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2人で恐怖を共有する協力型ホラー『怨念』…マレーシア産の和風“謎解きゲーム”から見える「親日国マレーシア」の姿とは

Nimbus Gamesの2人専用ホラーゲーム『怨念』。これは何と、マレーシア製のゲームです。

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2人で恐怖を共有する協力型ホラー『怨念』…マレーシア産の和風“謎解きゲーム”から見える、「親日国マレーシア」の姿とは
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Nimbus Gamesが開発し、SCRY SOFTが2022年11月に発売したホラーゲーム『怨念』。2人協力プレイ専用という特殊なシステムを採用している本作は、「マレーシアのデベロッパーが描く日本が舞台のホラー」というユニークなバックボーンを持っています。

日本を旅行中のカップルが古びた神社に行こうとするのが、本作の導入。謎の穴に落ちてから目が覚めると、そこは不思議な地下世界。拾った提灯を片手にしばらく歩くと、日本の伝統的な建物があり……という展開で、物語が幕を開けます。

完全なる「和風ホラーゲーム」なのですが、なぜそのようなものをマレーシアのゲーム開発者が作ったのでしょうか?

日本文化が大好きなマレーシアの若者

まず、マレーシアがどのような国かを説明する必要があります。

この国は東南アジア諸国の中では豊富な天然資源と広大な熱帯雨林を有しますが、同時にマレー半島では工業も盛んです。マレーシアの首都クアラルンプールは、マレー半島の南岸に近い位置にあります。そしてこの国は親日的で知られ、実際に日本の文化が数多く流入しています。

このあたりはタイやインドネシアにも言えることですが、マレーシアの若年層は日本の最新アニメをちゃんと視聴しています。

2021年、マレーシアで映画「鬼滅の刃 無限列車編」が公開された時はパンデミックの只中にもかかわらず若者が映画館に大挙し、あっという間に同国のアニメ映画興行収入1位に君臨してしまいました。ちなみに、それ以前の1位は「ONE PIECE STAMPEDE」……って、こっちも日本のアニメじゃないか!?

というわけで、現地の若者は日本文化や日本の風習、伝統に強い興味を持っています。さらにこの国はイスラム教徒が大多数ではありますが、ホラーコンテンツが堂々と制作されているという特徴があります。

そうした文化の互換性があるため、日本の大正時代が舞台の「鬼滅の刃」も広く受け入れられた……というわけです。

『Mount & Blade II: Bannerlord』の如き様相の盆踊り大会

去年7月、クアラルンプール日本人会が現地で盆踊り大会を開催しました。

これに参加した人の数は、主催者発表で5万人です。誤植じゃないですよ。本当に5万人という発表があったんです!

試しにGoogleで「マレーシア 盆踊り」と画像検索してみてください。もはや盆踊りというよりも『Mount & Blade II: Bannerlord』の城攻めのような写真が出てきますが(盆踊りなんかできないくらいに人々が密集しています)、実はこのイベントの前に中央政府の現役閣僚が「盆踊りはイスラム教の風習ではない。参加しないように」と呼びかけています。

しかし、現地の大衆はそんな説教など気にしません。閣僚の発言は大反発を呼び、さらにスランゴール州の州王も「私だって盆踊り大会に参加したことがある」と苦言を呈しました。「何も知らない奴は黙ってろ」ということです。

こんな感じで「道徳的な大人」に水を差された若者が反発の声を上げる、ということはマレーシアでもしばしば起こります。

体操女子マレーシア代表のファラー・アン・アブドル・ハジ選手が、地元のイスラム法学者から「レオタード姿は卑猥だ。性器の形がくっきり見えてしまう」と言われた時も、マレーシアの若者から大反発が巻き起こりました。「ファラー選手は祖国のために活躍してるじゃないか」「股間しか見てないのか!?」という声が上がり、さらにファラー選手自身も「空き缶ほどうるさいものはない」と発言し、法学者を一蹴しました。

偉い人が何と言おうと、僕らは自分の好きなモノやコトやヒトを応援する。マレーシアの若者は、そのような情熱に満ち満ちています。

評価は「圧倒的に不評」だが……

そのような国ですから、若いデベロッパーが和風ホラーゲームを開発するのはむしろ自然の流れとも言えます。

『怨念』は2人のプレイヤーが同時に協力しながら遊ぶシステムで、どちらかと言えば脱出ゲームに近い内容です。たとえば一方のプレイヤーが家の扉を開けるためのヒントが書かれている「手紙」を読み、それに関わるアイテムをもう一方のプレイヤーが集め、ああでもないこうでもないと議論しながら解決を模索していくのです。故に何かしらの音声通話を設けていなければなりませんし、どちらかがオフラインになったらゲームは中断されます。

ただ、Steamでのこのタイトルの評価は「圧倒的に不評」。この記事を執筆している3月31日の時点でのレビューは731件、好評はそのうちの16%に過ぎません。

これは発売当初に確認されていたバグが大きく関係しているようで、動作不具合などを理由に評価を下げていました。また、部屋を脱出してゲームを進行させるためのヒントの少なさ、問題解決とは何ら関係ない取得可能アイテムの多さも指摘されています。

ではこれが「クソゲー」かというと、決してそんなことはないと筆者は考えています。

友達と楽しくプレイできるゲーム

実際にプレイして分かったのは、「2人プレイの重要さ」です。

1984年の筆者は、少年時代はファミコンとスーパーファミコンを所持していました。友達を家に呼んで2Pコントローラーを握らせ、協力プレイのできる『聖剣伝説2』や『がんばれゴエモン』シリーズで盛り上がっていました。現代のオンラインゲームは様々な“繋がり”の要素を備えていますが「リニアな道のりを2人で攻略する」というゲームプレイの幅は、さほど広がっていないのです。

様々なことを遠慮なく話せる友達や家族とガヤガヤ議論しながら少しずつ攻略を進める、そんなゲームにはある種の希少価値があります。『怨念』は人々が忘れかけていた「ゲームの醍醐味」を見事に抽出している作品と言えるもので、問題点はあるものの、今後のアップデート次第では良作になり得るはず。このようなゲームも存在するんだな……と筆者が不思議な感心を覚えたタイトルでもあります。

2人協力型サバイバルホラーゲーム『怨念』はWindowsを対象として、Steamにて配信中。通常販売価格は1,099円です。インターフェイス、ボイスオーバー、字幕において日本語サポートしています。


《澤田 真一》

ゲーム×社会情勢研究家です。 澤田 真一

「ゲームから見る現代」をテーマに記事を執筆します。

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