
ビデオゲームに秀逸なシナリオが盛り込まれ、それを読み解くことも遊びの一部として受け止められるようになった現代……本連載記事では、古今東西のビデオゲームを紐解き、優れたゲームシナリオとは何かを考えていきます。第27回は『プロミス・マスコットエージェンシー』を取り上げます。
※以降は『プロミス・マスコットエージェンシー』のネタバレが含まれています。
未プレイの方は閲覧にご注意ください。

本作の話をする前に、同開発(Kaizen Game Works)の前作である『パラダイスキラー』について語らせてください。
『パラダイスキラー』は2020年に発売されたオープンワールドミステリーゲームですが、外連味が溢れすぎてもはや意味不明なレベルに達している世界観がたまりませんでした。
数千年ごとに死と再生を繰り返すパラダイス島で、世界をパーフェクトなものにしてくれるはずの議員が殺され、300万日のあいだ軟禁されていた捜査オタクのレディ・ラブ・ダイが招集されます。この時点で頭に?がたくさん浮かびますが、適当に証拠を集めたら、好きなタイミングで裁判を開き、誰でも有罪にできるという投げっぱなしにもほどがあるゲーム性にもびっくりしました。

オープンワールドをダラダラ歩き、寝ながら書いたような脱力するテキストが読める収集物を拾いつつ、たまにふふっと笑えることもある……という奇妙なゲームでしたが、その遺伝子を受け継いでいるのが本作『プロミス・マスコットエージェンシー』なのです。

本作はミチこと菅原道真というあまりにも高貴な名前をした九州のヤクザが、マスコット派遣事務所を建て直すゲームです。
ミチは自身の組が東京の組に庇護してもらえるように120億円の上納に向かいますが、敵対する組に襲撃され、現金を奪われてしまいました。事が大きくなることを避けたミチの姐さんは、ミチを死んだことにし、ヤクザが祟り殺されるという噂が立っている町・過疎町に飛ばします。
過疎町では、うらぶれたラブホテルを経営しながらマスコット派遣事務所(そもそもこの世界ではマスコットという妖精にも似た存在が当たり前にいます)を再建することを夢見ているピンキーが待っていました。姐さんの命令で、ミチはピンキーとともにマスコット派遣事務所を立て直します。果たして彼は、自身をハメた陰謀を暴き、事務所を盛り上げることができるのでしょうか?

結論から申し上げると、まったく濾過する気のないセンスの塊をストレートで投げた前作に比べ、本作はかなりおとなしく、多くのゲーマーに愛されるようなシナリオに仕上がっていました。
イギリスの開発会社が作ったとは思えないほどリアルな(キャラクターは除く)日本の田舎町で、これまた噎せ返るようなほど本気の任侠物語が展開されます。チャカもヤクも扱わない昔気質のヤクザと、町長と癒着して暗躍する仁義のないヤクザとの対立や、消えた地方交付金の行方、放棄された炭鉱に隠された秘密など、日本の裏社会が好きすぎるスタッフの匂いを感じます。

そうしたアングラな世界観にまぶされているのが、マスコットの存在です。イベントの盛り上げ役として、町と事務所のために大量のジョブをこなしてくれます。
彼らはマスコットGPという大会に出場し、知名度を向上させていくことを目的としています。田舎町のリアルやヤクザ物のプロットと、アイドルアニメのような設定が混ざりつつ、最後にはしっかりと感動させてくれました。この着地に至るまでも、大きな伏線や無理矢理なツイストもなく、非常に素直で読みやすかったのもGOODです。

しかしながら『パラダイスキラー』からコクが失われたわけではなく、相変わらず随所に謎のこだわりがあるのもたまりません。
ぎりぎりバッドセンスになっているかどうかくらいのB~C級のマスコットたちは、全員紹介してあげたくなるくらいアクが強く、正直言ってあんまり可愛くありません。

そんな彼らをある程度ジョブに行かせると「人生満足度イベント」という会話劇が発生し、彼らがちゃんとやりたいことができているかどうかをヒアリングすることができます。
もつ鍋の美味しさを広めたかったり、ぼったくりキャバクラ業から卒業したかったり、見た目通りの豆腐メンタルを治したかったりと、それぞれにマスコットは問題を抱えています。
アクが強すぎる見た目の彼らでも、話を聞いているうちにみんな愛らしく思えてきて、応援したくなる気持ちがふつふつと湧いてきます。

前作通り、ルックはとことんヘンで、一瞬購入をためらってしまいそうになりますが、蓋を開けてみると、王道かつ丁寧なメインストーリーに、個性を持て余しているキャラクターが自分と折り合いをつけるサイドストーリーが付いた素敵なゲームでした。
しかし、設定てんこ盛りのSFミステリを作っていたところが、次作は九州のヤクザがマスコットを派遣する事務所を建てるゲームを作るなんて……一体どんな企画会議があったのか、気になって仕方がないです。これぞクリエイティビティですね!















