易を通じ、積極的に各地の思想や科学技術を取り込んでいきました。

排他的なキリスト教圏に対し、イスラムを高めるためであれば異文化から学ぶことを推奨していたため、異教であることにためらいはありませんでした。アッバース朝ではギリシャ翻訳のプロジェクトが組まれ、「知恵の館」という天文台併設の図書館に集約されています。

 

特に学術の中心地であるアレクサンドリアを支配下に置くと、そこから錬金術が輸入されて当時の世界でも随一の化学研究が花開きました。伝説によると、持ち込んだのはハーリド・ブン・ヤズィードというウマイヤ朝の王子でした。

錬金術と天文学は密接な関わりを持ち、天文界で働く力は地上界、物質の世界でも同じように働くという「大宇宙と小宇宙」という考えから、多くの錬金術師が天文学を並行して学んでいました。そのため、研究室の中には天文器具と錬金術の道具が一緒に置かれます。色々と化学実験を行っているその上には、宇宙の模型が天井から吊されています。最初に説明した「ドラゴンヘッド」「ドラゴンテイル」は月と太陽の軌道が重なる2カ所を指し、日食と月食が発生するとても重要なポイントです。

この模型にドラゴンに見立てたワニが使われていたので、意味合い以上に見た目のインパクトから、それが「錬金術師の部屋にはワニ(ドラゴン)が吊されている」というステレオタイプになったようです。

十字軍やレコンキスタで欧州とイスラム圏が接触すると、アラビアの知識と技術が欧州にもたらされ、イギリスのロジャー・ベーコン、フランスのニコラ・フラメルなど、ヨーロッパの錬金術師が出てきました。

ただし、異端の技術というイメージは常に付き纏い、大鍋を使うケルト的な魔術師と似ていることから、「魔法使い」という大きな枠の中に錬金術を初めとするアラビア技術も合一されていきます。

このような過程を経たため、『ホグワーツ・レガシー』で見られるようなアカデミックな魔法使いは、アラビアの学者がその源流にあるのです。彼らが天文学を特に重要視していたので、魔法使いの部屋にはやたらと観測器具が置かれていたり、錬金術の実験をしていたりと、「魔女」と異なるイメージが形成されました。逆に見れば、「異教」として排除してきたものの中に、豊かな知識や優れた技術が含まれていたということです。

プトレマイオスがギリシャ語で記した天文学の書「アルマゲスト」は「知識の館」でアラビア語に翻訳され、ルネサンス期にはさらにラテン語に訳され、後にコペルニクス、ガリレオの地動説に繋がります。地動説以降、科学的な「天文学」と神秘的な「占星術」は明確に区別されますが、魔法界に於いては文化前の影響が今も根強く残っているようですね。


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