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インドネシア発のADV『コーヒートーク2』開発者インタビュー…「人というのは、それぞれが一冊の本みたいなもの」

様々な容姿の亜人、そして人間たちが交流し、悩みを解き合うことでハッピーエンドを目指す『コーヒートーク』シリーズ開発者にインタビュー。

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インドネシア発のADV『コーヒートーク2』開発者インタビュー…「人というのは、それぞれが一冊の本みたいなもの」
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インドネシア発のADV『コーヒートーク』シリーズは、日本でも高評価を得ています。アメリカ・シアトルの街角にある小さなコーヒーショップを舞台に、人間だけでなく様々な種族の亜人が交流を繰り広げるという内容のこのゲーム。アクション性や劇的な展開はないものの、権利と差別の狭間で揺れる亜人たちの苦悩や希望を垣間見ることができ、それはまさに現実の世界を映し出しています。

21世紀の民主主義国家は、国民に対して先天的な権利を保障しています。しかし、それに至るまでの道は決して平坦なものではなく、また現代でも市民としての権利が国から保障されていないという人も存在します。

様々な容姿の亜人、そして人間たちが交流し、悩みを解き合うことでハッピーエンドを目指す『コーヒートーク』。今回はゲームの開発陣にメールインタビューを行いました。

Junkipatchi (以下、Junky)氏:『コーヒートーク2』リードシナリオライター

Anna Winterstein氏:『コーヒートーク2』シナリオライター

Dio Mahesa氏:『コーヒートーク』『コーヒートーク2』のリードアーティスト

Kris Hadiputra氏:Toge Productions Co-founder & CEO 兼『コーヒートーク2』 クリエイティブ・ディレクター

様々な亜人が共存する世界

――『コーヒートーク』の舞台はアメリカ・シアトルですが、この作品にはインドネシアの事情も多分に含まれているとお見受けしました。インドネシアの国是「多様性の中の統一」が作中にも反映されていると感じましたが、「様々な種族の亜人が共存する世界」を描く上で気を遣った点、気をつけた点についてお聞かせください。また前作、今作とルアとベイリースの結婚をめぐる話が展開されています。このふたりの実家は互いの種族の違いから結婚に反対していましたが、こうしたこと(愛し合っているのに民族や宗教の違いで結婚できないこと)はインドネシアにもよくあることなのでしょうか?

Junky 作中でファンタジー種族を使った理由は、様々な文化の個人的な話を語る上で、邪魔になるような障壁をなくすためだったと思います。

Dio実は、様々な種族の亜人を描きたいと言い出したのは私です。私は、『コーヒートーク』一作目の開発中、今は亡きFahmi(筆者注:『コーヒートーク』の開発を主導したゲームクリエイターのMohammad Fahmi氏)に「もし私がこのプロジェクトに参加することになるなら、ファンタジー種族を描かせてください」と言ったのです。

なにしろ私は、「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ」の世界が大好きだからです! もちろん、Junkyが言ったように『コーヒートーク』の世界のストーリー展開ともぴったり合っていました。

Junkyそんな流れだったんですね!『コーヒートーク2』の物語を書く際には、ときにセンシティブなトピックにも触れることもあり、ファンタジー種族のキャラクター設定によってかなり助けられるところがありました。そういう微妙な話題でも、世界中のプレイヤーたちに受け入れられやすくなったので。

インドネシアの人口は多種多様な民族によって形成されていて、首都ジャカルタでは特にそれが顕著です。この国の人々の多くが様々な民俗文化が交わる環境に生まれますが、一方でそれぞれの家庭やコミュニティによって伝統的な考え方の強さや方向性は違って、人々の間では個人的あるいは社会的な衝突が生じることが多々あります。例えば、『コーヒートーク』のルアとベイリースの関係や、『コーヒートーク2』のVindication Actといった描写がそうですね。

多様な種族の共生を描くため、例えば『コーヒートーク2』では、「budaya nongkrong(インドネシア語で“つるんだり、くつろいだりする文化”の意)」という文化をヒントにしました。このような交流は私の地元の「warung(軽食も出す個人経営の売店)」や「kedai kopi(喫茶店)」でよく見られ、そこで繰り広げられていた人々の交流からインスピレーションを得ました。地元の「kedai(食堂)」はありとあらゆる人々に対して開かれていて、温かい飲み物やスナックと共に、自己紹介や近所や国内外の出来事に関する「ngobrol(雑談)」の場を提供していたものです。

――『コーヒートーク』は、日本でも大変多くのファンを持つ作品になりました。しかし日本ではアメリカやインドネシアほど「人種」や「公民権」について考える機会が多くなく、現に「『コーヒートーク』のどのあたりが面白いのか?」と薄い印象に感じられている方もいます。それでも日本で『コーヒートーク』が大きな知名度を獲得することができた要因は、どのようなところにあると考えられますか。

Junky『コーヒートーク』がキャラクター主体の物語性のあるゲームだからだと、私は思います。それぞれのキャラクターについてよく知ることができるので、会話を通して、時に彼らが直面する困難などにも、感情移入することができるのです。

人というのは、それぞれが一冊の本みたいなものだと思うのです。それぞれにそれぞれの物語があり、いい時もあれば悪い時もあり、主人公は常に様々な課題に直面します。それらの課題には、それぞれの事情や深刻さがあって、(プレイヤーによっては)全然馴染みのないトピックが含まれていることもあります。しかしキャラクターたちと何度も話しているうちに、それぞれの問題が単なる他人事ではなくなり、プレイヤーにとっても身近に感じられるものになっていくことでしょう。それぞれの事情は、パーソナルかつ微細、繊細であらゆる意味でその場限りなものですが、それこそこの物語が日本で受け入れられた原因かもしれません。それぞれ状況が違っても、人間の感情は万国共通ですから。

少数種族に対する差別

――『コーヒートーク2』の中心人物リオナは、様々な差別を受けています。彼女はネット上で理不尽な誹謗中傷を浴びていましたが、こうしたことは現実の世界でも頻発しています。決して笑顔で読み進めることのできない話だと思いますが、それでもこのようなセンシティブな背景を持つキャラを中心人物にしようと考えた経緯・動機は何ですか?

Junky彼女を構成する物語の前提として、あらゆる段階での拒絶というのがありました。このような疎外感を、特に若い世代の間ではギグエコノミーやソーシャルメディアの登場によって、感じていると思います。そして、人々のこのような感情に対して、世界は十分に気にかけてくれません。

こんな風に、センシティブな話題からインスピレーションを得てつくられたキャラクターを描きながら、人々が自分の弱みを安全にさらけ出すことができる環境とは何か、という問いを深く考えさせられました。それも、すべての人がそのような環境に恵まれているわけではないのです。そして、『コーヒートーク』のある意味「サードプレイス」シミュレーターのような設定は、ちょうど題材としてもマッチすると思いました。

リオナの物語は決して心地の良いものではないかもしれませんが、受け手の個性も多岐に渡るわけですし、このような重圧感のあるストーリーを、リアリティのあるヒューマンドラマとして深く掘り下げることには価値があると感じました。この物語に触れたプレイヤーが、世界に対して、再び自分なりに前向きになれるきっかけにもなるかな、と考えたからです。

ファッション業界の変化

――吸血鬼のハイドは、『コーヒートーク2』では自身の職業であるモデルの意義、そしてSNSが登場して以降のファッション業界のあり方に苦悩しています。これは実際に起こっている現象を基にした話なのでしょうか?

Dioソーシャルメディアにも影響する技術の発展など、様々な変化に対応することを強いられる、吸血鬼の長い人生は大変だと思います。これは実生活でも起こることであり、例えば多くの企業がSNSでの広報活動に適応することを強いられています。従って、ご質問に対する回答は「はい」になります。プレイヤーが身近に感じることのできるようにしたいので。

Junkyここは共同執筆者のAnna Wintersteinにも答えてもらいます。『コーヒートーク2』のハイドの物語の制作をメインで担当したのはAnnaですから。

Anna Wハイドはソーシャルメディアにまつわる2つの変化、ファストファッションとインフルエンサーカルチャーに困惑しています。ファッションが職人によって支えられ、衣服が長持ちし、ファッション誌が印刷されていた時代を懐かしんでいて、頑固なおじいちゃんのような感じになってしまっているわけです。

ソーシャルメディアによる「自己表現の民主化」などは変化の良い面なのですが、彼の目には入っていません。ちょっとしたエリート意識のようなものがあります。そんな彼のストーリーは、環境破壊を促すファストファッションと高価なオーダーメイド服との程よい中間点を見つけるという、現実世界でのスローファッション・ムーブメントにも通じるものがあります。このキャラクターが、ファッションに問題意識を持っていて、スローファッションに関心のあるプレイヤーの共感を呼ぶといいなと思って描きました。

インドネシアのポテンシャル

――インドネシア政府は、国内のゲーム産業の発展に大きな期待をかけています。たとえばサンディアガ・ウノ観光創造経済大臣は、「インドネシア製のゲームをもっと増やそう」ということを度々発言しています。こうした官公庁や政府の支援や優遇は、現時点で実際にあるのでしょうか?

Kris近年、インドネシア政府は現地のゲームデベロッパーに対して補助金の額を増やすなど、支援を拡大しています。政府は、Gamescom、GCA(Games Convention Asia)、東京ゲームショウといったB2Bイベントに代表を送り込んでいます。それを踏まえても、隣国に比べると支援はまだ希薄で、改善の余地があるでしょう。

――インドネシアは、国民の平均年齢が非常に若い国として知られています。この国のゲーム制作産業の可能性、将来性、ポテンシャルについてお聞かせください。

Krisインドネシアは東南アジア諸国の中でもゲーム制作大国になる大きなポテンシャルを秘めています。この国には、たくさんの情熱的で才能のある若いデベロッパーがいます。

経験こそ浅い彼らですが、比較的生活費の低いこの国では、少ない資金でもある程度の間暮らせるというメリットもあります。そこで私たちは、若いデベロッパーが試作品を制作するにあたって必要とする資金を、開発プロジェクト一つにつき最高約1万米ドル(約140万円)までToge Productionsで援助するため、Toge Game Fund Initiativeを立ち上げました。

日本のファンに向けて

――『コーヒートーク3』は制作される予定がありますか?

Dio現在、『コーヒートーク2』のバグ修正や全プラットフォームに向けたパッチノートに対応しているところで、2018年からずっと取り掛かっている『コーヒートーク』シリーズに関しては、新たなことに挑戦するために一旦お休みすることにしました。でも、これから何が起こるか誰にもわかりませんよ!

――日本のユーザーからのご感想やフィードバックで、特に心に残っているものがあればお聞かせください。

Dioすばらしいファンアートやラテアートの数々に感無量です!ファンアートはいつでも、これからも大歓迎です!

Anna W日本のファンの皆さんによる、ガラとハイドの2人組に関するリアクションを見るのが、とてもうれしかったです。ガラがハイドをお姫様抱っこしているファンアートを見たときは大爆笑してしまいました。2人のすばらしいイラストが日本のソーシャルメディアにはたくさん投稿されています。全体的に見ても、日本のみなさんの本作に対する向き合い方には心を動かされています。日本語の感想を読むと、いつも繊細かつ丁寧で、プレイヤーの皆さんが本作を大事にしてくれて、様々な反応をくださったことに、私はとても感謝しています。

Junkyすべてのコメントや考察、そしてファンアートやゲーム内のドリンクを再現した写真などですね! 否定的であれ好意的であれ、すべてのコメントを私は読んでいます。

――最後に、日本のユーザーに向けてメッセージをお願いします。

Dio遊んでくださって、そしてすてきなファンアートを描いてくださって、ありがとうございます。本当に全部大好きです。Arigato!

Anna W遊んでくださって、ありがとうございます! ロンドンに住む私としては、シアトルを舞台にしたゲームをインドネシアのチームと共に作り上げ、そしてさらに遠く離れた日本の皆さんに翻訳されて届くのは、魔法のような体験でした。日本のファンの皆さんが、作品に対して心を開き、人の感情に国境はないと証明してくださったことに感謝します。

Junkyバッドエンドにビビらないでください(笑)。全部が全部、「バッド」じゃないと約束しますから。



人の属性は綺麗に区分けできない

今回のインタビューで筆者が強く感じたのは、「ひとつのものに対する見方は多面的でなければならない」ということ。ハイドのファッション業界に対する不満は確かに一理ありますが、同時にSNSが「自己表現の民主化」を促したというのも事実として存在します。それらを認識することで、いわゆる「第三の道」を見出すこともできるはず。

我々現代人は、物事の断定にあまりに慣れ過ぎたきらいがあります。しかし個人の性格がそれぞれ異なる以上、事実や真実はひとつだけではない可能性も否定できません。実際に「多様性の重要さ」を掲げる有名人や論壇家が、あるひとつの価値観の下で複数の事象を画一的に色分けするということがよくあります。それは多様性どころか、人類を一度は地獄に追いやった全体主義と大差ないのでは……?

「人の特性や属性は、綺麗に区分けすることはできない」――そのような“当たり前”を教えてくれるゲーム、それが『コーヒートーク』と言えます。


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※UPDATE(2023/06/04 10:45): インタビュー質問文の誤字を修正しました。コメント欄でのご指摘、ありがとうございました。

《澤田 真一》

ゲーム×社会情勢研究家です。 澤田 真一

「ゲームから見る現代」をテーマに記事を執筆します。

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