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『ホグワーツ・レガシー』ブリテン王を見守るのは神か悪魔か?魔法界のレジェンド「マーリン」の謎【ゲームで世界を観る#37】

偉大であっても清廉潔白とは限りません。

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『ホグワーツ・レガシー』ブリテン王を見守るのは神か悪魔か?魔法界のレジェンド「マーリン」の謎【ゲームで世界を観る#37】
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『ホグワーツ・レガシー』では英国で最も有名な魔術師「マーリン」の名前が登場します。魔法界への功績をたたえる「マーリン勲章」として原作でもよく目にしましたね。英語版では“Merlin’s beard!”(なんてこったい!)、“What in the name of Merlin!”(驚き、桃の木)という具合に慣用句で「God」の代わりになるような存在です。彼もまたホグワーツで学んだとされており、所属していたのは意外にもスリザリンでした。在学中にマーリンが仕掛けたパズルを解くと、冒険に役立つ力を得られます。

魔術師マーリンはアーサー王の補佐役として、英国の歴史的神話であるアーサー王伝説に登場します。ゲームでは『キングダム ハーツ』でソラを導く重要な役ですし、聖杯伝説の知名度が上がっているので、知っている人も増えてきました。

現在に伝わる魔術師マーリンの人物像は、12世紀の書物「ブリタニア列王史」がその起源とされています。古代から連なるブリテンの王たちの伝説をまとめたもので、そのなかにアーサー王、シェイクスピアのリア王の物語もありました。

「ブリタニア列王史」は長らく建国神話的に英国の史実として扱われていましたが、そのほとんどは伝承によって史実と乖離したもの、また著者であるジェフリー・オブ・モンマスの創作であることが分かっています。マーリンもまた、ケルトの伝統的ドルイド像、ウェールズに伝わる予言者マルジン・ウィストの伝説をモチーフにして、ジェフリーが新たに作り上げたキャラクターでした。

「列王史」ではアーサーの父ユーサー・ペントラゴンに仕えるところで終わっており、その後のエピソードは「列王史」の広がりによって付け加えられていったものになります。アーサー王伝説が有名になると共にマーリンもその物語に加えられ、後にロマンス要素が加わった決定版、トマス・マロリー「アーサー王の死」でアーサー王を誕生から見守る重要な役割を担います。 

マーリンはそもそも普通の人間の生まれではなく、人間の女性(尼僧、または王女)とインキュバス(夢魔)の間に生まれた子です。いわゆる処女懐胎であり、キリストの神性と同一視されることもありますが、夢魔の強大な魔力と同時に色欲の性質も受け継いでいました。アーサーの父ユーサーは敵国の女王に横恋慕するのですが、攻め入った折りにマーリンの力を借り、敵の王の姿になってあろうことか夜這い、さらに本物の王を倒して略奪婚に至ります。当時は姫の略奪が珍しくなかったとは言え、それに手を貸すところにスリザリン的な気質を感じますね。

何にでも変身できることから、語り手によって姿や性格が変わりやすく、初期の描かれ方では人を焼き殺すなど残忍な一面もあったようですが、アーサー王伝説が騎士道の模範になるにつれ、王の庇護者として偉大な魔術師のキャラクターが定まります。

アーサー王とマーリンの伝説で最も有名な場面が、聖剣エクスカリバーにまつわる話です。石に刺さった剣を抜く者はブリテン島の正統な後継者であるとマーリンは予言し、様々な人間が挑戦する中、アーサーが見事成功しエクスカリバーを手に入れます。

後の戦いでアーサーはその剣を壊してしまいますが、マーリンの導きによって妖精「湖の貴婦人」から聖剣エクスカリバーを授かります。「アーサー王の死」ではこの2回とも同じエクスカリバーの名前が出てきますが、これは様々な入手法をまとめる上で混ざったもの。ここでマーリンの運命を左右するのが湖の貴婦人の登場で、「アーサー王の死」でヴィヴィアンと名前が付いた彼女は、物語からマーリンを退場させる役割を負います。

夢魔の血の性なのか、マーリンはあまりにもヴィヴィアンにしつこく言い寄るので、彼女はマーリンから教わった魔術でマーリン自身を地下の穴に生き埋めにしました。アーサーを見守ってきた偉大な魔術師も、色恋によって身を滅ぼすというなんともあっけない最後です。

アーサー王以外にもストーンヘンジ建設などマーリンのエピソードは多々ありますが、その中でも重要なものは「竜の予言」でしょう。これはマーリンがまだ少年の頃、アーサー王の4代前のヴォーティガーン王の時代の話です。王はサクソン人との戦いに備えて高い塔を建てようとしますが、何度やってもうまくいかず、魔術師から「父なし子の贄」、つまり普通の人間でない子供を捧げよと助言を受けました。

そこで白羽の矢が立ったのが処女懐妊で生まれたマーリンでした。連れてこられたマーリンは地下の水が原因であると訴え、その場所を掘り起こさせました。するとその地下から白い竜と赤い竜が飛び出して争いを始めました。

それを見たマーリンはこう予言します。「赤い竜はブリテン人、白い竜はサクソン人。いずれコーンウォールの猪が現れ、赤い竜の勝利に終わるだろう」と。この予言はアーサー王とその父ユーサーによって成就されるのです。(なお、この元ネタはヴォーディガーンの弟アンブロシウスの伝説)

赤い竜は古くからウェールズの象徴であり、この予言は実際の歴史上でも役割を果たします。15世紀に起こったヨーク家対ランカスター家の薔薇戦争で、フランスに追いやられたランカスター側のヘンリー7世(ヘンリー・チューダー)はこの予言を持ち出し、自分こそ「白」(ヨーク家)を倒す予言の体現者だと名乗りを上げました(実際長男にアーサーと命名しています)。そしてこれに応じたウェールズの兵を味方に付けることに成功します。ボズワースの戦いでヨーク家のエドワード3世を破ると、後にエリザベス女王を輩出するチューダー朝が成立。当時のイングランド国章には赤い竜が描かれ、アーサー王とマーリンは建国神話として確固たる地位を得たのでした。

マーリンの伝説は「アーサー王の死」のような原典を辿ればこう書いてある、と確かに言えるのですが、マルチバースのように無数のバリエーションが生まれた中から「これが正解」と決められないのが面白さでもあり、どれを選ぶか、いっそ新たに作ってしまうか、何をやっても許される掴み所の無い存在、それがマーリンが偉大な魔術師たる所以なのかもしれませんね。


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